勇者が街にやってきた

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第十七話 黒い勇者との戦い

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黒い勇者の隊長は、他の黒い勇者より一回り大きい。
武器は槍を持ち、透明の俺がどこから近づいても、斬り殺す自信があるのだろう、ニヤニヤ笑っている。
空間の亀裂の前に仁王立ちになっている。
亀裂からは黒い霧がどんどん湧きだしている。
隊長は足の半分が黒いもやに沈み、巨躯に槍を構える姿は不気味だった。

俺のすぐ前には、妹がいて両手で胸を押さえている。
黒い鎧の勇者に水着を剥ぎ取られてしまったのだろう。

拘束された赤い鎧の奴らは、崩れたビルの瓦礫の前で、ボロボロになり全員うつむいている。
既に生きるのを諦めているようだ。

ガドは隊長からの返事を待っている。
神殿で生き返るのかどうか。

「どうした、かかってこないのか」

ちっ、俺の質問には答える気はないようだ。

拘束された勇者と、妹を助ける為には、黒い勇者を倒すしかない。
だが、これにも疑問がある。
こいつら日本人をスライムと言って殺しまくっていた奴だ。
助ける価値があるのかどうか。

「でああああーー」

黒い鎧の隊長が槍を振りかぶった。
その切っ先は俺ではない。

「ちっ、この野郎」

妹を狙いやがった。
こうなったらしかたがない妹を守る為だ。
振りかぶった隊長に突進して体当たりした。

「ゴハッ」

隊長は吹き飛んだ。
その手に握られた槍を掴み、こんどは隊長の腹を蹴り飛ばした。

「ぐあっ」

隊長は後ろに吹き飛び、俺の手には隊長の槍が残っている。
その槍でこの場にいる、黒い鎧の勇者を全員切り倒した。

「敵か味方かもわからんのに、敵を助ける為、切り倒してしまった」

「あいつらは、恐怖です。この世界も戦わなければ終ります」

俺の言葉を聞いて、妹が見捨てられないように、必死で訴えてきた。

「妹、俺は義兄だ。あいつらの拘束は解けるか」

「はい」

妹がボロボロ勇者の拘束を解き終った所で妹を抱きかかえた。

「今から、ねーさんの所に連れて行ってやる。暴れるなよ」

ボロボロ勇者は、お互いを助け合いながらヨタヨタ歩いていく。
それを見届けると、ばあさんの元へ急いだ。



「ヒノーー」

美しい顔をくしゃくしゃにして泣きながらヒミが妹に抱きついた。

「ガド、お前は恐怖心がないのか」

ばあさんが呆れている。

「あるさ、でも、ばあさんの魔法で強くなっているからよ。あんまり恐くはねえ」

「馬鹿じゃのう。相手の強さがわからんのに向かっていったら、死ぬぞ!」

「えっ」

「まあ、御陰で黒勇者にも、わしの魔法が通じることがわかった。戦いが少し有利になった」

「まさか、ばあさんの魔法が効かない相手もいるのか」

「いるかもしれんと、いうことじゃ」
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