北の魔女

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第八十八話 コウと六人のメイド

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宿屋の食事スペースの机には、四つ椅子があり、俺たちは二つの机を占領している。
一つの机に同じ年位の村から買われてきた幼女が四人で座り、俺の座っている机には、少し年上の少女と少し年下の幼女が座っている。

「おめーさん、名前は?」

俺は「少しは、帰りたいです、でも帰れないのです」と言っていた、少女に名前を尋ねた。

「ラギ、十歳です」

「私は、ハル、六つ」

一番年下に見える幼女が元気に、聞いてもいねーのに、答えた。

「わたしは、ヨイ、八歳です」

「わたしは、ナツ、八歳です」

「わたしは、フミ、八歳です」

「わたしは、マキ、八歳です」

続けて他の四人まで答えてきた。
うん、大丈夫だ俺には憶える気はねー。
どうせ、すぐにお分かれだ。

「なぜ、帰れねーんだ」

おれは、ラギに尋ねた。

「だって、貧乏だから」
「帰ったってまた売られるわ」

どの子も全身垢だらけでガリガリに痩せている。
着ている服もボロボロだ。
体からは、すえたにおいがしている。
貧民より少しましぐらいにしか見えない。
貧乏といっても、普通の貧乏ではなく極貧なのだろう。

「助けてくれたのに、放り出さないで!」

六歳のハルが大粒の涙をぽろぽろ落として、訴えかけてくる。
俺は、その言葉に体が雷に打たれたような衝撃をうけた。
可哀想とか同情とかで衝撃を受けたわけではない。
この幼女の頭の良さに衝撃を受けたのだ。

六歳の少女なら、家で親と過ごしたいであろうに、家に帰るより、この俺に保護を求めている。
俺の見た目は、どう見ても極悪人だ、こんな男を信用して、保護を求めている。
おそらく恐ろしく頭が回る。

おれの関心は、ハルという少女に占領された。

「この出会いは、妖精の運んだ幸運なのかもな」

「それは、わたし達にとって、おじさんにとって?」

もはや、疑う余地は、なさそうだ。

「もちろん、俺にとってだ」

全員、人買いどもが厳選してきたようで、すごく顔が整っている。
そして、知的に見える。
ちゃんと教育を受ければ、俺なんか足下にも及ばねーぐれー、ミッド商会の役に立つだろう。

「じゃあ、わたし達を助けてくれるの」

「いや俺が、助けてもらうんだ」

他の年長の子供達が、理解出来ていないようだが、ハルは、にこりと笑っている。

「本当に帰らなくていいのか」

念のため俺は、他の四人に聞いてみた。

「やっぱりわたしは、帰りたい」

二人の幼女が立ち上がった。

「うん、いいぜ」
「送ってやる」

「まって、だめ」

ハルが、二人を止める。

「このおじさんと一緒の方が絶対いいよ」
「命をかけて守ってくれたのよ」
「こんな人には、この後、絶対会えない」
「この人のお嫁さんにならなきゃ後悔するよ」

「なんだって!」

六人が赤い顔をしている。
言った本人のハルが一番赤くなりもじもじしている。

ぎゃははは

クロさんと、宿屋のおばちゃんまでが笑っている。

「コウさん良かったじゃないか」
「六人もお嫁さんが出来て」
「コウさんが馬車の所に行っているあいだ、この子達は誰がコウさんのお嫁さんになるか相談していたんだよ」


「じょ、冗談じゃねー」
「俺は、俺にはそんな資格はねえんだ」
「まあ、子供の言うことだ……」

「なにを、言ってるんだろうね」
「女をバカにしちゃあいけないよ」
「わたしの、初恋は八歳だよ」
「初恋の男と結婚したのさ」
「まあ、もう、とっくの昔に死んじまったがね」

宿屋のおばちゃんが笑顔で語る。

六人が全員赤い顔をして、大きくうなずいている。
俺は、それを見えない振りをして話題を変えた。
こえーものは、見えない振りに限る。

「しかし、村人が酷く困窮しているようだが、どうしたんだい」

「あー、二年前に領主が変わってね、金持ち優遇の税制に変わったのさ」

「コウさんも、金持ちなら、ここに住んだらいいと思うよ」
「安い税金で過ごせる」

おばちゃんの顔は、軽口の割には重い表情になっている。

「この子達は、コウさんの所へ行けるから、幸せだけど、他所に売られた子達は、地獄の苦しみの中、泣いているんだろうね」

「…… まあ、助けられるよう俺も動いてみるよ」
「じゃあ、クロさん、全員コオリのグエン商会へ」
「移動して貰えるかい」
「じゃあな、おばちゃん、また寄せて貰うよ」

「ああ、みんな元気でね」





「ただいま」

俺にとってはいつもの場所だが、六人にとっては初めての場所だ、緊張しているだろうと思ったら、意外と落ち着いている。

「あんた、何をしてきたんだい」

ラギがびっくりしている。
自分と同じ位の美少女が、極悪人顔の大男にため口だからだ。

「ああ、昆虫採集さ」

「いっぱい、取れたみたいだねー」

「なんでわかるんだ、今回は一杯取れた」
「でかいのや、形のいいのが、一杯いた」

「ばかやろー、いたからって取ってくるんじゃないよ」

「いやいや、結局最後は取ってきていないよ」

「もう、二人とも、会話がかみ合っているようで、全然かみ合ってないよ」

クロさんが間に入ってくれた。
事情を、クロさんが説明してくれた。

「ふん、少女を誘拐してきたら、本気で殺すところだったよ」

メイさんの怒りが事情を聞いても収まり切っていない。
おそらく、人買いの事実についてだろう。

「コウさん、お客さんがお待ちかねだ、対応を頼む」

見ると、オリ国の次の王様マリアさんが笑顔で近づいてきた。

「ところでコウさん、この子達をどうするつもりですか」

「ああ、この子達は頭が良い、どこかでしっかり教育して、ミッド商会で、働いてもらおうと思っているよ」

俺が言い終わると、六人が集まり、俺の服を掴んできた。

「クスクス、この子達は、コウさんから離れたく無いみたいですよ」

「コウさんはたしか、一人暮らしでしたよね」
「お手伝いさんとして、働いてもらえば、よろしいのではないですか」

「なるほど、マリアさんの言うとおりだ、俺の家で働いてもらうとするか」

俺は、新しい巨大な家を、メイさんから与えられ、そこで一人暮らしをしていた。

「それが、いいですわ」
「そうしてもらえば、わたしも尋ね易くなります」

マリアさんの顔が少し赤くなっている。

「そうですね、商談もその方が楽だ、よし、六人は俺の家のメイドになってもらおう」

六人が喜ぶかと思って顔をみたら。
何故かマリアさんとにらみ合っていた。

その後、俺の家は、小さな六人のメイドと、クロさんが遊び回り、コウ幼稚園と呼ばれるようになった。
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