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第19章ドエニプラ攻防戦2編
第11話 『煉獄の太陽』
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・・11・・
12の月1の日
午後2時過ぎ
アルネシア連合王国・王都アルネセイラ
月は変わり年末の十二の月初日。
アルネシア連合王国の王都アルネセイラでは、翌月に控えた国家の一大行事たる王位継承を控えているからか戦時中ではあるもののどこか浮かれた雰囲気があった。市民達は統合軍がドエニプラで多少の苦戦があったもののアカツキ達の活躍もあって勝利の度に沸き立っていたのであるから、浮かれっぷりは尚更である。
来年には帝都レオニブルク占領。勝利の形で戦争は終結。王位継承初年は目出度い年になるだろう。そのような楽観的な意見もあちらこちらから聞こえてきていた。
しかし、彼らにも懸念が無いわけではない。原因はやはりと言うべきか、協商連合で吹き荒れている大暴動の嵐だ。
事態発生から間もなく二週間が経過しようとしているが、一向に収まる気配が無かった。
先週末になって自国だけではどうにもならなくなった協商連合政府は、ようやく自国民の帰国支援と治安維持対策ですぐにでも動かせるようにしていた連合王国軍の受け入れを決定。週明けに連合王国軍はドゥーターに到着して自国民の帰国受け入れと保護を始められるようになった。
問題はこれだけではない。経済的な損失も日に日に増しているからだ。
協商連合と連合王国は同盟関係もあってA号改革以降は経済的な繋がりが強くなっている。特に貿易関係では密接と言って差し支えない。
ところが暴動が起きてからこの貿易が事実上停止してしまっている。一週間ならともかく、これが一ヶ月以上となれば損失額は馬鹿にならない。このまま事態が続くか悪化するのであればさらなる介入も辞さない。これが連合王国の姿勢だった。
とはいえ、である。
大半の市民にとって隣国の出来事は対岸の火事のようなもの。昼過ぎの王都アルネセイラにはカフェテリアで取り留めのない会話をしながら日中を楽しむ者も多く、働く市民達もいつもの日常を過ごしていた。
視点を移そう。
所変わって、王都アルネセイラ北西にはそれなりの幅を持つ川がある。ここは鉄道が開通してからも需要がある、港から水運で物資輸送する船が多く行き交っていた。
その中に一つ、やや大きい船――地球換算で約一〇~一五トン程度の物資が積載可能な程度――が王都中心部へ向けて航行していた。船にはとある商船会社の名が書かれており、傍から見ればただの船舶だ。
しかし船の中にいる者達の表情は険しく、また空気は張り詰めそうなほどであった。
船室にいるのは若い男が数人と、中年の男が一人。
中年の男はしばらく黙っていたが、隣にいた若い男に声をかけた。
「…………あと何キルラだ」
「目標地点まであと二キルラです。第一目標地点は警備が厳しく、あそこでは無理ですから」
「元より第一目標地点がダメなら第二目標地点でも構わんとの事だ。どのみち、積み荷の実力からして想像を絶する事になるからな。それより積み荷の準備はどうだ」
「異常ありません。直前まで勘づかれないよう、手前で終わらせてます」
「よし。ならばこのまま向かえ」
「はっ」
若い男が頭を下げると、中年の男は瞑想をするかの如く目を閉じた。
ここにいるのは外見はごく普通の男達だが、真実は違う。距離単位をキルラと言っている点から分かる通り、高度な変装魔法で人間を装っている妖魔帝国の特殊工作員達である。
そして、積み荷というのは言わずもがな『煉獄の太陽』であった。
ここにいる男達は作戦実行にあたって生きて帰れない事を知っている。だが、帝国に忠誠を誓う彼等は命令を拒否しなかった。
命令を拒否する。という概念が薄い帝国軍であるのも要素の一つだが、彼等にこの作戦を命じた人物の発言によるものが大きい。
「貴官達は臣民に尊敬される英雄になれる。皇帝陛下からも称えられるでしょう。遺される家族は心配かもしれないけれど、安心なさい。貴官達の家族は末代まで、今よりずっと良い豊かな生活を帝国が面倒見てあげるから」
作戦を命じたのは至る所で暗躍し間もなく統合軍側にも姿を現すことになるであろうリシュカだが、彼女は決して嘘を言っていない。
皇帝レオニードはこの作戦に身を投じる彼等の家族を末代まで保護し面倒を見ると文書で約束している。帝国から毎月年金が貰えるレベルの勲章も授与される。彼等の家族は上流階級に近い水準の生活が出来るようになるのだ。
ともなれば、心配はいらない。自分達は英雄になり、家族も豊かな生活が送れる。そして何よりも、レオニードとリシュカの甘い言葉が彼等を動かし今ここにいるに至るのである。
「でも、家族の顔を見るのが最後になるのは辛いな……」
中年の男は服のポケットから写真を取り出す。アルネセイラへ向かう前に家族と撮ったものだ。そこには妻と息子に娘が写っている。
その様子を見て、先程中年の男と話していた若い男が隣に座った。
「私達では贅沢にあたる写真が撮れるなんて思ってみませんでしたけど、やっぱりこれ見ちゃうとダメですね……。妻と産まれて一年の息子がいるんですけどね、親父とお袋にも任せました」
「そうか。だが、国から手厚い援助がされるんだ。生活は大丈夫だろ。それに、作戦が上手くいけば俺達は英雄になれる。英雄の家族になれば、俺もお前も、皆の家族も胸を高くして誇りを持ちながら生きられるさ」
「ええ。そう信じてます」
静かなやり取りが終わる。若い男は立ち上がった。
「間もなくです。やりましょうか」
「ああ」
中年の男も立ち上がった。
目標地点まであと一キルラを切っている。
王都アルネセイラの中でも今いる場所は中心市街地の北西部。旧市街区にほど近いここには中所得者から高所得者向けの店が多く、川沿いという点もあってかカフェテラスには老若男女関わらず普段と変わらぬ日常を過ごしている。親子連れもいた。
だが中年の男は今更何も思わない。
詳しい事までは知らないが、積み荷の威力は街一つを消し飛ばす威力があるのは知っている。起動すればこれからどうなるかは想像に難くないだろう。
街一つを消し飛ばすのだから付近にいる者達は死ぬだろう。死体が残るかすら怪しい。
だが、これは戦争である。殺すか殺されるかである。自分達がやらなければ、故郷の家族は蹂躙されるだろう。それだけは許せない。
中年の男は少しだけ外に出ていたが、第二目標地点の目印になる橋が見えてきたのを確認すると船室に戻り積み荷の方へ向かう。路面電車が走っている橋だ。
積み荷の部屋に着くと、そこには最終調整を終えた若い男達がいた。
「いけそうか」
「はい。いけます」
「よし、目標地点はもうすぐそこだ。やるぞ」
『はっ』
若い男達は静かに頷いた。
ついに時はやってきた。
中年の男はマニュアルを再度確認すると、手順通り進める。ここからは魔力反応を伴うし、起爆直前となれば連合王国軍にも勘づかれるだろう。
だが、気付いた頃にはもう遅い。死にに来るようなものだ。
男達は呪文を詠唱する。積み荷は、『煉獄の太陽』は光を放ち始めた。
(一般庶民に罪は有ろうが無かろうが、知った事ではない。勝つ為にはなんだってしてやる。俺が、命を捨てるようにな。)
中年の男は呪文を詠唱しながら心中で呟く。これから自分が死ぬという恐怖を紛らわせる為だ。
起動術式を進めていくに連れてひしひしと装置から魔力反応が伝わる。起爆に向けて順調に動いている証拠だ。今頃連合王国軍は何の反応だと気付き始める頃だろう。外では騒ぎになっているかもしれない。
起動術式発動完了まであと二〇秒。十五秒。十秒。
五、四、三、二、一。
「術式起動。起爆するぞ。皆、よくついてきてくれた。来世で会おう」
「ええ、来世で」
「来世で」
積み荷の部屋はいよいよ眩い光に包まれる。魔力が起爆段階にまで到達した証拠だ。
あとは爆発させるだけ。
中年の男は、悲しそうに笑ってこう言った。
「帝国万歳! 皇帝陛下万歳! 家族にどうか、永久の幸を!」
瞬間、『煉獄の太陽』は起爆。アルネセイラの地に人工の太陽が現れてしまった。
一八四六年十二の月一の日午後二時四十三分。
この世界の歴史上初めて大量殺戮兵器が運用された日。
アルネシア連合王国王都アルネセイラは立法・行政・司法、軍・民間を問わず、首都としてのあらゆる機能を喪失した。
12の月1の日
午後2時過ぎ
アルネシア連合王国・王都アルネセイラ
月は変わり年末の十二の月初日。
アルネシア連合王国の王都アルネセイラでは、翌月に控えた国家の一大行事たる王位継承を控えているからか戦時中ではあるもののどこか浮かれた雰囲気があった。市民達は統合軍がドエニプラで多少の苦戦があったもののアカツキ達の活躍もあって勝利の度に沸き立っていたのであるから、浮かれっぷりは尚更である。
来年には帝都レオニブルク占領。勝利の形で戦争は終結。王位継承初年は目出度い年になるだろう。そのような楽観的な意見もあちらこちらから聞こえてきていた。
しかし、彼らにも懸念が無いわけではない。原因はやはりと言うべきか、協商連合で吹き荒れている大暴動の嵐だ。
事態発生から間もなく二週間が経過しようとしているが、一向に収まる気配が無かった。
先週末になって自国だけではどうにもならなくなった協商連合政府は、ようやく自国民の帰国支援と治安維持対策ですぐにでも動かせるようにしていた連合王国軍の受け入れを決定。週明けに連合王国軍はドゥーターに到着して自国民の帰国受け入れと保護を始められるようになった。
問題はこれだけではない。経済的な損失も日に日に増しているからだ。
協商連合と連合王国は同盟関係もあってA号改革以降は経済的な繋がりが強くなっている。特に貿易関係では密接と言って差し支えない。
ところが暴動が起きてからこの貿易が事実上停止してしまっている。一週間ならともかく、これが一ヶ月以上となれば損失額は馬鹿にならない。このまま事態が続くか悪化するのであればさらなる介入も辞さない。これが連合王国の姿勢だった。
とはいえ、である。
大半の市民にとって隣国の出来事は対岸の火事のようなもの。昼過ぎの王都アルネセイラにはカフェテリアで取り留めのない会話をしながら日中を楽しむ者も多く、働く市民達もいつもの日常を過ごしていた。
視点を移そう。
所変わって、王都アルネセイラ北西にはそれなりの幅を持つ川がある。ここは鉄道が開通してからも需要がある、港から水運で物資輸送する船が多く行き交っていた。
その中に一つ、やや大きい船――地球換算で約一〇~一五トン程度の物資が積載可能な程度――が王都中心部へ向けて航行していた。船にはとある商船会社の名が書かれており、傍から見ればただの船舶だ。
しかし船の中にいる者達の表情は険しく、また空気は張り詰めそうなほどであった。
船室にいるのは若い男が数人と、中年の男が一人。
中年の男はしばらく黙っていたが、隣にいた若い男に声をかけた。
「…………あと何キルラだ」
「目標地点まであと二キルラです。第一目標地点は警備が厳しく、あそこでは無理ですから」
「元より第一目標地点がダメなら第二目標地点でも構わんとの事だ。どのみち、積み荷の実力からして想像を絶する事になるからな。それより積み荷の準備はどうだ」
「異常ありません。直前まで勘づかれないよう、手前で終わらせてます」
「よし。ならばこのまま向かえ」
「はっ」
若い男が頭を下げると、中年の男は瞑想をするかの如く目を閉じた。
ここにいるのは外見はごく普通の男達だが、真実は違う。距離単位をキルラと言っている点から分かる通り、高度な変装魔法で人間を装っている妖魔帝国の特殊工作員達である。
そして、積み荷というのは言わずもがな『煉獄の太陽』であった。
ここにいる男達は作戦実行にあたって生きて帰れない事を知っている。だが、帝国に忠誠を誓う彼等は命令を拒否しなかった。
命令を拒否する。という概念が薄い帝国軍であるのも要素の一つだが、彼等にこの作戦を命じた人物の発言によるものが大きい。
「貴官達は臣民に尊敬される英雄になれる。皇帝陛下からも称えられるでしょう。遺される家族は心配かもしれないけれど、安心なさい。貴官達の家族は末代まで、今よりずっと良い豊かな生活を帝国が面倒見てあげるから」
作戦を命じたのは至る所で暗躍し間もなく統合軍側にも姿を現すことになるであろうリシュカだが、彼女は決して嘘を言っていない。
皇帝レオニードはこの作戦に身を投じる彼等の家族を末代まで保護し面倒を見ると文書で約束している。帝国から毎月年金が貰えるレベルの勲章も授与される。彼等の家族は上流階級に近い水準の生活が出来るようになるのだ。
ともなれば、心配はいらない。自分達は英雄になり、家族も豊かな生活が送れる。そして何よりも、レオニードとリシュカの甘い言葉が彼等を動かし今ここにいるに至るのである。
「でも、家族の顔を見るのが最後になるのは辛いな……」
中年の男は服のポケットから写真を取り出す。アルネセイラへ向かう前に家族と撮ったものだ。そこには妻と息子に娘が写っている。
その様子を見て、先程中年の男と話していた若い男が隣に座った。
「私達では贅沢にあたる写真が撮れるなんて思ってみませんでしたけど、やっぱりこれ見ちゃうとダメですね……。妻と産まれて一年の息子がいるんですけどね、親父とお袋にも任せました」
「そうか。だが、国から手厚い援助がされるんだ。生活は大丈夫だろ。それに、作戦が上手くいけば俺達は英雄になれる。英雄の家族になれば、俺もお前も、皆の家族も胸を高くして誇りを持ちながら生きられるさ」
「ええ。そう信じてます」
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「間もなくです。やりましょうか」
「ああ」
中年の男も立ち上がった。
目標地点まであと一キルラを切っている。
王都アルネセイラの中でも今いる場所は中心市街地の北西部。旧市街区にほど近いここには中所得者から高所得者向けの店が多く、川沿いという点もあってかカフェテラスには老若男女関わらず普段と変わらぬ日常を過ごしている。親子連れもいた。
だが中年の男は今更何も思わない。
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街一つを消し飛ばすのだから付近にいる者達は死ぬだろう。死体が残るかすら怪しい。
だが、これは戦争である。殺すか殺されるかである。自分達がやらなければ、故郷の家族は蹂躙されるだろう。それだけは許せない。
中年の男は少しだけ外に出ていたが、第二目標地点の目印になる橋が見えてきたのを確認すると船室に戻り積み荷の方へ向かう。路面電車が走っている橋だ。
積み荷の部屋に着くと、そこには最終調整を終えた若い男達がいた。
「いけそうか」
「はい。いけます」
「よし、目標地点はもうすぐそこだ。やるぞ」
『はっ』
若い男達は静かに頷いた。
ついに時はやってきた。
中年の男はマニュアルを再度確認すると、手順通り進める。ここからは魔力反応を伴うし、起爆直前となれば連合王国軍にも勘づかれるだろう。
だが、気付いた頃にはもう遅い。死にに来るようなものだ。
男達は呪文を詠唱する。積み荷は、『煉獄の太陽』は光を放ち始めた。
(一般庶民に罪は有ろうが無かろうが、知った事ではない。勝つ為にはなんだってしてやる。俺が、命を捨てるようにな。)
中年の男は呪文を詠唱しながら心中で呟く。これから自分が死ぬという恐怖を紛らわせる為だ。
起動術式を進めていくに連れてひしひしと装置から魔力反応が伝わる。起爆に向けて順調に動いている証拠だ。今頃連合王国軍は何の反応だと気付き始める頃だろう。外では騒ぎになっているかもしれない。
起動術式発動完了まであと二〇秒。十五秒。十秒。
五、四、三、二、一。
「術式起動。起爆するぞ。皆、よくついてきてくれた。来世で会おう」
「ええ、来世で」
「来世で」
積み荷の部屋はいよいよ眩い光に包まれる。魔力が起爆段階にまで到達した証拠だ。
あとは爆発させるだけ。
中年の男は、悲しそうに笑ってこう言った。
「帝国万歳! 皇帝陛下万歳! 家族にどうか、永久の幸を!」
瞬間、『煉獄の太陽』は起爆。アルネセイラの地に人工の太陽が現れてしまった。
一八四六年十二の月一の日午後二時四十三分。
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