異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第15章 戦間期編2

第14話 ヴォルティック艦隊の視察(後)

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 ・・14・・
「フィブラ特別相談役、どうだねセヴァストゥーポラの冬は。帝都よりかは幾分か過ごしやすかろう」

 視察先は艦船がある方面だから徒歩で十五分の所にある。なのでリシュカやクドロフ大将はそこへ歩きながら向かっていた。
 クドロフ大将はリシュカに話し掛けてきた。

「ええ、クドロフ大将閣下。この黒いコートを着ていても寒さに堪える帝都に比べれば、暖かいです。天気も曇りではありますが、時折陽も差しますし」

「そうであろう。滞在中はゆっくりとされるが良い。セヴァストゥーポラは海産物も美味いからな」

「まあ素敵」

「実は貴官の歓待としてこの後の昼食に用意させてある。視察とはいえ、同じ道を歩む者だ。親交は深めたい」

「感謝致しますわ。楽しみにしておりますね」

「うむ」

 リシュカの当初の予想に反して、クドロフ大将は話しやすい人物だった。今もこのように軍務外の会話がなされているし、視察の途中に挟む昼食では地元の海産物も用意してくれている。オットー副師団長の方を向くと、ね。言ったでしょう? と言っているような表情を見せていた。どうやら自身が認める人物にはある程度の敬意を払ってくれるようだ。最も、リシュカが皇帝レオニードの代理で訪れているというのもあるだろうが。
 そこで、リシュカは気になっていた点を話してみようと心中で決めた。

「クドロフ大将閣下、一つご質問をしたいのですがよろしくて?」

「む、何であろうか。貴官であれば大体の事には答えたい」

「ありがとうございます。――クドロフ大将閣下は、私がまだ僻地にいた頃に人類諸国軍と交戦したとお聞きしております。それも、かのアカツキと並ぶかつて人類諸国の英雄で今は死んだフィリーネと直接ではないにしても合間見えたと」

「ああ、リチリアの戦いか。狂気じみているが有能なモイスキンがいいように振り回されていたからな、随分と予定を狂わされたから我が思うに奴、いや、奴よりは協商連合の愚か者共がしでかしてくれて良かったと思うておる」

「つまり、かの故人は優秀な陸軍将官だったと」

「であろうな。事の顛末を耳にしたモイスキンも言うておった。引き金に手を掛けたのはフィリーネだったかもしれないが、協商連合のアレらは悪魔より悪魔らしいとな」

 クドロフ大将はリシュカが妖魔帝国に寝返ったと知らない――リシュカを運んだ潜水艦は皇帝直轄の特務艦であり、作戦には携わっていない。入港したのも別である――為、本人がいる前に自身が抱いている評価を話していく。
 リシュカはそれを聞いて、自分の評価の成され方を、そして改めて協商連合の反対派閥が妖魔帝国内においても無能と扱われているのを知って、心中で感心していた。
 決して自分が評価されたからではない。古参の将官たるクドロフ大将は魔人至上主義者ではあるものの、極めて冷静かつ理知的な視点で分析をしたからだ。
 これはレオニードからクドロフ大将の思想を探ってこいという命令でもあった。リシュカに自身の事を聞いてこいと言うあたり彼の性格の悪さが伺えるが、クドロフ大将が優秀な将官であるのを改めてリシュカは確認したのだった。

「ご質問に答えて下さり、ありがとうございますクドロフ大将閣下」

「いや、この程度ならば構わぬ。貴官は優れた内政家でありながら優れた軍略家でもある。敵情分析をしたかったのであろう」

「流石はクドロフ大将閣下。その通りにございますわ」

「ふむ。では我も同じ質問しよう。貴官はアレを、協商連合をどう思う?」

「はい、クドロフ大将閣下。協商連合は連合王国に次ぐ脅威。軍については一部の分野では連合王国より優れていると考えます。しかし、今や死んだ少将の案件をきっかけに国内が揺らいでいる様子。ゾリャーギ特等機関員の部下達は現在もロンドリウムで諜報活動を継続しておりますが、軍縮ついでに少将の師団は完全に排除されたとか。これは純粋に協商連合の戦力減衰と捉えてよろしいでしょう。ただし経済力については休戦以降高まっていると思われます。少将の遺産は高い経済発展の礎となっており、これは工業力の向上にも繋がっております。つまりは景気後退による不満を火種としての反乱誘発は現状では難しいということになります。以上から鑑みるに、軍事力や国内統率力において協商連合はかつて程の脅威は無いと思います。最も、未だに脅威度は高いままですが」

「うむ、やはり皇帝陛下のお傍に仕えお支えするだけあり一線を画す分析であるな。そして、これより視察する艦の発想の主だけある」

「お褒めに預かり光栄ですの。アレについても、全ては皇帝陛下の願いをお叶えする為。そして人類諸国の殲滅の為にございます」

 リシュカは表向けの柔らかい微笑みを見せる。
 そこそこに歩くと、一団はヴォルティック艦隊の艦船が並ぶ区画まで到着する。
 威容を誇る戦艦や、巡洋艦に駆逐艦など並ぶ中で明らかな違和感を発している艦が一隻あった。
 全長は約一五〇ミルラと連合王国海軍戦艦『アルネシー』よりやや大型と、この時代にしてはかなりの大型艦であった。しかし、注目すべきはこの点ではない。これまでの艦船とは明らかに違う形状がこの艦の何よりの特徴だった。
 それは、全通飛行甲板を持ち合わせているという点である。つまり、リシュカ達の前にある艦はこの世界において初の『航空母艦』の一種であった。

「ふふふ、ついに就役したんですね。『空母・セヴァストゥーポラ』が」

「うむ。この『セヴァストゥーポラ』こそ我が帝国、いや世界初の光龍・召喚士飛行隊母艦である」

「自分は初めて現物を目にしました。こんな艦艇、見たこともありません」

「であろうな、オットー准将。『セヴァストゥーポラ』はフィブラ特別相談役の発想を基に海軍工廠が試行錯誤を経て建造した新型艦船である。征服し従えた光龍族共だけではない、召喚士飛行隊も多数発着艦出来る代物。これまでは制空権とやらの概念は希薄で、ようやく陸で理解されてきた程度。だが海では召喚士飛行隊はさほどおらんし、そもそも艦隊決戦で空は関係なぞ無かった。だが、これからは違う。この『セヴァストゥーポラ』には召喚士偵察飛行隊や召喚士攻撃飛行隊だけではない。洗脳化を完了した光龍共も搭乗させて、空から人類諸国の艦隊を屠るのである」

「洗脳化した光龍族……。リシュカ様からお聞きしております。何でも大分苦労したそうですが、ようやく完全に支配下に置けたとか」

「うむ。まずは二〇騎であるが、今もあそこで歩いておる」

 クドロフ大将が指さしたのは数人の光龍族だった。拷問技術の発展の果てに妖魔帝国が得たのは洗脳化だったが、ついに魔法研究所は一応の術式の完成にたどり着いたようだ。
 数人の光龍族は一見しただけでは普通であるが、表情は消え去っており瞳に色は無い。まさに誰かに操られているような様であった。命令されればその通りに動く。人類諸国の艦船に急降下攻撃しろと命じられれば、もし対空魔法攻撃が苛烈であろうとも恐れもせずに吶喊するであろう。死ねと言われればきっと忠実に死ぬであろう。
 かつては光龍皇国に忠誠を尽くした数少ない光龍族も、今や妖魔帝国の捕虜となった者は残らず戦争の道具にされていた。

「光龍族は素晴らしい戦闘力を持っていますの。上空における最大速度は時速約三〇〇キルラ。最大運搬重量も召喚士攻撃飛行隊とは比較にならない程に持てます。そして、最大行動半径は個体によってまちまちではありますけども、短い個体でも約二五〇キルラ。戦略爆撃部隊、強襲攻撃部隊としてはうってつけでしょう」

「我は貴官の話を聞けば聞くほど我の戦争観を変えられると感じておる。最早戦争は陸と海だけではらず。この齢にして、士官学校の学生であった頃のような気分である」

「自分もリシュカ様の傍で仕えていると驚愕してばかりです。新しい戦争の方式は間違いなく皇帝陛下が君臨なさる我が国に勝利をもたらす。そう強く感じています」

「全ては皇帝陛下の願いを叶える為。大戦で私達が魔法では秀でていたとしても軍事力で劣ると判明した今、ならば非魔法分野でも抜いてしまえばいい。それだけですの」

「うむ。それに、である。この空母とやらは一隻では無い。もう一隻まだ作られておるし、開戦までには三隻は完成するであろう」

「一隻だけでは替えがききませんもの。ですが、三隻いれば少なくとも実戦投入に訓練、整備のローテーションが組めますし、全力出撃となれば分散艦隊としても一隻は配備できますから」

「うむ、フィブラ特別相談役。これならばさしもの人類諸国共もこの分野では追いつけまい」


「ええ」

 リシュカは頷きつつも、内心では違う思考に至っていた。

(甘いよクドロフ大将。恐らくだけど、人類諸国はもう空母の建造に取り掛かってる。間違いなくあのクソ英雄が発案して海軍が動いているだろうさ。あっちには開発分野ではチートのドワーフもいるし、確か魔力蒸気エンジンの他に協商連合や連合王国が魔液に関する研究が進んでるはず。もしかしたら色んな段階すっ飛ばして魔導エンジンの航空機が作られてるかもね。今はともかく、連合王国の国力なら開戦までに実用化へこぎつけてるかも。だからこそ、魔法科学力に劣る妖魔ではそれまでの繋ぎも含めて光龍族を使ったわけだけど。)

 リシュカは憎悪と復讐に支配されながらも、戦略分析は至極冷静だった。
 この世界において妖魔帝国のイレギュラー的存在が自分であるのならば、人類諸国のイレギュラー的存在がアカツキである。
 それが証拠に科学のみでは成し遂げられなかった技術水準が戦争という発明の母も相まって僅かな期間で数十年分の進化を遂げた。
 平時には緩やかな戦争関連分野の研究も急速に進展した事により、今や地球世界の第一次世界大戦並の兵器が出揃いつつあった。いや、一部の分野ではさらにその先に向かっている。
 休戦前の戦争ですらこの世界の為政者や軍人達が予想を遥かに越えるものであったのに、再戦後の戦争の姿など想像が出来るはずもない。
 しかし、リシュカは容易く思い描いていた。

(けひひ。愉しい戦争になるよ。人の命なんて限りなく安くなる、人命垂れ流しの絶滅戦争。ここにある空母だけじゃない。時間の許す限り、あの裏切り者のクソ英雄と人類諸国を滅ぼす為に沢山人殺しの兵器を開発させなきゃ。)

「リシュカ様。リシュカ様?」

「んぇ。あぁ、ごめんオットー副師団長。なんだった?」

「いえ、特に何かあった訳ではありませんが考え事をされていたみたいでしたから」

「ごめんごめん」

「フィブラ特別相談役は皇帝陛下の信任厚く、様々な公務についているからな。思案は尽きぬであろう。だが、頭を回し続けておると疲れるであろう。どうだ、空母内の視察を終えたら昼食会にでもするか」

「はいっ、ぜひ!」

「うむうむ。では、『セヴァストゥーポラ』艦内に向かおうぞ」

「ええ!」

 リシュカは各地を回る。その姿は皇帝に忠誠を尽くす臣下であり、可憐な姿は兵士達の心を癒していた。
 だがその実、彼女が思うはただ一つであった。
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