163 / 390
第10章 リチリア島の戦い編
第12話 その頃、アカツキは
しおりを挟む
・・12・・
9の月10の日
午後9時25分
旧東方領戦線・ブカレシタ西部郊外
アルネシア連合王国軍仮設建築総司令部・アカツキの執務室
「分かってはいたけれど、完全に長期戦の構えだなあ……」
「マスターの意見に同意。妖魔帝国軍は損耗を避けて手際良く配置をしており、こちらを貼りつかせるのを意図していると思われます」
「だよねえ。大軍同士だけでなくて、相手が魔人ばかりだからこっちも決定打に欠けるのと、遠征故の諸々の縛りがあるのを分かってやってるから」
僕は一時間前に終わった定例報告会議の内容と、執務机に広げたブカレシタ周辺の戦況が描かれた地図を見つめながらため息をつく。エイジスは隣にふよふよといつも通り浮きながら、レーダーで検知した解析結果を述べてくれていた。
シューロウ高地からの追撃戦で大勝利を収めた後、妖魔帝国軍はこちらから見ても正しい対処を取った。
主戦線の相手たる法国軍が消耗しているのを知っているからこそ巧みに戦線を後退させる英断を下したんだ。しかも大胆にこれまで得た奪還地全てを捨ててブカレシタ周辺に立てこもる手法。まるで総指揮官が変わったんじゃないかと思えるほどに鮮やかな後退だった。
これに対して、二カ国軍に法国軍を合わせた多国籍軍は再び前進。法国は補充と休息、可能性は低いとはいえ半島南部への妖魔帝国軍強襲上陸対策に全軍を配置させ、二カ国軍と比較的損害の少なかった法国軍のいくつかの師団でブカレシタを半包囲しつつあった。
これらの行動を取り始めたのは、僕達二カ国軍の物資弾薬の補給などが完了し態勢を整えた八の月下旬。ブカレシタの半包囲を始めたのが八の月末。ブカレシタから西の郊外にある衛星都市のような町に布陣した妖魔帝国軍と交戦したのが9の月初頭で結果は僕達の勝利。
だけど、敵は端から本気で戦うつもりはなく損害を抑えてブカレシタに撤退しブカレシタ東部の補給ラインが生き残っているのを活用して長期戦へと僕達を巻き込んでいった。
それが、今日の状態になるわけだ。
「ブカレシタの南北には幅一キーラ近い川。これが西に窪んだ所にあるのがブカレシタ。南北と西は川を天然の要塞としていて、東側は要塞に相応しい防備。ブカレシタの都市自体の規模が大きいから備蓄もたんまり貯め込んでいるだろうし、川に沿って敵軍が配置されているから完全包囲は手間も手間。そして、東からは続々と補給がなされていて空爆してもそろそろ相手も手慣れてきているからか効果は限定的。ううん、やっぱり長期戦だなあ。下手すれば年越しにもなりかねない……」
「あらあら随分と難しい顔をしているわね、旦那様」
「あー、リイナ。お疲れ様。抱え込んでるそれは?」
ずっと地図とにらめっこしていていい加減頭が疲労してきていたからしかめっ面をしていると、そこへリイナが部屋に入ってくる。エイジスは礼儀正しくスカートの裾を両手で摘んでお辞儀をしていた。
労いの言葉をかける時に、彼女が何か紙袋を持っていたから僕は何なのかを聞いた。
「王都からの差し入れよ。アナタが戦地で頑張ってるからって、お得意様のお店から色々届いているわ」
「お得意様? ってもしかして!?」
「ええ、洋菓子店よ。旧市街地中央通りからは保存の利くクッキー詰め合わせ、シュートリテン通りのお店からはコーヒーにぴったりのラスク。他にも色々あるわ。魔法で長期保存可能かつ味も落ちないようにしてあるって。オーナー達からの励ましのメッセージカードもあるわよ」
「やった! 嬉しいなあ。前もそうだっだけれども、戦地だと甘味不足に陥りやすいからね。ちょうど甘いものが欲しかったんだよー」
「ならこの辺りで一度休憩にしましょ? ずっと考え込んでいたら精神的に疲れが溜まっちゃうわ」
「リイナ様に同意。マスターは定例報告会議から帰った後から今まで論理思考に心身のエネルギーを費やしており、一旦休息が必要と考えます」
「エイジスもこう言っているのだから休憩ね。もっとも、休憩中でもアナタは軍務に関係する事を考えているでしょうけど」
「あはは……、見透かされてるね。でも、休憩はちゃんとするよ。少なくともブカレシタについてはまた後か明日にでも回すかな」
「そうしなさいな。旦那様、飲み物は何がいいかしら?」
「もう夜だし、ハーブティーにしようかな」
「ハーブティーね。私も、もう夜だから同じものにするわ」
「いつもごめんよ、リイナ」
「構わないわ。好きでやっているのだもの。アナタがしてくれる事もあるのだから気にしないで」
「うん、ありがとう」
しばらくすると、ハーブティーのいい香りが漂い始める。これも王都からの差し入れ品で、いつも別邸へ定期的にハーブティーの葉を届けに来てくれるお店からのものなんだ。
夜も深くなってくるといくら9の月とはいえ先月に比べると気温は低くなりつつあるし前世の日本より蒸し暑さはないから、リラックス効果もあるホットハーブティーが欲しくなるんだよね。
「はいどうぞ。熱い内にめしあがれ」
「ありがと、リイナ」
リイナが執務机にハーブティーの入ったティーカップとソーサーを置くと、彼女は僕の隣に座る。リイナはマイティーカップを指三本で持つと、一口飲む。ほぅ、と息をつく。
「いつ飲んでも美味しいわね。心が落ち着くわ」
「クッキーとの相性もばっちしだし、ううううん、疲れが解されるうー」
「ふふっ、旦那様ったら今背骨が凄い音出してたわよ?」
「さっきまで座りっぱなしだったからね……。それでも、リチリア島の事を思えばこうして過ごせてるだけずっとマシだよ」
「リチリア島ねえ。開戦から一週間以上経過したけれど、よく耐えているみたいじゃない。総指揮官はラットン中将閣下がとても評価していたフィリーネ少将閣下。包囲下にあってもこれだけ善戦しているのは前評判通りよね」
「本日届いた報告によれば、損害比率は妖魔帝国軍側の方が大きく、ワタクシも興味を抱く人物とかんじています。マスター」
リイナは遠くリチリア島の地で今も戦いを繰り広げているフィリーネ少将の事を賞賛する。エイジスがこう言うくらいだから、いかにフィリーネ少将が秀でているかが分かるね。
リチリア島防衛戦。
第二次妖魔大戦開戦から一年半が経過しようとしているこの大戦において、初の島嶼防衛戦が行われているリチリア島防衛戦は劣勢の協商連合軍と法国軍が緊密な連携を取りながら、未だに島の二割を制圧されたのみだった。あと二十日と少しもすれば艦隊と救援の陸軍が到着する。今ここにいる僕達多国籍軍の軍人は、これならばリチリア島を守り抜けるだろうと考えていた。
自分と同じような点が多い、妙に親近感を覚えるフィリーネ少将。彼女が実践した戦い方に、僕は一種の予測をしていた。それはどうやら、例えば僕がリチリア島防衛戦指揮官だったとしたらという話を聞いていたリイナも似た意見を持っているようで。
「フィリーネ少将閣下のやり口、まるで旦那様みたいよね。準備段階から初日の戦い方、現状に至るまでアナタが指揮官だったと仮定した際の采配とほぼ同じ手を使っているもの」
「僕もびっくりだよ。まさか、こんなにも同一のやり方をするとは思わなかった。防衛戦とはいえ戦力の出し惜しみをしない。火力を集中ささて初撃で大きく相手にダメージを与える。けれど、兵も物資も弾薬も、不必要な分まで使わずにそこは温存させる。そして、三日前の夜間奇襲。アレだけは流石に、フィリーネ少将本人が先陣を切るなんてとこまで僕は予想してなかったけど」
「SSランク召喚武器の双剣を手に、フィリーネ少将閣下だけで三個小隊相当を討ったそうよ。その姿は鬼気迫る無双だったって。鬼気迫るというよりかは」
「まるで狂気に憑かれた、彼女を昔から知っている味方以外はそう思うだろうね。この資料で想像は容易かったよ」
「乱発は出来ない、曰く付きよねえ……」
「特異中の特異に部類する召喚武器さ」
僕にしてもリイナにしても、フィリーネの召喚武器の真実を知っている幕僚達はこの戦いにおいて一つの懸念があった。
それはSSランクの中でも上位に入る強さを誇るフィリーネ少将の武器が、代償があるからこその強さである部分なんだ。
フィリーネ少将の召喚武器の双剣、『コールブラック・カーシーズ』は呪いの武器と言っても差し支えがない。一度抜剣すれば鬼神のように戦える。が、戦える故に使用者に強烈な負担をかけ帰られぬ狂気へと陥れかない。長時間の使用、連続使用は禁物。資料にあったこの世界における『諸刃の剣』に相当する表現は言葉通りってわけ。
だから僕は心配していた。
転生者である僕のような思考を持つ、もしかしたら同じ転生者かもしれない彼女が禁忌に全身を染めなければ状態に置かれたとしたら。例えば、妖魔帝国軍にこの代償を察知されて利用されたとしたら。
きっと、いいや間違いなく協商連合どころか人類諸国にとっての逸材が一人は破滅し死へと誘われることになる。って。
となると、僕に出来ることと言えばブカレシタから彼女と、リチリア島で戦う将兵の無事を祈るくらいだった。
「リチリアについては、彼女と防衛軍に任せる他ないよ。主よ、どうか彼女等を守りたまえってさ」
「私達は私達で、目の前にいる妖魔帝国軍と戦わないといけないものね」
「そういうこと」
僕は少し冷めてしまったハーブティーを口につけて、クッキーを食べ、自身の果たすべき軍務に集中しようと思考を切り替えようとする。
すると、エイジスが僕の執務室の扉の方を見ていた。
「マイマスター。慌てた様子で走る連絡将校の反応を検知。こちらに向かっています。自動人形の発言としては変かもしれませんが、嫌な予感がします」
「こんな夜更けに慌てて走る……。僕の部屋に?」
「はい、マスター」
「心構えしておいた方が良さそうね……。エイジスの予感が外れてほしいけれども」
「恐らく、否定。同様に慌ただしい様子の反応複数。目的地の推定は、マーチス大将やリットン中将など」
エイジスの言葉に、僕とリイナは表情を険しくする。
外で騒ぎは起きていない。ということはブカレシタとその周辺で異変があった訳では無い。
ということはすなわち。
ふつふつと湧いてくる可能性は、どんどんと高まっていく。
そして。
「よ、夜遅く失礼致しますアカツキ少将閣下リイナ大佐!」
「ひとまず落ち着いて。扉を閉めて」
「は、はっ!」
入ってきたのは若い女性魔法能力者の士官だった。彼女に呼吸を整えさせるよう言うと、しばら、彼女が深呼吸したのを確認して僕は、
「それで、要件は?」
「緊急連絡です。情報確認に手間取り、本日夜の報告が今魔法無線装置で届きまして……。――リチリア島、シャラクーシ防衛線が……、崩壊しました」
9の月10の日
午後9時25分
旧東方領戦線・ブカレシタ西部郊外
アルネシア連合王国軍仮設建築総司令部・アカツキの執務室
「分かってはいたけれど、完全に長期戦の構えだなあ……」
「マスターの意見に同意。妖魔帝国軍は損耗を避けて手際良く配置をしており、こちらを貼りつかせるのを意図していると思われます」
「だよねえ。大軍同士だけでなくて、相手が魔人ばかりだからこっちも決定打に欠けるのと、遠征故の諸々の縛りがあるのを分かってやってるから」
僕は一時間前に終わった定例報告会議の内容と、執務机に広げたブカレシタ周辺の戦況が描かれた地図を見つめながらため息をつく。エイジスは隣にふよふよといつも通り浮きながら、レーダーで検知した解析結果を述べてくれていた。
シューロウ高地からの追撃戦で大勝利を収めた後、妖魔帝国軍はこちらから見ても正しい対処を取った。
主戦線の相手たる法国軍が消耗しているのを知っているからこそ巧みに戦線を後退させる英断を下したんだ。しかも大胆にこれまで得た奪還地全てを捨ててブカレシタ周辺に立てこもる手法。まるで総指揮官が変わったんじゃないかと思えるほどに鮮やかな後退だった。
これに対して、二カ国軍に法国軍を合わせた多国籍軍は再び前進。法国は補充と休息、可能性は低いとはいえ半島南部への妖魔帝国軍強襲上陸対策に全軍を配置させ、二カ国軍と比較的損害の少なかった法国軍のいくつかの師団でブカレシタを半包囲しつつあった。
これらの行動を取り始めたのは、僕達二カ国軍の物資弾薬の補給などが完了し態勢を整えた八の月下旬。ブカレシタの半包囲を始めたのが八の月末。ブカレシタから西の郊外にある衛星都市のような町に布陣した妖魔帝国軍と交戦したのが9の月初頭で結果は僕達の勝利。
だけど、敵は端から本気で戦うつもりはなく損害を抑えてブカレシタに撤退しブカレシタ東部の補給ラインが生き残っているのを活用して長期戦へと僕達を巻き込んでいった。
それが、今日の状態になるわけだ。
「ブカレシタの南北には幅一キーラ近い川。これが西に窪んだ所にあるのがブカレシタ。南北と西は川を天然の要塞としていて、東側は要塞に相応しい防備。ブカレシタの都市自体の規模が大きいから備蓄もたんまり貯め込んでいるだろうし、川に沿って敵軍が配置されているから完全包囲は手間も手間。そして、東からは続々と補給がなされていて空爆してもそろそろ相手も手慣れてきているからか効果は限定的。ううん、やっぱり長期戦だなあ。下手すれば年越しにもなりかねない……」
「あらあら随分と難しい顔をしているわね、旦那様」
「あー、リイナ。お疲れ様。抱え込んでるそれは?」
ずっと地図とにらめっこしていていい加減頭が疲労してきていたからしかめっ面をしていると、そこへリイナが部屋に入ってくる。エイジスは礼儀正しくスカートの裾を両手で摘んでお辞儀をしていた。
労いの言葉をかける時に、彼女が何か紙袋を持っていたから僕は何なのかを聞いた。
「王都からの差し入れよ。アナタが戦地で頑張ってるからって、お得意様のお店から色々届いているわ」
「お得意様? ってもしかして!?」
「ええ、洋菓子店よ。旧市街地中央通りからは保存の利くクッキー詰め合わせ、シュートリテン通りのお店からはコーヒーにぴったりのラスク。他にも色々あるわ。魔法で長期保存可能かつ味も落ちないようにしてあるって。オーナー達からの励ましのメッセージカードもあるわよ」
「やった! 嬉しいなあ。前もそうだっだけれども、戦地だと甘味不足に陥りやすいからね。ちょうど甘いものが欲しかったんだよー」
「ならこの辺りで一度休憩にしましょ? ずっと考え込んでいたら精神的に疲れが溜まっちゃうわ」
「リイナ様に同意。マスターは定例報告会議から帰った後から今まで論理思考に心身のエネルギーを費やしており、一旦休息が必要と考えます」
「エイジスもこう言っているのだから休憩ね。もっとも、休憩中でもアナタは軍務に関係する事を考えているでしょうけど」
「あはは……、見透かされてるね。でも、休憩はちゃんとするよ。少なくともブカレシタについてはまた後か明日にでも回すかな」
「そうしなさいな。旦那様、飲み物は何がいいかしら?」
「もう夜だし、ハーブティーにしようかな」
「ハーブティーね。私も、もう夜だから同じものにするわ」
「いつもごめんよ、リイナ」
「構わないわ。好きでやっているのだもの。アナタがしてくれる事もあるのだから気にしないで」
「うん、ありがとう」
しばらくすると、ハーブティーのいい香りが漂い始める。これも王都からの差し入れ品で、いつも別邸へ定期的にハーブティーの葉を届けに来てくれるお店からのものなんだ。
夜も深くなってくるといくら9の月とはいえ先月に比べると気温は低くなりつつあるし前世の日本より蒸し暑さはないから、リラックス効果もあるホットハーブティーが欲しくなるんだよね。
「はいどうぞ。熱い内にめしあがれ」
「ありがと、リイナ」
リイナが執務机にハーブティーの入ったティーカップとソーサーを置くと、彼女は僕の隣に座る。リイナはマイティーカップを指三本で持つと、一口飲む。ほぅ、と息をつく。
「いつ飲んでも美味しいわね。心が落ち着くわ」
「クッキーとの相性もばっちしだし、ううううん、疲れが解されるうー」
「ふふっ、旦那様ったら今背骨が凄い音出してたわよ?」
「さっきまで座りっぱなしだったからね……。それでも、リチリア島の事を思えばこうして過ごせてるだけずっとマシだよ」
「リチリア島ねえ。開戦から一週間以上経過したけれど、よく耐えているみたいじゃない。総指揮官はラットン中将閣下がとても評価していたフィリーネ少将閣下。包囲下にあってもこれだけ善戦しているのは前評判通りよね」
「本日届いた報告によれば、損害比率は妖魔帝国軍側の方が大きく、ワタクシも興味を抱く人物とかんじています。マスター」
リイナは遠くリチリア島の地で今も戦いを繰り広げているフィリーネ少将の事を賞賛する。エイジスがこう言うくらいだから、いかにフィリーネ少将が秀でているかが分かるね。
リチリア島防衛戦。
第二次妖魔大戦開戦から一年半が経過しようとしているこの大戦において、初の島嶼防衛戦が行われているリチリア島防衛戦は劣勢の協商連合軍と法国軍が緊密な連携を取りながら、未だに島の二割を制圧されたのみだった。あと二十日と少しもすれば艦隊と救援の陸軍が到着する。今ここにいる僕達多国籍軍の軍人は、これならばリチリア島を守り抜けるだろうと考えていた。
自分と同じような点が多い、妙に親近感を覚えるフィリーネ少将。彼女が実践した戦い方に、僕は一種の予測をしていた。それはどうやら、例えば僕がリチリア島防衛戦指揮官だったとしたらという話を聞いていたリイナも似た意見を持っているようで。
「フィリーネ少将閣下のやり口、まるで旦那様みたいよね。準備段階から初日の戦い方、現状に至るまでアナタが指揮官だったと仮定した際の采配とほぼ同じ手を使っているもの」
「僕もびっくりだよ。まさか、こんなにも同一のやり方をするとは思わなかった。防衛戦とはいえ戦力の出し惜しみをしない。火力を集中ささて初撃で大きく相手にダメージを与える。けれど、兵も物資も弾薬も、不必要な分まで使わずにそこは温存させる。そして、三日前の夜間奇襲。アレだけは流石に、フィリーネ少将本人が先陣を切るなんてとこまで僕は予想してなかったけど」
「SSランク召喚武器の双剣を手に、フィリーネ少将閣下だけで三個小隊相当を討ったそうよ。その姿は鬼気迫る無双だったって。鬼気迫るというよりかは」
「まるで狂気に憑かれた、彼女を昔から知っている味方以外はそう思うだろうね。この資料で想像は容易かったよ」
「乱発は出来ない、曰く付きよねえ……」
「特異中の特異に部類する召喚武器さ」
僕にしてもリイナにしても、フィリーネの召喚武器の真実を知っている幕僚達はこの戦いにおいて一つの懸念があった。
それはSSランクの中でも上位に入る強さを誇るフィリーネ少将の武器が、代償があるからこその強さである部分なんだ。
フィリーネ少将の召喚武器の双剣、『コールブラック・カーシーズ』は呪いの武器と言っても差し支えがない。一度抜剣すれば鬼神のように戦える。が、戦える故に使用者に強烈な負担をかけ帰られぬ狂気へと陥れかない。長時間の使用、連続使用は禁物。資料にあったこの世界における『諸刃の剣』に相当する表現は言葉通りってわけ。
だから僕は心配していた。
転生者である僕のような思考を持つ、もしかしたら同じ転生者かもしれない彼女が禁忌に全身を染めなければ状態に置かれたとしたら。例えば、妖魔帝国軍にこの代償を察知されて利用されたとしたら。
きっと、いいや間違いなく協商連合どころか人類諸国にとっての逸材が一人は破滅し死へと誘われることになる。って。
となると、僕に出来ることと言えばブカレシタから彼女と、リチリア島で戦う将兵の無事を祈るくらいだった。
「リチリアについては、彼女と防衛軍に任せる他ないよ。主よ、どうか彼女等を守りたまえってさ」
「私達は私達で、目の前にいる妖魔帝国軍と戦わないといけないものね」
「そういうこと」
僕は少し冷めてしまったハーブティーを口につけて、クッキーを食べ、自身の果たすべき軍務に集中しようと思考を切り替えようとする。
すると、エイジスが僕の執務室の扉の方を見ていた。
「マイマスター。慌てた様子で走る連絡将校の反応を検知。こちらに向かっています。自動人形の発言としては変かもしれませんが、嫌な予感がします」
「こんな夜更けに慌てて走る……。僕の部屋に?」
「はい、マスター」
「心構えしておいた方が良さそうね……。エイジスの予感が外れてほしいけれども」
「恐らく、否定。同様に慌ただしい様子の反応複数。目的地の推定は、マーチス大将やリットン中将など」
エイジスの言葉に、僕とリイナは表情を険しくする。
外で騒ぎは起きていない。ということはブカレシタとその周辺で異変があった訳では無い。
ということはすなわち。
ふつふつと湧いてくる可能性は、どんどんと高まっていく。
そして。
「よ、夜遅く失礼致しますアカツキ少将閣下リイナ大佐!」
「ひとまず落ち着いて。扉を閉めて」
「は、はっ!」
入ってきたのは若い女性魔法能力者の士官だった。彼女に呼吸を整えさせるよう言うと、しばら、彼女が深呼吸したのを確認して僕は、
「それで、要件は?」
「緊急連絡です。情報確認に手間取り、本日夜の報告が今魔法無線装置で届きまして……。――リチリア島、シャラクーシ防衛線が……、崩壊しました」
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる