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第23章オチャルフ要塞決戦編(前)
第5話 三年以内の戦争終結の為に
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・・5・・
3の月2の日
午後3時過ぎ
オチャルフ要塞中心区画
統合軍前線総司令部
三の月ともなると、母国連合王国に比べれば厳しいとはいえ帝国本土は少しずつ寒さも和らぐようになってきた。
今僕がいるオチャルフ要塞の地域も最高気温は一桁台後半になってきたし、来月にはさらに暖かくなるはずだ。暖かくなれば暖房に使われる資源も減るし兵士も戦いやすくなるだろう。
と考えながら向かう先は、オチャルフ要塞内に建てられた総司令部棟の中にあるマーチス侯爵の執務室だ。
さっきまで参謀本部の今後の方針会議を終えたから、その報告にリイナやエイジスと歩いているんだ。
マーチス侯爵の執務室に着くと、僕はノックをする。部屋の中から入室許可の声が聞こえたので、僕達は執務室に入った。
「アカツキ、リイナ、エイジス。参謀本部会議、御苦労だったな」
「はっ。ありがとうございます義父上」
「午前中からずっと会議しっぱなしだったわ。議題も多かったもの」
「次が決戦だからな。まして、様々な作戦や他戦線の様子、他国の状況にまで話が至っただろう。しばらくは誰もここには来ない。少しの間だが、肩の力を抜いて気を休めておけ」
「そうさせて頂きます」
僕達はマーチス侯爵の計らいに言葉を甘え、ソファに腰をかける。灰皿も置いてあったので、軍服のポケットに入れてあったタバコの箱を取り出すと火をつけた。
ゆっくりと息を吐くと、マーチス侯爵が暖かいコーヒーを出してくれた。
彼がソファに座ると、僕は軍務鞄から先程の会議の内容を纏めてある書類を出しておく。
しばらくの間、僕達は最近のオチャルフ要塞での様子やほぼ完成となった工事の進捗の話をすると、やがて本題に移る。
「年末の大後退から三ヶ月が経過したが、皆よく戦ってくれている。最前線のトルポッサの様子はどうだ」
「約九〇〇〇〇の兵力でよく踏ん張ってくれています。今日までにツェツロイ川西岸まで戦線を後退させ死傷者約五〇〇〇が出てしまいましたが、帝国軍は推定で死傷者約一三〇〇〇。彼我損害比に差が開きつつあるので、やはり帝国軍の質的低下は真実のようですね」
「旦那様や私が携わった第一能力者化師団が前線にいるとはいえ、この調子でさらに差が開いてくれればいいわね」
「推測。ムィトゥーラウにてリシュカの第八軍に大打撃を与えたことは確実に成果を出していると言っていいでしょう。あれだけ練度に優れた軍を再編成するとなると再補充は難しく、短期間で解決するのならば展開中の他師団から抽出するほかないかと」
「我々にとっては喜ばしいことだ。素直に再編成してくれればその期間だけ第八軍は出てこんし、他師団や他軍から抜くのであれば、どこかが弱体化する。第八軍が再び現れれば厄介だが、反面他の戦線は楽になるからな。ところで、トルポッサ撤退はいつくらいになった?」
希望論も程々に、マーチス侯爵は次の話をする。
「今から二週間後には撤退予定です、義父上。トルポッサを死守するのならばともかく、目的は違いあくまで決戦地はオチャルフ要塞。あまり損害を出すわけにもいきませんので」
「最もだな。オチャルフ要塞の準備が完全に完了した時点で、すぐに撤退命令は出す。撤退支援の為の部隊や火力支援、航空支援も勿論惜しまんぞ」
「ありがとうございます。前線の兵士も大きな支援があれば安心して下がれるでしょう」
「うむ。トルポッサについて、他に何か話す点はあるか?」
「それについては私から。前線の兵士から洗脳化光龍の数が減りつつあると報告があったみたい」
「ほう、興味深いな。いよいよ連中も航空戦力が打ち止めになりつつあるのか?」
「ええ、お父様。ココノエ陛下にお聞きしたのだけれど、これまでの累積撃墜数を加味すると広範な戦線に多数の洗脳化光龍を展開させるのは難しいみたいよ。元々光龍自体の数が少ないのにあちらの戦争で絶対数を減らしているもの。生物と機械の差よね。このままのペースなら、航空戦力は拮抗から優勢に変わるのではないかしら。あくまで帝国軍が戦闘機を出してこなければの話だけど」
「これもココノエ陛下の奮戦のおかげだな。北部戦線についても、統合軍だけでなくダロノワ大統領が良くやってくれている。どうやら諸種族連合共和国の勢力区域にいる市民達はもう二度と帝国に戻りたくないようだ。無論、戻れないという要素も大きいが、西部は帝国中央から軽視されていたからだろう」
「義勇兵が増えている点は僕も耳にしました。我々の負担が減るのなら助かります」
後がない諸種族連合共和国も必死なんだろう。僕達は最悪の可能性で帝国本土から撤退しても、山脈西側に帰ればいいだけだ。けど彼等は違う。
少々残酷かもしれないけれど、この状況は利用させて貰わないとと僕は思っていた。
「次の話に変わります。もう一つの戦線、南方大陸戦線ですが、戦線は膠着。現地統合軍が奮戦しているようです。また帝国軍兵士達が罹患している風土病について、帝国軍は解決策が見つからないのか動きは低調とのこと。結果、帝国陸海軍の有能な将官クラス及び現地軍を南方大陸に完全に封じ込められています」
「これもいい報告だな。少なくない将兵を封じられているのならば南方大陸は何とかなりそうだ。統合軍海軍連合艦隊はどうだ?」
「私を始め参謀本部から立案した、帝国軍海上補給線に対する妨害行動作戦を遂行中です。以前の海戦により帝国海軍はダメージを受けており、風土病も相まって大規模な行動に移れないようです。多少の損害はこちらも出しておりますが、敵補給線への妨害は確実に効果は出しているかと。ただ、いつまでこの作戦を続けられるかはオチャルフ要塞にかかっています」
「オチャルフを失えば次はオディッサ。ここは我々統合軍にとっての帝国本土への足がかりかつ、当初より海軍戦力も置いているからな」
「はい。仰る通りです。オディッサもあるからのほ、オチャルフでは負けられません」
南方大陸については帝国軍が風土病にかかるというラッキーな要素も大きい。これが無かったら戦況がまた違っているだろうからね。
けど、現実は現実だ。時には運に振り回されるのも戦争だし。
「うむ。ところで、新しい作戦についてはどうなった? 元々あった作戦を一部変更する、賭けとも言える作戦だ」
「サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦ですか」
「ああ、それだ」
「参謀本部で検討の結果、正式に作戦として行う方針で固まりました。すぐにでも調整段階に移れます」
「ほう? 参謀本部は可としたか」
マーチス侯爵は僕をじっと見ながら素直な感想を漏らす。この作戦についてはマーチス侯爵もかねてから知っていて、何度か僕と話しているからだ。
「正直なところですが、僕は苦肉の策に近いと思っております。リスクも高い作戦ですから」
「そうだろうさ。連合王国軍と連邦軍合同で陸海軍をサンクティアペテルブルクに向かわせるのだからな」
「はい。サンクティアペテルブルクまでの航路の雪解けと氷解けを待って本国にある両国艦隊を動かし、二国合計で一個軍約八〇〇〇〇の陸軍を輸送させます。既に計画自体はありますから、オチャルフ要塞戦さえ上手くいけば、帝国軍に対して本土で二正面作戦を強いることが出来ます。無論、諸刃の剣ではありますが」
「まさにオチャルフ要塞にかかっているな……」
統合軍は現状打破の作戦として、今僕が話した作戦を行おうとしている。それがサンクティアペテルブルク強襲上陸作戦だ。
四の月になればサンクティアペテルブルク付近までなら流氷も無くなり海軍艦艇と輸送艦艇の航行は可能になる。そこで統合軍の中でも冬慣れしていてかつ、本作戦に兵力拠出が可能な連合王国と連邦が手を組んで作戦を決行することになったんだ。
連邦はこれまで帝国の諜報を受けていたけれど、帝国の息がかかっていない連邦軍将校がは連合王国に対して極秘で敵諜報の刈り取り作戦を依頼。帝国は協商連合に拠点を移していたこともあり、正常化が完了したんだ。
だからこそ今回の作戦を合同で行えるようになったという側面もある。
ただ、僕もマーチス侯爵もそして参謀本部も懸念している通りこれは賭けでもある。
「強襲上陸作戦を行うのはいいとして、対策などはどうなった? 帝国に漏れては意味が無い」
「帝国に対しては偽の情報を掴ませます。具体的には、我々は乾坤一擲の作戦として、アリハルンリスクに対して上陸作戦をする可能性があると」
「アルハリンリスクは、サンクティアペテルブルクより東約四五〇キーラにあって比較的上陸作戦が容易な地点。帝都レオニブルクへは街道が二本あって地形もそう厳しくはないから、帝国軍は実現性がありそうな作戦と判断するはずよ」
「ふむ、アルハリンリスクか……。確かにここであれば港もあり補給線さえ確保してしまえば作戦は容易。帝国軍艦隊も極北艦隊はヴォルティック艦隊に比べれば脅威ではないからな」
「肯定。ヴォルティック艦隊に比べると艦艇は旧型がおおいですし、何より数は多くありません。輸送ルートさえ確保してしまえば敵ではないかと。唯一心配する点は陸軍のみです」
「唯一にして最大だな。サンクティアペテルブルクに展開している兵力は現状約五〇〇〇〇もいなかったはずだったか」
「はっ。はい。既に潜入させている諸種族連合共和国諜報員から定期的に連絡が入っております。約四〇〇〇〇程度とのこと。ただし、南には約五〇〇〇〇が展開しておりますから油断は出来ませんね」
「となると、手早くサンクティアペテルブルクは占領せねばならんということか」
「その点については案はあります」
案というのは、サンクティアペテルブルクに広がりつつある帝国に対する不満を利用した反乱だ。
人口約一九万人と比較的大都市にも関わらず、サンクティアペテルブルクは地理的に帝都から遠い事もありここしばらく軽視されている。さらには徴兵も厳しくなっているらしい。
それだけじゃない。サンクティアペテルブルクには妖魔諸種族連合共和国では平等に扱われている少数民族がおり数も少ない無い。にも関わらずこの人達は差別を受けている為に帝国に対する心象はあまり良くなかった。
これをY特務機関を通じて利用。多少の損害には目を瞑るとして、サンクティアペテルブルク上陸作戦を容易にした上で帝国軍を追いやり第二戦線を構築するというものだ。
「これならば悪くは無い。実現可能性はあると思えるな」
「ありがとうございます、義父上。本作戦は素早く成功させなければなりません。また、オチャルフ要塞における戦いに勝利すれば、南北両面から攻勢をかけて帝国軍を挟めます。よって、最終的に夏頃か秋に入るまでにサンクティアペテルブルクと北部方面軍を合流させる予定です」
「あいわかった。ただし、兵站網と情報網の構築は怠るな。特に兵站は海上輸送の維持が出来るように。サンクティアペテルブルクは土地柄大規模な軍食料庫もあるゆえ当面の維持は現地で確保も可能だろうが、海上輸送をメインとせよ」
「はっ。海上輸送については我が国と連邦だけでなく共和国の協力も取り付けられましたので、余裕は持てるかと思います。さらに追加で報告ですが、本作戦でやっと共和国軍が参戦致します」
これは先月の交渉でまとまった点なんだけど、サンクティアペテルブルク上陸作戦に共和国軍が参戦要請に首を縦に振ってくれたんだ。
数は約一五〇〇〇とそう多くはないけれど、共和国内で実施中の軍改革で実験部隊として訓練が施された精鋭の師団と旅団を参戦させるとのこと。
この軍改革には連合王国軍も深く関係していて、訓練は連合王国方式、兵器も連合王国からの購入のものが多いから万が一の相互融通もしやすくなっている。これは連邦軍でも一部言える点があるかな。
だから共和国軍の参戦は純粋な兵力面以外にもメリットはあるんだよね。
「おお、やっとか。あの国は今まで出てこなかったからな。やや功を焦ったか? もしくは外務省が取引をしたか?」
「両方です、義父上。後方支援のみですと戦後の立場もありますし、何より我が国以外からも参戦要請があったようで。また、参戦についての取引として連合王国北西部と共和国北東部における産業振興や魔石鉱山共同開発を提示したと。魔液採掘も含めて、です」
「納得がいった。共和国も参戦のメリットがあれば重い腰を上げるわけか」
「ええ」
「ようやく共和国も参戦し、我々の負担が減るのならば越したことはない。各国軍とは緊密な連携をし、作戦を成功させるように伝えてくれ」
「はっ。了解致しました」
「話は大体終わりか、いや、この件もあったな」
「はい。新兵器の件です。片方はすぐにでも実戦投入可能であり、もう一つも奇跡的に実用化から完成に辿り着けそうです」
「素晴らしいことだ。こちらについてはすぐに投入せよ。切り札の兵器は早期投入すれば、逆転だけではない。戦局に大きな影響をもたらしてくれるはずだ」
「はっ。僕も勝利に向け、各方面とも調整を行ってまいります」
「頼んだぞ。戦争を三年以内に終わらせる為にも、な」
御前会議で出たという、戦争は三年以内に終わらせなければ連合王国経済は破綻しかねないという話。
これは僕も薄々感じていたし、何より人的資源が持たない可能性もある。
それならば。
何としてでも三年以内に、いや可能ならもっと早く終わらせる為に戦争に勝たなければならないんだ。
だからこそ、まずはオチャルフ要塞で。そしてサンクティアペテルブルクで。さらには新兵器で。
勝利を掴まなければ。戦勝しなければ。
僕は改めて強く決意をしたのだった。
3の月2の日
午後3時過ぎ
オチャルフ要塞中心区画
統合軍前線総司令部
三の月ともなると、母国連合王国に比べれば厳しいとはいえ帝国本土は少しずつ寒さも和らぐようになってきた。
今僕がいるオチャルフ要塞の地域も最高気温は一桁台後半になってきたし、来月にはさらに暖かくなるはずだ。暖かくなれば暖房に使われる資源も減るし兵士も戦いやすくなるだろう。
と考えながら向かう先は、オチャルフ要塞内に建てられた総司令部棟の中にあるマーチス侯爵の執務室だ。
さっきまで参謀本部の今後の方針会議を終えたから、その報告にリイナやエイジスと歩いているんだ。
マーチス侯爵の執務室に着くと、僕はノックをする。部屋の中から入室許可の声が聞こえたので、僕達は執務室に入った。
「アカツキ、リイナ、エイジス。参謀本部会議、御苦労だったな」
「はっ。ありがとうございます義父上」
「午前中からずっと会議しっぱなしだったわ。議題も多かったもの」
「次が決戦だからな。まして、様々な作戦や他戦線の様子、他国の状況にまで話が至っただろう。しばらくは誰もここには来ない。少しの間だが、肩の力を抜いて気を休めておけ」
「そうさせて頂きます」
僕達はマーチス侯爵の計らいに言葉を甘え、ソファに腰をかける。灰皿も置いてあったので、軍服のポケットに入れてあったタバコの箱を取り出すと火をつけた。
ゆっくりと息を吐くと、マーチス侯爵が暖かいコーヒーを出してくれた。
彼がソファに座ると、僕は軍務鞄から先程の会議の内容を纏めてある書類を出しておく。
しばらくの間、僕達は最近のオチャルフ要塞での様子やほぼ完成となった工事の進捗の話をすると、やがて本題に移る。
「年末の大後退から三ヶ月が経過したが、皆よく戦ってくれている。最前線のトルポッサの様子はどうだ」
「約九〇〇〇〇の兵力でよく踏ん張ってくれています。今日までにツェツロイ川西岸まで戦線を後退させ死傷者約五〇〇〇が出てしまいましたが、帝国軍は推定で死傷者約一三〇〇〇。彼我損害比に差が開きつつあるので、やはり帝国軍の質的低下は真実のようですね」
「旦那様や私が携わった第一能力者化師団が前線にいるとはいえ、この調子でさらに差が開いてくれればいいわね」
「推測。ムィトゥーラウにてリシュカの第八軍に大打撃を与えたことは確実に成果を出していると言っていいでしょう。あれだけ練度に優れた軍を再編成するとなると再補充は難しく、短期間で解決するのならば展開中の他師団から抽出するほかないかと」
「我々にとっては喜ばしいことだ。素直に再編成してくれればその期間だけ第八軍は出てこんし、他師団や他軍から抜くのであれば、どこかが弱体化する。第八軍が再び現れれば厄介だが、反面他の戦線は楽になるからな。ところで、トルポッサ撤退はいつくらいになった?」
希望論も程々に、マーチス侯爵は次の話をする。
「今から二週間後には撤退予定です、義父上。トルポッサを死守するのならばともかく、目的は違いあくまで決戦地はオチャルフ要塞。あまり損害を出すわけにもいきませんので」
「最もだな。オチャルフ要塞の準備が完全に完了した時点で、すぐに撤退命令は出す。撤退支援の為の部隊や火力支援、航空支援も勿論惜しまんぞ」
「ありがとうございます。前線の兵士も大きな支援があれば安心して下がれるでしょう」
「うむ。トルポッサについて、他に何か話す点はあるか?」
「それについては私から。前線の兵士から洗脳化光龍の数が減りつつあると報告があったみたい」
「ほう、興味深いな。いよいよ連中も航空戦力が打ち止めになりつつあるのか?」
「ええ、お父様。ココノエ陛下にお聞きしたのだけれど、これまでの累積撃墜数を加味すると広範な戦線に多数の洗脳化光龍を展開させるのは難しいみたいよ。元々光龍自体の数が少ないのにあちらの戦争で絶対数を減らしているもの。生物と機械の差よね。このままのペースなら、航空戦力は拮抗から優勢に変わるのではないかしら。あくまで帝国軍が戦闘機を出してこなければの話だけど」
「これもココノエ陛下の奮戦のおかげだな。北部戦線についても、統合軍だけでなくダロノワ大統領が良くやってくれている。どうやら諸種族連合共和国の勢力区域にいる市民達はもう二度と帝国に戻りたくないようだ。無論、戻れないという要素も大きいが、西部は帝国中央から軽視されていたからだろう」
「義勇兵が増えている点は僕も耳にしました。我々の負担が減るのなら助かります」
後がない諸種族連合共和国も必死なんだろう。僕達は最悪の可能性で帝国本土から撤退しても、山脈西側に帰ればいいだけだ。けど彼等は違う。
少々残酷かもしれないけれど、この状況は利用させて貰わないとと僕は思っていた。
「次の話に変わります。もう一つの戦線、南方大陸戦線ですが、戦線は膠着。現地統合軍が奮戦しているようです。また帝国軍兵士達が罹患している風土病について、帝国軍は解決策が見つからないのか動きは低調とのこと。結果、帝国陸海軍の有能な将官クラス及び現地軍を南方大陸に完全に封じ込められています」
「これもいい報告だな。少なくない将兵を封じられているのならば南方大陸は何とかなりそうだ。統合軍海軍連合艦隊はどうだ?」
「私を始め参謀本部から立案した、帝国軍海上補給線に対する妨害行動作戦を遂行中です。以前の海戦により帝国海軍はダメージを受けており、風土病も相まって大規模な行動に移れないようです。多少の損害はこちらも出しておりますが、敵補給線への妨害は確実に効果は出しているかと。ただ、いつまでこの作戦を続けられるかはオチャルフ要塞にかかっています」
「オチャルフを失えば次はオディッサ。ここは我々統合軍にとっての帝国本土への足がかりかつ、当初より海軍戦力も置いているからな」
「はい。仰る通りです。オディッサもあるからのほ、オチャルフでは負けられません」
南方大陸については帝国軍が風土病にかかるというラッキーな要素も大きい。これが無かったら戦況がまた違っているだろうからね。
けど、現実は現実だ。時には運に振り回されるのも戦争だし。
「うむ。ところで、新しい作戦についてはどうなった? 元々あった作戦を一部変更する、賭けとも言える作戦だ」
「サンクティアペテルブルク強襲上陸作戦ですか」
「ああ、それだ」
「参謀本部で検討の結果、正式に作戦として行う方針で固まりました。すぐにでも調整段階に移れます」
「ほう? 参謀本部は可としたか」
マーチス侯爵は僕をじっと見ながら素直な感想を漏らす。この作戦についてはマーチス侯爵もかねてから知っていて、何度か僕と話しているからだ。
「正直なところですが、僕は苦肉の策に近いと思っております。リスクも高い作戦ですから」
「そうだろうさ。連合王国軍と連邦軍合同で陸海軍をサンクティアペテルブルクに向かわせるのだからな」
「はい。サンクティアペテルブルクまでの航路の雪解けと氷解けを待って本国にある両国艦隊を動かし、二国合計で一個軍約八〇〇〇〇の陸軍を輸送させます。既に計画自体はありますから、オチャルフ要塞戦さえ上手くいけば、帝国軍に対して本土で二正面作戦を強いることが出来ます。無論、諸刃の剣ではありますが」
「まさにオチャルフ要塞にかかっているな……」
統合軍は現状打破の作戦として、今僕が話した作戦を行おうとしている。それがサンクティアペテルブルク強襲上陸作戦だ。
四の月になればサンクティアペテルブルク付近までなら流氷も無くなり海軍艦艇と輸送艦艇の航行は可能になる。そこで統合軍の中でも冬慣れしていてかつ、本作戦に兵力拠出が可能な連合王国と連邦が手を組んで作戦を決行することになったんだ。
連邦はこれまで帝国の諜報を受けていたけれど、帝国の息がかかっていない連邦軍将校がは連合王国に対して極秘で敵諜報の刈り取り作戦を依頼。帝国は協商連合に拠点を移していたこともあり、正常化が完了したんだ。
だからこそ今回の作戦を合同で行えるようになったという側面もある。
ただ、僕もマーチス侯爵もそして参謀本部も懸念している通りこれは賭けでもある。
「強襲上陸作戦を行うのはいいとして、対策などはどうなった? 帝国に漏れては意味が無い」
「帝国に対しては偽の情報を掴ませます。具体的には、我々は乾坤一擲の作戦として、アリハルンリスクに対して上陸作戦をする可能性があると」
「アルハリンリスクは、サンクティアペテルブルクより東約四五〇キーラにあって比較的上陸作戦が容易な地点。帝都レオニブルクへは街道が二本あって地形もそう厳しくはないから、帝国軍は実現性がありそうな作戦と判断するはずよ」
「ふむ、アルハリンリスクか……。確かにここであれば港もあり補給線さえ確保してしまえば作戦は容易。帝国軍艦隊も極北艦隊はヴォルティック艦隊に比べれば脅威ではないからな」
「肯定。ヴォルティック艦隊に比べると艦艇は旧型がおおいですし、何より数は多くありません。輸送ルートさえ確保してしまえば敵ではないかと。唯一心配する点は陸軍のみです」
「唯一にして最大だな。サンクティアペテルブルクに展開している兵力は現状約五〇〇〇〇もいなかったはずだったか」
「はっ。はい。既に潜入させている諸種族連合共和国諜報員から定期的に連絡が入っております。約四〇〇〇〇程度とのこと。ただし、南には約五〇〇〇〇が展開しておりますから油断は出来ませんね」
「となると、手早くサンクティアペテルブルクは占領せねばならんということか」
「その点については案はあります」
案というのは、サンクティアペテルブルクに広がりつつある帝国に対する不満を利用した反乱だ。
人口約一九万人と比較的大都市にも関わらず、サンクティアペテルブルクは地理的に帝都から遠い事もありここしばらく軽視されている。さらには徴兵も厳しくなっているらしい。
それだけじゃない。サンクティアペテルブルクには妖魔諸種族連合共和国では平等に扱われている少数民族がおり数も少ない無い。にも関わらずこの人達は差別を受けている為に帝国に対する心象はあまり良くなかった。
これをY特務機関を通じて利用。多少の損害には目を瞑るとして、サンクティアペテルブルク上陸作戦を容易にした上で帝国軍を追いやり第二戦線を構築するというものだ。
「これならば悪くは無い。実現可能性はあると思えるな」
「ありがとうございます、義父上。本作戦は素早く成功させなければなりません。また、オチャルフ要塞における戦いに勝利すれば、南北両面から攻勢をかけて帝国軍を挟めます。よって、最終的に夏頃か秋に入るまでにサンクティアペテルブルクと北部方面軍を合流させる予定です」
「あいわかった。ただし、兵站網と情報網の構築は怠るな。特に兵站は海上輸送の維持が出来るように。サンクティアペテルブルクは土地柄大規模な軍食料庫もあるゆえ当面の維持は現地で確保も可能だろうが、海上輸送をメインとせよ」
「はっ。海上輸送については我が国と連邦だけでなく共和国の協力も取り付けられましたので、余裕は持てるかと思います。さらに追加で報告ですが、本作戦でやっと共和国軍が参戦致します」
これは先月の交渉でまとまった点なんだけど、サンクティアペテルブルク上陸作戦に共和国軍が参戦要請に首を縦に振ってくれたんだ。
数は約一五〇〇〇とそう多くはないけれど、共和国内で実施中の軍改革で実験部隊として訓練が施された精鋭の師団と旅団を参戦させるとのこと。
この軍改革には連合王国軍も深く関係していて、訓練は連合王国方式、兵器も連合王国からの購入のものが多いから万が一の相互融通もしやすくなっている。これは連邦軍でも一部言える点があるかな。
だから共和国軍の参戦は純粋な兵力面以外にもメリットはあるんだよね。
「おお、やっとか。あの国は今まで出てこなかったからな。やや功を焦ったか? もしくは外務省が取引をしたか?」
「両方です、義父上。後方支援のみですと戦後の立場もありますし、何より我が国以外からも参戦要請があったようで。また、参戦についての取引として連合王国北西部と共和国北東部における産業振興や魔石鉱山共同開発を提示したと。魔液採掘も含めて、です」
「納得がいった。共和国も参戦のメリットがあれば重い腰を上げるわけか」
「ええ」
「ようやく共和国も参戦し、我々の負担が減るのならば越したことはない。各国軍とは緊密な連携をし、作戦を成功させるように伝えてくれ」
「はっ。了解致しました」
「話は大体終わりか、いや、この件もあったな」
「はい。新兵器の件です。片方はすぐにでも実戦投入可能であり、もう一つも奇跡的に実用化から完成に辿り着けそうです」
「素晴らしいことだ。こちらについてはすぐに投入せよ。切り札の兵器は早期投入すれば、逆転だけではない。戦局に大きな影響をもたらしてくれるはずだ」
「はっ。僕も勝利に向け、各方面とも調整を行ってまいります」
「頼んだぞ。戦争を三年以内に終わらせる為にも、な」
御前会議で出たという、戦争は三年以内に終わらせなければ連合王国経済は破綻しかねないという話。
これは僕も薄々感じていたし、何より人的資源が持たない可能性もある。
それならば。
何としてでも三年以内に、いや可能ならもっと早く終わらせる為に戦争に勝たなければならないんだ。
だからこそ、まずはオチャルフ要塞で。そしてサンクティアペテルブルクで。さらには新兵器で。
勝利を掴まなければ。戦勝しなければ。
僕は改めて強く決意をしたのだった。
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ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
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