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第13章 休戦会談と蠢く策謀編
第11話 英雄達の休息・下
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・・11・・
2の月23の日
午前11時15分
アルシュプラット・ヨーク家別荘
別荘に到着した20の日は特に何かをした訳ではなくのんびりと過ごし、翌日は別荘から程近い大きな自然公園で散歩をしたりして過ごした。そこでは小さな子供達が僕とリイナを見つけて握手をせがまれたり、ちょっとだけど遊び相手にもなったりして普通の人のように過ごした。
22の日はアルシュプラットの中心街まで出て、小物とか売ってる雑貨店をいくつも巡って色々買い込んだり、アルシュプラット出身の士官達オススメのカフェにも行ったね。彼等は僕が甘味好きなのをよく知っていて、女性士官が絶対に食べてほしいと言っていた法国産のオレンジを使ったミルフィーユによく似たケーキはそれはもう絶品だった。
とまあ、ここまではごくごく普通の夫婦のお出かけみたいな感じだったんだ。
問題はここからだ。宵の時間になって訪れたのは、アルシュプラット中心街で有名なパブレストラン。ここも士官達イチオシのお店だった。
入店した時、既にかなりのお客さんがいたんだけど、僕とリイナが入るとそれはもう一同大驚き。そりゃそうだよね、新聞報道でしか聞いた事の無い人物が来たんだから。
でも、あくまで僕とリイナはプライベートだからと気にせずやっててほしいと伝えると切り替わりは早く、サインや握手を求められたりした以外は普段と変わらない様子になった。
「そう思ってた時期が僕にもありました……!」
ところがどっこい、リイナはこういう大衆的な所には貴族故にあまり行かないから相当浮かれていたようで、ガンガンお酒を飲んでいた。エールにワイン、パブレストランオリジナルカクテルなど様々。僕が一杯飲む間に彼女は三杯も飲んでいた。
彼女はとにかくお酒が強い。めちゃくちゃ強い。あれだ、ザルってやつさ。
そのリイナはというと、パブレストランの真ん中に立ってエールのジョッキを高く掲げてこんな事をしていた。
「みんなぁー! 楽しんでるぅー?」
『おー!!』
「飲んでるぅー?」
『おー!!』
「男達、お酒は好きかしらー!」
『大好きだぜぇ!!』
「女達、お酒は美味しいかしらー!」
『リイナ様、カッコイイー!!』
「ふふふふっ! ふふふふっ! 今ここに、リイナ・ノースロードが宣言するわ! 今からあなた達の飲食代、全部私が出してあげるっっ!!」
「ふぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「やったぜぇぇぇぇぇ!!」
「我らが英雄に乾杯っっ!!」
「リイナ様万歳っっ!!」
「ヨーク家とノースロード家に乾杯っっ!」
「さあ皆! グラスにジョッキを掲げなさいな!! 素晴らしい夜に、乾杯っっ!!」
『乾杯っっ!!』
「なんだこれ……」
「リイナ様は相当気分が高揚されておられるようです」
「だろうね、エイジス」
それはもう大盛り上がりだった。この時ばかりはメイドや執事達も無礼講ということで飲酒をリイナが許可し、どんちゃん騒ぎになった。
僕は酔いすぎない程度に飲んでいたから、カクテルグラスを持ちながらこっそりパブレストランの中年男性の店長の所まで行くと。
「悪いね店長。僕の嫁がだいぶ酔っ払ってるみたいで……」
「構いやしませんよ。むしろ今日だけで何日分も稼げて大助かりです」
「なら良かった。ああこれ、小切手。アルシュプラットの王立銀行に行けば引き出せるようになってるから、支払いはこれでよろしくね」
「ありがとうございます、アカツキ様。……この金額、だいぶ多いのでは?」
店長が申し訳なさそうに僕へ言うけれど、僕は人差し指を唇に当てて。
「僕も酔いが結構回ってるみたいだから、さ」
「感謝します」
「どういたしまして」
店長に向けてニッコリと微笑むと、カウンター席に座った僕に彼はお酒のツマミになる一口サイズの乾燥肉を出してくれた。
「しかし、意外でした。アルシュプラットに来られていたのは存じてましたが、まさかリイナ様やアカツキ様がこのような庶民の店に来て下さるなんて」
「王都のとある部下達が教えてくれたんだ。彼等はアルシュプラットで生まれてアルシュプラットで育った人達でさ、帰省の際は行きつけだからって勧められて。僕やリイナはあんまり来ない所だから新鮮でね、リイナが行ってみたいって言ったんだよね」
まあ前世でならそこそこ通ってたんだけどね。
「そうでしたか。我々からすると、アカツキ様やリイナ様は雲の上の存在です。しかし、それは我々の偏見だったようですね。とても身近な存在に思えますよ」
「リイナは日頃からよく頑張ってくれているから羽を伸ばしたいんだろうね。昔ほどじゃないにしても、貴族だと堅苦しい場面も多いから、気兼ねなく楽しめる時間が必要なのさ」
「アカツキ様もですか?」
「はははっ、そうだね。月末までは、貴族とか軍人とかじゃなくて、ただのアカツキとして楽しみたいかな」
「でしたら存分に楽しんでいってください。またの御贔屓も」
「了解したよ」
「もー! 旦那様ぁ! 一人で静かに飲むのもいいけれど、こっちに来て一緒に踊りましょ?」
「ふぇ? 踊る?」
あれだけ飲んでも足取り確かなリイナは、しかし酒によってだいぶ赤くなった顔でニコニコしながらやってきてそんな事を言う。
彼女の向こう側にはいつの間にやら楽器を用意してた男女が数人。僕と視線が合うとおどけた様子で軍人じゃないけれど敬礼をする。
用意周到なことだね……。
でも、ま、いっか。
「それでリイナ。何を踊ればいいのかな?」
「舞踏会のようなのじゃなくて、テンポよく楽しむものよ。アドリブでしましょ?」
「つまり何もかんがえてなかったね? おっけ、手を取りましょう奥さん」
「ふふっ。エスコートをお願いね、旦那様?」
僕とリイナのやり取りに大歓声を上げる人達と、演奏者達はクラシックではなくてジャズ調の演奏をスタートする。
軽やかなステップで僕達は踊り、それから夜が深くなる時間まで飲めや歌えや踊れやのとても楽しい時間を過ごしたのだった。
・・Φ・・
「…………とはいえ。いくら中期休暇だからって、乱れた休日過ぎるねこれは」
別荘の寝室にある窓からは、既に天頂まで上った太陽の陽射しが降り注いでいた。
一体今何時なんだろうとベッドの横に置いてある懐中時計を手に取ると、時刻は案の定もうすぐ昼になる事を示していた。
……ただれすぎだろ。
「まあ、僕もリイナもあれだけ飲んだらこうなるか……。いてて、腰が痛い……」
いわゆるお察し展開だ。
別荘に帰ったのは日付が変わる一時間前。まだ酔いが残っているとはいえ、ある程度醒めたから湯に浸かって着替えて、寝室に行った時点でルートは確定している。
ベッドに腰掛けた途端押し倒され、馬乗りにされて、リイナに美味しく頂かれたんだ……。
「くふふっ、旦那様。いただきまぁす」
の言葉と共に……。
そこからはもうめちゃくちゃにめちゃくちゃだった。何回戦したかなんて、四回目あたりから覚えていない……。
その結果がこれ。普段は軍務もあるからと控えめが多いから仕方ないね!
ちなみにエイジスは雰囲気を察していつの間にかいなくなっており、今もこの部屋にはいなかった。
「腰も痛ければ頭も痛い……。二日酔いもありそうだ……」
生まれたままの姿だったから乱雑に置いてあった室内着に着替えて、覚束無い足取りで立ち上がる。
リイナはというと、まだ夢の世界だった。あれだけお楽しみすれば、寝ていてもおかしくないよね。
寝室の小さいテーブルにはガラス製の水差しはあったはずの水が空になっていた――全く記憶にないけれど――から、僕はリイナの唇にそっとキスだけして寝室を出る。
頭はまだ寝ぼけているし、ズキズキと頭痛がする。これじゃあ今日一日は動けないだろうね……。
寝室を出てリビングの方へ向かうと、クラウドがいた。
「おはようございます、アカツキ様。その様子ですと、どうやらかなりお楽しみのようでしたな」
「おはようクラウド……。ナニがあったかは、うん」
「多くは語りませんぞ。夫婦仲が円滑なのは良きことです」
「そこの心配は全く無いね……。あれ、レーナ達は?」
「本日と明日の食材を買いに午前中から出ております。昼は胃に負担のない軽食が用意されておりますが、朝と昼の兼用ですな」
「完璧に昼ご飯だね。でもその前に、水が欲しいかな」
「かしこまりました。薬もお持ちします」
僕は椅子に座って、ふう、と一息つく。少しすると、クラウドがグラスを持ってきてくれた。
「ありがとう。ん、んくっ、はぁぁぁ、美味しい……」
「昨日はよく飲まれておりましたからな」
「久しぶりにあんなに飲んだよ。ん……? この手紙は?」
二日酔いに効果のある薬と同じ効果のある魔法薬を飲んでから、水を一気に飲み干すと、目に入ったのはテーブルに置かれた手紙だった。
「二時間ほど前にアルシュプラットの駐屯兵が持ってきた手紙です」
「ありゃ、起こしてくれても良かったよ?」
「特に急ぎのものでもなく、アカツキ様は休暇中ですからと先方が。一応の報告とのことで」
「ふうん。分かったよ」
僕はクラウドに再び水を注いでもらってから、グラスを片手に手紙を開ける。
宛は中央、F調査室からのもので定期報告だった。休暇中とはいえ、自分が関わるものは定期報告含めて届けるようにしているけど確かに急ぎの内容ではなかった。
「妖魔帝国の影は無し。潜伏の可能性は否定出来ないものの低いものと結論に至る、と。フィリーネ少将は相変わらず。やっぱり杞憂なのかなあ」
手紙をそっと閉じると、僕はぼんやりと天井を見つめる。
この様子なら余程緊急性の高い案件は入ってこなさそうだ。全ての日程でしっかりと心と体を休められるだろう。
僕は少しだけの時間ソファに身体を預けると、その後は朝食兼昼食を食べることにした。胃にとても優しいコンソメスープはとても美味しかった。
ちなみにリイナは、正午過ぎに起きてきたのだった。
2の月23の日
午前11時15分
アルシュプラット・ヨーク家別荘
別荘に到着した20の日は特に何かをした訳ではなくのんびりと過ごし、翌日は別荘から程近い大きな自然公園で散歩をしたりして過ごした。そこでは小さな子供達が僕とリイナを見つけて握手をせがまれたり、ちょっとだけど遊び相手にもなったりして普通の人のように過ごした。
22の日はアルシュプラットの中心街まで出て、小物とか売ってる雑貨店をいくつも巡って色々買い込んだり、アルシュプラット出身の士官達オススメのカフェにも行ったね。彼等は僕が甘味好きなのをよく知っていて、女性士官が絶対に食べてほしいと言っていた法国産のオレンジを使ったミルフィーユによく似たケーキはそれはもう絶品だった。
とまあ、ここまではごくごく普通の夫婦のお出かけみたいな感じだったんだ。
問題はここからだ。宵の時間になって訪れたのは、アルシュプラット中心街で有名なパブレストラン。ここも士官達イチオシのお店だった。
入店した時、既にかなりのお客さんがいたんだけど、僕とリイナが入るとそれはもう一同大驚き。そりゃそうだよね、新聞報道でしか聞いた事の無い人物が来たんだから。
でも、あくまで僕とリイナはプライベートだからと気にせずやっててほしいと伝えると切り替わりは早く、サインや握手を求められたりした以外は普段と変わらない様子になった。
「そう思ってた時期が僕にもありました……!」
ところがどっこい、リイナはこういう大衆的な所には貴族故にあまり行かないから相当浮かれていたようで、ガンガンお酒を飲んでいた。エールにワイン、パブレストランオリジナルカクテルなど様々。僕が一杯飲む間に彼女は三杯も飲んでいた。
彼女はとにかくお酒が強い。めちゃくちゃ強い。あれだ、ザルってやつさ。
そのリイナはというと、パブレストランの真ん中に立ってエールのジョッキを高く掲げてこんな事をしていた。
「みんなぁー! 楽しんでるぅー?」
『おー!!』
「飲んでるぅー?」
『おー!!』
「男達、お酒は好きかしらー!」
『大好きだぜぇ!!』
「女達、お酒は美味しいかしらー!」
『リイナ様、カッコイイー!!』
「ふふふふっ! ふふふふっ! 今ここに、リイナ・ノースロードが宣言するわ! 今からあなた達の飲食代、全部私が出してあげるっっ!!」
「ふぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「やったぜぇぇぇぇぇ!!」
「我らが英雄に乾杯っっ!!」
「リイナ様万歳っっ!!」
「ヨーク家とノースロード家に乾杯っっ!」
「さあ皆! グラスにジョッキを掲げなさいな!! 素晴らしい夜に、乾杯っっ!!」
『乾杯っっ!!』
「なんだこれ……」
「リイナ様は相当気分が高揚されておられるようです」
「だろうね、エイジス」
それはもう大盛り上がりだった。この時ばかりはメイドや執事達も無礼講ということで飲酒をリイナが許可し、どんちゃん騒ぎになった。
僕は酔いすぎない程度に飲んでいたから、カクテルグラスを持ちながらこっそりパブレストランの中年男性の店長の所まで行くと。
「悪いね店長。僕の嫁がだいぶ酔っ払ってるみたいで……」
「構いやしませんよ。むしろ今日だけで何日分も稼げて大助かりです」
「なら良かった。ああこれ、小切手。アルシュプラットの王立銀行に行けば引き出せるようになってるから、支払いはこれでよろしくね」
「ありがとうございます、アカツキ様。……この金額、だいぶ多いのでは?」
店長が申し訳なさそうに僕へ言うけれど、僕は人差し指を唇に当てて。
「僕も酔いが結構回ってるみたいだから、さ」
「感謝します」
「どういたしまして」
店長に向けてニッコリと微笑むと、カウンター席に座った僕に彼はお酒のツマミになる一口サイズの乾燥肉を出してくれた。
「しかし、意外でした。アルシュプラットに来られていたのは存じてましたが、まさかリイナ様やアカツキ様がこのような庶民の店に来て下さるなんて」
「王都のとある部下達が教えてくれたんだ。彼等はアルシュプラットで生まれてアルシュプラットで育った人達でさ、帰省の際は行きつけだからって勧められて。僕やリイナはあんまり来ない所だから新鮮でね、リイナが行ってみたいって言ったんだよね」
まあ前世でならそこそこ通ってたんだけどね。
「そうでしたか。我々からすると、アカツキ様やリイナ様は雲の上の存在です。しかし、それは我々の偏見だったようですね。とても身近な存在に思えますよ」
「リイナは日頃からよく頑張ってくれているから羽を伸ばしたいんだろうね。昔ほどじゃないにしても、貴族だと堅苦しい場面も多いから、気兼ねなく楽しめる時間が必要なのさ」
「アカツキ様もですか?」
「はははっ、そうだね。月末までは、貴族とか軍人とかじゃなくて、ただのアカツキとして楽しみたいかな」
「でしたら存分に楽しんでいってください。またの御贔屓も」
「了解したよ」
「もー! 旦那様ぁ! 一人で静かに飲むのもいいけれど、こっちに来て一緒に踊りましょ?」
「ふぇ? 踊る?」
あれだけ飲んでも足取り確かなリイナは、しかし酒によってだいぶ赤くなった顔でニコニコしながらやってきてそんな事を言う。
彼女の向こう側にはいつの間にやら楽器を用意してた男女が数人。僕と視線が合うとおどけた様子で軍人じゃないけれど敬礼をする。
用意周到なことだね……。
でも、ま、いっか。
「それでリイナ。何を踊ればいいのかな?」
「舞踏会のようなのじゃなくて、テンポよく楽しむものよ。アドリブでしましょ?」
「つまり何もかんがえてなかったね? おっけ、手を取りましょう奥さん」
「ふふっ。エスコートをお願いね、旦那様?」
僕とリイナのやり取りに大歓声を上げる人達と、演奏者達はクラシックではなくてジャズ調の演奏をスタートする。
軽やかなステップで僕達は踊り、それから夜が深くなる時間まで飲めや歌えや踊れやのとても楽しい時間を過ごしたのだった。
・・Φ・・
「…………とはいえ。いくら中期休暇だからって、乱れた休日過ぎるねこれは」
別荘の寝室にある窓からは、既に天頂まで上った太陽の陽射しが降り注いでいた。
一体今何時なんだろうとベッドの横に置いてある懐中時計を手に取ると、時刻は案の定もうすぐ昼になる事を示していた。
……ただれすぎだろ。
「まあ、僕もリイナもあれだけ飲んだらこうなるか……。いてて、腰が痛い……」
いわゆるお察し展開だ。
別荘に帰ったのは日付が変わる一時間前。まだ酔いが残っているとはいえ、ある程度醒めたから湯に浸かって着替えて、寝室に行った時点でルートは確定している。
ベッドに腰掛けた途端押し倒され、馬乗りにされて、リイナに美味しく頂かれたんだ……。
「くふふっ、旦那様。いただきまぁす」
の言葉と共に……。
そこからはもうめちゃくちゃにめちゃくちゃだった。何回戦したかなんて、四回目あたりから覚えていない……。
その結果がこれ。普段は軍務もあるからと控えめが多いから仕方ないね!
ちなみにエイジスは雰囲気を察していつの間にかいなくなっており、今もこの部屋にはいなかった。
「腰も痛ければ頭も痛い……。二日酔いもありそうだ……」
生まれたままの姿だったから乱雑に置いてあった室内着に着替えて、覚束無い足取りで立ち上がる。
リイナはというと、まだ夢の世界だった。あれだけお楽しみすれば、寝ていてもおかしくないよね。
寝室の小さいテーブルにはガラス製の水差しはあったはずの水が空になっていた――全く記憶にないけれど――から、僕はリイナの唇にそっとキスだけして寝室を出る。
頭はまだ寝ぼけているし、ズキズキと頭痛がする。これじゃあ今日一日は動けないだろうね……。
寝室を出てリビングの方へ向かうと、クラウドがいた。
「おはようございます、アカツキ様。その様子ですと、どうやらかなりお楽しみのようでしたな」
「おはようクラウド……。ナニがあったかは、うん」
「多くは語りませんぞ。夫婦仲が円滑なのは良きことです」
「そこの心配は全く無いね……。あれ、レーナ達は?」
「本日と明日の食材を買いに午前中から出ております。昼は胃に負担のない軽食が用意されておりますが、朝と昼の兼用ですな」
「完璧に昼ご飯だね。でもその前に、水が欲しいかな」
「かしこまりました。薬もお持ちします」
僕は椅子に座って、ふう、と一息つく。少しすると、クラウドがグラスを持ってきてくれた。
「ありがとう。ん、んくっ、はぁぁぁ、美味しい……」
「昨日はよく飲まれておりましたからな」
「久しぶりにあんなに飲んだよ。ん……? この手紙は?」
二日酔いに効果のある薬と同じ効果のある魔法薬を飲んでから、水を一気に飲み干すと、目に入ったのはテーブルに置かれた手紙だった。
「二時間ほど前にアルシュプラットの駐屯兵が持ってきた手紙です」
「ありゃ、起こしてくれても良かったよ?」
「特に急ぎのものでもなく、アカツキ様は休暇中ですからと先方が。一応の報告とのことで」
「ふうん。分かったよ」
僕はクラウドに再び水を注いでもらってから、グラスを片手に手紙を開ける。
宛は中央、F調査室からのもので定期報告だった。休暇中とはいえ、自分が関わるものは定期報告含めて届けるようにしているけど確かに急ぎの内容ではなかった。
「妖魔帝国の影は無し。潜伏の可能性は否定出来ないものの低いものと結論に至る、と。フィリーネ少将は相変わらず。やっぱり杞憂なのかなあ」
手紙をそっと閉じると、僕はぼんやりと天井を見つめる。
この様子なら余程緊急性の高い案件は入ってこなさそうだ。全ての日程でしっかりと心と体を休められるだろう。
僕は少しだけの時間ソファに身体を預けると、その後は朝食兼昼食を食べることにした。胃にとても優しいコンソメスープはとても美味しかった。
ちなみにリイナは、正午過ぎに起きてきたのだった。
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