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第2部 戦間期に歩むそれぞれの道 第14章 戦間期編1

第8話 宿りし命は皆に祝福され

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 ・・8・・
「妊娠しておりますね。間違いありません。おめでとうございます、リイナ様」

「魔法医学の観点からも同様の結論に至りました。生命反応が微弱過ぎて精密探知しないと掴めませんが、確かに子が宿られておりますよ。おめでとうございます、リイナ准将閣下」

「本当……!? 本当かい!?」

「ええ、アカツキ中将閣下。エイジス特務官殿の検知にも引っかからなかったのは、恐らくまだ妊娠初期故かと。意図して探した私ですら、この通り時間がかかりましたから」

「申し訳ありませんマスター。新しい命に気付くのに遅れてしまいました」

「そっか!! そっか!! ――いやいいんだよエイジス。アイラ軍医大尉の言うように精密探知してやっとくらいなんだから」

 リイナの体調などを検診したノイシュランデの病院から呼び出された男性非魔法医師のサイデイ医師と、軍病院にいて緊急呼集を受けた女性魔法軍医はアイラ軍医大尉はリイナが妊娠していることを笑顔で告げる。
 室内からは、おお! という喜びの声と歓声が上がる。
 今思えば、リイナが妊娠してもおかしくはない環境は整っていた。休戦以降は避妊魔法を解除していて定期的にそういう機会はあったし、そのどこかで当たっていたということになるんだろう。
 この世界の医療は未発達で、前世の産婦人科のように機械を用いて今何週と精密な数値までは割出せない。けれど、非魔法医師の検査と魔法軍医の生命反応探知からして恐らくは第七週から九週程度であるとまでは推測された。
 さあこうなってくると色んな物事が動くことになるわけで。

「アレン少佐、中央へリイナの妊娠の件を伝えて。宛先はマーチス元帥閣下。真っ先に知るべき人だよ」

「了解しました! 元帥閣下のお孫様ですからね! 至急連絡します!」

「任せたよ。父上母上、お爺様、アルヴィンおじさん。今日のパーティー出席は僕も取りやめます。ただ、皆には伝えてください」

「分かった、アカツキ。しかしぼくにも孫が出来るのかあ。実感がないけど、嬉しいものだね」

「私はおばあさんになるのね。とても、とても素晴らしい日になったわ!」

「儂に至ってはひいじぃ、と呼ばれることになるわけじゃ。長生きはするものじゃのぉ」

「こいつはめでてぇ!! めでてぇぜ!! ノースロード家にとっちゃ記念すべき日だぜ! 急ぎ使用人達にも報告してこれからの準備を伝えてくるぜ! 馬だ馬を持ってこい!」

「了解しましたアルヴィン大将閣下! 自分も同行します!」

「おうよ!」

 アルヴィンおじさんは豪快に笑いながらも喜色満面に部屋を出ていき屋敷に向かっていった。あれは確実にテンションがハイに振り切っている様子だ。
 けれどそれは僕も同じで、一通り指示を飛ばしたところで感極まって。

「おめでとう、おめでとうリイナ! ありがとう!」

「もう旦那様ったら。でも私も同じ気持ちよ。だって、旦那様と私の子供がお腹にいることが分かったんですもの。体調が悪かったのも納得したわ」

 僕はリイナを抱きしめ、瞳から一筋涙を零して頭を撫でる。
 異世界で生きることになって四年。リイナと過ごすことになってからだともう三年以上になる。大戦が始まって前線に立ち続けていたから子供を、なんて叶わなかったけれど一時の平和とはいえやっと機会が生まれた矢先、まさかこんなにも早く叶うとは思わなかったから喜びもひとしおだった。

「ひとまず今日はゆっくりしよう? お腹には僕達の子供もいるんだ。そうだ、新しく生まれてくる子供の為に色んな事を僕達でもしないと。王都別邸に部屋を作ったり家具だっている。服とかも手配しなきゃ。名前、名前も決めなきゃ。ああもうどうしよう、僕、赤ちゃんの事とかどうすればいいとかあんまり知らないや……」

「旦那様、旦那様。気が早すぎよ。まだ十週にも満たないって医師や軍医も言っていたじゃない」

 リイナの頬を撫でながらも先走りまくっていた僕に、彼女は苦笑いをしながら言う。
 サイデイ医師とアイラ軍医大尉も微笑ましいといった様子で僕を見ながら、

「僭越ながらアカツキ中将閣下、今の魔法医学では妊娠も後期にならないと性別が分かりませんから名前はそれまでにお決めになればよろしいかと思われます。それに、お二方は魔法能力者でありますから濃い血が受け継がれ魔法能力者として産まれるでしょう。しかし魔力反応も判明するのはまだ先です」

「アイラ軍医大尉殿に同意です。それにまだ妊娠初期であり、静養が必要な時期です。私は内科医故に詳しい事までは言えませんが、専門の友人曰く第二十の週までは母体が健康であっても流れ子だけは注意せねばならないと言っておりました。ですので、リイナ様には絶対的な安静が必要になるでしょう。室内の段差ですとか、歩く時も含めてです」

「そうですね。サイデイ医師の言う通りです。軍医としてはまず、様々な届出と書類の提出が必要になるかと。用意に関してはお任せ下さい。急ぎ軍病院院長に連絡致しますので」

 と的確なアドバイスをくれた。
 僕はちょっと恥ずかしくて頬をかきながら、

「二人とも助言をありがとう。そうだね、ちょっと慌てすぎたかな」

「いえ、アカツキ中将閣下とリイナ准将閣下の間にお子が授けられたのですからお気持ちはよく分かります。私の夫もアカツキ中将閣下と同じようになっておりましたから」

「初々しいですよね、アイラ軍医大尉殿」

「ふふっ。はい、とても。そして何より喜ばしいのは、英雄閣下もお父様になられること。そこに立ち会えた事です。一生の誇りになりますよ」

「確かにそうですね! 自分がアカツキ様とリイナ様のお子がいるのを最初に確認したなんて、親族にも自慢できますよ。さあ、帰って報告しましょうかアイラ軍医大尉殿」

「ええ! きっと院長も喜びます! それでは自分はこれにて! 失礼致します!」

「私も失礼致します!」

 サイデイ医師とアイラ軍医大尉はにこやかな顔つきで部屋を後にする。
 だいぶ時間も経ったし、迎えの馬車はとっくに来ているはず。そろそろ僕らも移動しようかなと思っていると父上は。

「アカツキ、そろそろぼく達も屋敷へ戻ろう。ひとまず今日の予定は全部ぼくやアリシア、父上や弟に任せてリイナさんの傍にいてあげなさい。色々話すこともあるだろう?」

「はい!! ありがとうございます!!」

「ご配慮感謝しますわ、お義父様とうさま

「いいんだいいんだ。こんなにも心が踊る日なんてめったにない機会だし、それにリイナさんにはお腹に大切な子がいるんだからね」

「リイナさん。妊娠してから三ヶ月まではちょっと辛いかもしれないけれど、そこを越えれば安定するわ。しばらくの辛抱だけれど、頑張ってね。ノイシュランデには明後日の朝まではいるんでしょう? 色々と経験した事を伝えるわ」

「先輩として御教授感謝しますわ、お義母様かあさま。とても助かりますの」

 それからすぐに僕達は屋敷に戻り、到着すると使用人達の喜びと嬉しさと、歓声に包まれた。王都別邸から同行していたレーナとクラウドは自分の事のように喜んでくれていて、レーナはお子様のお世話は私にお任せ下さい。とクールさなんてどこへやら、満面の笑みを見せてくれた。クラウドに至っては「感激でありますぞ……!」と男泣きしていた。
 皆の祝福に、僕とリイナは包まれる。
 愛する人との間についに出来た、愛の結晶。自分達の子供。
 この日、僕には守るべき大切なかけがえのない存在がまた一人増えたのだった。


 ・・Φ・・
 一八四二年二の月二十二の日。
 アカツキやリイナにとって記念すべき日は、アルネシア連合王国にとっても記念すべき日となった。
 二人の間に子が授けられた。リイナ懐妊の報は国内に張り巡らされた魔法無線装置により瞬く間に全土へと広まる。
 ノースロード鉄道開通記念パーティーでは早速、ノースロード家当主ルドルア・ノースロードの口から告げられノイシュランデの要人やパーティーの参加者は二重の意味でめでたき日になった事で祝福に満ちていたという。
 当日中に知らせを聞いたリイナの父、マーチス元帥の返信は公式に軍の記録として残されており、感涙していた様等を目撃した軍人達などから、その喜びようは語り継がられる事になる。
 翌二十三の日には、連合王国全土へ向けて国王エルフォード・アルネシアから祝いの御言葉が発表され、人類諸国に勝利をもたらした英雄に向けて各国からも同様に祝福が届けられた。
 以下はその公式の記録である。


【アルネシア連合王国国王:エルフォード・アルネシア】

『我が国の至宝、英雄たるアカツキ・ノースロードとリイナ・ノースロードとの間に生まれし新たな命が宿りし事を、余は自らの事のように喜ばしく思う。二人の英雄に幸あらんことを。無事誕生することをここに祈らんとす』


【イリス法国法皇:ベルヘルム十五世】

『人類諸国の英雄、アカツキ・ノースロードとリイナ・ノースロードの間に生まれし新たなる命は必ずや主しゅのお導きにより無事産まれ健やかに育つであろう。主は我らを救いし英雄の子に必ずや加護を与えられ、見守るであろう。ヨルヤ教の法皇として、ここに祝詞を届ける』

【ロンドリウム協商連合大統領:アルフォンス・クロスフィールド】

『この日は我が国にとってもめでたき日となった。我が国を含め人類諸国に勝利とさらなる繁栄をもたらした英雄、アカツキ・ノースロードとリイナ・ノースロードの間に授けられた新しき命に幸福を。我々ロンドリウム協商連合を代表し、ここに祝福の言葉を届ける』

【アルネシア連合王国エルフ理事会会長:アレゼル・イザード】

『大戦において悲願である我らが故郷を取り戻すにあたってはアカツキ・ノースロードとリイナ・ノースロードの存在は不可欠であった。その二人に宿りし英雄の子に、エルフ族を代表して私から新たな子に幸あらんことを祈る』


 その他、各国要人など百数十名から祝福の言葉が届いた。
 いかにアカツキ・ノースロードとリイナ・ノースロードが慕われているかが理解出来る一幕であろう。

【アルネシア連合王国王国史:アカツキ・ノースロードとリイナ・ノースロードの子、――の誕生より抜粋】

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