上 下
139 / 390
第9章『春の夜明け作戦』編

第4話 第一〇一特務魔法旅団「アカツキ旅団」の初陣

しおりを挟む
 ・・4・・
 6の月10の日
 午前11時20分
 キシュナウ中心街から北5キーラ・市街地北部近郊地点
 第2方面軍最前線・連合王国軍第5師団前線司令部


 アルヴィンおじさん達、第一方面軍が予定より若干の遅延が発生していたもののダボロドロブを攻略している中、僕達第二方面軍もキシュナウ攻略戦を始めて約二週間が経過した。
 郊外に展開していた魔物軍団は補給が充実している点にものを言わせて圧倒的な火力を投射する事で理想的にドクトリンを現実するかの如く押し潰して壊滅へと追い込んだ。少数が理由は不明だけれど、洗脳が解ける魔物がいたけれど代償として廃人のようになっており、捕虜にしても仕方ない程酷い有様だからとやむなく射殺をせざるを得なかった。
 いくら魔物とはいえ無抵抗な敵を殺すのには抵抗がある。これらを担当した兵への精神的負担を鑑みて一旦後方へ下げて対処し、今は一次予備を前線へと投入して市街戦に突入していた。
 実は市街戦に突入する前、再度投降を促すビラを撒いたけれど効果は思ったより良くなかった。
 連日の空爆と士気の低下によって耐えかねた妖魔帝国軍の一部の部隊は隊長格の自己判断で投降をしてきたのだけれど、よりにもよって投降した味方を殺害しようとした敵部隊とこちらの部隊が各所で戦闘に突入したからだ。
 結局、この一連の戦闘で捕虜になるはずだった敵兵の一部は後ろから撃たれる事になり死亡、射撃中止を厳命していたこっちも死傷者が発生してしまったので戦闘再開せざるを得なかった。前世でもどこかの国が同じような事をしたのを思い出したけれど、これも戦争だ。どうしようもない。
 さて、僕はというと、攻略戦における計画に則ってもう一つの立場であるアカツキ旅団の旅団長として旅団を伴い、副官のリイナとエイジスと共に最前線である第六師団野戦司令部で戦況を見守っていた。

 「アカツキ少将、想定はしていたがこの市街戦は厄介であるな……」

 「ええ。地上のみであればまだ楽なのですが敵は冬の間に地下道もそれなりに構築したようですからね。ダボロドロブより手こずるハメにはなっています」

 第六師団の師団長であるジェイソン中将は黒煙が立ち上り絶え間なく銃声と砲声が響くキシュナウ市街地北中部を見つめながら言う。
 彼の言うように、キシュナウ市街戦はジトゥーミラと違う様相を呈していた。敵軍が瓦礫と化した市街地だけでなく地下にも立てこもって頑強な抵抗をしているからだ。しかも昼夜を問わずの決死の攻撃なのだから現場の兵達は気が休まる時がない。
 でも、こちらだってやられっぱなしな訳がない。対策は既に講じてあった。

 「とはいえ、アカツキ少将や参謀本部の立案した手法のお陰で対処は出来ているようであるな。地上に対しては連隊単位で管理が大変だが戦闘地域からの要請だけでなく、我らが女神のエイジスが敵を捕捉。魔法無線装置で後方のカノン砲や野砲部隊による砲撃や、召喚士攻撃隊の空爆によって吹き飛ばしている」

 「地下に籠る敵に対しても出入口や通気口の場所が判明すれば当該箇所に持続系火属性魔法を放射。もしくは小型で威力を落とした魔石を発破して地下道そのものを潰して対処しています。これにより、市街地北部から北中部の地下道はかなりを破壊出来ましたし順調に浸透しているかと」

 「妖魔軍からしたらまさに悪夢よね。地下でなら戦えるかと思ったらそれを逆手に取られて閉所に対して火炎放射を浴びせられ、たまらず逃げ出したら今度は銃撃が待ち受けているもの。地上だって安全じゃないわ。空からは爆弾や砲弾の雨が降り注ぐのだもの」

 ジトゥーミラ・レポートや偵察などによって精密な地図が作成されたキシュナウ市街戦においても、前世の知識が役に立った。
 地上に関してはこれまでの経験の蓄積を応用している。現場やエイジスのレーダーの特定などにより砲爆撃が必要な地点の座標を後方の砲兵部隊や召喚士攻撃隊部隊へ連絡して逐次支援砲爆撃を実行。それが終われば歩兵が突入して該当地区を制圧するという手法を取っている。ただでさえ兵器の世代間格差があるというのに、情報通信分野でも不利に陥っている敵軍に対しては非常に効果的だった。限定的ではあるものの、この戦い方は本世界においては先進的であるからだ。
 地下に対しても容赦はしない。持続系火属性魔法は前世で例えるならば火炎放射器だ。あの兵器はトーチカや地下壕に対してかなり有効だったけれど、それはここでも同じだった。
 通常の火属性魔法に比べて消費魔力が大きいので使い方には注意しなければならないけれど、それは使用可能時間が限られている前世の火炎放射器も同様だ。火炎放射器を持つ兵の役目を果たす魔法能力者には護衛を付けた上で、敵がいる地下道や通気口に対して放射。これによって地下に籠っていた敵兵は丸焼けにされるか、運良く生存して地上へ逃げ出しても次に待っているのは待機していた歩兵部隊による掃討だ。
 既存の技術や魔法を兵器として体系化させた結果、キシュナウ市街戦は敵の持久戦の思惑を見事に打ち破っていて、 敵の残存兵力は魔物軍団が僅か二万に、魔人編成兵力も二万を既に切っていた。
 次々と入る地区の制圧。だけど、敵も手強く抵抗を続けていた。

 「キシュナウ北中部シュフェト地区に展開中の連隊から応援要請有り! 比較的高練度の魔人編成部隊、推定三個大隊の攻撃が激しく侵攻停止とのこと!」

 「真っ直ぐ進めば、まだ存在していれば敵の司令部に通じる地区だからね。予想通りの展開、か」

 「ということは、旅団の投入かしらね」

 「おお、かのアカツキ旅団の投入か!」

 「はい。この時の為の第一〇一特務魔法旅団です。旅団麾下二個連隊の内、一個連隊を投入します。そして、事前の作戦通り我々がシュフェト地区を制圧しこじ開けて突出部を形成。さらに我々の東西にいる部隊に挟み撃ちにするように攻勢を仕掛けてもらいます」

 「うむ! それならば一挙に複数地区を制圧出来るな! すぐさま該当する部隊に連絡をしよう!」

 「あとはよろしくお願いします、ジェイソン中将閣下」

 「万事任せたまえ!」

 「リイナ、僕達も動こうか」

 「了解よ」

 「エイジス、シュフェト地区とその周辺を重点的にレーダー観測を」

 「サー、マイマスター」

 僕とリイナ、エイジスは師団司令部からすぐそこに控えている第一〇一特務魔法旅団麾下第一連隊――この旅団にはもう一つ第二連隊隊があるけれど、不測の事態対処の為の予備として待機させてある――の兵達がいる場所へ向かう。そこには開戦以来頼りにしているアレン大尉達の大隊もいた。
 第一連隊連隊長は三十代半ばで魔法能力者としてはがっしりとしている体格の男性、ウィンザー大佐だ。元々は中央統合軍の王都駐屯師団所属で、魔法能力者ランクはA-と旅団の中でも高い人物なんだよね。
 彼は僕達に気付くと、即行動と言動に移す。

 「連隊傾注! アカツキ少将閣下ご到着だぞ!」

 アレン大尉達にしても、選抜されたよりすぐりだからウィンザー大佐の言葉にすぐに反応。見る者を感心させる整列と、模範的な敬礼を行う。
 僕は答礼すると表情をさらに引き締めて、いつもより声音を低くして演説を始める。

 「第一連隊、二千三百名の諸君。ついに初実戦、初の栄光を打ち立てる機会がやってきた。これより本部隊は、敵軍推定三個大隊の抵抗が激しいシュフェト地区へと向かう。当該地区には約千五百の味方が交戦中だが、相手が魔人だけに侵攻が止められてしまっているらしい。だけど、我々ならたかだか三個大隊なんて敵じゃないだろう? ウィンザー大佐、何故だと思う?」

 「はっ! 何故ならば、我々は栄光ある連合王国軍陸軍の精鋭、第一〇一特務魔法旅団だからであります!」

 「その通りだ、ウィンザー大佐。僕達は精鋭無比の選ばれし者。諸君達には魔法があり、小さな野砲でもある魔法銃を持っている。つまり、諸君等一人一人が野砲並みの火力を持っているわけだ。だったら負けるはずがないよね?」

『その通りであります、アカツキ少将閣下ッッ!!』

 味方の士気を極限まで高める為に、僕は不敵な笑みを皆に見せる。連隊の兵士達は僕の思惑通り、獰猛な笑顔を現して返答する。自分達が連合王国軍魔法能力者の中でも選ばれた者であること、生産数が未だ少ない魔法銃を持っていること、何よりこの旅団に所属しているのを誇りにしているのが顔つきからもよく表れていた。

 「アカツキ少将閣下、我々にはもう二つ負けない要素があります!」

 「へえ、それは一体なんだいアレン大尉?」

 「一つはアブソリュートを手に持ち、魔人共を凍てつかせるリイナ大佐がおられること! もう一つはアカツキ少将閣下がおられることです!」

 「その通り! 我々にはアカツキ少将閣下とリイナ大佐がおられる!」

 「アカツキ少将閣下の召喚武器、自動人形のエイジス殿もおられるぞ! 神の瞳に等しき彼女の前に、魔人共の抵抗なぞ無意味!」

 「然り! 我々は栄光ある連合王国陸軍第一〇一特務魔法連隊なり!」

 アレン大尉には事前の打ち合わせで今の発言をしてもらうよう言っておいたけれど、効果は覿面だった。余程でもない限りは心折られない、屈強な部隊がそこにあった。
 僕とリイナは互いに顔を見合わすと頷き、僕は声を張り上げる。

 「であるのならば諸君達の果たすべきは一つ! シュフェト地区にて未だ抵抗を続ける魔人部隊の僅かに残った希望を打ち砕け! そして、我々がキシュナウ市街地北中部から中部に至る突破口を作り出せ! 総員、行動開始せよ!」

『うおおおおおおおお!!!!』

 六の月十の日の午後二時半。
 第一〇一特務魔法旅団にとっての初戦闘はこの直後に開始された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

僕とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】僕とシロの異世界物語。 ボクはシロ。この世界の女神に誘われてフェンリルへと転生した犬のシロ。前回、ボクはやり遂げた。ご主人様を最後まで守り抜いたんだ。「ありがとう シロ。楽しかったよ。またどこかで……」ご主人様はそう言って旅立たっていかれた。その後はあっちこっちと旅して回ったけど、人と交われば恐れられたり うまく利用されたりと、もうコリゴリだった。そんなある日、聞こえてきたんだ、懐かしい感覚だった。ああ、ドキドキが止まらない。ワクワクしてどうにかなっちゃう。ホントにご主人様なの。『――シロおいで!』うん、待ってて今いくから…… ……異世界で再び出会った僕とシロ。楽しい冒険の始まりである………

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない

鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン 都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。 今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上 レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。 危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。 そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。 妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

俺とシロ(second)

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】只今再編集中です。ご迷惑をおかけしています。m(_ _)m ※表題が変わりました。 俺とシロだよ → 【俺とシロ(second)】 俺はゲン。聖獣フェンリルであるシロのお陰でこうして異世界の地で楽しく生活している。最初の頃は戸惑いもあったのだが、シロと周りの暖かい人達の助けを借りながら今まで何とかやってきた。故あってクルーガー王国の貴族となった俺はディレクという迷宮都市を納めながらもこの10年間やってきた。今は許嫁(いいなずけ)となったメアリーそしてマリアベルとの関係も良好だし、このほど新しい仲間も増えた。そんなある日のこと、俺とシロは朝の散歩中に崩落事故(ほうらくじこ)に巻き込まれた。そして気がつけば??? とんでもない所に転移していたのだ。はたして俺たちは無事に自分の家に帰れるのだろうか? また、転移で飛ばされた真意(しんい)とは何なのか……。 ……異世界??? にてゲンとシロはどんな人と出会い、どんな活躍をしていくのか!……

処理中です...