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第21章 英雄の慟哭と苦悩と再起編
第4話 アカツキの決意
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・・4・・
12の月17の日
午後5時25分
ムィトゥーラウ市・統合軍前線司令部司令部棟
病院服から軍装に着替えた僕は病室を出た。
四日の間も病院のベッドにいたとはいえ極限まで蓄積していた疲労と、見ていたのは悪夢だった事もあり体力と気力が完全に回復したとは言い難い。
だけど事態は刻一刻と変化していてこれ以上は悠長にしていられない。帝国側にあの人がいる事が確定したのならば尚更だ。
目の下にクマがあるとリイナに指摘されたけれども構うものか。僕は野戦病院を出て司令部棟に到着した。
野戦病院を出てから今いる司令部棟に至るまで、すれ違った高級士官から兵士に至るまで僕は歓声を受けながら敬礼をされていた。
彼等は僕がどうして倒れたかの真実を知らない。情報統制されていたからだ。
どうやら彼等は僕が過労で倒れたと思っているらしく、責めるような瞳で見るものは皆無に等しかった。
僕は彼等に対して復活した姿を表面上でもいいから見せる為に、いつものように答礼をする。また歓声が大きくなった。
『こんな風に歓迎されたら本当の事なんて口が裂けても言えないね……』
『マスター、世の中には墓場まで持っていく方がいい事があります。今回はまさにそれにあたるかと』
『だね。ここだけは演技に徹しよう』
僕はエイジスと思念会話をする。嘘も方便とはまさにこの事だろうね。
司令部棟に到着して三分半ほどで、マーチス侯爵がいる執務室に到着する。今は司令室から離れ、少しの間だけここにいるとのことだった。
扉をノックすると中からマーチス侯爵の声が聞こえたので失礼します。と言って扉を開けた。部屋の中にはマーチス侯爵だけでなくココノエ陛下もいた。
「マーチス元帥閣下。ココノエ陛下。大変ご心配をおかけ致しました。アカツキ・ノースロード、現時刻を持って復帰致しました」
僕は敬礼して言うと、疲労が濃く残っているマーチス侯爵の表情が一瞬だけ明るくなる。けどそれはすぐに変わり、総司令官としての真面目な顔つきに変わり答礼をした。ココノエ陛下も、「回復したようで良かった」微笑みながら言い統合軍式の答礼をしてくれた。
「うむ。よく復帰してくれた。一時はお前抜きで戦わねばと思っていたが、これでお前含めての作戦が考えられる。事態が改善したとは言い難いからな」
「仰る通りです、マーチス元帥閣下。リイナから戦線の様子を含めて簡潔に聞きました」
「ようやく戦線整理に軍の再編成が完了したくらいでな、戦況を覆されたのに変わりはない。崩壊は免れたといえば聞こえが良いが、打開策まではな……」
「ムィトゥーラウを失えば次はオディッサ。撤退は許されないかと」
「ああ。故にオレはここから退くつもりはない。どうしていくかを話したいがその前に、だ。アカツキ、お前は分かっていると思うがあの日に何があったか教えてくれないか? 概要は掴んでいるが、本人の口から聞きたいんだ」
「承知致しました。ココノエ陛下は既に察して頂いているかもしれませんが、あの日の夜に起きた事を、真実をお話致します」
「陛下がか……?」
「妾は今のお主の発言で分かったぞ。マーチス元帥。幾らか驚くかもしれぬが、聞いてやってくれ。妾の国では事例があったことじゃ」
「そうですか……。アカツキ、話してくれ」
「はっ」
僕はそれからあの時の事を話した。
リシュカ、あの人と対面した時どうして錯乱したのか。
それは僕が違う世界からやってきた人間で、ここより二世紀近く技術が進んでいたからこそA号改革から今に至るまで連合王国軍を強く出来たこと。
そして、リシュカ・フィブラの正体が前世で敬愛していた上官だったことも。
最初は僕が違う世界の人間だという余りにも現実離れした事実をマーチス侯爵は受け入れられなかった。これが普通の反応だ。
だけどココノエ陛下が自身の国では違う世界からやってきた人間がいた事を説明した――僕はここで初めてその流れ人っていうのが日本人であることを知ったけど――ことで、ようやく実際にあったのならば奇跡的な確率で有りうることかと何とか飲み込めた。
「その、なんだ……。現実とは創作物より奇なることもあるものだな……。アカツキ、お前が別世界の人間だとは……」
「ずっと、ずっと長い間隠しており申し訳ございませんでした。マーチス元帥閣下。いえ、お義父様」
「この際構わん。というよりオレが同じ立場であればお前と同じように言えるわけがない。良くて病院紹介で、悪ければ軍を病気理由で除隊だ」
「です、よね……」
僕は顔を落として言った。確かに約八年前の段階で言ったところで今頃僕は軍どころか貴族位すら危うくなっていただろう。たぶん実家の一室に幽閉されていただろう。
リイナは僕が異世界の人だとしても僕は僕と言ってくれた。果たしてマーチス侯爵はどう言うだろうか。
恐る恐る顔を上げるとマーチス侯爵はこう言った。
「だがな、アカツキ。お前が成した功績は変わらないし、数多くの兵士を救ってきたのも変わらない。常に我々に勝利をもたらし、前線で戦ってきたお前を見放す奴なぞいない。無論、それはオレとて同じだ。我々統合軍がお前を必要とするように、オレはお前を必要としている。軍人としてだけでなく、義理の息子としてもだ。今更見方が変わるわけがないだろう」
「…………ありがとうございます、お義父様」
僕は胸を撫で下ろした。リイナが良いと言ってもそれがマーチス侯爵に同じように当てはまるとは限らない。絶対ではないんだ。
けど、マーチス侯爵は真実を知っても僕は僕だと言ってくれた。これがどれだけ救いになるのか言うまでもない。
「お前がこの世界にやってきたのか、神の采配に等しい出来事にオレは答えは見い出せん。ただ一つ言えるのは、お前がいてくれたからこそ今があるということだ。当然ながら、これからもな」
「マーチス元帥の言う通りじゃな。妾は前例がある故に余計受け入れやすいが、なあに、お主がやたら先進的なのに合点がいったと思うた程度じゃ。妾は、近衛の者達は、この戦争が終わるまでお主と共にあるぞ。何故ならば、国を取り戻さねばならぬしの」
「感謝致します、ココノエ陛下。どうぞ今後も力をお貸しください」
「うむ! 任せい!」
ココノエ陛下は胸を張って笑顔で言う。マーチス侯爵も頷いてくれた。
「とはいえ、流石にこの話は公表出来んな……。ひとまずオレとココノエ陛下と限られた者だけの機密としよう。おいおいはお前の家族に、そして事態が落ち着いてから国王陛下にもな。陛下には帰国後であるから、勝たねばならんが」
「そうじゃの。公にするにはちと話が現実味が無さすぎる。何せ妾達の国でも文書記録に残っておるのは、皇族など極々限られた者の記録にしか残しておらぬしの」
僕の真実については大方方針が決まったようだ。無理に打ち明けるものでもないし、というのが二人の意見だった。僕もリイナも、エイジスもそれに賛成する。
一旦だが僕についての話は落ち着いた。けれども、転生に関する話題は終わりという訳にはいかない。
何故ならば、僕以外にもう一人の転生者がいるからだ。しかもよりにもよって、敵側に。
「マーチス元帥閣下。先程お話させて頂きました通り、『流れ人』は私だけではありません。もう一人が、帝国軍にいます」
「そこが大問題だな……。協商連合にいたもう一人の『流れ人』、フィリーネ・リヴェットがあの件に絶望し人類側に憎悪を抱き離反。帝国では要職について改革を遂行、か。元が軍人ならアカツキと同じように事を成すのは当然の事。道理で帝国が急に力を付けたわけだ……」
「協商連合はまさに戦犯じゃよな……。真実を知らなかったから仕方ないという側面はあるにせよ、かの国が愚行に走らなければ今頃は……」
「イフでしかありませんが、今頃共闘していたと思います。かつての、ように……」
「…………すまぬ」
「いえ、いいんですココノエ陛下。でもしか論ですから。それよりも、帝国の脅威がより明確になったのは間違いありません。アルネセイラを襲った大量殺戮兵器にせよ、今の帝国軍の戦略にせよ、全てはリシュカ・フィブラが関わっているに違いありません。全体の面だけではありません、彼女自身も……」
「補足説明。リシュカ・フィブラの戦闘力は尋常ならざるものであります。ワタクシは実際に刃を交えましたが、魔力は飛び抜けて高く文句なしでSランク相当。戦闘技術も非常に洗練されており、並の兵士は虐殺されて終わるでしょう。最危険人物として登録すべき相手です」
「既に登録は終えてある。エイジス、貴官は一度対敵すれば魔力検知でレーダーに引っかかるのだったな?」
「肯定。既に登録済みです。ただし、協商連合側にいた過去からワタクシの性質をある程度は把握されているでしょうから、魔力隠蔽をされる可能性は捨てきれません。また、欺瞞されれば探知は難しくなります」
「ぬう……。厄介に過ぎる相手だな……」
マーチス侯爵は頭を抱える。正体が分かっただけいいものの、大きな脅威に変わりはないからだ。
さらに脅威はもう一つ。
本来ならばリシュカ・フィブラの正体があの人だと分かった以上、僕は相手の手の内をある程度まで読むことが出来る。あの人が僕の知るあの人とかけ離れていなければ、という条件付きでね。
でも、恐らくあの人は変質してしまっているだろう。あの人が変わってしまっていたらあらゆる殺し方に躊躇をしないから僕の読みも一部は外れる。かつてのあの人ならば理性が働き取らなかった手段を平気で取るからだね。
問題はどこまでやってくるか。こればかりかは実際にこれからの戦争の推移を見てみなければ、得られている情報を調べてみないと分からない。
課題は山のように積まれているわけだね……。
マーチス侯爵はしばらく考え込むと、ようやく口を開く。僕に対してだった。
「アカツキ。お前に一つ問おう。お前は、リシュカ・フィブラを殺せるか?」
「殺せます。いえ、殺します。我々が勝利したならば、戦犯として捕縛することが理想でしょう。しかしそれは難しいです。もし無理となれば、私はリシュカ・フィブラを殺す覚悟はあります」
あの人を、地獄から救う為にも。
「分かった。かつての恩人に手をかけることがどれだけ辛いことかは言うに及ばず。それでもお前が決意しているのならばオレは躊躇せずに命令を下そう」
「よろしくお願い、します」
僕は声こそ震えなかったけれど、握る拳の力を強める。
叶うならばあの人は救いたい。でも、もう取り返しのつかない所まで来てしまっただろうし、取り返しのつかない大罪をあの人は犯した。
だったら僕が。僕があの人の死を持って救うしかないのだから。
「お前の決意、受け取った。本時刻を持ってお前の戦線復帰を歓迎しよう。早速だが、情報整理と分析を貴官に命じる」
「はっ!」
こうして僕は再び戦場に戻った。
再び統合軍が勝利を掴む為に。大切な人を守る為に。
12の月17の日
午後5時25分
ムィトゥーラウ市・統合軍前線司令部司令部棟
病院服から軍装に着替えた僕は病室を出た。
四日の間も病院のベッドにいたとはいえ極限まで蓄積していた疲労と、見ていたのは悪夢だった事もあり体力と気力が完全に回復したとは言い難い。
だけど事態は刻一刻と変化していてこれ以上は悠長にしていられない。帝国側にあの人がいる事が確定したのならば尚更だ。
目の下にクマがあるとリイナに指摘されたけれども構うものか。僕は野戦病院を出て司令部棟に到着した。
野戦病院を出てから今いる司令部棟に至るまで、すれ違った高級士官から兵士に至るまで僕は歓声を受けながら敬礼をされていた。
彼等は僕がどうして倒れたかの真実を知らない。情報統制されていたからだ。
どうやら彼等は僕が過労で倒れたと思っているらしく、責めるような瞳で見るものは皆無に等しかった。
僕は彼等に対して復活した姿を表面上でもいいから見せる為に、いつものように答礼をする。また歓声が大きくなった。
『こんな風に歓迎されたら本当の事なんて口が裂けても言えないね……』
『マスター、世の中には墓場まで持っていく方がいい事があります。今回はまさにそれにあたるかと』
『だね。ここだけは演技に徹しよう』
僕はエイジスと思念会話をする。嘘も方便とはまさにこの事だろうね。
司令部棟に到着して三分半ほどで、マーチス侯爵がいる執務室に到着する。今は司令室から離れ、少しの間だけここにいるとのことだった。
扉をノックすると中からマーチス侯爵の声が聞こえたので失礼します。と言って扉を開けた。部屋の中にはマーチス侯爵だけでなくココノエ陛下もいた。
「マーチス元帥閣下。ココノエ陛下。大変ご心配をおかけ致しました。アカツキ・ノースロード、現時刻を持って復帰致しました」
僕は敬礼して言うと、疲労が濃く残っているマーチス侯爵の表情が一瞬だけ明るくなる。けどそれはすぐに変わり、総司令官としての真面目な顔つきに変わり答礼をした。ココノエ陛下も、「回復したようで良かった」微笑みながら言い統合軍式の答礼をしてくれた。
「うむ。よく復帰してくれた。一時はお前抜きで戦わねばと思っていたが、これでお前含めての作戦が考えられる。事態が改善したとは言い難いからな」
「仰る通りです、マーチス元帥閣下。リイナから戦線の様子を含めて簡潔に聞きました」
「ようやく戦線整理に軍の再編成が完了したくらいでな、戦況を覆されたのに変わりはない。崩壊は免れたといえば聞こえが良いが、打開策まではな……」
「ムィトゥーラウを失えば次はオディッサ。撤退は許されないかと」
「ああ。故にオレはここから退くつもりはない。どうしていくかを話したいがその前に、だ。アカツキ、お前は分かっていると思うがあの日に何があったか教えてくれないか? 概要は掴んでいるが、本人の口から聞きたいんだ」
「承知致しました。ココノエ陛下は既に察して頂いているかもしれませんが、あの日の夜に起きた事を、真実をお話致します」
「陛下がか……?」
「妾は今のお主の発言で分かったぞ。マーチス元帥。幾らか驚くかもしれぬが、聞いてやってくれ。妾の国では事例があったことじゃ」
「そうですか……。アカツキ、話してくれ」
「はっ」
僕はそれからあの時の事を話した。
リシュカ、あの人と対面した時どうして錯乱したのか。
それは僕が違う世界からやってきた人間で、ここより二世紀近く技術が進んでいたからこそA号改革から今に至るまで連合王国軍を強く出来たこと。
そして、リシュカ・フィブラの正体が前世で敬愛していた上官だったことも。
最初は僕が違う世界の人間だという余りにも現実離れした事実をマーチス侯爵は受け入れられなかった。これが普通の反応だ。
だけどココノエ陛下が自身の国では違う世界からやってきた人間がいた事を説明した――僕はここで初めてその流れ人っていうのが日本人であることを知ったけど――ことで、ようやく実際にあったのならば奇跡的な確率で有りうることかと何とか飲み込めた。
「その、なんだ……。現実とは創作物より奇なることもあるものだな……。アカツキ、お前が別世界の人間だとは……」
「ずっと、ずっと長い間隠しており申し訳ございませんでした。マーチス元帥閣下。いえ、お義父様」
「この際構わん。というよりオレが同じ立場であればお前と同じように言えるわけがない。良くて病院紹介で、悪ければ軍を病気理由で除隊だ」
「です、よね……」
僕は顔を落として言った。確かに約八年前の段階で言ったところで今頃僕は軍どころか貴族位すら危うくなっていただろう。たぶん実家の一室に幽閉されていただろう。
リイナは僕が異世界の人だとしても僕は僕と言ってくれた。果たしてマーチス侯爵はどう言うだろうか。
恐る恐る顔を上げるとマーチス侯爵はこう言った。
「だがな、アカツキ。お前が成した功績は変わらないし、数多くの兵士を救ってきたのも変わらない。常に我々に勝利をもたらし、前線で戦ってきたお前を見放す奴なぞいない。無論、それはオレとて同じだ。我々統合軍がお前を必要とするように、オレはお前を必要としている。軍人としてだけでなく、義理の息子としてもだ。今更見方が変わるわけがないだろう」
「…………ありがとうございます、お義父様」
僕は胸を撫で下ろした。リイナが良いと言ってもそれがマーチス侯爵に同じように当てはまるとは限らない。絶対ではないんだ。
けど、マーチス侯爵は真実を知っても僕は僕だと言ってくれた。これがどれだけ救いになるのか言うまでもない。
「お前がこの世界にやってきたのか、神の采配に等しい出来事にオレは答えは見い出せん。ただ一つ言えるのは、お前がいてくれたからこそ今があるということだ。当然ながら、これからもな」
「マーチス元帥の言う通りじゃな。妾は前例がある故に余計受け入れやすいが、なあに、お主がやたら先進的なのに合点がいったと思うた程度じゃ。妾は、近衛の者達は、この戦争が終わるまでお主と共にあるぞ。何故ならば、国を取り戻さねばならぬしの」
「感謝致します、ココノエ陛下。どうぞ今後も力をお貸しください」
「うむ! 任せい!」
ココノエ陛下は胸を張って笑顔で言う。マーチス侯爵も頷いてくれた。
「とはいえ、流石にこの話は公表出来んな……。ひとまずオレとココノエ陛下と限られた者だけの機密としよう。おいおいはお前の家族に、そして事態が落ち着いてから国王陛下にもな。陛下には帰国後であるから、勝たねばならんが」
「そうじゃの。公にするにはちと話が現実味が無さすぎる。何せ妾達の国でも文書記録に残っておるのは、皇族など極々限られた者の記録にしか残しておらぬしの」
僕の真実については大方方針が決まったようだ。無理に打ち明けるものでもないし、というのが二人の意見だった。僕もリイナも、エイジスもそれに賛成する。
一旦だが僕についての話は落ち着いた。けれども、転生に関する話題は終わりという訳にはいかない。
何故ならば、僕以外にもう一人の転生者がいるからだ。しかもよりにもよって、敵側に。
「マーチス元帥閣下。先程お話させて頂きました通り、『流れ人』は私だけではありません。もう一人が、帝国軍にいます」
「そこが大問題だな……。協商連合にいたもう一人の『流れ人』、フィリーネ・リヴェットがあの件に絶望し人類側に憎悪を抱き離反。帝国では要職について改革を遂行、か。元が軍人ならアカツキと同じように事を成すのは当然の事。道理で帝国が急に力を付けたわけだ……」
「協商連合はまさに戦犯じゃよな……。真実を知らなかったから仕方ないという側面はあるにせよ、かの国が愚行に走らなければ今頃は……」
「イフでしかありませんが、今頃共闘していたと思います。かつての、ように……」
「…………すまぬ」
「いえ、いいんですココノエ陛下。でもしか論ですから。それよりも、帝国の脅威がより明確になったのは間違いありません。アルネセイラを襲った大量殺戮兵器にせよ、今の帝国軍の戦略にせよ、全てはリシュカ・フィブラが関わっているに違いありません。全体の面だけではありません、彼女自身も……」
「補足説明。リシュカ・フィブラの戦闘力は尋常ならざるものであります。ワタクシは実際に刃を交えましたが、魔力は飛び抜けて高く文句なしでSランク相当。戦闘技術も非常に洗練されており、並の兵士は虐殺されて終わるでしょう。最危険人物として登録すべき相手です」
「既に登録は終えてある。エイジス、貴官は一度対敵すれば魔力検知でレーダーに引っかかるのだったな?」
「肯定。既に登録済みです。ただし、協商連合側にいた過去からワタクシの性質をある程度は把握されているでしょうから、魔力隠蔽をされる可能性は捨てきれません。また、欺瞞されれば探知は難しくなります」
「ぬう……。厄介に過ぎる相手だな……」
マーチス侯爵は頭を抱える。正体が分かっただけいいものの、大きな脅威に変わりはないからだ。
さらに脅威はもう一つ。
本来ならばリシュカ・フィブラの正体があの人だと分かった以上、僕は相手の手の内をある程度まで読むことが出来る。あの人が僕の知るあの人とかけ離れていなければ、という条件付きでね。
でも、恐らくあの人は変質してしまっているだろう。あの人が変わってしまっていたらあらゆる殺し方に躊躇をしないから僕の読みも一部は外れる。かつてのあの人ならば理性が働き取らなかった手段を平気で取るからだね。
問題はどこまでやってくるか。こればかりかは実際にこれからの戦争の推移を見てみなければ、得られている情報を調べてみないと分からない。
課題は山のように積まれているわけだね……。
マーチス侯爵はしばらく考え込むと、ようやく口を開く。僕に対してだった。
「アカツキ。お前に一つ問おう。お前は、リシュカ・フィブラを殺せるか?」
「殺せます。いえ、殺します。我々が勝利したならば、戦犯として捕縛することが理想でしょう。しかしそれは難しいです。もし無理となれば、私はリシュカ・フィブラを殺す覚悟はあります」
あの人を、地獄から救う為にも。
「分かった。かつての恩人に手をかけることがどれだけ辛いことかは言うに及ばず。それでもお前が決意しているのならばオレは躊躇せずに命令を下そう」
「よろしくお願い、します」
僕は声こそ震えなかったけれど、握る拳の力を強める。
叶うならばあの人は救いたい。でも、もう取り返しのつかない所まで来てしまっただろうし、取り返しのつかない大罪をあの人は犯した。
だったら僕が。僕があの人の死を持って救うしかないのだから。
「お前の決意、受け取った。本時刻を持ってお前の戦線復帰を歓迎しよう。早速だが、情報整理と分析を貴官に命じる」
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