異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第22章 死守せよ、ムィトゥーラウ―オチャルフ絶対防衛線編

第10話 狂気の堕天戦乙女は再び動き出す

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 ・・10・・
 1の月31の日
 午前7時25分
 ムィトゥーラウ市新市街区北東部
 妖魔帝国軍前線簡易移動司令部


 リシュカが統合軍の初段作戦たるマーチスの独自魔法による攻撃を実質的に防いで二日が経過した。
 統合軍は想定より帝国軍の兵力を減らすことが出来なかったことにより予備プランを発動。アカツキが総指揮官となっている能力者化師団二個師団と法国の一個師団、アレゼル率いるエルフ師団三個師団の計六個師団を中心として損耗率の低い師団や砲兵隊、ロケット砲隊の支援を受けながら時間稼ぎと敵の中心市街地誘引を行っていた。
 対して帝国軍は引き続きリシュカ率いる第八軍を前面に出して攻勢を継続。統合軍の激しい抵抗を受けながらも着実に前進していた。
 既に新市街区は帝国軍に制圧され、エイジスの探知対策として魔力を隠蔽していた、厳寒期用のロングコートを羽織ったリシュカも中心市街地から北東約八キーラ地点のテントに設置された簡易移動司令部にいた。

「リシュカ閣下、定期報告を致します」

「どうぞ、オットー」

「はっ。現在、我々帝国軍は中心市街地を半包囲に近い形で徐々に進めております。最前線の一部部隊、特に南東部は中心市街地のすぐそこまで前進しました。本日昼過ぎにかけては全体的に中心市街地までいけるかと」

「程々に順調で大変結構。数的に優位な以上、変に凝った策を用いる必要も無いからね。平押しで十分でしょ。市街戦になったらなおさらだし」

「仰る通りです。既にムィトゥーラウはその半分を我々が奪還しました。後は兵力と火力がモノを言う市街戦です。統合軍は半年程度で防衛設備を中心に随分と再建させたようですが、それも無駄なこと。兵力差は拭えませんから、今更抵抗したところで、ですよ。これも全ては、リシュカ閣下が発動されたあの戦術級魔法のお陰です」

「『暗黒大帝の盾』のこと? 礼を言うなら魔法研究所のメンバー達にだね。アレ、元からマーチスクラスの独自魔法対策だし」

 リシュカは煙草を吸いながらオットーに答える。
『暗黒大帝の盾』とは、アカツキ達が目撃した黒壁のことである。この魔法は帝国の魔法研究所で一昨年完成したばかりの術式で、リシュカはマーチス達のような戦術級から戦略級魔法クラスの独自魔法に対する防御策としてこの術式を習得したのだ。
 その名に相応しい防御力と迎撃程度だが攻撃能力も持つこの魔法は魔力の消費が激しいだけにリシュカくらいの魔力がないと使いこなせない。
 というのも、リシュカですら今回の発動で補助付きであっても魔力の半分を消費したのだ。それだけ莫大な魔力を消費したのだから追撃して来なかったのもおかしくない話である。

「まあでも、マーチスが拡散型を選んでくれて助かったよ。あっちが取るであろう作戦からして拡散型だろうとは思ったけど、もし収束型なんてぶっぱなされたらどうなってたやら」

 ふぅ、と息を吐くリシュカ。彼女とて、マーチスの独自魔法には相当警戒していたのである。

「収束型の威力は耳にしたことがあります。ブカレシタの敗北を早めた魔法ですからね」

「そそ。でもこれで、連中は切り札を失った。諜報機関が協商連合経由で苦労して手に入れた情報によれば、マーチスの独自魔法はこれで暫くの間発動が出来ない。そしてこの戦域にいる残るSSクラス召喚武器所有者はアレゼルとクソ英雄で、どっちも一発高威力型じゃない。アレゼルのは脅威といってもソズダーニアをぶつけつつ数と火力でどうにでもなるし、クソ英雄の人形は厄介の性質がそもそも違う。情報面の高速伝達と戦況分析でこっちの動きを見透かされるのは癪だけどね」

「そのアカツキとやらも、そろそろ策が尽きたのではありませんか? 市街戦での後退具合も抵抗こそ激しいものの、こちらが恐れる程の何かをしてきておりませんし」

 オットーはアカツキに対して鼻で笑うような表情をして言うと、リシュカはどうだろうね。と、新しい煙草に火をつけながら返し、続けて、

「かえって何もしてこないのも不気味だよ。お前もよく知っているだろうけど、奴は常に何らかの策を打ってきた。王道から奇策に至るまで、ね」

「リシュカ閣下は随分とアカツキを警戒しておられるのですね」

「仮にもクソ英雄だし。あとはこの先の事も考えれば、帝国軍の出血は少ないに越したことはないでしょ?」

「それはもちろんではありますが」

「戦場で最もしていけないのは慢心、を忘れない事ね。過去にあらゆる軍が掴める勝利を逃した大抵は油断と慢心だもの。私は二の轍を踏まず、徹底的に潰しにかかる。その為の第八軍で、その為の予備戦力よ」

「失礼致しました。リシュカ閣下にしては精鋭とはいえせいぜい六から八個師団にこれらを支援する師団に対して、倍の戦力を投入しておられていましたから」

「気にしないで」

 リシュカは最新の戦況を眺めているからか、オットーの謝罪には興味なさげに返した。
 戦況図を見れば見るほど、オットーの見解の方が多数派なのはリシュカもよく理解していた。
 何せこの二ヶ月で帝国軍は大きく前進し、奪われていた本土の半数以上を奪還したのだ。いくら統合軍の多くの兵力がまだ健在とはいえ、倍の戦力をぶつけるのは過大投入と言えるだろう。
 現に第八軍の指揮官クラスですらリシュカ閣下は慎重を期していると感じていたし、これだけの戦力が必要なのか疑問に思っていた。兵士に至っては既に凱旋気分である。
 だがリシュカは違っていた。

(私が育てた奴がこんなに大人しいはずがないよね。そうだよね、クソ英雄。中心市街地で絶対に何かしでかしてくれるでしょ。となると、部下達だけに任せるのは一抹の不安があるしそろそろ動くべきかな。)

 リシュカは一人で結論に至った。

「オットー」

「はっ。どういたしましたか」

「私も最前線に行く。ここ暫く戦ってなくて鈍ってきたし、意気揚々とムィトゥーラウの奪還を宣言したいしさ」

「了解しました。親衛を呼ばれますか?」

「もちろん。近衛の待機戦力に断頭大隊もつれてくよ」

「承知しました。連絡します。通信兵、送信を送れ。――簡易移動司令部よりムィトゥーラウの全軍に通達。我らが閣下は近衛師団待機戦力及び断頭大隊と共に最前線へ向かう。該当部隊は即刻準備を開始せよ。とな」

「はっ」

(ねえ、クソ英雄。かつての部下。高槻。また会おうじゃない。今度は正気を失わないで、戦ってよ?)

 ついにリシュカはムィトゥーラウの地でも動き出す。
 やはり彼女の口角は三日月型に曲がっていた。
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