上 下
105 / 390
第7章一冬(ひとふゆ)の戦間期と祝福の結婚披露宴編

第1話 帰還と謁見と

しおりを挟む
・・1・・
10の月26の日
アルネシア連合王国王都・アルネセイラ
王城・謁見の間に続く大廊下

 ジトゥーミラの戦いを終えて僕とリイナは東部領を経ち、本国ワルシャーへ到着したのは二十二の日。翌二十三の日には鉄道でノイシュランデへ向かい、予定通り実家であるノースロード家の屋敷へ一日滞在した。
 戦争に行った僕のことをとても心配していた父上や母上、お爺様と久しぶりにゆっくりと話せたのは嬉しかった。リイナも僕の両親やお爺様と話す機会は中々無いから色々と会話を楽しみ、特に母上としたみたい。
 休息も取れた翌日の昼には再び鉄道でノイシュランデを経ち、その日の宵の内にアルネセイラへ到着。無事、居宅になっている王都別邸へと戻ってこれた。実に二ヶ月振りの自宅だ。使用人達は怪我も無く帰還した僕とリイナを笑顔で出迎えてくれた。特にレーナは滅多に見せない満面の笑みだった。
 翌二十五の日は戦地で疲れているだろうと一日別邸で過ごす事が出来た。この日はマーチス侯爵とリイナの母で侯爵の奥さんであるソニア夫人が帰還祝いに訪れてくれた。わざわざ時間を空けておいて来てくれたというのだから本当に有難いし嬉しい事だと感じたかな。
 そうそう。ノイシュランデでは小さいながらも凱旋パレードがあったのは予定の通りだったけれど、王都到着の際には僕とリイナの先んじての帰還を聞きつけて大勢の市民達から大歓迎で迎えられたんだよね。
 大規模な凱旋パレードはアルヴィンおじさん達の帰還と合わせて行われてそこには僕も参加する予定だけど、報道では最前線に立ち勝利に大貢献した参謀長として紹介されていたらしく、僕とリイナにアレン大尉達の大隊だけにも関わらずお祭り騒ぎみたいになっていた。この後に控える凱旋パレードはもっと凄いことになるんだろうなと実感したものだ。
 とまあ、ここまではまだ非常に驚くような物事は起きていなかったんだ。
 ところが二十五の日の夕方前に届いた知らせは流石にたまげてしまった。それが、今僕とリイナがいる場所の理由だったりするわけで……。

 「まさか王都へ帰ってきた翌日に陛下との謁見なんて予想してなかったよ……」

 「私もびっくりしたわ……。二十六の日の午後から王城に出向き、エルフォード陛下が望んでおられたから謁見せよだなんてね」

 「僕達のスケジュールを知った上で、陛下は今日を待っていたんだって」

 「推測。エルフォード陛下はマイマスターやリイナ様の話を伺いたいのではないのでしょうか」

 「アカツキ准将、リイナ中佐。驚かせてしまったようで申し訳ない。そもそも先んじて帰還せよというのが王命であるのだ。どうもエイジスの言う通りアカツキ准将とリイナ中佐には色々と聞きたい事があるようで」

 僕とリイナが突然の謁見に驚いていた事を話していると、同行している宮内大臣が謝罪をする。顔を合わせた時は頬を緩ませて戦勝を祝ってくれたけれど、今はいつもの生真面目さに戻っていた。
 僕にリイナと同行しているエイジスは、戦場組では日常と化していたけれど王城内ではまだ珍しさのあるふよふよと浮遊しながら移動する姿を見せながら、無表情で推測を述べる。

 「ジトゥーミラの戦いは大勝利ではありますが、今後を憂慮する案件も発生しましたから……」

 「かのレポートについては陛下も熟読されておる。間違いなく聞かれるだろうから心しておくように」

 「はい。ご助言ありがとうございます」

 「さ、謁見の間だ。陛下は既に玉座に座られておる。軍服の襟は、……二人に言うのは愚問であったな」

 僕達が既に軍服を整えていたのを確認すると、宮内大臣は衛兵に大扉を開けさせると。

 「エルフォード陛下、アカツキ准将リイナ中佐到着致しました」

 「うむ、待っておったぞ! 通せ」

 模範的な一礼をする宮内大臣に続き、僕とリイナは軍隊式の敬礼を行う。エイジスも僕達のように敬礼をした。

 「良くぞ帰ってまいったぞアカツキにリイナよ! 本日は非公式の謁見故、堅苦しくはしなくても良い。それが証拠に宮内大臣と余以外誰もおらぬであろう? よって膝も付けずともよい。前へ来い」

『はっ。失礼致します』

 今年で七十二となったエルフォード陛下は老いを感じさせないハリのある声で言い、僕とリイナは前へと進む。指定された位置はいつもより陛下と近い距離だった。威厳に満ちた雰囲気に、さしものリイナも少し緊張しているようだ。

 「まずは無事に帰還し余の下へ参上したこと、祝いの言葉を贈ろうぞ。アカツキ、リイナよ。良くやった! 大勝利である!」

 「恐悦至極でございます、エルフォード陛下。妖魔軍の策略により不測の事態が起きてしまいましたが現場の将兵が一丸となった結果、この度も勝利を掴むことが出来ました」

 「アカツキよ、そちなら此度の戦いも我が国を勝利に導いてくれると確信しておった。妖魔共が戦争を仕掛けてまだ半年も経っておらぬが、そちは我が国にとって、世にとっても欠かせぬ者であると思うておるぞ」

 「身に余る光栄であります、陛下」

 「うむうむ! 続いてリイナ・ノースロードよ。そちは妻としてだけでなく副官としても良くアカツキを支えておったと耳にしておる。戦場での活躍は戦乙女そのものともな。余は麗しく献身的で、戦場で舞い輝かしい武勲を持つお主のような忠臣がいること、誇りに思うぞ」

 「過分なる評価を頂き、大変嬉しい思いです。エルフォード陛下」

 「謙遜せずとも良いぞリイナ・ノースロード。余は真実を語ったのみであるからの。父であるマーチスもさぞ喜んでおろう」

 「無事帰ってこれた事を、安堵しておられました」

 「はっはっはっ! 奴は軍人らしく厳しいが、娘に甘いからの! じゃが、子を持つ親とはそういうものよ」

 「はっ。その通りにございます」

 「そして、至高の召喚武器が一つ。いや、一人であるな。エイジスよ、そちの活躍も余は聞いておる。アカツキの盾であり矛であるお主は、同時に兵達をも守護する者であったそうだな。ようやった。今後も益々の活躍を期待しておるぞ」

 「はい、エルフォード陛下。マスターの為、この国の為、全力でサポートをしていく所存でございます」

 僕やリイナだけでなく、召喚武器のエイジスにもお褒めの言葉をかけられるエルフォード陛下。それはきっと、エイジスを一人の人間と同じように扱っているからなんだろう。
 勝利の報告でもあるから比較的和やかな雰囲気の中で、戦場での出来事を話していく僕達。しかし、やはりあの話になると陛下の表情も少し険しくなった。

 「――して、アカツキよ。例の文書集、ジトゥーミラ・レポートであったか。お主やリイナ、アルヴィンやルークスなど多くの者が捕虜にした妖魔軍の魔人から聞き出した話は非常に興味深く、また心憂うものであった。そちが捕虜を手厚く扱うよう進言したのは、著しく不足しておった妖魔帝国の情報を多く得た意味で正解であったと思うたが、しかし事は深刻でもあると感じたが……。お主はどう思う?」

 「どう思う、でありますか……」

 「うむ。連合王国軍でも秀でた頭脳と先見の妙を持つそちであれば、既に戦争の行く先の予測は立てておろう? 故に、余はお主を先んじて帰還させたのだ。無論、アカツキに続き話を聞いておったリイナも同じである。予め言うておくが、包み隠さず正直に申せ。ここには余と余が信頼しておる口の固い宮内大臣とお主らしかおらん。それ以外には誰も聞いておらぬ」

 「…………失礼ながら陛下。これよりお話致しますのは、決して楽観視出来ない、むしろ厳しいものになりますがそれでもよろしいでしょうか?」

 陛下が正直に話せと言うのであれば、事の判明からまだ日が浅いとはいえ現状での見立てを述べる事は可能だ。けれど、それはこの国にとっても人類諸国にとっても芳しい話ではない。だから僕は前置きとして陛下にこう言ったんだ。

 「構わぬ。今現在におけるそちの推論でも良い。余はお主らの考えが聞きたいのだ」

 「…………畏まりました。それでは、今後の戦争の行く末をお伝え致します」

 「…………うむ。この戦争、これからどうなるとお主の瞳は捉えておる?」

 「――畏れ多くも陛下。第二次妖魔大戦は我々の予測を大幅に超える長期戦、終わりなき泥沼と化す可能性が高いと私は考えます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...