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第八十三話 汚れたハンカチ

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最初は細かくゾンビを配置していましたが、夜明けが近づくにつれ雑になり、最後には「あの森は広いから、ここからここまでのゾンビ達を移動させましょう。どうせ自分たちで移動しますから」などと適当な仕事をしました。
それでも、作業が終ったのは夜が明けてから、随分たってからでした。



「お疲れ様です」

僕たちが家に戻ると、S級冒険者のサビアさんが笑顔で迎えてくれました。
すでに、シロイさんもヒュアちゃんも出発の準備が終って行く気満々です。

「汚れていますから、まずはお風呂へどうぞ」

メイド服を着たニーファさんが声を掛けると、僕は二十人のメイドさんに囲まれました。
そして、お風呂場へ連れていかれて、全てを剥ぎ取られ浴室に放り込まれました。
浴室では体と黒猫マリーを高速で洗って、お湯をかけてすぐに脱衣所に戻りました。
速くしないと、危険ですから……。

「ぬし様は速すぎでありんす」

すでに脱衣所にはユーリさんとアクエラさん、デルイドさんの姿がありました。どうやら間に合わなかったようです。
僕の家のお風呂は、混浴仕様になっています。
混浴は違法ではないのですが、僕は嫌です。

「ふふふ、でもちょっと遅かったのじゃー」

すでに三人は入浴の準備が終っていました。
なるべく見ないようにお風呂場から逃げ出すと、二十人のメイドさんが僕に歩きながら、上手に服を着せてくれました。
二十人に囲まれるように、玄関に着くと、ヒュアちゃんとサビアさん、シロイさんが手招きしています。
僕は急いで、駆け寄り三人と外に出ました。



うちは、中心街からは少し離れていますが、それでも大通りに出ると、人が大勢歩いています。

「すげー可愛いぞ」
「本当だ、めちゃめちゃ可愛い」

大通りに出ると、歩いている人がこっちをジロジロ見てきます。
そういえば急ぎすぎて、三人の姿を良く見ていませんでした。
改めて良くみてみましょう。
サビアさんは、護衛の為でしょうか動き易そうな服を着ています。
シロイさんは、露出の少ない白いドレスを着ています。
そして、ヒュアちゃんは、マリーが用意したのでしょうか、ひらひらの一杯付いた、ほとんど白色ですが薄ら茶色地のドレス。リボンなど飾り模様は濃い焦げ茶色の、まるで人形の様な可愛いドレスを着ています。

「皆さん、お似合いですね。ヒュアちゃんはとても可愛いです」

でも、三人は少しにっこりしましたが、余り喜んでいません。

「ふふふ、私達はノコ様の引き立て役です」

シロイさんがつぶやきました。
僕は、油の切れたロボットのように、ギコギコ首を動かして自分の体を見てみました。
極薄いブルー、ほぼ白色のミニスカートの服を着ています。

「うわーー、やられましたーー」

どうせパンツも女性用の可愛い奴を履かされているに違いない。
見られないようにしなければ。
うちのメイドさんは、かなりマリーとローズに毒されているようです。
困ったものです。

大通りは中心街に近づくと、益々人の数が増えていき、露店が見えてきました。

「ふふふ、お祭りですね」

僕は子供の様にわくわくしてしまいました。

「ヒュア様。又、誘拐されるといけません。手をつなぎましょう」

サビアさんがヒュアちゃんを心配しています。
前にも誘拐されていますからしょうがありませんね。

「うふふ、それならノコ様とつなぎます」

そういうと僕の腕にしがみつきました。
サビアさんは、どうやらヒュアちゃんに言わされたようです。ヒュアちゃんは恐ろしい子です。

「見てください、串焼きです。マリーお金を出してください」

僕のテンションは上がっているみたいです。はしゃいでいます。
僕の肩には、お金製造機がのっていますので拳を、マリーの前に出しました。
手のひらを開けると、銀貨が1枚入っています。
串焼きの屋台で四本串焼きを買いました。

「ふふふ、屋台で買う食べ物はやたらうまく感じるんですよね」

僕が、嬉しそうに一口食べましたが、三人は食べません。
僕の口の中いっぱいに、腐った肉の臭いと、味が広がります。
さすがに屋台の前で、吐き出すわけにもいかず、目を白黒させながら飲み込みました。

「はい、マリー」

僕は黒猫に食べて貰おうと顔の前に差し出しましたが、ぷいっと横を向かれてしまいました。
どうしようかと周りを見たら、細い路地に人影が幾つも見えます。
子供です。
どの子もボロボロの服を着て、キョロキョロ往来を見ています。

「サビアさん、あの路地の子供達は何ですか」

「浮浪児ですね。関わらない方がよろしいかと思います」

一見賑やかですが、やっぱりこの街も暗い部分があるようです。

「皆さん食べないのでしたら、僕に下さい」

三人から串焼きを貰って、四人で固まっている子供を探して、ヒュアちゃんと一緒に、近づきました。

「これ、食べていただけませんか。お腹一杯で食べられないものですから」

子供達の、体からはゴミの様な臭いがして、ヒュアちゃんは吐きそうになっています。
子供達はアカで汚れた顔で目だけが白く目立っています。その目でジロジロ見るだけで動きません。
僕が、一人の子供のドロドロに汚れた手をつかみ引き寄せて、強引に串焼きを持たせました。
僕はゾンビなので、ドロドロに汚れた手など気になりません。
子供達は、串焼きをもらった瞬間、路地の奥へ走り去りました。

ヒュアちゃんは僕の手を、持っているハンカチで拭き始めました。

「ヒュアちゃん、あの子達も同じなんですよ」

僕は、お姫様に何を口走っているのかと笑えて来ました。
あの子達はつらい毎日を送っていますが、ヒュアちゃんと同じ人間ですと、言おうとしていました。
貴族、ましてや王族のヒュアちゃんにはそんな考え方は出来るはずがありません。
僕が暗い表情になっていると、ヒュアちゃんが僕の顔をのぞき込んで来ました。

「ノコ様は、私がわからないと思っていますのね」

僕の手を拭いたハンカチで、自分の顔をゴシゴシ拭き始めました。

「……!!」

僕は思わず、ギュッとヒュアちゃんの体を抱きしめていました。
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