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第2部 戦間期に歩むそれぞれの道 第14章 戦間期編1
第3話 皇帝レオニードとフィリーネは出会い彼は課題を出す
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・・3・・
10の月6の日
妖魔帝国・帝都レオニブルク
ゾリャーギ私邸
「やることも限られているから暇、ねえ。外に出れないのは仕方ないけども」
時はアカツキが特別講義を始める約二十日前まで遡る。
フィリーネが妖魔帝国帝都に到着し、ゾリャーギ私邸で暮らすようになってからというものの、元人類諸国の軍人という立場もあり彼女は外へ一歩も歩く事は出来ていなかった。つまり、ロンドリウムで謹慎させられていた頃とほとんど変わらない状態だったのである。
しかし意外な事にフィリーネに不満は無かった。
「欲しい書物は届くし、働かなくても三食美味しいご飯は出るし。人類諸国の頃に比べてまるでお姫様だわ。使用人はいつからか親切になったし談笑もするようになったし」
というのも、ゾリャーギが屋敷の中にいても不自由のないよう様々な配慮をしてくれていたし、フィリーネも彼には一応心を開いている――前世の恋人以外で彼女が心を開かす相手はほとんどいない――から私生活に差し支えはなかった。いくら休戦した相手とはいえ人類諸国の者がいることを当初こそ屋敷の使用人――使用人はゾリャーギの部下でもある――は陰で疎ましく思っていたが、ゾリャーギからフィリーネの事情を聞かされてからは、彼等も同情し優しさを見せるくらいにはなったのである。
皮肉な事に、ゾリャーギの私邸はフィリーネにとって悪くない居心地の住処だった。
また、もう一つ変化があった。
「ああでも。来客者はあったわね。それもとびきりの」
・・Φ・・
それは、皇帝レオニードの定期的なお忍び訪問であった。
彼が初めてゾリャーギの私邸に訪れたのは三ヶ月前。まだ盛夏の頃だった。
フィリーネは当時の事を思い出す。
事前の予告も無しにフィリーネに与えられた居室へ現れたのは薄手の白いカッターシャツに同じく薄手の黒いスラックスのようなズボン。前世でも夏の衣服として違和感のない上下を身にしていたのはどこにでもいそうな好青年、のように見えた。
だが、フィリーネは勘づく。彼から発する空気や雰囲気が只者ではないと察知していた。故に彼女は警戒心を露わにする。
「やあ、フィリーネ・リヴェット。妖魔帝国の夏はロンドリウムよりずっと快適だろう? もっとも冬は強烈に寒いけどな」
「あんた誰よって言いたい所だけど、金髪に整った顔立ち。何よりも隠せないほどの威厳。畏れ多くも拉致を命じておきながら一ヶ月以上放ったらかしにした皇帝陛下が私に何のようかしら」
「いやはや辛辣だなあ。そんな口の利き方をきてくるヤツなんて生まれて始めてだぞ。だが悪くない。対等に話す相手なんていなかったからな」
「なあに、恭しくしろって?」
「勘弁してくれよ。別にお前に危害を加えるつもりなんてさらさらないし、遅れながら挨拶にやってきただけなんだ。初めまして、堕天戦乙女のフィリーネ。俺はレオニード・ヨマニエフ。そっちじゃ戦争狂で有名だったから名前だけでいいだろ?」
「ええ、頭のおかしい皇帝で有名よ。あとはそうね、正室を溺愛してるともね」
フィリーネの発言にレオニードは苦笑いをする。妖魔帝国の情報が一定の時期までの分は筒抜けなのは彼も知っているからだ。
「ジトゥーミラ・レポートだろ? ブライフマンから耳にしてる。私生活まで漏れ出てるだなんてやらしい話だ」
「戦争初期に肉の盾なんてするからよ。粛清するならとっとと処刑すればいいのにね。やり方が温いのよ」
「へえ。面白い事を言うねお前は。まさか粛清帝たる俺が人類諸国の裏切り者に説教されるとは。おっと、別に暴言を吐いたわけじゃないぞ。むしろ褒めてるくらいだ」
「あっそ。お褒めに預かり光栄だわ。ところで私邸の主は仕事で出払ってる中、どうやってここに?」
「お忍びさ。ルシュカちゃんは反対しなかったけれど、側近共が一人で会うには危険だとうるさくてかなわなくてな。皇帝特権でねじ伏せて僅かな護衛だけ付けてやってきた。無論皇帝専用馬車なんざ使わずにな。あとゾリャーギにも許可は取っていない」
「あんた馬鹿なの……。仮にも目の前にいるのはSランク能力者で人類諸国の裏切り者なんだけど?」
「お前は俺の命を奪おうなんざ考えていないだろ? 第一、側近共のせいで出迎えも無しで放置状態だなんて失礼だ。そう思わないか?」
「この国の絶対権力者から失礼だなんて言葉が出ると思わなくて意外だわ。まあでも、いい心がけじゃない。で、私に会いに来たのはただ挨拶しに来たわけじゃないでしょ?」
「いや、本当に挨拶に来ただけだ。あと、これから定期的にお前に会いに来るのを伝えにきたのもあるな」
「はあ?! 皇帝はそんなに暇なの?!」
「失敬な。これから貴重な戦力になるお前と雑談をして何が悪いんだ」
「あ、ああそう……」
会話の内容を除けば前世の学生同士のようなあまりにも気安いやり取りと、レオニードが無防備なのを目の当たりにしてフィリーネは相手に対して警戒するのが馬鹿らしくなりついに素に戻る。
フィリーネがようやくその状態になった事にレオニードは明るく笑む。いくら皇帝と言えども刺さる殺気の眼差しに居心地が悪かったからだ。
「やっと日常的な雰囲気になってくれたな」
「あったりまえでしょ……。目の前にいるのは皇帝よ? 人類諸国の方で耳にしてた評判を踏まえればとち狂ってやっぱ殺してくる位は考えるっての……」
「その心は?」
「バカバカしくなってやめた」
「ふははっ! いい、それでいい! 今日は心象が変わってくれれば十分な成果さ!」
「あっそう……。私は頭が痛くなってきたわ……。煙草を吸っても良くて?」
「別に構わないぞ? ルシュカちゃんが嫌がるから消臭は後でするが」
「あんたの嫁の事まで配慮しないわよ……」
「あ、いや待て。思い出した。二時間後に側近共と会談があったから戻らないとダメだったぞ!?」
「やっぱりあんた馬鹿でしょ?! さっさと戻りなさいのよ!」
「そうさせてもらう! また来るぞフィリーネ・リヴェット! 正式に謁見する時期は追ってゾリャーギに伝えるが、しばらく先になる! それまではロンドリウムと同じような状態だが欲しいものはゾリャーギに言え。書物だろうがなんだろうが禁書や機密でもない限り俺が勅命で許可してやる。じゃあな!」
「え、ええ……」
嵐のように去ってゆく妖魔帝国皇帝の後ろ姿を、唖然としながらフィリーネは見つめていた。時間にして僅か二十数分。これがフィリーネとレオニードの初の邂逅であった。
・・Φ・・
「あれから本当に定期的にやってきたけど、とても粛清帝と恐れられる厳格な皇帝とは思えないね……。何がしたいのか分からないし、何を考えているのかも読めない……」
フィリーネは自室の机を前に、椅子に座りながら煙草をふかしてため息をつく。
初めてフィリーネのもとへ顔を出して以降、月に一度程度は彼は彼女の部屋を訪れるようになった。流石に先月会いに来る前にはゾリャーギの耳にも届きゾリャーギは相当に慌てふためいたが、レオニードは平然とした顔で「俺が拉致を命じた女だ。構わんだろう」と一蹴した時点で諦めた。
そのゾリャーギとの雑談は、初回こそ短時間かつ取り留めのない会話だったが二度目と先週の三度目には、話す内容に真面目なものもあった。
妖魔帝国の国力を鑑みた今後の国家計画とは。
妖魔帝国軍の利点と弱点。
地政学に基づく妖魔帝国の位置及び適切な振る舞いとは。
南方蛮族のゲリラ戦への対抗手段。
人類諸国の各国国民性と国力。
英雄アカツキ・ノースロードが歩むであろう連合王国軍強兵計画。
その他複数の事項を皇帝レオニードはその日全ての日程を空けてまでフィリーネへ問答した。
フィリーネは自分の知識を利用されているのをとっくに勘づいていたが、今や妖魔帝国に居を移し人類諸国を裏切った身。己の復讐の一助となるのならばいくらでも話してやろうと思ったフィリーネは全ての問いに対して持論を展開した。
するとレオニードは非常に満足げに、
「やはり俺の見立てに狂いは無かった。俺が許す。一級機密までの書物をこいつに開示する許可を出す。人類諸国は愚かだ。逸材をむざむざ俺に寄越してくれたのだからな」
と、次の日から本当に機密書物までフィリーネの部屋に届いたのだから。
故に、フィリーネの居室はこの三ヶ月以上で一挙に書物で溢れることになったのである。
何故レオニードが機密さえも惜しまずフィリーネへ貸し出したのか。
理由は明らかだ。レオニードは無能は躊躇なく粛清・処刑するが、有能な者は重用する。何故ならば役に立つから。
そしてもう一つ。彼はフィリーネを見抜いていた。少なくとも復讐を果たすまではこいつは裏切らない。とも。
「あの皇帝曰く、遠くない内に謁見となるが、それまでにお前の知見をレポートに纏めて披露しろ。報酬として、我が帝国が誇る魔法研究によってお前は妖魔帝国でも自由に出歩くだけでなく俺が重用してやる。復讐を果たしたいのだろう? ならば俺のもとで功績を残してみせよ。必ずお前の復讐は果たされる事になる。だっけか……」
皇帝レオニードが嘘が嫌いなお前に嘘はつかない。とまで言い切ったのである。フィリーネが課題を提出し満足のいくものであれば、今は宙に浮いた自分の立場も明確になるだろう。
不自由がないとはいえ、引きこもりの生活もそろそろうんざりしていた頃だ。ならば力を貸してやるのも悪くないとフィリーネは心中に抱いていた。
フィリーネは煙草を吸い終えると、机へと向かう。
置かれているのは数冊の書物。タイトルは人類諸国ではお目にかかる事の出来ないものばかり。それらの題名を以下に記そう。
『妖魔帝国史』
『妖魔帝国軍史』
『妖魔帝国陸海軍最新状況全書』
『ヨマニエフ朝系譜』
『帝国貴族全家系行動記録書』
『妖魔帝国式魔法体系全書』
『妖魔帝国魔法研究所開発記録』
『魔法研究所開発生物兵器ゾズダーニヤ研究開発記録書』
『対人類諸国絶滅戦争計画書』
『妖魔帝国皇帝直属諜報機関作戦行動記録書』
机に置かれているだけでも多彩な分野の書物。他にも数百冊の書物は大まかに妖魔帝国と軍を知るに十分な知識の源であった。
フィリーネは上等な紙を十数枚置くと、これまで書き溜めていたレポートの続きを書き始める。
果たして彼女が記したレポートはレオニードにとって価値あるものとなるのか。だとしたのならば、フィリーネに与えられる報酬とは。
真相はこの日より比較的早くに謁見という形で判明する事となる。
10の月6の日
妖魔帝国・帝都レオニブルク
ゾリャーギ私邸
「やることも限られているから暇、ねえ。外に出れないのは仕方ないけども」
時はアカツキが特別講義を始める約二十日前まで遡る。
フィリーネが妖魔帝国帝都に到着し、ゾリャーギ私邸で暮らすようになってからというものの、元人類諸国の軍人という立場もあり彼女は外へ一歩も歩く事は出来ていなかった。つまり、ロンドリウムで謹慎させられていた頃とほとんど変わらない状態だったのである。
しかし意外な事にフィリーネに不満は無かった。
「欲しい書物は届くし、働かなくても三食美味しいご飯は出るし。人類諸国の頃に比べてまるでお姫様だわ。使用人はいつからか親切になったし談笑もするようになったし」
というのも、ゾリャーギが屋敷の中にいても不自由のないよう様々な配慮をしてくれていたし、フィリーネも彼には一応心を開いている――前世の恋人以外で彼女が心を開かす相手はほとんどいない――から私生活に差し支えはなかった。いくら休戦した相手とはいえ人類諸国の者がいることを当初こそ屋敷の使用人――使用人はゾリャーギの部下でもある――は陰で疎ましく思っていたが、ゾリャーギからフィリーネの事情を聞かされてからは、彼等も同情し優しさを見せるくらいにはなったのである。
皮肉な事に、ゾリャーギの私邸はフィリーネにとって悪くない居心地の住処だった。
また、もう一つ変化があった。
「ああでも。来客者はあったわね。それもとびきりの」
・・Φ・・
それは、皇帝レオニードの定期的なお忍び訪問であった。
彼が初めてゾリャーギの私邸に訪れたのは三ヶ月前。まだ盛夏の頃だった。
フィリーネは当時の事を思い出す。
事前の予告も無しにフィリーネに与えられた居室へ現れたのは薄手の白いカッターシャツに同じく薄手の黒いスラックスのようなズボン。前世でも夏の衣服として違和感のない上下を身にしていたのはどこにでもいそうな好青年、のように見えた。
だが、フィリーネは勘づく。彼から発する空気や雰囲気が只者ではないと察知していた。故に彼女は警戒心を露わにする。
「やあ、フィリーネ・リヴェット。妖魔帝国の夏はロンドリウムよりずっと快適だろう? もっとも冬は強烈に寒いけどな」
「あんた誰よって言いたい所だけど、金髪に整った顔立ち。何よりも隠せないほどの威厳。畏れ多くも拉致を命じておきながら一ヶ月以上放ったらかしにした皇帝陛下が私に何のようかしら」
「いやはや辛辣だなあ。そんな口の利き方をきてくるヤツなんて生まれて始めてだぞ。だが悪くない。対等に話す相手なんていなかったからな」
「なあに、恭しくしろって?」
「勘弁してくれよ。別にお前に危害を加えるつもりなんてさらさらないし、遅れながら挨拶にやってきただけなんだ。初めまして、堕天戦乙女のフィリーネ。俺はレオニード・ヨマニエフ。そっちじゃ戦争狂で有名だったから名前だけでいいだろ?」
「ええ、頭のおかしい皇帝で有名よ。あとはそうね、正室を溺愛してるともね」
フィリーネの発言にレオニードは苦笑いをする。妖魔帝国の情報が一定の時期までの分は筒抜けなのは彼も知っているからだ。
「ジトゥーミラ・レポートだろ? ブライフマンから耳にしてる。私生活まで漏れ出てるだなんてやらしい話だ」
「戦争初期に肉の盾なんてするからよ。粛清するならとっとと処刑すればいいのにね。やり方が温いのよ」
「へえ。面白い事を言うねお前は。まさか粛清帝たる俺が人類諸国の裏切り者に説教されるとは。おっと、別に暴言を吐いたわけじゃないぞ。むしろ褒めてるくらいだ」
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「この国の絶対権力者から失礼だなんて言葉が出ると思わなくて意外だわ。まあでも、いい心がけじゃない。で、私に会いに来たのはただ挨拶しに来たわけじゃないでしょ?」
「いや、本当に挨拶に来ただけだ。あと、これから定期的にお前に会いに来るのを伝えにきたのもあるな」
「はあ?! 皇帝はそんなに暇なの?!」
「失敬な。これから貴重な戦力になるお前と雑談をして何が悪いんだ」
「あ、ああそう……」
会話の内容を除けば前世の学生同士のようなあまりにも気安いやり取りと、レオニードが無防備なのを目の当たりにしてフィリーネは相手に対して警戒するのが馬鹿らしくなりついに素に戻る。
フィリーネがようやくその状態になった事にレオニードは明るく笑む。いくら皇帝と言えども刺さる殺気の眼差しに居心地が悪かったからだ。
「やっと日常的な雰囲気になってくれたな」
「あったりまえでしょ……。目の前にいるのは皇帝よ? 人類諸国の方で耳にしてた評判を踏まえればとち狂ってやっぱ殺してくる位は考えるっての……」
「その心は?」
「バカバカしくなってやめた」
「ふははっ! いい、それでいい! 今日は心象が変わってくれれば十分な成果さ!」
「あっそう……。私は頭が痛くなってきたわ……。煙草を吸っても良くて?」
「別に構わないぞ? ルシュカちゃんが嫌がるから消臭は後でするが」
「あんたの嫁の事まで配慮しないわよ……」
「あ、いや待て。思い出した。二時間後に側近共と会談があったから戻らないとダメだったぞ!?」
「やっぱりあんた馬鹿でしょ?! さっさと戻りなさいのよ!」
「そうさせてもらう! また来るぞフィリーネ・リヴェット! 正式に謁見する時期は追ってゾリャーギに伝えるが、しばらく先になる! それまではロンドリウムと同じような状態だが欲しいものはゾリャーギに言え。書物だろうがなんだろうが禁書や機密でもない限り俺が勅命で許可してやる。じゃあな!」
「え、ええ……」
嵐のように去ってゆく妖魔帝国皇帝の後ろ姿を、唖然としながらフィリーネは見つめていた。時間にして僅か二十数分。これがフィリーネとレオニードの初の邂逅であった。
・・Φ・・
「あれから本当に定期的にやってきたけど、とても粛清帝と恐れられる厳格な皇帝とは思えないね……。何がしたいのか分からないし、何を考えているのかも読めない……」
フィリーネは自室の机を前に、椅子に座りながら煙草をふかしてため息をつく。
初めてフィリーネのもとへ顔を出して以降、月に一度程度は彼は彼女の部屋を訪れるようになった。流石に先月会いに来る前にはゾリャーギの耳にも届きゾリャーギは相当に慌てふためいたが、レオニードは平然とした顔で「俺が拉致を命じた女だ。構わんだろう」と一蹴した時点で諦めた。
そのゾリャーギとの雑談は、初回こそ短時間かつ取り留めのない会話だったが二度目と先週の三度目には、話す内容に真面目なものもあった。
妖魔帝国の国力を鑑みた今後の国家計画とは。
妖魔帝国軍の利点と弱点。
地政学に基づく妖魔帝国の位置及び適切な振る舞いとは。
南方蛮族のゲリラ戦への対抗手段。
人類諸国の各国国民性と国力。
英雄アカツキ・ノースロードが歩むであろう連合王国軍強兵計画。
その他複数の事項を皇帝レオニードはその日全ての日程を空けてまでフィリーネへ問答した。
フィリーネは自分の知識を利用されているのをとっくに勘づいていたが、今や妖魔帝国に居を移し人類諸国を裏切った身。己の復讐の一助となるのならばいくらでも話してやろうと思ったフィリーネは全ての問いに対して持論を展開した。
するとレオニードは非常に満足げに、
「やはり俺の見立てに狂いは無かった。俺が許す。一級機密までの書物をこいつに開示する許可を出す。人類諸国は愚かだ。逸材をむざむざ俺に寄越してくれたのだからな」
と、次の日から本当に機密書物までフィリーネの部屋に届いたのだから。
故に、フィリーネの居室はこの三ヶ月以上で一挙に書物で溢れることになったのである。
何故レオニードが機密さえも惜しまずフィリーネへ貸し出したのか。
理由は明らかだ。レオニードは無能は躊躇なく粛清・処刑するが、有能な者は重用する。何故ならば役に立つから。
そしてもう一つ。彼はフィリーネを見抜いていた。少なくとも復讐を果たすまではこいつは裏切らない。とも。
「あの皇帝曰く、遠くない内に謁見となるが、それまでにお前の知見をレポートに纏めて披露しろ。報酬として、我が帝国が誇る魔法研究によってお前は妖魔帝国でも自由に出歩くだけでなく俺が重用してやる。復讐を果たしたいのだろう? ならば俺のもとで功績を残してみせよ。必ずお前の復讐は果たされる事になる。だっけか……」
皇帝レオニードが嘘が嫌いなお前に嘘はつかない。とまで言い切ったのである。フィリーネが課題を提出し満足のいくものであれば、今は宙に浮いた自分の立場も明確になるだろう。
不自由がないとはいえ、引きこもりの生活もそろそろうんざりしていた頃だ。ならば力を貸してやるのも悪くないとフィリーネは心中に抱いていた。
フィリーネは煙草を吸い終えると、机へと向かう。
置かれているのは数冊の書物。タイトルは人類諸国ではお目にかかる事の出来ないものばかり。それらの題名を以下に記そう。
『妖魔帝国史』
『妖魔帝国軍史』
『妖魔帝国陸海軍最新状況全書』
『ヨマニエフ朝系譜』
『帝国貴族全家系行動記録書』
『妖魔帝国式魔法体系全書』
『妖魔帝国魔法研究所開発記録』
『魔法研究所開発生物兵器ゾズダーニヤ研究開発記録書』
『対人類諸国絶滅戦争計画書』
『妖魔帝国皇帝直属諜報機関作戦行動記録書』
机に置かれているだけでも多彩な分野の書物。他にも数百冊の書物は大まかに妖魔帝国と軍を知るに十分な知識の源であった。
フィリーネは上等な紙を十数枚置くと、これまで書き溜めていたレポートの続きを書き始める。
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