北の魔女

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第十七話 貧民のあい

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翌日五人は、そろってグエン商会にやってきた。

嬉しそうに受付嬢が手を振る。

「いらっしゃい皆さん、お待ちしていました」

ガイが受付嬢の前に進み出ると受付嬢が話かける。

「すぐに向かわれますか」

「はい」

「では、こちらをお渡ししますね」
「こちらがササ領までの移動符です」
「そして、こちらが御領主様からの招待状です」
「必ずご挨拶をしてください」

「分りました」

五人は店内の片隅で移動符を使った。


五人はササ領の外れに移動した。
右手に大きなお屋敷、左手には小さな町があった。
町の先に深い森があった。

ガイが招待状の封筒を開くと、注意事項が書いてある紙とお屋敷に入る為の証明書が入っていた。

「正装で来いって書いてあるな」

「ふざけるな、そんなもん持ってきてねーよ」

ロイが切れた。

「まあ、とりあえずこのまま行こう」
「だめなら、帰ればいいさ」

ガイが領主の屋敷の方へ歩き出す。

あいは正装と聞いて貧民服に着替えた。
私だけ持っていてよかったわ。

屋敷に着くと、入り口の衛兵に招待状を渡した。
衛兵は伍イ団をジロジロ見回し

「しばらく待ってろ」

屋敷の中に入っていく。

「領主様がお会いくださるそうだ」

一人ずつ通されると、入り口で武器を取り上げられる。
あいが入ろうとすると、

「何を考えている、貧民が入れると思うのか」

お尻を蹴られ外に放り出された。

あいはお尻を蹴られた事に怒っていた。

「貧民、貧民、貧民、貧民がそんなに悪いのかー」

屋敷に向かって大声で叫び
イネスの広場の移動符を持っていたのでそれで帰ってしまった。

「入れて貰えないので、しょうが無いわね」

少しいいわけをして、ベイに向かった。
貧民服のあいが、イネスの街を歩いていると、すれ違う人が皆、眉をしかめた。
すれ違いざま唾を吐きかける者までいた。
だんだん悲しくなってきた。
うつむいてあるいていると、受付嬢がグエン商会から飛び出してきた。

「あいさん、もう終わったんですか」

ブンブン首をふると、受付嬢に抱きついた。

グエン商会の応接室に通され、高級そうな陶器に入った温かい牛乳をだされた。
美味しすぎてすぐに飲み干した。

「どう、落ち着いた?」

「はい、ありがとうございます」

「せっかく、あいさんに行ってもらったのに」
「こんな仕打ちはありえませんね」
「今回の依頼は断っておきます」

「いいえ、困っている人がいるなら」
「受けたいです」
「でも、偉い人にあいさつはしたくありません」

「わかりました」
「これがササ領への移動符です、直接森に出ます」
「倒せそうならそのまま退治してください」

にこりとあいが笑い、そのまま移動符を使用した。


森に出ると、魔獣の背中が森の木の上に大きくはみ出している。
大きな学校の体育館位の大きさがある。
体の様子は、前回の魔獣によく似ている。

「魔獣ダビね、すごく大きい、目の光りも真っ赤だわ」

「ひどいなー、前の魔獣よりでかいのに、お金は安いってどういうこと」

隣にレイが並び、話しかける。
ガイもロイもメイも来た。

「あいちゃん、こんな領主の魔獣、退治したく無ければ、しなくてもいいぞ」

ガイが言う

「いいえ、どうせすぐ済みますから」

あいは魔獣の周りに魔法の壁を想像した。
蓋の応用である。

「防御壁」
「じゃあ行きましょう」

「エッ」

四人が驚く

「いま壁で囲みました、動けないので近づいても大丈夫です」
「せっかく倒しても魔封石で、魔力を吸収しないともったいないです」

四人はなるほどと納得し魔獣ダビに近づいた。
真下まで来ると見上げる大きさだった。
見えない壁に囲まれもがく魔獣ダビ

「あいちゃんここからどうするの」

メイが聞く

「雷です」
「人が食べられていなければ使えます」

「雷撃!」

ドン、ガタガタガタ
太い青い柱が天空に上がる。
まるで地震のように大地が揺れる。
壁のなかで魔獣ダビの体がはじけ飛んだ。

「防御壁消去」

ザザザー
壁を消すと魔獣ダビが体を維持できず流れ出し、黒焦げの部分が煙をだしていた。

「治癒」

ちっちゃなダビちゃんが復活した。
その後、魔獣部分が溶け出すと大量の人骨や鎧や、武器が出て来た。

「治癒」

人骨に向け掛けたが何も起きなかった。
完全に死んでしまった者には効かないようだ。

「あいちゃんの魔法でも、北の魔女様の呪いには勝てないのね」

探究の魔女メイが妙に納得している。

「すげー魔封石が満タンだ」

ガイが驚いている。

「どうする、御領主様に報告する」

「いらねーだろ、さっさとグエン商会へ行って、納品してベイへ行こうぜ」

ロイが言う。

あいは白骨を見ながら、何か呟いている。

「あいちゃんどうしたの」

レイが心配して聞く。

「皆さん聞いてください、わたしは貧民のあいです」

ふん、ふん、四人は頷く

「そして私の魔法は本当のわたしの魔法ではありません」
「この魔法は大親友の魔法です」
「だから大親友の魔法は人助けにしか使いません」
「わたしは戦うとき自分の手で戦います」

ふんふん、四人は頷く

「どうすればいいですか?」

「はーあ、そこを人に聞いてくるのかーい」

四人の声はそろった。
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