上 下
326 / 390
第21章 英雄の慟哭と苦悩と再起編

第9話 南方大陸沖での大海戦はもう目の前に

しおりを挟む
 ・・9・・
 1847年1の月3の日
 午前6時25分
 南方大陸東沖・フリューラガルから東約240キーラ


 再戦と激戦と混沌に包まれた一八四六年は終わりを告げ、年が変わり一八四七年。
 人類諸国呼称ヨールネイト大陸では妖魔帝国が補給の目処がついた為再侵攻準備が整いつつあり、人類諸国統合軍がムィトゥーラウの防衛線構築とオチャルフ防衛線の急遽構築をしているなかで、海の方でも動きがあった。
 両陣営にとって様々な転機となったリチリア島以降初の大規模艦隊同士の海戦が起きようとしていたのである。
 以下は、人類諸国統合軍と妖魔帝国軍の艦隊戦力である。


【人類諸国統合軍海軍連合艦隊】
 ※主要戦力は連合王国軍・協商連合軍・法国軍。

 総指揮官:連合王国海軍大将オランド・キース
 旗艦:戦艦キース(※装甲戦艦アルネシーの次世代型、キース級戦艦。姉妹艦にブレーメル。)

 空母:1(空母名:ノースランデ)
 戦艦:7
 装甲巡洋艦:15
 巡洋艦:22
 駆逐艦:40

 その他艦艇含む合計:95隻

 ※帝国本土側海域防衛の為、全戦力出撃ではない。

【妖魔帝国海軍ボルティック艦隊】
 龍母(空母):1
 戦艦:8
 装甲巡洋艦:12
 巡洋艦:20
 駆逐艦:35

 その他艦艇含む合計:90隻

 ※占領地帯付近海域防衛の為、全戦力出撃ではない。

 以上のように、若干の差はあれど戦力はほぼ互角。強いて差をあげるのであれば、航空戦力であろう。
 この世界において初の航空戦力保有の艦隊同士がぶつかる上で語るべきは、やはり搭載している航空機と洗脳化光龍である。
 速度面及び攻撃力、防御力において洗脳化光龍が上回っている。ただし練度については人類諸国統合軍側が上回る。洗脳化光龍は経験を積み練度向上という概念も皆無だからだ。よって連携力についても人類諸国統合軍側が上回る。また、小回りについても若干人類諸国統合軍側に旗が上がると言えるだろう。
 なお、搭載機数(騎数)も人類諸国統合軍側が上回っている。
 セヴァストゥーポラに残っている洗脳化光龍は現在三四。元は四〇程度いたが、想定より激しい植民地軍の抵抗で少数ではあるが喪失していた。
 対して人類諸国統合軍側の空母『ノースランデ』の搭載機数は四九。初の空母で試行錯誤ながら、休戦期間中に十分な時間が確保出来た事から艦そのものが大型だ。
 アルネシーの次世代型戦艦キース型が排水量約一八八〇〇トル。全長一八七メーラとアルネシーに比べて大型化しているが、ノースランデはそれをも上回る約一九二〇〇トルで全長約二〇五メーラ。協商連合海軍の最新型戦艦よりも大きい艦となった。
 故に搭載数を増やす事が可能だったのである。転生者アカツキによる前世の知識で経るべき段階をジャンプした点と、そこにアカツキが未だに理解しきれてない位にレベルの高いドワーフの技術力あってこそだが。
 何にせよ、人類諸国統合軍側は数の上では航空戦力は上回っていた。
 さて、その人類諸国統合軍側だが南方大陸方面への妖魔帝国軍侵攻までは察知出来ず――帝国海軍がわざと大回りしたから仕方ないが――、南方大陸からの通報を経て準備をして停泊地だったオディッサ南方の沿岸から沿岸防衛戦力を残して抜錨。警戒を厳としつつ南方大陸フリューラガルから東約二四〇キーラ沖にいた。
 既に偵察機によって帝国海軍の位置は把握済み。帝国海軍も同様に察知しており抜錨。両者の距離は約一八〇キーラ程あったが、互いにまもなく航空戦力を出撃させる為、対敵するのは時間の問題だった。
 時刻は午前六時半前。
 人類諸国統合軍海軍の総指揮官オランド・キースは、付近にいる『ノースランデ』の様子を、自身の苗字が与えられた旗艦たる『キース』で見つめていた。

「いよいよ、であるか」

「ええ、いよいよですね」

 オランドからぽつりと漏らした言葉に、四十代半ばで背の高い、暗めの銀髪の頭髪をした男性の、オランド大将の副官のライゼ少将は答える。

「協商連合海軍は本国の騒乱で一時混乱したが、元より政府とは折り合いが悪かったからであろう。戻ってこいという要請を無視したのは助かったな」

「戻るにしてもどの道遭遇しかねませんからね。リチリアから知っているジェイク大将には感謝せねばならん」

 協商連合海軍の長はジェイク大将であるが、彼はリチリアの件以降も海軍要職の座は変わらなかった。これは海軍が政府の影響力が比較的小さかった為であり、また艦隊を巧みに操れる彼を流石の無能政府陣も変えることはなかったのである。

「オランド大将閣下。この度の海戦、どちらが勝つと思われますか? 自分は無論、我々ではありますが」

「そうであるな。勝てるかどうかは五分五分であろう。艦隊戦力だけならともかく、航空戦力は奴等が個別では上である。どこまで艦載機部隊がやれるかどうかにかかっているだろう」

「練度・連携は我々が圧倒的に上と言えますが、個別性能だけは覆ませんからね。艦載機型のAFー44Bは光龍と比して速力でどうしても劣ります。ですが、数はこちらが上です。それに、各艦には対空防御武装も新設されました。多少攻撃力は落ちましたが、沈むより余程良いかと」

「L1ロケットの改良型、L1Bと対空機関砲であるな。L1BロケットはL1ロケットを小型化し、攻撃力より発射機数を増加。対空機関砲は陸上型と比較すると仰角が上げられるようになったものであったな」

「はい。保守派にとっては戦艦等の攻撃力が減ずる事に最初は反対しておりましたが、演習でああいう結果になると話は別でありますよ」

「全くであるな。沈みはせずとも上部構造物や武装をやられてはたまったものではない。的になるだけなど、悪夢極まりない」

 彼等が話すように、統合軍海軍に共通しているのが対空武装の強化である。
 元々空母と航空戦力自体がアカツキの発案だが、彼は同時に帝国海軍が同様に航空戦力を保有した場合に備えていた。
 その結果が対空武装の強化。L1ロケットの艦載型L1Bロケットと、対空機関砲である。
 個艦攻撃力はやや低下したものの、そもそも対空武装の概念が無かった統合軍海軍は復元力に影響が出ない程度とはいえやや過剰とまで言える程の数が搭載されていた。
 何故こうなったのかと言うのも、二人の会話にあった演習の影響である。
 休戦期間中に演習にて航空戦力による艦隊攻撃を行ったのだが、結果は沈没はせずとも上部構造物の破壊により戦力の低下。他にも果ては洗脳化光龍の攻撃力をココノエ達による聴取を元にすると、当たりどころが悪ければ大破しかねない。という現実が突きつけられたからだ。
 これには流石の各国海軍も顔を青くした。戦艦一隻の修理費用はバカにならない。沈没など悪夢だ。
 アカツキはこれについて、やっぱこうなるよね。というか、魔法攻撃だと第二次大戦の爆弾並みの威力もあるからシャレにならないよ。と思っていたようだ。だからこそ既に対空武装の開発生産を整えられるようにしてあった。
 結局、この演習後に各国海軍は対空武装搭載を決意する事になる。
 改装には時間を要す為にかなり苦労したものの、改装の余裕があった戦艦を改装、護衛の巡洋艦や駆逐艦にも小規模改装を施してある程度の個艦防空性能を整えたのである。

「艦隊の要、攻撃力をどれだけか捨てた結果が吉と出るか凶と出るか。それは今日分かるであろうな」

「自分はアカツキ中将閣下には感謝しております。間に合わなかった艦もありますが、これなら艦隊戦の前の航空攻撃があったとしても、安心出来ます」

「彼はドワーフ達の開発力と海軍本部の現実的判断と決意の賜物だと言っておったがな。本当に、感謝してもしきれん」

「一時期は中将閣下のご体調が心配でしたが見事回復されましたし、となれば我々も励まねばなりません。海での戦局も覆す為に」

「うむ」

 海戦の勝利を誓うオランド達。
 一大海戦を前に人類諸国統合軍海軍は全力を尽くそうとしていたが、その裏で妖魔帝国海軍はある問題点を抱えながらこの海戦に挑もうとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

The Devil Summoner 運命を背負いし子供達

赤坂皐月
ファンタジー
小学六年生のカンダ キョウスケとアキハバラ ミレイは突如学校の屋上で魔獣ケルベロスと遭遇する。 彼の言う所では、魔王ベルゼブブは悪魔にとって住みやすい世界とする為、人間世界を破壊しようと最終戦争ハルマゲドンを企んでいた。 世界を救う為、二人は人間世界から魔物の住む世界、魔界へと旅立つこととなる。 魔物を操る者、デビルサモナー。 果たして、世界は崩壊の危機を脱せられるのか……!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...