北の魔女

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第四十二話 魔人ゲダ

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「あい様」
「あい様死なないで下さい」
ハイはあいの無事を心から祈っていた。
もうこの魔人の心から、あいが自分より遙かに強い存在というのは消えていた。

光っていた窓の部屋、その部屋の前に、メイとガイの姿があった。
だが、なにか様子がおかしい。

「どうしました」

部屋の中を見ると魔人があいに跪いていた。

「お断りします」

「あい様どうしました」

「ハイさんこの人変なんです」

「何回でも、向かってくるから、その都度撃退したら」

「配下にして下さいって一点張りで、困っているんです」



俺の名はゲダ。

憶えているのは全身の激痛、あれは痛かった。
死ぬよりいてーってのは、まさにあれのこった。
その後は腹も減らねーし、寝る必要もねー。
たまに寝ようと思えば寝れるし、美味そうな山葡萄があればそれを食えばやっぱりうめー。

森を住みかにし、やりたい放題やっていた俺は、二本足で歩き、俺の森を荒らし回る奴らを見つけた。
ぶっ殺したねー、弱いから来る奴全部。
そしたらそいつら俺を見ると「げだー魔人だー」とかいつも言いやがる。
「げだーばけもんだー」とかもいってたなー。
その時おれは言葉を知らねーからなんの事か分かんなかった。
まあおかげで自分のことをゲダと呼ぶようにしたんだけどな。

同じ二本足だけどよ、ボロボロの服を着ている親子が俺の森に来てブルブル震えているからよ。葡萄とか木の実とか渡してやった。
この森じゃあ、俺は何しても自由だ。
その親子を助けてやることにした。
「ありがとう」
最初に憶えた言葉だ。
俺が、言葉を知らねーって分かると、その親子が教えやーがるからよ。
憶えてやったよ。
まあ、親子は助けたが他の奴はぶっ殺したけどな。

その親子は貧民って言うらしい。
森で虫を捕っては、食いやがるのにはまいった。
でかい芋虫とかを美味そうに食いやがるんだぜ、気持ち悪いてーの。
ぴょんぴょん跳ねる虫とかもよく食ってたな。
しばらくすると、その二人、健康になってよ、最初ガリガリのヒョロヒョロだったのによ。いまでは、綺麗な訳よ。名前は、母親がマリ、娘がマオ
だったなー。

いい加減何年も言葉を教えられればよ、憶えちまうてーの。
もうぺらぺらさ。
ある日あいつら、川で体を洗ってやーがんの、まあ、その綺麗なこと、見とれちまったよ。
見ながら気持ちよく寝ちまったら、起きたとき横にいて「今度一緒に水浴びしましょ」なんていいやがんの。
「いやだね、体なんてだれがあらうか!」って言ってやったんだ。

二日ほど森をほっつき歩いて、親子の所へ帰ったら、マリが殺されていたよ。美しかった顔、ぼっこ、ぼっこにされて、裸だった。
頭に来たねー、やった奴ぶっ殺してやるって思った。
あいつらばかだから、マオ連れて歩いてやーがんの。
「げだー魔人だ」ってまたいってたよ。このときは「でたー魔人だ」に聞こえたがよ。

マオに逃げるようにいって、人間ども皆殺しさ。ほんと弱かったね。
その後マオが帰ってこねーから、森中探したね。どっかで泣いてんじゃねーかって、恐い目にあってるしな。

二日捜しまわったよ。そしたらよ、人間ぶっ殺した近くによ、でっけー穴があってよ、そこにおっこちて死んでたよ。

それからは、一人で森でくらしたよ。それしかないもんな。
でも俺の森を荒らすやつらは許さなかった。

数年たったら、また変った奴が森に来てよ、家を建てやがったんだ、殺そうと思ったけど、ばーさんだし、面白そうだからほっといたんだ。
そしたら、だんだん人が増えてくるんだ。
ときどきばれないように遠くから様子を見ていたら。
火とか雷とか出す訳よ、人間が。
森のなかでまねしてやったら、同じように火や雷がでるわけよ。
そのばーさんメイっていってたかな。
そのばーさんがこの力を魔法って呼んでたんだな。

それから、ばーさんが教えている魔法を少しずつ憶えて、今度は森で練習なんてやってたらよ、ばーさんやっつけて、驚かしたくなったわけよ。
だっておもしれーだろ、そんなんできたら。
どーしたら、ばーさん驚くか考えたらよ、名案が浮かんだんだ。魔法を使えなくしたら驚くんじゃねーかってね。

森を荒らす奴らを見ていたら、魔法を使う奴もいたんだ、それまで見つけたらすぐ殺していたから気が付かなかったけどよ。
そいつら、練習台にして魔法封じの魔法を完成させたんだ。
完成したら使いたいだろ、それでばーさんのところへ遊びに行ったんだ。

ばーさんのところへ行ったら、人がいっぱい集まってきてよ、めんどくせーけどこっちは遊びだから、骨を折るとか動けなくして、ばーさんと一騎打ち、あの魔法封じを使ってやったのさ、ばーさん、目玉が落ちるかっていうほど目を開いていたぜ、もーわらったねー、一番わらった。

だけどよ、ばーさんいなくなっちまったんだ。
そしたらよ、なんかつまんなくなってよ、森の奥で暮らすようになったんだ。
長いこと森で、一人で暮らしたんだ。

その日も森を飛び回っていたら、ほかとはちがう人間がいたんだ、そいつ俺をみるなり飛びかかってきてよ。
ぶっ殺そうかと思ったけど、結構強いんだ、言葉もしゃべれねーみてーだし、散々ぶん殴ってやったら、動かなくなった。
その後は俺の後ろをよ、ずっとついてくるんだ。しかたねーからライって名前をつけて、言葉を教えてやったんだ。
ライと暮らしてからさらに同じような奴を二人見つけて、夜空が綺麗だったから、ツキと、ホシって名前をつけてやった。

いい加減森の暮らしもあきたから、仲間もできたし、人間の街にでてきたんだ。
やっかいだったねー、人間の暮らし、慣れるのにだいぶかかった。
やっと人間の世界のことがわかってきたから、また遊びたくなったわけよ。
なにが楽しいかなって。戦争でしょう。

それで人の世界で憶えた、精神支配の魔法で王様を操ったら面白いんじゃねーのってよ、なったわけよ。
やっと、王様に精神支配をかけて、戦争の準備をよ、したわけさ。
半年かかったよ。
いざ戦争って時によ、なんか訳分かんねー貧民のガキが来てよ。
「あんたなにやてるの」ってきたもんだ。
それはてめーのほうだってはなしだろ。
しかもそいつ貧民だしよ、マオに似てんだ。

手加減して殴りかかったら、腹殴られてよ、めちゃくちゃ、いてーんだ。
貧民って人間だろ、人間の強さじゃないねこれ。
「治癒」
その後、俺の怪我なおしゃーがるんだそいつ。
そしたらよ手加減してたから、やられたんだって思うだろ、ふつー。
それで、もう一回本気でかかっていったさ、そうしたらこともなげに、腹を殴りゃーがんの。それが尋常じゃねー痛さ、息もできやしねー。
これでもよ俺はよ、負け知らずだったわけよ。
穴に落ちて死ぬような、間抜けに負けるような、訳にはいかねーわけだ。
「治癒」
また、なおしゃーがった。
こんどはよ、魔法をかけてやったんだ、魔法封じ
まったくきかねー。
精神支配もかけたけど全然きかねー。こんなやついるのかと思ったら。
やけくそで殴りかかっちまったんだ。体が勝手に動くって奴か。
やけくその攻撃なんかあたらねーとおもうだろ。あたらねーのーよ、からぶりだよ。
ガキの攻撃はどーせ腹だろうと思って、斜めに避けたんだ、拳が来るとか関係無しに、決め打ちでな。
ビョオオー、すげー風がきてよ、避けることは出来たんだ。
少し喜んだらよ、手のひらが脇腹に当てられて、俺の体が、風車みたいにグルグル回転し吹き飛んだんだ。
そんとき床に頭をよ、何回もぶつけて、割れていくのが分かったんだ。
腹もいてーけど、これもいてーんだ。
部屋の壁にぶつかって止まったけどよ、そとなら何処まで飛んだのか、わからんよ。
「治癒」
嘘だろ、まだ直すのか。
ガキの顔を見たら、マオの顔だよ。
まるで無邪気なガキの顔だよ。
だが美しい、おれだって綺麗なものは綺麗と感じる。



たぶん、あの時のライの気持ちなんだろうなーこれ、
このガキについて行きたくなっちまったんだ。
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