北の魔女

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第十五話 あいの誓い

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兵士達の搬入作業は遅々として進まない。あたりは既に暗くなっていた。

結局イネスの広場で一晩過ごすことになった。
兵士達は火を焚き、肉を焼き、酒を飲み楽しくやっている。
登録者達は静かに持ってきた携帯食を食べていた。
四日分の日当を払っているのだから、持ち場を離れることは、許さないとのことである。

伍イ団も広場の隅でゆっくりしていた。

夜が更けてから、暗闇に人の気配がする。
夜の見張り番をしていたメイがあいを起こす。
人影の正体は貧民の子供達だった、あいは貧民の子供達が見つからないよう広場の隅っこに集める。
子供達は人肉パンを持って来ていた。
あいは笑顔で交換に応じた。
今度は、銅銭との交換が多かった。
どの子供もゴミで汚れていた。
一生懸命探してきたことがわかる。

「必死に探したのね」

今の私は非力だけど、いつか貧民全員を救えるよう努力します。それまで、がんばって生きてください。

喜んで帰って行く貧民の子供達の背中に誓った。

翌朝は陣を敷くため早めに森へ移動した。

移動先の草地に兵士達は陣を敷くため草を刈り丸太を組み、柵を作っている。

登録者は三百メートルほど離れた、小さめの草地に移動させられた。そこで、陣を敷く為、人の背丈ほどある草を刈りだした。

伍イ団はここでも片隅を陣取り、ロイの風刃で一瞬に草刈りを終わらせた。
その後は周りの魔獣を狩りまくり、あいが治癒をかけ魔獣の命を一つでも拾うよう努力した。
既にガイもロイもかなり大きめの魔獣まで一撃で仕留められるようになっていた。

あたりが暗くなる前に伍イ団は食事を済ませ夜の来ることに備えた。
夜の森は獣たちの時間である。

だがしかし、兵士達は柵を作った事に安心し宴会を始めた。肉を焼き、酒を飲み大声で笑っている。救いはあちら側が風下であるということだ。

「明日は、魔獣狩りだ鋭気を養うように、まあ飲み過ぎないようにな、かんぱーい」


薄暗い森はそれだけで、恐ろしい、登録者で物音を立てる者はすでに一人もいない。

メイがゴクリとつばを飲む、この集団の中で最初に異変に気が付いたのは流石である。
あいはこういうことに鈍感である。

巨大な魔力の塊が、風下から兵士の陣に近づいている。

兵士達はこの異変に気付くことなく、はしゃいでいるのは、これもまた流石である。

「ぎゃあーあ」

柵がなんの役に立つというのだろうか。
コンビニを二つ足した程の大きさのダビという魔獣が兵士達の陣を襲う。
魔獣ダビは人の塊に突進し、その後左右に回転し、人を自分の重さで押しつぶす。
すでに、兵士はほぼ壊滅している。

悲鳴は登録者の陣にも聞こえた。

「青龍団、様子を見に行くぞ」

数十人の一団が兵士の陣に向かう。

すでに、兵士の陣に戦う者はなく、魔獣の餌と化していた。

この様子を見て青龍団はすぐに登録者の陣に戻る。

「撤収、逃げるぞ、金貨四枚であんな化け物と戦えるかー」

それを聞くと登録者達は、我先にと逃げ出した。

「おい、あんた達も逃げるぞ」

伍イ団の五人を見つけ。
青龍団の副団長ギドがいう。

「ありがとう、すぐに行きます」
「先に逃げてください」

あいが答える。

青龍団の副団長ギドは、伍イ団のこの落ち着いた様子が気になった。
逃げるふりをして、すぐ後ろの藪に身を潜めた。

「あいちゃん、そろそろ大丈夫よ」

周りを見回しレイが言う。

「出現」

ズン
巨大な岩が出現する。

「おいおいマジかよ、魔獣よりでかいぜ、あの岩」
「あの女の子が出したのか、でも錬金魔法は、北の魔女の呪いで出来ないはずじゃないのか」

藪の中でギドは独り言をいう。

「あとはあのあたりに最強に柔らかい蓋を想像して」

「あいちゃん来たよ」

ズルズル
兵士を喰い終わった魔獣ダビが近づいてくる。
岩の後ろに貧民服姿のあいが右手を胸の高さに挙げて立つ。
セーラー服が汚れるのが嫌で戦闘時にはこの姿である。

「とべー」

岩がダビの頭を吹き飛ばし、背中をスプーンで、刮げた様にへこませる。
そのまま岩がダビの後ろで止まる。

「消去」

ザーー
吹っ飛んだ首の穴から、今食べられたであろう半分消化された兵士の体が流れ出る。

「おつかれあいちゃん」

「先に治癒を掛けます」

あいはダビに治癒をかける。

「治癒」

あいの足下にうねうねと動く、蛇とミミズのあいの子のような生き物が現れた。
尻尾を摘まみ持ち上げると

「あなたがダビちゃんなのね、元気でね」

あいが藪に逃がしてやる。

藪の中でギドが

「おい、おい、おいー、死者復活まで」
「でたらめ過ぎだろう、って、近づくなダビ、きめーだろ」

あいが治癒を掛け、本来の姿に戻ると、今までの魔獣の身体は泡のように地面に吸い込まれ消えていく。
後には飲み込まれていた兵士の身体が残る。

「水出現」

ザーー
水が滝の様に飛び出し、消化中の兵士達の身体を綺麗にする。

「治癒」

二百五十人以上の兵士の身体が元に戻る。

「すみません、身体の動く方は生存者の探索をお願いします」

あいが兵士達にお願いする。

「あいちゃーん」
「こっちに生存者がいるわ」

「すぐに行きます」

レイの足下には両足を潰されて、うなっている兵士がいた。
あいの尻を蹴った、髭面の兵士だった。
髭面の兵士は顔から表情が消えた。

「治癒」

「なんで、」

あいは問いには答えず

「要救護者の捜索をお願いします」

と、だけ言った


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