北の魔女

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第四十五話 三人の新団員

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後イ団女性陣は、オリ国魔道士協会に来ていた。

応接室に通され、あまりおいしくないお茶を出されている。

「私が協会長のケルです」

「わたしがメイです」

「え、えーー」
「あの、えーとあの」

レイはその気持ちわかります。心で思っていた。

「あのー牛乳ないですか」

あいがなにか、場違いなことを言い出した。

「ありませんよ、そんなもの」

ケルの態度は、なんだこの貧民はという態度だった。

「お母様帰りましょう」

マイが敏感に反応した。
自分の敬愛するものが侮辱されたそんな思いだった。

すぐにハイが立ち上がり帰ろうとした。
ハイもマイと同じ気持ちだった。

「ケル、すぐに謝りなさい」

メイがいち早く声をかけた。

「なぜ私が貧民なんかに」

「そうですね、オリ国の魔道士協会とは絶縁いたします」

ぴしゃりとメイが答えスタスタ歩いて行く。
全員それについて行った。

ケルはメイが貧民を連れているという事実の段階で、どれだけ大切な貧民か察するべきであった。
ケルほどの人物をもってしても貧民はさげすむものなのだ。
貧民問題はそれだけ根深いということになる。

外に出て、メイが

「ちょっとやり過ぎたかしら」

と、笑っている。

「ごめんなさい、私が変なことを言ったばかりに」

あいが小さくなっている。
それを見てメイが珍しく説教臭く話し始める。

「そうね、そう思うのなら、貧民服を脱ぎなさい」
「あなたは、すごい人なのですよ、他人に蔑まれていい人ではありません」
「あなたは、これから、その服を着て偉そうにしていなさい」
「牛乳ぐらいだせよ、くらい言ってもいいわ」
「そういう時期に、はいったのかもしれません」
「そしてそれが貧民の為になるはずです」

「でも、私にはそんなこと出来る気がしません」

「そうね、あいちゃんだものね、でも近づく努力はして頂戴」

マイとハイがコクコク頷いている。

「それと、マイちゃんあなたは、少しやりすぎです」
「我慢を憶えてください」

メイがにらむと、マイはふてくされてしまう。
この子は人としてもう少し成長しないといけないわね。
先が思いやられるわ。
メイは、ため息をついた。



「あーあーー」

急にあいが大声をだした。
皆何事かとあいを見る。

「マイちゃん、お母様はやめて、同い年だよ変」

えーえー今頃かよ、全員思った。

「いやですわ、私は養女なので、あい様はお母様です」

どーやら代える気はないようだ。



オオリの広場では後イ団の試験が始まっていた。

「一番、ヅイです」

「あー名前はいいわ」

仕切っているのは、なぜか受付嬢である。
外で見る受付嬢は、抜群のプロポーションだった。
いつもはカウンター越しなので全身姿は新鮮だった。

「ロ、ロイさんでおねがいします」

「いいぜ」

木剣をかまえる。

「ぜええーー」

一番は隙をつこうとすぐさま飛びかかった。

ロイはその攻撃をかわすと、背中に剣をすっとやさしくのせた。

「きゃーー」

いつのまにか観客が集まり、まわりから黄色い歓声が上がる。
ロイの見た目はさながら、貴公子である。
顔の作りも美しく男装の麗人かと思えるほどである。

「次、」



こうして試験は続き、ロイは容赦なく勝った。
ロイが勝つ度ロイのファンが増えた。

「六番、ドイ」

「あー、名前は言わなくていいわ」

「が、ガイ殿でお願いしたい」

ロイが強すぎるため、ひょっとしてガイの方が弱いのではと思い、ガイを指名したのだ。
ガイが棍を持ちゆっくりり近づき、

「どうぞ」

相手に攻撃を促す。

六番は全く攻撃が出来なかった。
ここにいる者達は、受付嬢が厳選した猛者である。
そのためガイの作戦に嵌まってしまった。

六番は、驚いていた。
右へ移動しようと思ったら、それだけでガイの棍の先が一ミリ、いやそれの半分、右へ動くのだ。
それがわかる六番も達人と言えるのだが、ガイも気配でそれを察知するのは流石である。
端から見ているものには二人が全く動いていないように見える。
次の瞬間ガイの体が素早く左に動き、六番の肩にそっと棍が置かれる。
ガイは六番のまぶたが瞳孔を隠す瞬間を待っていた。
ガイが攻め込まないのに安心し、六番はまばたきをしてしまったのだ。
六番は何が何やら分からないまま終わってしまった。

「それまで」
「次、」

「七番、ロマ」

「あー、名前は言う必要はないわ」

「ガイ殿お願いいたす」

七番は今の戦いでガイの力量が分からなかった。
六番より随分腕が落ちる相手なのだろう。
七番は、右に動こうとした、ガイは少し棍を動かす、七番はこれに気付かない。
そのまま右に動いたとき、ガイの棍が七番の動こうとする先に、スッとだされた。
ガン、七番は自分からガイの棍にぶつかる。

「それまで」

七番の右目の上が少し赤くなっている。いまぶつけたところだ。
受付嬢はたいしたことないだろうと思っていたら、みるみる蜜柑ぐらいにふくらみ、慌てて治癒魔法をかけた。

「八番、イイです」

「アー、名前は言わなくていいわ」

「ロイ殿、お願いします」

「きゃああーー」

ロイの名を聞いて回りのファンが黄色い声を出す。
八番はガイの実力を知り、ロイを相手に選んだ。
この八番も相当出来るようだが、ロイにはかなわなかった。

ロイには強さとは関係ないが一つ致命的な欠点があった。
それは、我流の剣であったため、変な癖があるということだ。
大きく体を入れ替える際、がに股になるのだ、これが見ていて格好が悪い。
一流の流派なら、その足さばきも踊りを舞うように、所作の一つ一つが美しい。
だがロイは、時々ガバチョと、がに股になる。
あいもササ領でロイのまねをしていたとき、これをやっていた。
ロイは、それを見て格好が悪いため我流はだめだと言っていたのだ。
幸いにも回りの黄色い歓声の女性達は、ロイの上半身、特に顔しか見ていないのでまるで気付かなかった。

結局、二十名全員負けてしまった。

「はーーあ、ロイさん、ガイさん、全員に勝ってどうするんですか」

受付嬢が少し怒ったような言い方をする。
しかし、顔は笑っている。

「では、全員不合格ということでいいですね」

受付嬢がガイとロイに告げると後ろから声がかかった。

「まってくれ、そこにもう一人いるじゃねーか、再試験してくれ」

一番のヅイだった。
皆の視線がサイに注がれる。


サイは、元イナ国の国王である。
最初でっぷりと太っていたが、後イ団と行動を共にして、よく歩いている。
南トランでは、暇なとき木の棒を振って剣術の練習をしていた。
その剣は一流のもので型が美しかった。
そのため、すでにだいぶ脂肪は落ちている。
髭も王の時は横に大きく広げていたが、今は筆のように顎からシュッと胸に真っ直ぐたれている。
五十歳直前のその姿は、しぶかっこいい、いけおやじだった。
もともと、イナの女王と結婚するほどの美貌の持ち主なのだ。

回りの、年配の女性からひそひそ声が聞こえる。
大丈夫ですよ、サイさんは独身ですから。

「サイさんやってみますか」

ガイが笑顔でサイに聞く。
ガイはサイの練習を知っていた。
実力も良く理解している。

サイは、ガイの笑顔がやって下さいと、言っていることに気づいた。

「全員合格になっても知りませんよ」

サイがやる気になったのを理解したガイが受付嬢に無言で頷く。

「では、皆さん再試験をします」

受付嬢が丁寧に告げた。

「一番、ヅイです」

「てめー、名前は言わなくても、いいって何回言やあ気が済むんだ、あーーあ」

さっき二十人全員が名前を名乗った。
それは全部我慢したのだが、とうとう受付嬢が切れた。
それを見て、試験を受けに来た登録者は、全員腹を抱えて笑っている。
そして、一番のヅイに銀貨を手渡している。
何処で受付嬢が切れるのか賭けていたのだ。

「ぐぬぬ、はじめー」

受付嬢はからかわれたことに気が付き、怒っているようだが、目は笑っていた。

一番ヅイは棍を使い、サイにあっさり勝ってしまった。
これはサイが、全員に負けてしまうのかと心配したが、サイは以外と強かった。
結果六名に負けただけだった。
その六名の内、三人は入団を辞退した。
よその団の団員で、後イ団の実力を知るため一時的に退団して試験を受けていたのだ。

入団したのは、一番ヅイと六番ドイ、八番イイだった。
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