北の魔女

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第百二十三話 決戦の夜明

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まなが新設の砦にこもっている間に、戦場は静かに動いていた。
まなの考え方に触れたササは、柔軟な考え方が出来るようになり、布陣を開始した。

まだ暗い森に所々白い光が回りを照らす。
彼らの手には、パレイ魔女商会の魔女の杖が握られていた。

アド正隊は、アド正を手に身には薄い衣を纏い、動きを優先し、息を殺して潜んでいた。
広範囲に別れ一人ずつ敵が来るのをまっている。
心細く、全員緊張に顔がこわばっていた。
アド正隊の潜むこの場所が今日の激戦の場になるであろう。

ササは本陣をまなの作戦室に決め、戦場図により、全体を把握しようとしていた。
「そろそろ夜明けですな」

よぼよぼの老人の様な男がササに、話しかけた。
この時既に、南トラン軍の騎馬隊は出撃していた。



「すすめーー」

一人の将軍がイホウギの代わりに、新設された騎馬隊を率いて、イナ国の陣へ突進していた。

「恐ろしく高くて頑丈そうな壁だのう」

将軍が、近くにいる副将に話しかけた。

「見て下さい、中央がぽっかり口を開けています」

「ふむ、まるで罠にかけようとしているようだな」

「そうですね」
「今までのイナ軍とは違いますね」
「う、将軍見て下さい」

副将が指を指した先には、壁の内側のガラスの破片があった。

「これでは、歩兵が壁を乗り越えられんのう」
「伝令を出してこの事を伝えよ!」

「は!」

「敵の幕舎がみえました」

「うむ、誰もいないようだのう」

「はい、これは……」
「危険です、我々は森に誘われています」

副将は背筋に冷たい汗が流れた。

「お前も感じるか、今回のイナ軍はどうもおかしい」
「いつもなら、草原に布陣するものを、それをして、こなんだ」
「その後がこの壁だ、そして、無人の幕舎」
「だが、ここでは引き下がれん」
「つっこめーーー」

将軍は、恐怖を感じながらも、森への突撃を敢行した。
突っ込んだ森の中も静かだった。
静かな森の中を、敵を求めて馬を走らせた。

「静かすぎる、ここにも誰もいないのか」

ドスン、ドスン
ドスン、ドスン

「しょ、将軍」

「ふふ、最早引くも止まるも出来ぬ……」

将軍が言い終る前に胴が二つに切れ、ドスン、馬上から地面に落ちた。



「これで全部だーー」
「騎馬隊の死体は速やかにかたづけろ!!」

イナ国軍の声がした。
南トラン軍の騎馬隊全滅の瞬間であった。



「ちー、どこまで騎馬隊は、先行したのだ」
「いつまでたっても姿が見えんではないか」

歩兵の一軍を預かる将軍が、ぶつくさ言いながら騎馬隊を追いかけていた。
森の奥深くまで……。



「サ、ササ様」

「うむ、どうした」

ササの前の戦場図は、敵の騎馬隊が森の中央に進められていた。
その後ろに壁の中央の切れ目から、一列に歩兵部隊が続いていた。

「敵騎馬隊壊滅!!」
「敵歩兵部隊が、アド正隊にぶつかります」

「な、なんだと」

「報告します!!」

「うむ」

「敵歩兵部隊、将軍を失い退却を始めました」

「な、なんだと」

「ふふふ、そばで聞いていると、負けている側の驚き方ですな」

老人が機嫌良く笑っている。

「ふむ、我戦力がこれほどとは……」
「アド正と言う武器、まじない組の身体能力」
「まな様とあい様にはイナ国そのものが救われたようだな」

「報告します」

「どうした」

「はい、敵軍が撤退する兵と、進軍する軍が衝突して混乱に陥っています」

「良し、全軍総攻撃だ」

「はっ」

「ササ様、わしもそろそろ行きますかな」

「ここは、私一人でも大丈夫だ、存分に手柄を上げてこい」
「破壊不可能、侵入不可能、お手洗い、流し台完備」
「こんな、理想的な本陣もないものだな」



「ななななな、なんだこれはーーー」

「はー、なにがー」

「ま、まな様、いったい、いつこんなものを作ったんだ」

クーちゃんの透明魔法が、解除された壁を見て、ロボダーさんが驚いています。

「皆さんに働いてもらって、わたしだけ遊んでいたわけではありませんよ」
「ちゃんと働いていました」

そこには、高さ十メートル幅四メートルの、さながら万里の長城様な、石造りの壁が遙か彼方から、森の中奥深くへ続いていた。
そして、草原と森の境目に壁を飲み込んで砦が築かれていた。
砦の南側に巨大な門があり戦場へは、この門からしか入れないと思わせる作りとなっていた。

「さあ、皆さん中へどうぞ、クーちゃんお願いね」

「クロちゃん、戦況はどうですか」

「はい、まな様、イナ軍優勢です」

「そうですか、ではもし来るならそろそろかしら」

わたしは、諸葛孔明先生のようにしたり顔で、予言のように言ってみました。
まあ、九割方来ないと思っていますが、せっかく舞台を用意したので誰か来て欲しいなーなんて思っちゃってます。



「ななななな、なんだこれはー」
「いつこんなものが出来たのだー」
「見渡す限り森の中から、平原の彼方まで続いています」

緑色の甲冑を着た騎馬の一団が石の壁を見上げ驚いていた。

「こちらに門があります」

「兵の姿は、なさそうですな」

「馬を担いで登る訳にも行きません、ここは門を破壊するしかありませんな」

緑の甲冑の一団は武器を手に取ると、門を攻撃する。

ガ――ン、ガーーン

「うむ、傷一つ、つかねーー」

「あのー、その門、実は壁にかいた模様です」
「入り口は、砦と壁の隙間になっています」
「わたし達はパレイ魔女商会の者です」
「イナ国軍とは違います」
「勇気のある方はどうぞ入って下さい」
「お話、しましょう」

緑の甲冑の者達は、砦の屋上を見上げると、そこにはツインテの変な服を着た、とても美人とは言えない女の子がいた。

「ここは、俺が行くしか無いかな」
「言い出しっぺだし、この中では一番不要な人間だ」

「しかし、ゼン殿」

「簡単には殺されないよ」
「まあ、まかせてくれ」
「さて、どこから入るんだ」
「ここかーー」

壁の直ぐ脇に、砦の中に続く狭い隙間が空いていた。
その隙間は人が一人横向きにギリギリ入れる隙間で、奥の明かりまで十メートル以上の距離があった。

「ここを入れというのか」
「防具は脱がないと入れないな、当然武器も置いて行くべきか」
「勇気とはこの事か」

ゼンと呼ばれた男は、隙間の中へ進んでいった。



「まな様は、すげーなー、本当に来たぜ」

「たまたま、です」

「でたー、まな様の謙遜!」

「謙遜ではありません、本当にたまたまです」

わたしとロボダーさんが話していると、来客が一人入って来ました。
クロちゃんの情報では、イホウギさんの養子、イホウゼンという方らしい。

「いらっしゃいませ」

「うむ」

「暴れないで下さいね、この方は私の主人の親友です」

クロちゃんが白い妖精の姿を現し、入って来た男に冷静でいるよう促した。

「クロさん、そうですか」
「私は、南トラン国、イホウゼンと申します」

「わたしは、まなです」
「後ろにいるのは私の護衛です」
「まずは、おかけ下さい」

わたしとゼンさんは椅子に座り机を挟み対面しました。

「クロさん戦況を教えて下さい」

「はい」

「南トラン軍はただいま敗走中です」

「と言うことです」
「このまま引き上げて頂けませんか」

「そうですね、最早勝ち目はなさそうだ」
「親父殿が大反対するわけだ」
「それでも、世話になっているトラン国に恩を返したくて」
「奇策に頼ったのだが、それも読まれていたとは」

「でしたら、早めにお帰り下さい」
「帰れなくなります」
「これは、勇気のあるゼン様にお土産です」

わたしは、緑に輝くまな模様の鎧を出した。
これには、アド正の攻撃を耐えるようにしました。
帰路アド正隊にあっても、ケガをしないようにとの思いを込めました。

「ありがとうございます」
「でもこの隙間ではもって出られません」

「クーちゃん、ゼンさんと鎧を外にだして、差し上げて」
「じゃない、外に出しなさい」

「はい、まな様」

姿は見えませんが、クーちゃんのうっとりする顔が思い浮かびます。

外に出たゼンは、中での事を仲間に話し、鎧を装備し引き上げた。
この騎馬隊こそが、イホウギの騎馬隊三千だった。
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