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第7章一冬(ひとふゆ)の戦間期と祝福の結婚披露宴編

第1話 帰還と謁見と

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10の月26の日
アルネシア連合王国王都・アルネセイラ
王城・謁見の間に続く大廊下

 ジトゥーミラの戦いを終えて僕とリイナは東部領を経ち、本国ワルシャーへ到着したのは二十二の日。翌二十三の日には鉄道でノイシュランデへ向かい、予定通り実家であるノースロード家の屋敷へ一日滞在した。
 戦争に行った僕のことをとても心配していた父上や母上、お爺様と久しぶりにゆっくりと話せたのは嬉しかった。リイナも僕の両親やお爺様と話す機会は中々無いから色々と会話を楽しみ、特に母上としたみたい。
 休息も取れた翌日の昼には再び鉄道でノイシュランデを経ち、その日の宵の内にアルネセイラへ到着。無事、居宅になっている王都別邸へと戻ってこれた。実に二ヶ月振りの自宅だ。使用人達は怪我も無く帰還した僕とリイナを笑顔で出迎えてくれた。特にレーナは滅多に見せない満面の笑みだった。
 翌二十五の日は戦地で疲れているだろうと一日別邸で過ごす事が出来た。この日はマーチス侯爵とリイナの母で侯爵の奥さんであるソニア夫人が帰還祝いに訪れてくれた。わざわざ時間を空けておいて来てくれたというのだから本当に有難いし嬉しい事だと感じたかな。
 そうそう。ノイシュランデでは小さいながらも凱旋パレードがあったのは予定の通りだったけれど、王都到着の際には僕とリイナの先んじての帰還を聞きつけて大勢の市民達から大歓迎で迎えられたんだよね。
 大規模な凱旋パレードはアルヴィンおじさん達の帰還と合わせて行われてそこには僕も参加する予定だけど、報道では最前線に立ち勝利に大貢献した参謀長として紹介されていたらしく、僕とリイナにアレン大尉達の大隊だけにも関わらずお祭り騒ぎみたいになっていた。この後に控える凱旋パレードはもっと凄いことになるんだろうなと実感したものだ。
 とまあ、ここまではまだ非常に驚くような物事は起きていなかったんだ。
 ところが二十五の日の夕方前に届いた知らせは流石にたまげてしまった。それが、今僕とリイナがいる場所の理由だったりするわけで……。

 「まさか王都へ帰ってきた翌日に陛下との謁見なんて予想してなかったよ……」

 「私もびっくりしたわ……。二十六の日の午後から王城に出向き、エルフォード陛下が望んでおられたから謁見せよだなんてね」

 「僕達のスケジュールを知った上で、陛下は今日を待っていたんだって」

 「推測。エルフォード陛下はマイマスターやリイナ様の話を伺いたいのではないのでしょうか」

 「アカツキ准将、リイナ中佐。驚かせてしまったようで申し訳ない。そもそも先んじて帰還せよというのが王命であるのだ。どうもエイジスの言う通りアカツキ准将とリイナ中佐には色々と聞きたい事があるようで」

 僕とリイナが突然の謁見に驚いていた事を話していると、同行している宮内大臣が謝罪をする。顔を合わせた時は頬を緩ませて戦勝を祝ってくれたけれど、今はいつもの生真面目さに戻っていた。
 僕にリイナと同行しているエイジスは、戦場組では日常と化していたけれど王城内ではまだ珍しさのあるふよふよと浮遊しながら移動する姿を見せながら、無表情で推測を述べる。

 「ジトゥーミラの戦いは大勝利ではありますが、今後を憂慮する案件も発生しましたから……」

 「かのレポートについては陛下も熟読されておる。間違いなく聞かれるだろうから心しておくように」

 「はい。ご助言ありがとうございます」

 「さ、謁見の間だ。陛下は既に玉座に座られておる。軍服の襟は、……二人に言うのは愚問であったな」

 僕達が既に軍服を整えていたのを確認すると、宮内大臣は衛兵に大扉を開けさせると。

 「エルフォード陛下、アカツキ准将リイナ中佐到着致しました」

 「うむ、待っておったぞ! 通せ」

 模範的な一礼をする宮内大臣に続き、僕とリイナは軍隊式の敬礼を行う。エイジスも僕達のように敬礼をした。

 「良くぞ帰ってまいったぞアカツキにリイナよ! 本日は非公式の謁見故、堅苦しくはしなくても良い。それが証拠に宮内大臣と余以外誰もおらぬであろう? よって膝も付けずともよい。前へ来い」

『はっ。失礼致します』

 今年で七十二となったエルフォード陛下は老いを感じさせないハリのある声で言い、僕とリイナは前へと進む。指定された位置はいつもより陛下と近い距離だった。威厳に満ちた雰囲気に、さしものリイナも少し緊張しているようだ。

 「まずは無事に帰還し余の下へ参上したこと、祝いの言葉を贈ろうぞ。アカツキ、リイナよ。良くやった! 大勝利である!」

 「恐悦至極でございます、エルフォード陛下。妖魔軍の策略により不測の事態が起きてしまいましたが現場の将兵が一丸となった結果、この度も勝利を掴むことが出来ました」

 「アカツキよ、そちなら此度の戦いも我が国を勝利に導いてくれると確信しておった。妖魔共が戦争を仕掛けてまだ半年も経っておらぬが、そちは我が国にとって、世にとっても欠かせぬ者であると思うておるぞ」

 「身に余る光栄であります、陛下」

 「うむうむ! 続いてリイナ・ノースロードよ。そちは妻としてだけでなく副官としても良くアカツキを支えておったと耳にしておる。戦場での活躍は戦乙女そのものともな。余は麗しく献身的で、戦場で舞い輝かしい武勲を持つお主のような忠臣がいること、誇りに思うぞ」

 「過分なる評価を頂き、大変嬉しい思いです。エルフォード陛下」

 「謙遜せずとも良いぞリイナ・ノースロード。余は真実を語ったのみであるからの。父であるマーチスもさぞ喜んでおろう」

 「無事帰ってこれた事を、安堵しておられました」

 「はっはっはっ! 奴は軍人らしく厳しいが、娘に甘いからの! じゃが、子を持つ親とはそういうものよ」

 「はっ。その通りにございます」

 「そして、至高の召喚武器が一つ。いや、一人であるな。エイジスよ、そちの活躍も余は聞いておる。アカツキの盾であり矛であるお主は、同時に兵達をも守護する者であったそうだな。ようやった。今後も益々の活躍を期待しておるぞ」

 「はい、エルフォード陛下。マスターの為、この国の為、全力でサポートをしていく所存でございます」

 僕やリイナだけでなく、召喚武器のエイジスにもお褒めの言葉をかけられるエルフォード陛下。それはきっと、エイジスを一人の人間と同じように扱っているからなんだろう。
 勝利の報告でもあるから比較的和やかな雰囲気の中で、戦場での出来事を話していく僕達。しかし、やはりあの話になると陛下の表情も少し険しくなった。

 「――して、アカツキよ。例の文書集、ジトゥーミラ・レポートであったか。お主やリイナ、アルヴィンやルークスなど多くの者が捕虜にした妖魔軍の魔人から聞き出した話は非常に興味深く、また心憂うものであった。そちが捕虜を手厚く扱うよう進言したのは、著しく不足しておった妖魔帝国の情報を多く得た意味で正解であったと思うたが、しかし事は深刻でもあると感じたが……。お主はどう思う?」

 「どう思う、でありますか……」

 「うむ。連合王国軍でも秀でた頭脳と先見の妙を持つそちであれば、既に戦争の行く先の予測は立てておろう? 故に、余はお主を先んじて帰還させたのだ。無論、アカツキに続き話を聞いておったリイナも同じである。予め言うておくが、包み隠さず正直に申せ。ここには余と余が信頼しておる口の固い宮内大臣とお主らしかおらん。それ以外には誰も聞いておらぬ」

 「…………失礼ながら陛下。これよりお話致しますのは、決して楽観視出来ない、むしろ厳しいものになりますがそれでもよろしいでしょうか?」

 陛下が正直に話せと言うのであれば、事の判明からまだ日が浅いとはいえ現状での見立てを述べる事は可能だ。けれど、それはこの国にとっても人類諸国にとっても芳しい話ではない。だから僕は前置きとして陛下にこう言ったんだ。

 「構わぬ。今現在におけるそちの推論でも良い。余はお主らの考えが聞きたいのだ」

 「…………畏まりました。それでは、今後の戦争の行く末をお伝え致します」

 「…………うむ。この戦争、これからどうなるとお主の瞳は捉えておる?」

 「――畏れ多くも陛下。第二次妖魔大戦は我々の予測を大幅に超える長期戦、終わりなき泥沼と化す可能性が高いと私は考えます」
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