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第24章 オチャルフ要塞決戦編(後)
第4話 その時まで、彼等は諦めない
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・・4・・
ついに帝国も遅い春を迎え始める四の月になった。
サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦の決行日まで約二週間を切ったが、オチャルフでは戦いはさらに激しくなっていた。
先月下旬に行われた帝国軍の戦術により、統合軍は予定より早く北東部戦域の対処に追われることとなり、兵力を割かざるを得なくなる。また、第一から第二防衛線は完全放棄となり、展開していた兵力は後退支援作戦のもとで順次第二から第三防衛線へ配置転換されるか、損害が目立つ部隊は後方へ一旦下げられることとなった。最前線は一部が帝国軍が築いた橋頭堡によって制圧されている第二から第三防衛線、もしくはリャフク川西岸の統合軍部隊が帝国軍と川を挟んで相対することとなる。
このように記されると帝国軍がやや優勢のように思われるが、必ずしもそうではなかった。
何故か。それはアカツキ等を始めとする人類諸国統合軍がオチャルフ要塞を巧妙に構築していたからである。
オチャルフ要塞の戦域が広大なのは既に周知の事実であるが、鍵はここにある。
帝国軍は第二防衛線まで進出し、砲兵隊等もいよいよ第三から第四防衛線までを射程に収めるようになり、帝国軍の兵士達はこのままの勢いで要塞を攻略出来るかと思っていた。
ところが、人類諸国統合軍にとっては第二から第三防衛線、そして第四防衛線こそがオチャルフ要塞の本領発揮と考えていた。
とある日のアカツキはこう発言している。
「オチャルフ要塞は、第三防衛線から先は帝国にとってさらなる地獄を味わうことになるんだ。第二防衛線までに配置されていた生存部隊は第三防衛線や第四防衛線付近まで撤退すると、それまで密度の低かった第三防衛線以降は大幅に高まり、南北の標高が高い地点から谷の部分はクロスファイア地点が多数設けられている。それに第三防衛線付近まで接近すればこれまで射程外だった野砲も重火力の一つに加わり、鉄の雨が奴等に降り注ぐ。だから奴等は、進めば進むほど面積あたりの兵士密度や投射火力量の増加に苦しむことになるわけさ」
もちろんこの発言は、統合軍にとって一番いい想定で進んだ場合であり、理想通りにはいかない。しかし最も可能性の高い想定でも、第三防衛線から第四防衛線に帝国軍が進めばこれまで以上に苦しめられる事は変わらず、現に帝国軍はその片鱗を受けつつあったのである。
それは四の月となり三の日となった現在の両軍の死傷者数からも見て取れていた。
【帝国軍死傷者数】
・約八三五〇〇人
※二の日までの速報値。
【参考・統合軍死傷者数】
・約二ハ〇〇〇名
※二の日までの速報値。
奇襲によって北東部戦域の一部を確保したにも関わらず、帝国軍の死傷者は右肩上がりなのである。つまり数字の面から見ても、統合軍のオチャルフ要塞における作戦は成果を得ているといって差し支えなかったのである。
サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦開始まであと一二日。
統合軍の将兵が来るべき時を待ちながら戦場に身を投じている時、アカツキはリャフク川西岸の第三防衛線付近にいた。
・・Φ・・
4の月3の日
午前10時過ぎ
リャフク川西岸・人類諸国統合軍第3防衛線境界線から3キーラ地点
「アカツキ中将閣下。到着早々申し訳ありませんが、偵察から帝国軍部隊の渡河兆候が有りと報告がありまして。もしかするとこの辺りも戦闘地域になるかもしれません」
「渡河か……。備えの方はどうなっているかな、マイネン師団長」
これまで出っぱなしだった第二能力者化師団から、休息十分になった第一能力者化師団に交代することもあって視察も含め現場に来ていた僕達――リイナ、エイジス、アレン大佐達――は、第一能力者化師団師団長のマイネン師団長から早速報告を受ける。
「はっ。昨日から早朝にかけて配置転換は完了し、我が師団のみであればすぐにでも対処可能です。同様の情報は周辺部隊にも早急に共有されましたからと問題ありません。しかし、ここに橋頭堡を構築されますと前方との連絡線が南方面のみと乏しくなりますので絶対に防がねばならないかと」
「やっぱり北東部戦域の一部に食い込まれたのは響いてるね……。了解。アレン大佐達も共に来ているから、僕も参加しよう。アレン大佐。連れてきているのは大隊の内の半数だけど装備は大丈夫?」
「はっ。遊撃に停止斉射までお任せ下さい。いつでもいけますよ」
「ということだね、マイネン師団長」
「おおお、それはとても頼もしい限りです!!」
エイジスの直援だけでなく、アレン大佐達も加わると聞いたマイネン師団長は喜色の笑みを浮かべる。師団本部の面々も歓声を上げていた。
「さて、なら早速準備に取り掛かろう。エイジス、情報統合司令センターへ連絡を入れてもらえるかな。あと、帝国軍渡河にあたって対応する諸部隊の現況をマップへ。修正が必要ならこちらから指示を出すから」
「サー、マスター」
「まさか師団への激励と視察が戦闘になるなんてね。久しぶりの戦闘になるかしら?」
「相手が余程食いこんでこればね。けど、そうはさせないよ。『集』の力を持って捩じ伏せる」
不思議なもので、北東部戦域の一部が帝国軍のものになって想定外が起きていても、今こうやって帝国軍が近付いてきていても、僕は負ける気はしなかった。あと二週間を切った状況でまだこれだけ戦えているあたり、オチャルフ要塞の効果は絶大だと感じているくらいには。
根拠は明白だ。僕も関わっている統合軍参謀本部にいる参謀達と将兵達の努力が合わさったこのオチャルフ要塞は、多少の小手先程度では揺るがないからだ。
進めば進むほどに統合軍密度の高くなる配置。
巧妙に隠蔽されるか厚い防護で守られている重砲類。
第三防衛線までは塹壕間の移動を容易にしたことで自由な兵力配置転換を可能にしている。目の前のリャフク川以西にはこれに加えて地下道で兵だけでなく銃砲弾の移動と共有が可能。
陸だけじゃない。空もここに来て兵器が生物由来なのか生産可能な機械由来なのかの差が出ている。洗脳化光龍はそろそろ供給が厳しくなっているようで、大規模な投入は限られてきている。けれど、僕達統合軍の航空部隊は後方から次々と育成されたパイロットと共に戦闘機が到着している。既に数だけならこちらが上回っている。また、個々の性能では劣るかもしれないけれど、それは百も承知で集団戦法で対応済みだ。
勿論、この大戦において最大級の死傷者が出ているのは事実だ。オチャルフ要塞の効果を持ってしても、この戦域のみで既に三万近い死傷者が生じている。痛ましい事に違いはない。
でも、将兵達は動揺していない。逆にここまで粘れているのが自信になっているんだ。
だから僕は確信している。
「この戦いは、勝てる」
「ええ、必ず勝利します」
「同意」
「当然よ。私達は勝つわ」
僕がぽつりと漏らした言葉に、アレン大佐、エイジス、リイナの順に自信に満ちた語気で返してくれた。
マイネン師団長も、
「いい加減撤退戦は飽きましたからね。来るべき時には我々が攻勢に転じるのも当然でしょう」
と不敵な笑みを見せながら言った。とはいえ、マイネン師団長は油断はしてないようで一つだけ自身の意見を述べる。
「ただ、唯一気にかかるのはあの女の動向ですね。リシュカの話はとんと聞きません。恐らくは二個軍集団の指揮に忙しいんでしょうが、どうなんでしょうね」
「北はシェーコフ、南はリシュカが指揮を担当しているから、彼女も去年末のようにはいかないのかもしれないね。もしくは第四防衛線まで到達してからの総攻撃の際、一気に食い破る為に直々の参戦をするのかもしれない。まあ、予測の域だけどね」
「ですがアカツキ中将閣下、そうはさせないのでしょう?」
「もちろん。まだ第二から第三防衛線の半分以上は健在だ。このまま持ちこたえて後は一気に、さ。だから温存させているモノもある」
「マスター、帝国軍に本格的な攻勢兆候が見られます。友軍重火器部隊は準備完了。周辺部隊も対応を完了しました」
「了解。話に興じるのもここまでかな」
アレン大佐達が対岸の方へ向かってから少し経ってから、エイジスが僕に伝えてくる。
彼女の情報共有画面には、対岸の帝国軍が活発な動きを見せている。後方から確保した橋頭堡を経由して、前方に向かっていた。川の東側にある第二から第三防衛線に展開している統合軍への攻撃も行うのは間違いない。むしろそちらの方が本命で渡河は陽動なのかもね。
何せ北部方面はシェーコフ率いる帝国軍北部軍集団の攻勢を統合軍北部方面軍が上手に受け止めているようだし、南部はこの状況だから、帝国軍も攻略を早めたいのだろう。せっかく北東部戦域の一部を手に入れても南に僕達がいたら、帝国軍からしたら邪魔なことこの上ないし。
でも、そうはさせないさ。
「マスター、帝国軍が動き始めました」
「師団でも確認しました。我々はいつでも」
「よし。帝国軍が渡河の為に魔法による簡易橋と直接渡河をした時点でまずは一斉射撃。真ん中位まで到達したあたりで始めよう」
「了解。各部隊に通達します」
マイネン師団長が各部隊に通達していく。
そして。
「報告。帝国軍部隊先鋒渡河を開始。友軍は後方からの散発的な砲撃と射撃のみです」
「まだ引き付けて」
「報告。先鋒部隊。渡河を進め、間もなくリャフク川中間地点へ」
「まだだ」
「マスター、敵部隊は中間地点を通過しました」
「今だ。敵渡河部隊に向けて一斉攻撃を開始」
「了解! 師団火力、一斉投射!!」
マイネン師団長の命令の直後、友軍各所から凄まじい砲撃、法撃、銃撃音が響き始めた。
・・Φ・・
【人類諸国統合軍・4の月3の日戦闘詳報】
・三の日における帝国軍の攻勢及び友軍の対応と結果報告については下記の通り。
1,三の日において、帝国軍は第二から第三防衛線間に展開する友軍に対して大規模攻勢と先の攻勢における陽動としてリャフク川渡河攻勢を敢行。
2,これに対し我が軍は従来の計画通り重砲火力及びロケット砲の徹底した後方支援火力を受けて防衛線部隊で迎撃。第二から第三防衛線のうち東方の一部地域、約二平方キーラを失うものの帝国軍に対して推定約四〇〇〇の死傷者を生じさせることに成功する。なお、本状況において一時孤立する部隊もあったが、これに対しては塹壕間移動を活用して大体の救出に成功する。
3,陽動となる渡河作戦は配置転換直後の第一能力者化師団の他にリャフク川西岸展開部隊で対処。第一能力者化師団の激励と現地視察に赴いていたアカツキ・ノースロード中将、リイナ・ノースロード准将、エイジス特務官のほか、アカツキ中将直轄大隊の内約二五〇名も参加。帝国軍渡河攻勢部隊約一五〇〇〇を迎撃。これを撃破し、渡河後橋頭堡構築を阻止。帝国軍死傷者の推定は約二〇〇〇。約三時間の戦闘後、帝国軍は撤退。
4,北東部戦域は、戦域内北部の約三平方キーラが帝国軍勢力下になるも善戦。前線からの要請により、オディッサから新たに到着した連合王国軍一個旅団と休息し後方配置になっていた協商連合軍一個旅団を新たに投入。再び拮抗状態へ。
5,本日までの統合軍死傷者数は約三一五〇〇。帝国軍の推定死傷者数は約九〇〇〇〇前後と思われる。
ついに帝国も遅い春を迎え始める四の月になった。
サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦の決行日まで約二週間を切ったが、オチャルフでは戦いはさらに激しくなっていた。
先月下旬に行われた帝国軍の戦術により、統合軍は予定より早く北東部戦域の対処に追われることとなり、兵力を割かざるを得なくなる。また、第一から第二防衛線は完全放棄となり、展開していた兵力は後退支援作戦のもとで順次第二から第三防衛線へ配置転換されるか、損害が目立つ部隊は後方へ一旦下げられることとなった。最前線は一部が帝国軍が築いた橋頭堡によって制圧されている第二から第三防衛線、もしくはリャフク川西岸の統合軍部隊が帝国軍と川を挟んで相対することとなる。
このように記されると帝国軍がやや優勢のように思われるが、必ずしもそうではなかった。
何故か。それはアカツキ等を始めとする人類諸国統合軍がオチャルフ要塞を巧妙に構築していたからである。
オチャルフ要塞の戦域が広大なのは既に周知の事実であるが、鍵はここにある。
帝国軍は第二防衛線まで進出し、砲兵隊等もいよいよ第三から第四防衛線までを射程に収めるようになり、帝国軍の兵士達はこのままの勢いで要塞を攻略出来るかと思っていた。
ところが、人類諸国統合軍にとっては第二から第三防衛線、そして第四防衛線こそがオチャルフ要塞の本領発揮と考えていた。
とある日のアカツキはこう発言している。
「オチャルフ要塞は、第三防衛線から先は帝国にとってさらなる地獄を味わうことになるんだ。第二防衛線までに配置されていた生存部隊は第三防衛線や第四防衛線付近まで撤退すると、それまで密度の低かった第三防衛線以降は大幅に高まり、南北の標高が高い地点から谷の部分はクロスファイア地点が多数設けられている。それに第三防衛線付近まで接近すればこれまで射程外だった野砲も重火力の一つに加わり、鉄の雨が奴等に降り注ぐ。だから奴等は、進めば進むほど面積あたりの兵士密度や投射火力量の増加に苦しむことになるわけさ」
もちろんこの発言は、統合軍にとって一番いい想定で進んだ場合であり、理想通りにはいかない。しかし最も可能性の高い想定でも、第三防衛線から第四防衛線に帝国軍が進めばこれまで以上に苦しめられる事は変わらず、現に帝国軍はその片鱗を受けつつあったのである。
それは四の月となり三の日となった現在の両軍の死傷者数からも見て取れていた。
【帝国軍死傷者数】
・約八三五〇〇人
※二の日までの速報値。
【参考・統合軍死傷者数】
・約二ハ〇〇〇名
※二の日までの速報値。
奇襲によって北東部戦域の一部を確保したにも関わらず、帝国軍の死傷者は右肩上がりなのである。つまり数字の面から見ても、統合軍のオチャルフ要塞における作戦は成果を得ているといって差し支えなかったのである。
サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦開始まであと一二日。
統合軍の将兵が来るべき時を待ちながら戦場に身を投じている時、アカツキはリャフク川西岸の第三防衛線付近にいた。
・・Φ・・
4の月3の日
午前10時過ぎ
リャフク川西岸・人類諸国統合軍第3防衛線境界線から3キーラ地点
「アカツキ中将閣下。到着早々申し訳ありませんが、偵察から帝国軍部隊の渡河兆候が有りと報告がありまして。もしかするとこの辺りも戦闘地域になるかもしれません」
「渡河か……。備えの方はどうなっているかな、マイネン師団長」
これまで出っぱなしだった第二能力者化師団から、休息十分になった第一能力者化師団に交代することもあって視察も含め現場に来ていた僕達――リイナ、エイジス、アレン大佐達――は、第一能力者化師団師団長のマイネン師団長から早速報告を受ける。
「はっ。昨日から早朝にかけて配置転換は完了し、我が師団のみであればすぐにでも対処可能です。同様の情報は周辺部隊にも早急に共有されましたからと問題ありません。しかし、ここに橋頭堡を構築されますと前方との連絡線が南方面のみと乏しくなりますので絶対に防がねばならないかと」
「やっぱり北東部戦域の一部に食い込まれたのは響いてるね……。了解。アレン大佐達も共に来ているから、僕も参加しよう。アレン大佐。連れてきているのは大隊の内の半数だけど装備は大丈夫?」
「はっ。遊撃に停止斉射までお任せ下さい。いつでもいけますよ」
「ということだね、マイネン師団長」
「おおお、それはとても頼もしい限りです!!」
エイジスの直援だけでなく、アレン大佐達も加わると聞いたマイネン師団長は喜色の笑みを浮かべる。師団本部の面々も歓声を上げていた。
「さて、なら早速準備に取り掛かろう。エイジス、情報統合司令センターへ連絡を入れてもらえるかな。あと、帝国軍渡河にあたって対応する諸部隊の現況をマップへ。修正が必要ならこちらから指示を出すから」
「サー、マスター」
「まさか師団への激励と視察が戦闘になるなんてね。久しぶりの戦闘になるかしら?」
「相手が余程食いこんでこればね。けど、そうはさせないよ。『集』の力を持って捩じ伏せる」
不思議なもので、北東部戦域の一部が帝国軍のものになって想定外が起きていても、今こうやって帝国軍が近付いてきていても、僕は負ける気はしなかった。あと二週間を切った状況でまだこれだけ戦えているあたり、オチャルフ要塞の効果は絶大だと感じているくらいには。
根拠は明白だ。僕も関わっている統合軍参謀本部にいる参謀達と将兵達の努力が合わさったこのオチャルフ要塞は、多少の小手先程度では揺るがないからだ。
進めば進むほどに統合軍密度の高くなる配置。
巧妙に隠蔽されるか厚い防護で守られている重砲類。
第三防衛線までは塹壕間の移動を容易にしたことで自由な兵力配置転換を可能にしている。目の前のリャフク川以西にはこれに加えて地下道で兵だけでなく銃砲弾の移動と共有が可能。
陸だけじゃない。空もここに来て兵器が生物由来なのか生産可能な機械由来なのかの差が出ている。洗脳化光龍はそろそろ供給が厳しくなっているようで、大規模な投入は限られてきている。けれど、僕達統合軍の航空部隊は後方から次々と育成されたパイロットと共に戦闘機が到着している。既に数だけならこちらが上回っている。また、個々の性能では劣るかもしれないけれど、それは百も承知で集団戦法で対応済みだ。
勿論、この大戦において最大級の死傷者が出ているのは事実だ。オチャルフ要塞の効果を持ってしても、この戦域のみで既に三万近い死傷者が生じている。痛ましい事に違いはない。
でも、将兵達は動揺していない。逆にここまで粘れているのが自信になっているんだ。
だから僕は確信している。
「この戦いは、勝てる」
「ええ、必ず勝利します」
「同意」
「当然よ。私達は勝つわ」
僕がぽつりと漏らした言葉に、アレン大佐、エイジス、リイナの順に自信に満ちた語気で返してくれた。
マイネン師団長も、
「いい加減撤退戦は飽きましたからね。来るべき時には我々が攻勢に転じるのも当然でしょう」
と不敵な笑みを見せながら言った。とはいえ、マイネン師団長は油断はしてないようで一つだけ自身の意見を述べる。
「ただ、唯一気にかかるのはあの女の動向ですね。リシュカの話はとんと聞きません。恐らくは二個軍集団の指揮に忙しいんでしょうが、どうなんでしょうね」
「北はシェーコフ、南はリシュカが指揮を担当しているから、彼女も去年末のようにはいかないのかもしれないね。もしくは第四防衛線まで到達してからの総攻撃の際、一気に食い破る為に直々の参戦をするのかもしれない。まあ、予測の域だけどね」
「ですがアカツキ中将閣下、そうはさせないのでしょう?」
「もちろん。まだ第二から第三防衛線の半分以上は健在だ。このまま持ちこたえて後は一気に、さ。だから温存させているモノもある」
「マスター、帝国軍に本格的な攻勢兆候が見られます。友軍重火器部隊は準備完了。周辺部隊も対応を完了しました」
「了解。話に興じるのもここまでかな」
アレン大佐達が対岸の方へ向かってから少し経ってから、エイジスが僕に伝えてくる。
彼女の情報共有画面には、対岸の帝国軍が活発な動きを見せている。後方から確保した橋頭堡を経由して、前方に向かっていた。川の東側にある第二から第三防衛線に展開している統合軍への攻撃も行うのは間違いない。むしろそちらの方が本命で渡河は陽動なのかもね。
何せ北部方面はシェーコフ率いる帝国軍北部軍集団の攻勢を統合軍北部方面軍が上手に受け止めているようだし、南部はこの状況だから、帝国軍も攻略を早めたいのだろう。せっかく北東部戦域の一部を手に入れても南に僕達がいたら、帝国軍からしたら邪魔なことこの上ないし。
でも、そうはさせないさ。
「マスター、帝国軍が動き始めました」
「師団でも確認しました。我々はいつでも」
「よし。帝国軍が渡河の為に魔法による簡易橋と直接渡河をした時点でまずは一斉射撃。真ん中位まで到達したあたりで始めよう」
「了解。各部隊に通達します」
マイネン師団長が各部隊に通達していく。
そして。
「報告。帝国軍部隊先鋒渡河を開始。友軍は後方からの散発的な砲撃と射撃のみです」
「まだ引き付けて」
「報告。先鋒部隊。渡河を進め、間もなくリャフク川中間地点へ」
「まだだ」
「マスター、敵部隊は中間地点を通過しました」
「今だ。敵渡河部隊に向けて一斉攻撃を開始」
「了解! 師団火力、一斉投射!!」
マイネン師団長の命令の直後、友軍各所から凄まじい砲撃、法撃、銃撃音が響き始めた。
・・Φ・・
【人類諸国統合軍・4の月3の日戦闘詳報】
・三の日における帝国軍の攻勢及び友軍の対応と結果報告については下記の通り。
1,三の日において、帝国軍は第二から第三防衛線間に展開する友軍に対して大規模攻勢と先の攻勢における陽動としてリャフク川渡河攻勢を敢行。
2,これに対し我が軍は従来の計画通り重砲火力及びロケット砲の徹底した後方支援火力を受けて防衛線部隊で迎撃。第二から第三防衛線のうち東方の一部地域、約二平方キーラを失うものの帝国軍に対して推定約四〇〇〇の死傷者を生じさせることに成功する。なお、本状況において一時孤立する部隊もあったが、これに対しては塹壕間移動を活用して大体の救出に成功する。
3,陽動となる渡河作戦は配置転換直後の第一能力者化師団の他にリャフク川西岸展開部隊で対処。第一能力者化師団の激励と現地視察に赴いていたアカツキ・ノースロード中将、リイナ・ノースロード准将、エイジス特務官のほか、アカツキ中将直轄大隊の内約二五〇名も参加。帝国軍渡河攻勢部隊約一五〇〇〇を迎撃。これを撃破し、渡河後橋頭堡構築を阻止。帝国軍死傷者の推定は約二〇〇〇。約三時間の戦闘後、帝国軍は撤退。
4,北東部戦域は、戦域内北部の約三平方キーラが帝国軍勢力下になるも善戦。前線からの要請により、オディッサから新たに到着した連合王国軍一個旅団と休息し後方配置になっていた協商連合軍一個旅団を新たに投入。再び拮抗状態へ。
5,本日までの統合軍死傷者数は約三一五〇〇。帝国軍の推定死傷者数は約九〇〇〇〇前後と思われる。
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