異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第2部 戦間期に歩むそれぞれの道 第14章 戦間期編1

第14話 堕天戦乙女、南方に遠征す。

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 ・・14・・
 4の月7の日
 妖魔帝国南部・南方蛮族支配地域境界線
 パキスタニア北部・パルティラッテ


 アカツキ達アルネシア連合王国の中枢部の者達が突如として現れた亡命者、光龍皇国皇女達の対応に追われていた頃、皇帝レオニードの側近となりはや半年が経過したリシュカは帝都より遥か遠い南の地、パキスタニアと呼ばれる地域にいた。
 パキスタニアは元は南方蛮族と妖魔帝国が呼称するいくつかの諸民族といくつかよ国家によって緩やかな統治がそれぞれ敷かれており、小さい戦争こそ起きてはいたが妖魔帝国が侵略をするまでは比較的平和な地域だった。
 ところが、妖魔帝国が侵略を始めてからは次々と諸国家は敗北を重ね、今や最大勢力時の五分の一まで勢力地域を持たなくなってしまい、残りもいつ占領されるか分からぬ風前の灯の状態になってしまっていた。
 元々南方蛮族支配地域は纏まった一つの国家があった訳ではなくバラバラであった。光龍皇国のように『流れ人』による技術革新があったわけでもない。強大な力を持つ妖魔帝国に一度ひとたび侵略されてしまえば敗北なぞ必須だった。
 しかし、南方蛮族達も決して無抵抗ではない。戦略を方針転換し、最近はゲリラ戦に移行しておりしぶとい抵抗にあった妖魔帝国はかつて程の侵攻速度は出せなくなり思いの外苦戦していたのである。
 そのような地にリシュカははるばる訪れていたのである。
 とある命令を受けて。
 彼女は外よりはずっと涼しい馬車の中とはいえ、暑さのせいかそれとも他の要素のせいか気だるそうにしていた。

「四の月なのに暑いし、陽射しはきついし、何にもない……。これから向かうのに既にレオニブルクが懐かしいわ……」

「リシュカ様、今しばらくご辛抱ください。あと一時間もしない内にパルティラッテに到着致します」

「分かってます、オットー副師団長。あー、あっつう……。南方の暑さを見くびってたわ……」

 妖魔帝国の夏季特別仕様の軍服――中将待遇の為、軍服の階級には中将と同じ星があった――を身に包んだリシュカは外向けの口調で話しながらタオルで汗を拭う。
 正面にいるのは、准将の階級章を付けているその階級にしてはやや若い、明るい茶髪の男だった。背は高く、スマートな印象を受けるその男の名はオットー・デゴルスキー准将。今回の作戦にあたり、皇帝が好きな人材を選べというのでリシュカが選択した冷静沈着かつ理性的な参謀畑の軍人だ。

「これも皇帝陛下のご命令です。陛下はリシュカ様の実力を発揮して頂き、軍全体に貴女の才覚を宣伝する為に機会をお与えになったのです。現状、我が帝国が直接戦火を交えているのは南方蛮族支配地域しかありませんから、致し方ありません。そもそもリシュカ様は納得された上で了承されたのでは?」

「ええ、ええ。その通りよ。でも今更振り返ったら上手いこと乗せられたと思ってるの……。でもですよ、よーく考えてみたら、傍から見たら初陣としては重荷じゃないかしら?」

「何をおっしゃいますか。リシュカ様は机上演習とはいえ場に居合わせた誰よりも鮮やかに勝利なさっていたのでしょう。いったいどこであのような戦略を学ばれたのか、私は不思議でなりませんよ?」

「生活は苦しかったけれど、暇な時もあったのです。することなんて読書か妄想でもいいから机の上で戦争をしてみること。あとは、いつかの時の為に魔法を極めることかしら」

「確かに記録ではリシュカ様は魔法の才覚も秀でていたと残されていましたが、陛下もとんでもない隠し札を探されていたものです。いや、だからこそでしょうか」

「褒めてくれてありがと」

 リシュカが語る偽の半生にオットー副師団長の最大限の賞賛に対して興味なさげに返答する。
 彼女はこうなったきっかけを思い出していた。
 時は今より約二ヶ月前に遡る。


 ・・Φ・・
 2の月6の日
 午後2時25分
 妖魔帝国帝都・レオニブルク
 皇帝執務室

「リシュカ、この前の机上演習は見事だったぞ! まさか鬱陶しい事この上ない南方蛮族共を机上演習とはいえああも見事に食い破って見せるとはな!」

「お褒めに預かり光栄だよ、陛下」

 厳冬期の一の月、午後の執務も程々にとレオニードが休憩のティータイムをしていた時、レオニードは話題を変えて先週行われた皇帝御前の机上演習で鮮やかな采配を見せたリシュカを笑顔で褒めていた。リシュカは内心当然の結果だと思いつつも微笑んで返す。公務中は敬語だが、今は二人以外誰もいないためリシュカは砕けた口調になっていた。
 皇帝御前の机上演習。それは定期的に行われるイベントのようなものである。レオニードが皇帝即位時に軍の酷い体たらくを憂いて目の前で机上演習をするようにと命じたのである。
 それまで机上演習というと、出来レースもいい所であった被害を無いものにしたりと目を覆わんばかりの有様だった。
 当然このような事をしていては机上演習の意味すらなく、それに毒された後遺症の結果が大戦初期の妖魔帝国の敗戦である。
 そういったなあなあで済ます愚か者は大戦中と休戦直前の再度の粛清で粗方排除され、今になってようやく机上演習が機能するようになったのである。いくら粛清帝レオニードといえども、体質改善には手間取るものである。
 話を戻そう。その机上演習は先週あったのだが、想定された戦場は現在唯一の交戦地帯南方蛮族支配地域。その中でも最も敵の抵抗が激しいパキスタニア北部だった。
 用意された状況は以下のようになる。

【机上演習におけるパキスタニア北部想定戦場地域】
 〇妖魔帝国側
 ・現地駐屯二個師団、約二〇〇〇〇

 〇南方蛮族支配地域パキスタニア首長国
 ・正規軍三個師団、約二八〇〇〇

 ・ゲリラ戦非正規兵、約一七〇〇〇

 計:四五〇〇〇


 数だけ見れば南方蛮族支配地域パキスタニア北部一帯を支配するパキスタニア首長国側が二倍以上の有利であるが、質的には圧倒的に妖魔帝国側が有利であった。
 故に緒戦では妖魔帝国は勝利を納めパルティラッテを占領。さらにはパルティラッテ南部にあるパキスチャ川の渡河も成功し橋頭堡を築いていた。
 しかし、問題はここからである。パキスチャ川より南にはパルティスタッチャという交通の要衝かつ防衛の要衝である都市が存在している。
 いくら質的格差があろうとも堅牢な防衛都市を陥落させるのは妖魔帝国でもひとひねりとはいかない。
 さらに妖魔帝国軍を悩ませる要因はもう一つあった。それは渡河した先からパルティスタッチャまでに広がる熱帯林地帯である。ここに展開しているパキスタニア首長国軍は正規軍も非正規兵もゲリラ戦を展開。ハラスメント攻撃として橋頭堡にも夜襲を仕掛ける有様であり、随分と手を焼いていた。
 この膠着した状態をどうすべきか。それがこの時の机上演習の課題だったのである。
 この時、机上演習の場にいたのは粛清を生き残った将官や参謀達。案の定彼等はパキスタニア首長国軍が次々と仕掛けるゲリラ戦に手惑い、パルティスタッチャの占領に四の月より攻勢を始めると想定して最短七の月までかかってしまっていた。それも多くの物資を無碍に失い、兵も喪ってである。
 ところがリシュカは違っていた。その時の彼女の見事な指揮をレオニードはまるで祭りで素晴らしい演目を目撃したのを思い出すように愉快に話し始めた。

「お前の残酷極まりない戦術には驚嘆したぞ。まず手始めに妖魔帝国軍も利用しているパキスチャ川に糞尿や毒を垂れ流すのは他のヤツもやっていたから驚かなかったが、まさか熱帯林地帯に毒をばらまくとはな! しかもばら撒き方がやっと俺の軍も組織化されつつある召喚士飛行隊を使ってとは誰も思いつかなかったぞ!」

「せっかく空を支配しているんだよ。投下が可能ならするべきでしょ。帝国魔法科学研究所が魔石内に闇魔法を発展させて生命力を奪う術式を開発成功していたのには私も驚いたけど、これを使わない理由があって?」

「それはお前が固定観念に囚われていないからだぞ。他の連中は悔しい事だが人類諸国軍の真似事程度でしか飛行隊の運用を思いつかん。ブカレシタの前の戦いでは飛行隊やロケットなんてものを使われて森を焼き払われたからその経験で同じ手を使ったが、あれはダメだな。今回の熱帯林地帯は広すぎる。どれだけ魔石が必要になるか分かったもんじゃない」

 真似事は真似事に過ぎないというのはまさにレオニードが言った通りである。
 そもそも発案した連合王国にはアカツキという転生者がいる。転生者だからこそ空軍の運用は知っており、次から次へと作戦を生み出せるわけだ。ところが妖魔帝国に運用発想の源泉となる人物はいなかった。模倣が限界であり、そこから先が無かったのである。
 この点についてはもう一人の転生者たるリシュカが人類諸国を裏切った事により解決されるが、追いつくには今しばらくの時間が必要だろう。それはL1ロケットにせよ人類諸国発祥の兵器と運用思想についても同様であった。

「私が機密でありながら立場上知っていて製法を伝えたL1ロケットでは熱帯林地帯たるパルティ森林帯は全て焼き払えないからね。やろうと思えば可能だろうけど、、いくついるかは気が遠くなる。であれば、焼き払うより楽なのは枯らす事。しかもあの毒は植物を枯らすだけでなく人体にも影響を与えるもの。一石二鳥じゃない」

「問題は毒をばらまいてからどうやって通るかだが、お前、いつの間に解毒の術式を研究所の連中に伝えたんだ?」

「妖魔帝国は闇属性魔法の研究が人類諸国より進んでいるけど、光属性魔法については人類諸国より遅れてる。医療に用いる術式を少し応用しただけだよ。とはいえ、即効性が無いからすぐに浄化は出来ないけどね」

「魔法も万能じゃないからな。オレの国、妖魔帝国が苦手とする光属性分野なら尚更だ。結局、速やかに占領するには待つにはそれを解決するのは、ほら、お前が言っていた」

「浸透戦術のこと? あれは必要な人的資源と兵器、迅速かつ連携の取れた行動の為に必須の魔法無線装置と大量消費する砲弾銃弾に耐えうる兵站線を揃えないと最大効果を発揮しないから理想とは程遠いよ? 二個師団の歩兵中心編成師団じゃ限界があるから」

「ほう? あれよりもっと圧勝出来るって? 例えば?」

 レオニードは妖魔帝国式の紅茶を口につけて不敵な笑みを見せる。
 リシュカが机上演習で披露した戦術である浸透戦術は前世において第一次世界大戦のドイツが用いた戦術である。
 枯葉剤の代用たる魔石を大規模空襲にて魔石爆弾と織り交ぜ投下して熱帯林地帯で最も距離が短い敵正面――前線指揮がある地域を含め――の一部を破壊せしめ混乱に陥れる。続いて短時間に強烈な砲撃を浴びせる。これにより敵は正面からの大攻勢があると後退するだろうし敵本軍は慌てて援軍を送るだろう。
 しかし、実際は二個師団内にある少数だが強力な戦力であるゾズダーニアを投入するのみである。ゾズダーニアはリチリアで既に運用されており、突撃隊としては最適であるし、毒に侵されても使い捨てのようなものだから気にする必要もない。殺し尽くせと命令し、毒に侵され死ぬまで戦わせればいいだけである。何せ、ゾズダーニアの『素材』はいくらでも手に入るし、量産体制に入りつつあるのだから。
 そうしてゾズダーニア部隊を突撃隊としてまるで正面から大攻勢を仕掛けると思い込ませてからが本番である。
 いかに広大な熱帯林地帯とはいえ、隙間が二箇所ある。内、比較的近距離にある西側には敵も部隊を配置しているが、回り込む必要がある上にまだ敵勢力圏にある東側はほとんどを民兵に任せていた。兵力が多いとはいえ、正面と西側に集中せざるを得ない現状下防衛線を全てまかないきれず薄くなっているのだ。
 リシュカはそこを突いた。本隊を正面や西側など分厚い敵防御拠点を迂回し東側から側面攻撃。一挙に敵軍を崩して敵司令部たるパルティスタッチャを襲撃。敵後方地域を崩壊させるわけである。
 無論、敵は慌てて援軍を差し戻すだろうがもう遅い。時間的にも間に合わないだけでなく、向かわせた援軍の将兵は未知の兵器である毒によって崩壊しているのだから。
 しかし、ここまでやり尽くしておきながらリシュカの理想とは程遠いのである。

「うん。まずは砲兵火力が足らない。これを能力者部隊で代替するとしても、その能力者部隊も足らない。だから火力が絶対的に不足してる。あと召喚士飛行隊が足りない。机上演習で見せたのは必要最低限を除いて全飛行隊を集中させてやったから、不測の事態があったら機能低下を起こすだろうね。机上演習だから上手くいっただけだよ。それとゾズダーニアにも足りないね。とにかく色々足りないのよ、あそこにいる兵力だけだとね。生の戦場じゃ想定外なんてよくある。いくら相手が時代遅れの軍とはいっても侵略されて死にものぐるいされて想定外の結果どうなったかなんて大戦を思い出せばキリないでしょ?」

「痛い所を突いてくるよなあ、お前は。だがその通りだ。お前の戦術は完璧だったが、あからさまにもっとあれば上手くいくと主張している様子だったぞ?」

「わざとだよ。今の戦力では作戦に綻びがあるかもしれないという余地は残しておいたもの。だから、パルティスタッチャを陥落させるのに一ヶ月かけた。実際は半分の期間で落とせるよ?」

「半分!! そいつは痛快だな! 半月で陥落出来るのか!!」

「質が大いに劣るからゲリラ戦に出る相手なんて、活動拠点さえ失えば終わりだもの。もちろん、敗残兵処理は少し苦労するかもしれないけれどね」

「その程度は現地の連中に任せればいい。根絶やしにするのは蛮族共の軍が崩壊してしまえばずっと楽だぞ?」

「慢心しなければ、ね。意外と厄介だよ? 例えばどこかの都市で局地的にやられると。よっぽど恐怖を植え付けないと抵抗されるのは間違いなしかな」

 戦争に勝っても度々起こされるテロで苦労するハメになるのはリシュカは前世で経験している。そうならない程までに叩きのめせば話は別だが、叩きのめすのもまた苦労するものだ。現にアメリカ軍が加害者でありながら被害者になっている。
 とはいえ、机上演習はそこまでを関与していない。故にリシュカは忠告に留まったのである。そもそもリシュカはこうすれば勝てると提案しただけであり、現地に赴くつもりなんて毛頭無かったのだから。
 だが、レオニードはどうやら違うようであった。

「たった半年だけど、お前の語る戦争は愉しくてたまらないな。目新しいものばかりで飽きない」

「それはどうも」

「だからさ、いっその事お前がパキスタニアに行ったらどうだ?」

「…………今なんて?」

 レオニードの突拍子も無い発言にリシュカはクッキーを口に運ぼうとした手を止めて目を点にする。
 何を言っているんだこいつは、とリシュカは心底感じた事だろう。今の自分は皇帝の特別相談役なのに、遥か南方にまでわざわざ出向いて前線指揮をしろと? と。

「よくよく考えてみろよ。他の将官や参謀共が実行した机上演習の戦術ならともかく、お前みたいな指揮が遠征軍の指揮官共にこなせると思うか?」

「もうちょっと送り込んだ師団長や参謀達を信頼してあげなよ……。第一、なんで私があんな辺境まで行かないといけないわけ? あの程度、現地指揮官でも材料を整えて手法を教えてあげれば出来るでしょ?」

「かもしれないな。だが、俺はあの作戦はお前にしか完璧に出来ないと思っているぞ。何故なら机上演習でお前が考えついた作戦は、大まかな経過はともかく細かいタイミングまでは再現出来ないからだ。他人がやった所で、結局は模倣に過ぎない。手順書通りに過ぎない。お前がよく口にする不測の事態とやらに対応出来るとは思えないけどな?」

「それは、そうだけど……。私の作戦は私しか再現出来ないのは当然よ。発案者なんだもの」

「だったらお前が行った方が最良だ。それに、今後の事までを考えれば実績は作っておいた方がいいんじゃないか? 皇帝の特別相談役は内政だけでもある戦争の戦略戦術家でもある。片鱗はあの机上演習で見せた。だが机上演習に過ぎない。なら現地で、生の戦場でその力を見せつけろ。現地の連中が認めざるを得ない勝利を掴め。そうすれば、後々戦う事になる人類諸国との大戦でもお前は大手を振って指揮官として働けるぞ? なあに、これは俺からの『提案』だ。これからのお前の為の、な」

 レオニードは頬杖をついて、口角を片方だけ上げる。
 リシュカは何が『提案』だ。退路を塞いだ上での『命令』じゃない。と心の内で文句を言っていた。
 レオニードの『提案』は正論で、リシュカも自分の作戦を現地指揮官達が再現しきれるかというと疑問が残る。未だに魔人至上主義が抜けきらない上に人類諸国、特に連合王国に比べれば戦略・戦術面に劣る妖魔帝国軍ではこの世界において先進的な戦術を使いこなせるとは微塵も思っていなかった。
 であるのならば、発案者たる自分が行くのが一番手っ取り早い。
 しまった。こんな事なら披露なんてするんじゃなかった。とリシュカは後悔していた。
 しかし時既に遅しである。ならばリシュカは首を縦に振るしかなかった。

「…………はぁ。分かったわよ。陛下の言う通り、実績の無い将官相当の特別相談役が大戦なんて大舞台に立てるわけないものね。いいよ、蛮族共を蹂躙してあげる」

 酷く悪い微笑みを見せるリシュカ。しかし彼女が素直に言う事を聞くつもりなぞなく、こう言ってのけた。

「その代わり、私が要求するものを寄越しなさいな」

「構わんぞ? なんでも言え」

 てっきり少しは躊躇うかと思いきや、レオニードは即答してみせる。

「ったく、これだから皇帝は……」

「なんと言っても、俺は妖魔帝国の皇帝だからな。出来ないことなど無いぞ?」

「知ってるよ、もう……。――まず一つ。一個師団の戦力。砲兵及び魔法能力者重視の編成」

「なんだその程度か。丁度粛清後の軍再編成で名目上だけルシュカが指揮官になっている第一〇一師団がある。ブカレシタで得たアルネシアの鹵獲品を元に開発した新型ライフルと新型魔法銃を標準装備した重火力志向の実験師団だ。そいつを持ってけ。明日付でお前が指揮官にしてやる。欠番になっている第八近衛師団に名称も変更だ」

「特権乱用も甚だしいね。次、新編第八近衛師団の砲弾・銃弾等補給物資は、糧食を除いて通常の二倍を要求するよ。加えて第八近衛師団に附属する形で現地軍への追加支援物資を輸送さる所謂兵站部隊も同行させる事」

「それも許可してやる。お前の作戦は少しばかり金とモノがかかりすぎるが、成功させる前提なら構わない。新しい戦争とやらはそういうものなんだろ?」

「当然よ。帝都周辺や昔からの妖魔帝国勢力圏ではだいぶマシになってきてるけど、南方蛮族支配地域に至るまでの兵站が細すぎるもの。どうせならこれを機に道路整備もすることだね」

「南方蛮族支配地域全域を支配するならいつかは必要になるからな。考えておく」

「次、これだけの召喚士飛行隊とゾズダーニアを揃えさせること。本当はアレも欲しいけど、まだ途上でしょ?」

「流石にアレはな。まだ出すのは早い上に、南方蛮族共に使うものでもないな」

「でしょうね。だったら召喚士飛行隊とゾズダーニアは要求満数で揃えてちょうだい」

「ほおう、結構要求してくるじゃないか。だが、練度向上のついでなら悪くないし、ゾズダーニアの対毒抵抗力等のデータ入手を名目にすれば研究所も文句は言わないだろうさ。南方蛮族全土を占領してしまえば材料はまた手に入る」

「…………ちぇ。無理な数字を出したのに全部許可しちゃうのね」

「当たり前だろ。復讐を目的に裏切った奴が裏切るわけがないから安心して任せられるんだよ。何より、お前はなんだかんだで実績を欲している。違うか?」

「はいはいその通りですよ皇帝陛下」

「もう少し素直になってくれれば最高だが、まあ構わないさ。俺は有能な奴は重用するからな。てわけで、だ。リシュカ・フィブラ特別相談役。お前を遠征師団師団長に任命し、中将相当官とする。あと、こいつも持っていけ」

 レオニードは一人掛けのソファから立ち上がり、執務机からとあるものを取り出す。ヨマニエフ王朝の紋章が宝石に象られたペンダントだった。

「うっわ。絶対逆らえないやつじゃない」

「南方蛮族支配地域は馬鹿みたいに暑いからな。夏季軍服にマントは不似合いだろう? ペンダントなら手持ちも楽だし、見せれば効果は絶大だ。何せそいつは、俺が認めた人物に渡す、俺の代わりとして現地で振る舞える代物だからな。本心はともかく、少なくとも命令には従うはずだ」

「そりゃそーでしょうよ……。皇帝代理に等しい権利をこのペンダントは持ってるのだもの」

「そうともさ。だから絶対に無くすなよ? 帰ってきたら返せ。まあ、今後の活躍次第ではまた渡してやらんでもないぞ」

「有難く頂戴致しますわよ、皇帝陛下?」

「その気色悪い話し方はやめてくれ。お前にはとことん似合わない」

「ひっど。でも、これがあれば素直に命令は聞いてくれそうね。出立はいつ?」

「そうだな、すぐ準備に取り掛かっても一ヶ月はかかる。マルーチの月半ばに出発すれば、エプラの月の十の日までにはパルティラッテには到着するだろう」

「了解。じゃ、お望み通り勝利をもたらしてあげるよ。くひひ」


 ・・Φ・・
 これが今日、リシュカがパキスタニアに遠征することになった顛末である。
 リシュカが副師団長に対して不安を滲ませている発言をしているのは、レオニードによって用意された彼女の人生の上では初陣ということになっているからである。
 当然の事ではあるがリシュカにとってこれが初陣なはずはなく、前世を含めれば数えるのも面倒なくらいの回数になっている戦場の一つでしかない。ただ、暑さに辟易としているのだけは事実であった。
 リシュカは馬車の窓から眺められる、大陸南方地帯特有の植生の木々とまばらにしか見られない、今や主を失った廃屋を見つめながらガラス製のコップに入った水を飲んでいると、馬と騎乗する護衛の兵士が横に現れ手振りで窓を開けるよう伝えてきた。
 熱気が入るじゃない、と思いつつも嫌な顔は出さずに開けると。

「何かしら?」

「リシュカ中将相当官閣下、まもなくパルティラッテに到着致します。あちらに見えるのが、パルティラッテ。南方蛮族制圧遠征軍、中央方面軍の本拠地です」

「へえ、蛮族共にしては立派な街を作っていたのね。ところどころ手が加えられているのは」

「我が軍の工兵隊によるものです。あと十五分もしないうちに市内に入られるかと」

「分かりました。報告ご苦労。外は随分と暑いでしょう? 到着したら水分補給をしておきなさい」

「はっ! ご心配頂きありがとうございます閣下!」

 喜色の笑みを浮かべる護衛の兵士に手をヒラヒラと返して窓を閉めるリシュカ。自分に対して好印象なのは、首に提げているペンダントの効果もあるだろうし、リシュカという存在が皇帝に縁ある人物だから。そのお人の護衛に選ばれたという名誉。あとは自分を心配してくれている嬉しさもあるのだろう。実のところ、護衛に熱中症でくたばってもらっては人的資源の無駄極まりないという非常に合理的な意味でしかないのだが。

「このような辺境の地からさっさとおさらばする為にも、すぐに終わらせましょう」

「はっ、リシュカ様」

 レオニブルクより陸路で約二十日の長い道程を経て皇帝より承りし一個師団、第八近衛師団を率いるリシュカはパルティラッテに到着したのであった。
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