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第10章 リチリア島の戦い編
第2話 リチリアを守る法国軍指揮官と毒舌副官
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・・2・・
午後1時40分
リチリア島東部・キャターニャ市キャターニャ港付近
フィリーネ達協商連合陸軍が一部を除いて続々と上陸したのはリチリア島東部の主要都市、キャターニャ市である。
キャターニャ市は人口約六万三千人で、平時であれば風光明媚なリチリア島の街として有名な市だ。港も街も、後背にある高地もとにかく自然が美しい。まさに休養地に最適で、故に観光地としても有名な場所であった。
ただし今は事情が違う。どうやらこの島に残っている法国軍の指揮官はそれなりに優秀なようで、自分達協商連合軍が上陸する随分前から防衛陣地の構築を市民も含めて盛んに行われていた。
しかしフィリーネはそれらを港付近で見やりながら、これがどれだけ使えるかについては懐疑的であった。まったく使えない訳では無いが、おそらくキャターニャ市の景観は敵の艦砲射撃によりすべからく失われるであろうからだ。
ただし彼女はそれ以外の面は評価していた。島の南部は中規模や小規模の漁港がある以外は上陸にはやや不向きであるし、事前に調べた結果高地には沿岸要塞がいくつもある。妖魔帝国軍がどれだけリチリア島を調べているかは定かではないが、恐らくここを上陸地点としては選ばないだろうと考えた。あったとしても、陽動程度だろうと。
対して、キャターニャ市の南南西にある地は砂浜海岸であった。戦時でなければ大いに海水浴客で賑わうであろうここは師団クラスを上陸させるにはもってこいの地形であり、また北上すれば平地とそこに位置するキャターニャ市がある。だからフィリーネは自分が妖魔帝国軍ならばこの地から上陸して制圧を始めるだろうと考え、既に幾つも方策を巡らせていた。
彼女は軍務じゃ無ければのんびりリチリア島の自然を楽しむのだけれどとは思いつつ、出迎えを受けていた。
フィリーネ達――海軍指揮官のコーンウェル少将は上陸と荷降ろしの指示で不在。代わりに彼の副官、ロート大佐が同行――協商連合陸海軍を迎えたのは、リチリア島に残った法国陸軍一個師団と各沿岸要塞等の砲兵部隊を管轄する指揮官の師団長だった。
「ロンドニウム協商連合からはるばる法国最南部リチリア島まで来てくれたよ。本当にありがとう。僕がこの島にいる法国軍の指揮官、ニコラ・カッショーネだ。階級は少将さ」
指揮官は男性であり階級はフィリーネと同じ少将だった。外見はいかにも優男という感じであるが、悪く言えば頼りなさそうにも感じられた。年齢は五十代半ば。少将という地位は恐らく彼の最終階級になるであろうから、きっと出世に貪欲ではないかそれだけの才能が無いかのどちらかだろう。フィリーネは後者気味に考えていた。
彼女は内心は出さずにいつものように外向けの口調で、
「こちらこそ出迎え感謝しますわ、ニコラ少将。私はフィリーネ・リヴェット。今回貴方達と合同でリチリア島を防衛する事になった協商連合陸軍二個師団を率いる指揮官よ。階級は同じく少将。これから暫くの間、よろしくお願いね」
「フィリーネ少将の評判は法国でもよく耳にしているよ。とても美人で、軍人として輝かしい才能をお持ちの方ともね」
「ありがとう、ニコラ少将」
「とんでもないよ。こちらが礼を言っても足りないくらいなのだから。本来ならば僕達法国軍がやらなきゃいけないのに、君達協商連合軍に手助けをしてもらわないといけないのだからさ……」
申し訳なさそうに、低い腰で話すニコラ少将に対してフィリーネは不安になった。仮にもリチリア島という要衝を全任されている指揮官が、予めパーソナルデータを調べていたとはいえこんなにも頼りないとは思わなかったからだ。これからの起きる事態を考えるのならば、耐えられる人物とは思えなかったから。
当然そんな素振りをフィリーネは見せない。彼女はデータでは分からない彼を知るために話題を出した。
「ニコラ少将。私は知っているので質問するけれど、どうして貴方はこの島に残ったかしら? 確か、もう一人の師団長は私達が援軍として来るのが決定し、引き抜きがあるのが判明した時点で即時に島から旧東方領への異動を志願したそうじゃない。貴方も同じように志願出来たのでは?」
「恥ずかしい話だけど、僕は気が弱くて自己主張が苦手な性格だと自覚しているんだ。だから気付いた頃にはもう一人の師団長がとっくに願いを出した頃でね……」
「ああ、そういう……」
ここまでの彼の発言からして、フィリーネは失望に近い感覚を覚えたがそれはひとまず保留した。ニコラ少将が続きを話すようだったからだ。顔つきも頼りないなりに、強くあろうとしていた。
「でもね、僕は端からこの島を離れるつもりは無かったよ」
「あら。それはどうして?」
「僕はこれでも軍人だ。五十四にもなって少将だから、出世競争からも取り残されている。でも、軍人の責務は果たしたいんだ。もしリチリア島が奪われれば本土南部が脅かされるだけでなく、南方植民地との交易ルートは遮断される。君達協商連合も困るし、何より中継地としても成り立っているリチリア島としても許すべき事ではないよ。それにリチリア島が失陥すれば次はこの海の西側が危ない。南方植民地大陸と本国大陸を結ぶ全ての交易ルートは機能しなくなるかもしれないだろう?」
「ええ。確かに」
「あとね、これはとても個人的な話なんだけど……」
「構わないわ。仰って?」
「ありがとう。――リチリア島はね、僕の故郷なんだ。故郷を妖魔帝国軍に奪われるなんて絶対に嫌だ。本音を言えば、これが一番かな」
ニコラ少将は少し恥ずかしそうに、頬をかいてそう言った。
聞いたフィリーネは、この男に対する評価を上方修正した。協商連合の情報部は優秀であるが、やはり対面して接してみないと分からない事もあると改めて思った。
頼りない? 出世競争から残された人物?
とんでもない。これほどまでに軍人らしい軍人はいないだろうと思った。フィリーネは自身の前世からして愛国心を持てないからその点の理解は余り出来なかったけれど、少なくともリチリア島で防衛戦をするにあたって不足な人物ではないと判断した。
同時になるほど、とも思った。彼が現れた時に士官や兵士達が彼を馬鹿にする様子はどこにも無くて、むしろある程度は敬意を評しつつ自分達が支えてやろうという雰囲気を感じたのはこれが理由なのだとも。
だからフィリーネも、彼女の副官であるクリス大佐も、そしてここにいる協商連合陸海軍の士官達もニコラ少将に対して一定の敬意を持って接する事に決めた。
「素晴らしい考えよ、ニコラ少将。私は貴方を一人の軍人として尊敬するわ」
「そ、尊敬だなんてとんでもない! 僕なんて、貴方のような大した人物じゃないのだから……」
「いいえ、立派な指揮官よ。今の話を聞いてそう思わない人はいないわ」
フィリーネが微笑んで言うと、協商連合陸海軍の軍人達は頷く。法国軍の軍人達はいかにも自分達が褒められたような様子で誇らしげに笑んでいた。
「そ、そうかな。ありがとう」
「どういたしまして」
「そうだ。立ち話する余裕はあまり無いし早速司令部へ案内しようかな。戦いになれば変えるけれど、今はキャターニャ市の市庁舎を使っているんだ。街を案内がてら行こう。僕が指示して戻るまでの間は代理をさせてる副官もそこにいるから」
「ええ、よろしく」
フィリーネ達がいるのはキャターニャ港からすぐの場所。市庁舎はそこから徒歩で二十五分ほどの所にあった。各所では一般市民の避難も同時進行されており、彼等は戦いが始まってから後方になるであろう反対側の都市、タレルモへ向かおうとしていた。
この時ニコラ少将は、避難を指示したんだけれど、どうにも一緒に戦うと言うことを聞かない志願者が多くてね。と話した。
さらにこうも言った。
男のうち半分は志願したけれど、とても武器と弾薬が間に合わなくてね。三割は受け入れることにしたんだ。残りは防衛陣地構築の作業を任せた。女性や老人、子供は最優先で避難させるつもりだけど一部は手伝うと言うことを聞かなくてねえ……。僕は市民まで大勢巻き込みたくないから、困ったものだよ。
ニコラ少将は苦笑いをしていた。
フィリーネは彼の発言に対して、皆故郷を守りたいからそうしたいのよ。と言いつつ、それは貴方のような人物だからだとも思っていた。随分と慕われているじゃないとも。
さて、現況の司令部にフィリーネ達が到着するとすぐに司令室に招かれた。そこには彼の副官である三十代後半の、いかにも頭脳明晰という感じの男性軍人。階級は大佐であった。
「やあ、テオドーロ大佐。協商連合陸海軍の人達を連れてきたよ」
「お疲れ様です、ニコラ少将閣下。初めまして、協商連合陸海軍の方々。私はイリス法国陸軍陸軍第二十一神聖師団師団長の副官、テオドーロ・バルドリーニです」
「初めまして、テオドーロ大佐。ご存知だとは思うけれど、私がフィリーネでこっちは副官のクリス大佐よ。こちらは海軍のロート大佐。彼はコーンウェル少将が上陸等の指示で忙しいから代理で来ているの」
「ロートです。ウチの司令官はドタバタしてるので、自分が代わりです。今後は連絡役もしますのでよろしくお願いします」
「フィリーネ少将閣下、クリス大佐、ロート大佐。我々法国軍に手を貸して下さりありがとうございます。また、我が国のお粗末な上層部をどうかお許しください。我々もかなり辟易としておりまして、あの豚共は無知の癖にいけしゃあしゃあと口ばっかり出してきやがって……、失礼しましたつい本音が」
「ふふっ、はははははっ! 切れ味の鋭い発言につい笑っちゃったわ。ニコラ少将、貴方の副官は相当毒舌のようね。でも、気に入ったわ」
テオドーロ大佐はフィリーネに負けず劣らずの口の悪さを見せる。フィリーネは腹を抱えて笑い、クリス大佐は耐えかねて吹き出していた。ロート大佐も声に出して笑っていた。
対して上官であるニコラ少将は自分も同感だからか否定こそしなかったが、部下の口の悪さに対して苦笑だった。
「彼は非常に優秀な軍人なんだけど、見かけによらず口が凄く悪くてね。正論だから僕も止める気は無いけれど、本土にいた頃はヒヤヒヤさせられたものだよ……」
「いいじゃない。協商連合人の私が言うのは内政干渉だけど、あいつらがいなかったらもっとマシに戦えていると思っているもの。今回だってまさにそうでしょう?」
「フィリーネ少将閣下に同意です。上は連合王国どころか協商連合の足まで引っ張っているのですよ。プライドばかり高いだけの口出し無能野郎共がごねたせい二カ国が予定していたスケジュールを大幅遅延。協商連合外務大臣を激怒させた挙句、果てには旧東方領を支えるために引き抜いて、自分達ではどうにも出来ないからとこのようにフィリーネ少将閣下達協商連合にお越し頂いているのですから……。政治の皺寄せはいつも我々軍人に来るのはたまったもんじゃありませんよ」
「清々しいまでに正論ね。法国軍にも優秀な軍人はいるけれど、トップがあのザマだもの。だけど、私は法国首脳部と貴方達は別と切り離して考えているわ。リチリア島は法国の島だけど、同時に人類諸国にとって重要な島でもあるでしょ。だったら私達協商連合軍は貴方達法国軍と緊密に連携を取って守ってみせるわ。その為に様々な策を考えてきて、武器弾薬も豊富に揃えたわ。もちろん、私の国の外務大臣が言った通り、高くつくけれどね?」
「本当にありがとうございます。ならば、現況をお伝え致しましょう。ニコラ少将、私が説明してもよろしいですか?」
「うん、どうぞ。僕は許可を出すだけで基本的には君に任せてあるんだし」
「はっ。では、こちらの地図をご覧下さい。リチリア島における我々の現在の防衛陣地構築や沿岸要塞である砲台など全て載っております」
テオドーロ大佐の案内でフィリーネ達はリチリア島の現況が書かれた地図が置かれている大きなテーブルに横並ぶ。
進捗状況などを彼が説明すると、彼はフィリーネに意見を求めた。
すると、フィリーネはこういった。
「悪くはない。けれど、この水際作戦は得策ではないわね」
午後1時40分
リチリア島東部・キャターニャ市キャターニャ港付近
フィリーネ達協商連合陸軍が一部を除いて続々と上陸したのはリチリア島東部の主要都市、キャターニャ市である。
キャターニャ市は人口約六万三千人で、平時であれば風光明媚なリチリア島の街として有名な市だ。港も街も、後背にある高地もとにかく自然が美しい。まさに休養地に最適で、故に観光地としても有名な場所であった。
ただし今は事情が違う。どうやらこの島に残っている法国軍の指揮官はそれなりに優秀なようで、自分達協商連合軍が上陸する随分前から防衛陣地の構築を市民も含めて盛んに行われていた。
しかしフィリーネはそれらを港付近で見やりながら、これがどれだけ使えるかについては懐疑的であった。まったく使えない訳では無いが、おそらくキャターニャ市の景観は敵の艦砲射撃によりすべからく失われるであろうからだ。
ただし彼女はそれ以外の面は評価していた。島の南部は中規模や小規模の漁港がある以外は上陸にはやや不向きであるし、事前に調べた結果高地には沿岸要塞がいくつもある。妖魔帝国軍がどれだけリチリア島を調べているかは定かではないが、恐らくここを上陸地点としては選ばないだろうと考えた。あったとしても、陽動程度だろうと。
対して、キャターニャ市の南南西にある地は砂浜海岸であった。戦時でなければ大いに海水浴客で賑わうであろうここは師団クラスを上陸させるにはもってこいの地形であり、また北上すれば平地とそこに位置するキャターニャ市がある。だからフィリーネは自分が妖魔帝国軍ならばこの地から上陸して制圧を始めるだろうと考え、既に幾つも方策を巡らせていた。
彼女は軍務じゃ無ければのんびりリチリア島の自然を楽しむのだけれどとは思いつつ、出迎えを受けていた。
フィリーネ達――海軍指揮官のコーンウェル少将は上陸と荷降ろしの指示で不在。代わりに彼の副官、ロート大佐が同行――協商連合陸海軍を迎えたのは、リチリア島に残った法国陸軍一個師団と各沿岸要塞等の砲兵部隊を管轄する指揮官の師団長だった。
「ロンドニウム協商連合からはるばる法国最南部リチリア島まで来てくれたよ。本当にありがとう。僕がこの島にいる法国軍の指揮官、ニコラ・カッショーネだ。階級は少将さ」
指揮官は男性であり階級はフィリーネと同じ少将だった。外見はいかにも優男という感じであるが、悪く言えば頼りなさそうにも感じられた。年齢は五十代半ば。少将という地位は恐らく彼の最終階級になるであろうから、きっと出世に貪欲ではないかそれだけの才能が無いかのどちらかだろう。フィリーネは後者気味に考えていた。
彼女は内心は出さずにいつものように外向けの口調で、
「こちらこそ出迎え感謝しますわ、ニコラ少将。私はフィリーネ・リヴェット。今回貴方達と合同でリチリア島を防衛する事になった協商連合陸軍二個師団を率いる指揮官よ。階級は同じく少将。これから暫くの間、よろしくお願いね」
「フィリーネ少将の評判は法国でもよく耳にしているよ。とても美人で、軍人として輝かしい才能をお持ちの方ともね」
「ありがとう、ニコラ少将」
「とんでもないよ。こちらが礼を言っても足りないくらいなのだから。本来ならば僕達法国軍がやらなきゃいけないのに、君達協商連合軍に手助けをしてもらわないといけないのだからさ……」
申し訳なさそうに、低い腰で話すニコラ少将に対してフィリーネは不安になった。仮にもリチリア島という要衝を全任されている指揮官が、予めパーソナルデータを調べていたとはいえこんなにも頼りないとは思わなかったからだ。これからの起きる事態を考えるのならば、耐えられる人物とは思えなかったから。
当然そんな素振りをフィリーネは見せない。彼女はデータでは分からない彼を知るために話題を出した。
「ニコラ少将。私は知っているので質問するけれど、どうして貴方はこの島に残ったかしら? 確か、もう一人の師団長は私達が援軍として来るのが決定し、引き抜きがあるのが判明した時点で即時に島から旧東方領への異動を志願したそうじゃない。貴方も同じように志願出来たのでは?」
「恥ずかしい話だけど、僕は気が弱くて自己主張が苦手な性格だと自覚しているんだ。だから気付いた頃にはもう一人の師団長がとっくに願いを出した頃でね……」
「ああ、そういう……」
ここまでの彼の発言からして、フィリーネは失望に近い感覚を覚えたがそれはひとまず保留した。ニコラ少将が続きを話すようだったからだ。顔つきも頼りないなりに、強くあろうとしていた。
「でもね、僕は端からこの島を離れるつもりは無かったよ」
「あら。それはどうして?」
「僕はこれでも軍人だ。五十四にもなって少将だから、出世競争からも取り残されている。でも、軍人の責務は果たしたいんだ。もしリチリア島が奪われれば本土南部が脅かされるだけでなく、南方植民地との交易ルートは遮断される。君達協商連合も困るし、何より中継地としても成り立っているリチリア島としても許すべき事ではないよ。それにリチリア島が失陥すれば次はこの海の西側が危ない。南方植民地大陸と本国大陸を結ぶ全ての交易ルートは機能しなくなるかもしれないだろう?」
「ええ。確かに」
「あとね、これはとても個人的な話なんだけど……」
「構わないわ。仰って?」
「ありがとう。――リチリア島はね、僕の故郷なんだ。故郷を妖魔帝国軍に奪われるなんて絶対に嫌だ。本音を言えば、これが一番かな」
ニコラ少将は少し恥ずかしそうに、頬をかいてそう言った。
聞いたフィリーネは、この男に対する評価を上方修正した。協商連合の情報部は優秀であるが、やはり対面して接してみないと分からない事もあると改めて思った。
頼りない? 出世競争から残された人物?
とんでもない。これほどまでに軍人らしい軍人はいないだろうと思った。フィリーネは自身の前世からして愛国心を持てないからその点の理解は余り出来なかったけれど、少なくともリチリア島で防衛戦をするにあたって不足な人物ではないと判断した。
同時になるほど、とも思った。彼が現れた時に士官や兵士達が彼を馬鹿にする様子はどこにも無くて、むしろある程度は敬意を評しつつ自分達が支えてやろうという雰囲気を感じたのはこれが理由なのだとも。
だからフィリーネも、彼女の副官であるクリス大佐も、そしてここにいる協商連合陸海軍の士官達もニコラ少将に対して一定の敬意を持って接する事に決めた。
「素晴らしい考えよ、ニコラ少将。私は貴方を一人の軍人として尊敬するわ」
「そ、尊敬だなんてとんでもない! 僕なんて、貴方のような大した人物じゃないのだから……」
「いいえ、立派な指揮官よ。今の話を聞いてそう思わない人はいないわ」
フィリーネが微笑んで言うと、協商連合陸海軍の軍人達は頷く。法国軍の軍人達はいかにも自分達が褒められたような様子で誇らしげに笑んでいた。
「そ、そうかな。ありがとう」
「どういたしまして」
「そうだ。立ち話する余裕はあまり無いし早速司令部へ案内しようかな。戦いになれば変えるけれど、今はキャターニャ市の市庁舎を使っているんだ。街を案内がてら行こう。僕が指示して戻るまでの間は代理をさせてる副官もそこにいるから」
「ええ、よろしく」
フィリーネ達がいるのはキャターニャ港からすぐの場所。市庁舎はそこから徒歩で二十五分ほどの所にあった。各所では一般市民の避難も同時進行されており、彼等は戦いが始まってから後方になるであろう反対側の都市、タレルモへ向かおうとしていた。
この時ニコラ少将は、避難を指示したんだけれど、どうにも一緒に戦うと言うことを聞かない志願者が多くてね。と話した。
さらにこうも言った。
男のうち半分は志願したけれど、とても武器と弾薬が間に合わなくてね。三割は受け入れることにしたんだ。残りは防衛陣地構築の作業を任せた。女性や老人、子供は最優先で避難させるつもりだけど一部は手伝うと言うことを聞かなくてねえ……。僕は市民まで大勢巻き込みたくないから、困ったものだよ。
ニコラ少将は苦笑いをしていた。
フィリーネは彼の発言に対して、皆故郷を守りたいからそうしたいのよ。と言いつつ、それは貴方のような人物だからだとも思っていた。随分と慕われているじゃないとも。
さて、現況の司令部にフィリーネ達が到着するとすぐに司令室に招かれた。そこには彼の副官である三十代後半の、いかにも頭脳明晰という感じの男性軍人。階級は大佐であった。
「やあ、テオドーロ大佐。協商連合陸海軍の人達を連れてきたよ」
「お疲れ様です、ニコラ少将閣下。初めまして、協商連合陸海軍の方々。私はイリス法国陸軍陸軍第二十一神聖師団師団長の副官、テオドーロ・バルドリーニです」
「初めまして、テオドーロ大佐。ご存知だとは思うけれど、私がフィリーネでこっちは副官のクリス大佐よ。こちらは海軍のロート大佐。彼はコーンウェル少将が上陸等の指示で忙しいから代理で来ているの」
「ロートです。ウチの司令官はドタバタしてるので、自分が代わりです。今後は連絡役もしますのでよろしくお願いします」
「フィリーネ少将閣下、クリス大佐、ロート大佐。我々法国軍に手を貸して下さりありがとうございます。また、我が国のお粗末な上層部をどうかお許しください。我々もかなり辟易としておりまして、あの豚共は無知の癖にいけしゃあしゃあと口ばっかり出してきやがって……、失礼しましたつい本音が」
「ふふっ、はははははっ! 切れ味の鋭い発言につい笑っちゃったわ。ニコラ少将、貴方の副官は相当毒舌のようね。でも、気に入ったわ」
テオドーロ大佐はフィリーネに負けず劣らずの口の悪さを見せる。フィリーネは腹を抱えて笑い、クリス大佐は耐えかねて吹き出していた。ロート大佐も声に出して笑っていた。
対して上官であるニコラ少将は自分も同感だからか否定こそしなかったが、部下の口の悪さに対して苦笑だった。
「彼は非常に優秀な軍人なんだけど、見かけによらず口が凄く悪くてね。正論だから僕も止める気は無いけれど、本土にいた頃はヒヤヒヤさせられたものだよ……」
「いいじゃない。協商連合人の私が言うのは内政干渉だけど、あいつらがいなかったらもっとマシに戦えていると思っているもの。今回だってまさにそうでしょう?」
「フィリーネ少将閣下に同意です。上は連合王国どころか協商連合の足まで引っ張っているのですよ。プライドばかり高いだけの口出し無能野郎共がごねたせい二カ国が予定していたスケジュールを大幅遅延。協商連合外務大臣を激怒させた挙句、果てには旧東方領を支えるために引き抜いて、自分達ではどうにも出来ないからとこのようにフィリーネ少将閣下達協商連合にお越し頂いているのですから……。政治の皺寄せはいつも我々軍人に来るのはたまったもんじゃありませんよ」
「清々しいまでに正論ね。法国軍にも優秀な軍人はいるけれど、トップがあのザマだもの。だけど、私は法国首脳部と貴方達は別と切り離して考えているわ。リチリア島は法国の島だけど、同時に人類諸国にとって重要な島でもあるでしょ。だったら私達協商連合軍は貴方達法国軍と緊密に連携を取って守ってみせるわ。その為に様々な策を考えてきて、武器弾薬も豊富に揃えたわ。もちろん、私の国の外務大臣が言った通り、高くつくけれどね?」
「本当にありがとうございます。ならば、現況をお伝え致しましょう。ニコラ少将、私が説明してもよろしいですか?」
「うん、どうぞ。僕は許可を出すだけで基本的には君に任せてあるんだし」
「はっ。では、こちらの地図をご覧下さい。リチリア島における我々の現在の防衛陣地構築や沿岸要塞である砲台など全て載っております」
テオドーロ大佐の案内でフィリーネ達はリチリア島の現況が書かれた地図が置かれている大きなテーブルに横並ぶ。
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