異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第22章 死守せよ、ムィトゥーラウ―オチャルフ絶対防衛線編

第2話 兵力差は拭いがたく

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 ・・2・・
 1の月11の日
 午後4時15分
 人類諸国統合軍・ムィトゥーラウ前線司令部
 マーチスの軍務室


 帝国軍の再攻勢開始から五日が経過した十一の日。長い冬も遂に年が明けてピークとなってきた。
 けれど、今年はどうやら予想よりやや暖冬のようで、天候は僕達に少しとはいえ味方してくれているようだ。元々見積もっていた燃料消費も若干だけど少なく済んでいる。輸送についても同様の理由で思ったよりかは順調に動いているようだ。
 さて、この日の午前中から午後にかけては僕は司令部の作戦室で各参謀トップと現状確認や今後の方針について会議を行っていた。
 夕方になってからは昼過ぎまでの会議での報告を、朝からずっと一緒に行動しているエイジスと共にマーチス侯爵へ行っていた。
 ちなみにリイナはここ二日、折衝や僕の副官としての激務があったから休んでもらっている。数少ない時間の余裕をやりくりして休憩は必要だからね。
 僕とエイジスはマーチス侯爵の軍務室に着くと雑談も手短に、軍務室にある椅子と椅子の前にあるテーブルに広げられた地図を見ながら早速本題に入っていた。

「――現状をまとめますと、今日昼現在で我々統合軍はムィトゥーラウから平均して約八四キーラ地点まで後退。五日前からの戦闘での死者は約八〇〇〇、負傷者は約一三〇〇〇となっています」

「報告ご苦労。やはり帝国軍の猛攻が凄まじいな……。意図した後退で損害を抑えてもなお、五日で約八〇〇〇とは……」

「これでも各戦線の将兵が必死の努力で最小限に抑えているくらいです。帝国軍の重火力から魔法火力に至るまで、徹底した大量投射を行っておりこれは再戦前の帝国軍火力投射量の数倍、先月より激しいくらいです。もし義父上が前線に補給の心配は気にせず撃って撃って撃ちまくれという方針を伝えてなければ撃ち負けをしているところだったかと」

「命令は正解だったな。その分、兵站部には多大な負担がかかっているであろうがな」

「兵站参謀長曰く、例年より若干の暖冬とこれまでに整備した輸送網で捌ききれているとのことです。最も、オチャルフやオディッサから物資を回しており減った分をブカレシタから輸送するという手段を取っているのでこれ以上の稼働は苦しいようですが」

「現状の様子を鑑みれば十分だ。とにかく前線の兵士が弾数を気にせず戦えるのを維持してくれればそれで良い」

 マーチス侯爵が命じた方針によって、数的劣位にある人類諸国統合軍は少なくとも火力面ではほぼ同等を保てていた。元々重火力志向の強い連合王国軍に、賠償金で近代軍として化けた法国軍だ。協商連合軍もようやく本国の動乱が落ち着きつつあるようで士気など精神面は安定してきている。そうなればもとより連合王国軍と同等クラスの協商連合軍ならば十分に戦えていた。
 ようするに砲弾薬の量さえ気にしなければまだ近代化してあまり経っていない帝国軍より火力だけなら負けない状態にある。だからこそ予備兵力含む戦力差の大きいムィトゥーラウ正面の戦線で崩壊を避けられているんだよね。
 だけど、兵力面に関してはさすがにどうにもならなかった。

「しかし、義父上。現場では兵力のやり繰りにかなり苦労しています。一番の原因は予備兵力の乏しさにあるでしょう。帝国軍の反転攻勢前までの統合軍であれば既に休息、損害の大きい部隊なら再編成させているような状態でも現場に維持させている状態です。耐えられる状態に無い部隊こそ後方へ下げさせておりますが、今後はじわじわと疲弊した部隊から危険水準になるかと」

「補足。損害の大きい部隊の後退基準は、従来と比して損害率が約七パルセント高くなって初めて後退可能という基準に変更しております。ですが、実際はさらに高い数値、約一〇パルセント前後で適用されているようです」

「苦しい、な……。先月の大損害の影響で、休息判断、再編成判断のラインを致命傷とならない程度まで落としている。そうでもしないと戦線維持が厳しいからだが、アカツキ、お前の見立てでは従来の計画からどれくらい期間が前倒しになりそうなのだ?」

「そうですね……。三日か四日は予定が早まると思ってもらってよろしいかと。作戦参謀部の方で交代戦力、つまり後方予備からの抽出を行っておりますが、数が限られておりますので……」

「だろうな……。我々の後方予備兵力は二個軍。ムィトゥーラウだけならばともかくオチャルフでの作戦も含めれば余りにも余裕が無い」

「対して帝国軍は推定でその倍以上の後方予備を持っているとされていますからね……」

「まあ嘆いても仕方あるまいて。オレとしては予定より三日や四日早まる程度ならば、想定の範囲内とする」

「了解しました。そう言って頂けると助かります。現状でもかなり無茶をさせておりますから」

 僕もマーチス侯爵もため息をつきつつも、仕方ないと割り切る。
 元々苦しい戦いだ。二週間から3週間までは精神をすり減らす綱渡りで我慢の連続だけどこうするしかないと思うしかない。
 戦線の現状確認と互いの認識の話は終わり、マーチス侯爵は次の話題に移った。彼が遮音魔法を使ったことでなんとなく何の話をするのかを察した。

「さて、ここからはオレとお前だけしか知らない事に関する話だ。単刀直入に二つの点を聞きたい」

「なんでしょうか」

「我々の天敵たるリシュカ・フィブラについてだ。一点目は、奴が今後どう出るか。二点目は、今の様子からして奴がこちらの手の内を見破っていないか。だ」

 やっぱりあの人の話になるよね。
 何せ統合軍にとっては今の苦戦を強いられている一番の原因で、最も警戒するべき人物だからだ。
 僕はコーヒーを口につけてから一度息をゆっくりと吐くと、

「まず一つ目からです。今の帝国軍の様子からして、あちらは数的優位に任せたシンプルな戦い方をしています。また前線からの報告とエイジスの探知にも引っかからない事から、リシュカ・フィブラは基本方針はともかくとして前線の指揮は現地指揮官に任せていると思われます。彼女自身は後方の司令部にいるのではないでしょうか」

「つまり、個人としての脅威は当面ないという事か?」

「恐らくは。勝敗の鍵を握るような重要な作戦を発動しない限りは前に出てくるつもりは無いのかもしれません。かつての彼女は最前線の指揮を好んでいたのですが、帝国軍側についてから変わったのかもしれませんし、単純に立場故かもしれません。これについては個人的感情による推測なので、参考程度でしかありませんが」

 以前のあの人は二十一世紀もそこそこに経過して無人偵察機技術も発展した時代にも関わらず、前線に出て自らの目で戦況を見て判断する事が多かった。
 だけどそれは、中佐という現地指揮出来る上限に近い階級にあったからこそだろう。今のあの人は帝国の特別相談役。僕よりも要職についている。
 だから易々とは最前線に行けないのかもしれないし、単純に後ろにいる役職だからなのかもしれない。

「お前が言うなら間違いないのだろうな。こちらからすれば、奴が戦場にいる時間が少なければ少ないほど好ましい。あんなのがずっと前線にいたらたまったものではないからな」

「マーチス元帥閣下に肯定。もしリシュカ・フィブラが特別相談役ではなく軍ないし軍団級前線指揮官かつ最前線での戦闘にい続けた場合パワーバランスが崩れかねません」

「だろうな」

「彼女がいないに越したことはありませんが、かと言って油断も出来ません。これは二点目に繋がるのですが、ムィトゥーラウの市街戦に突入した場合彼女も戦線前面に現れるかもしれませんから」

「ほう。理由は? まさか奴はこちらの手を見破っていると?」

「いえ、それは無いかと思います。彼女はこちらがムィトゥーラウでの市街戦が決戦とまでは読んでいるかもしれませんが、そこから先まではまだ読めていないかと」

「興味深いな。それは何故だ?」

「既に我々も何度か経験しておりますが、彼女は僕がいるからこそ我々統合軍が、ムィトゥーラウの市街戦で粘り続けると予想しているのではないでしょうか。これは元の世界での話になりますが、地獄のような市街戦が繰り広げられかつ持久戦も何度もありました。あちらの歴史では、包囲されたものの援軍を待って持久し逆に包囲して最終的に勝利した事例もあります」

「なるほど。要するに奴は、オレ達がムィトゥーラウで極力粘り続け本国からの援軍を待ち、最終的に勝とうと足掻こうとしていると」

「はい。現在の統合軍はこの帝国本土にいる兵力こそ帝国軍の兵力より少なくなってしまいましたが、本国には動員可能な現役兵だけでなく徴兵可能な者もまだまだいます。彼女は我々が本国からの兵士派遣がまだまだある。故にムィトゥーラウを決戦地とし長時間の市街戦に突入させるだろう。と考えているのではないでしょうか。事実我々は、後先を考えない徴兵までしてしまえばいくらでも動員出来ますから。だから彼女は帝国軍の損害を気にせず押しに押した前進をしているのだと思います」

「ふむ……。お前の予想が当たっているのならば、少なくともムィトゥーラウ市街戦までは奴の脅威は気にせずとも良いというわけか」

「あくまで予想、ですが」

「希望的観測はしたくないが、的中してほしいものだな」

「ええ。それについては僕も同意です」

 話にある程度の区切りがついた僕とマーチス侯爵は互いに紫煙をくゆらせる。
 あの人に関する話はこれで終わりだった。
 激しい戦闘が続く戦線。
 分かりやす過ぎるくらいにシンプルな帝国軍の戦い方。
 少し疑問に思うこともあるけれど、今はとにかくムィトゥーラウの市街戦までどれだけ損害を抑えて耐え抜くかが重要だ。
 この日もマーチス侯爵の軍務室を後にしてから、僕は再び作戦司令部室に向かったのだった。
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