異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第6章『鉄の暴風作戦』

第13話 捕虜となった妖魔軍指揮官から出たとある単語

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・・13・・
同日
午後七時四十五分
連合王国別働軍司令本部テント付近

 北ジトゥーミラの戦いは非常に短期間で終わり、午後五時を過ぎた頃には処理へ移っていた。戦いが終わっても、僕達に休息が訪れる訳ではない。多数の戦後処理が待っているんだ。
 まず、今回の戦闘で発生した妖魔軍の死傷者約三万六千五百。それらの死体の腐敗による感染症発生予防措置としての焼却処理。
 対して、連合王国軍の死傷者は三百五十。勇敢に戦い死んだ戦友には腐敗防止の氷属性魔法を、負傷者には治療が施されていく。重傷者に関してはすぐさま後送が決定された。
 ジトゥーミラ市街戦の指揮を執るアルヴィンおじさん達には戦果報告をした。この報に本軍は大歓喜。これで戦いにも終止符を打てるだろうと返信があった。
 確かにその通りではある。けれど、もう一つ行った報告についてはアルヴィンおじさんから曖昧な返答をされた。
 内容はこんな感じだ。

『戦闘行動の末に発生した妖魔軍捕虜(内訳:魔人百二十一名、魔物五百二十三体。他、魔人魔物双方の負傷者)に関しては、現場指揮官アレゼル中将及びアカツキ准将にひとまず一任とし、翌日以降総司令部でも待遇について会議す』

 北ジトゥーミラの戦いは連合王国軍にとって初経験の事象があった。それが捕虜なんだ。
 例えば、前世であれば捕虜に関する取り扱いの条約はハーグ陸戦条約やジュネーブ条約で条文化されていて一応はそれに則った扱いがなされていた。
 この世界でも人類諸国間であれば、かなり昔――第一次妖魔大戦前と、戦後百年経過しての二件のみだけど――になるけれど領土の小競り合いなどで発生した捕虜については相互確認がされていて、慣習国際法のような形として存在はしている。
 だけど、妖魔軍女性指揮官が言ったように妖魔帝国と連合王国の間には捕虜の取り扱いに関する条約が存在しない。そもそも妖魔帝国と連合王国には国交も無いのだから条約なんてある訳がないんだ。
 だから捕虜を得た直後から僕にしてもアレゼル中将にしても困っていた。
 相手は戦争をふっかけてきて、先の大戦では大勢の同胞を殺した魔人と魔物。二百五十年経過したとはいえ恨みなどは言い伝えられているし、恐れられている。特にエルフ達は寿命の関係で世代交代が遅いから人間よりそれが強かった。多くのエルフ達の先祖が前の大戦で亡くなっており、アレゼル中将も曽祖父と祖母を亡くしているらしい。
 なので僕はひとまず魔人と魔物を別々に収容した上でその監視には自分の大隊を付けるという処置をしておいた。
 そして、今から会うのは妖魔軍の若く見える女性指揮官とその副官だった。二人は厳重に監視されたテントに隔離されている。

「アカツキくん。正直なとこさ、わたしは気が乗らないんだけど……」

「我慢してください、アレゼル中将閣下。エルフの方々の心境は察してはいますが、貴女は指揮官です。副指揮官の私だけではダメなのはお分かりでしょう?」

「そうだけどさあ……」

「アレゼル中将閣下、私からもどうか」

「リイナちゃんにまで言われると、ううん……。仕方ないか……」

 アレゼル中将は精神的疲労を表情に出しながら、渋々と了承する。僕の隣をふよふよと浮くエイジスは喋らずに黙ったままだ。口を挟むつもりはないらしい。
 彼女がこうなっているのは、多少の無理を頼んだからだ。
 現在別々に収容されている魔人や魔物には食糧を与えること。負傷した者には適切な治療を施すこと。私刑による射殺や拷問などはもってのほか。厳罰に処す。
 これらをアレゼル中将の名において別働軍全体に布告したんだ。
 捕虜に関しては文句は出なかったものの、敵軍に対して厚遇すぎやしないかというのはやはり批判として出た。何せ敵軍だ。当然だろう。特にエルフ達は露骨に顔に出ていた。
 それらをアレゼル中将はこう言って落ち着かせたんだ。

「わたし達は栄光ある連合王国軍の将兵だよ。戦った末に武器を捨て無抵抗になった敵に対して虐殺や拷問は名誉を汚す行為。断じてそれらは許さない。これはアカツキ准将の名においても布告されているからね?」

 SSランク武器所有者でツートップの将官の二人がここまで言えば、士官は納得せざるを得ないし、兵達も従うしかない。ようするに勝者の余裕が含まれているとはいえどもアレゼル中将と僕のネームバリューを使って、場を収めたって形になったんだ。
 一応、将兵の間では。

「あの妖魔共にすらも慈悲の心を持たれる優しき将軍達」

「エルフの長たるアレゼル中将閣下が仰るならば我らエルフは従うまで」

「魔人共に殺されかけたあのアカツキ准将閣下がそこまで言うのなら……」

 と、プラスイメージの形で現場には広まっているから大きな混乱は無いけれど、一時は僕もヒヤヒヤさせられたもんだ。
 さて、気乗りのしないアレゼル中将閣下をなんとか妖魔軍指揮官と副官のいる、一個小隊によって監視されているテントまで引き連れると僕達は兵達の敬礼を受けて中に入る。
 テントの中に二人はいた。そこにはテーブルと椅子しかなくて簡素なもので、室内にも監視の兵が五人いた。テーブルには僕が用意させた夕食後のコーヒー。口に合うかどうかは分からないけれど大佐と中佐らしいので相応の待遇でということで彼女等に提供したものだ。
 ちなみに二人には手枷こそ無いものの、首には魔法能力者捕虜向けに使われる魔法を無効化させる首輪を着用させていた。

「アカツキ准将閣下、ですよね……。捕虜に関して、寛大な処置を感謝します。妖魔帝国軍大佐、ダロノワ・フィルソヴァです」

「自分からも……。おじょ、いや、大佐共々このような心遣いありがとうございます……。妖魔帝国軍中佐、チェーホフ・カネフスキーで、あります……」

 二人には当然だけど覇気は無かった。
 ただ、どうやらこのような扱いをされるとは思っていなかったらしく、いくらか安堵も混じっていた。

「降伏勧告の際にも名乗ったけれど、連合王国軍准将のアカツキ・ノースロードだよ。コーヒーはお嫌いだったかな?」

「いえ、妖魔では余り嗜まないもので……。けれど、変わった味ですが美味しいです……」

「当然よ。旦那様の個人所有物のコーヒー豆だもの。私は連合王国軍中佐、リイナ・ノースロードよ。アカツキ准将の妻で、副官でもあるわ」

「…………連合王国軍中将、アレゼル・イザード。貴女達の待遇は私じゃなくて、アカツキ准将が決めたものなの。だから感謝してよね。もしここに彼がいなかったら、きっと妖魔達はこんなにいい扱いなんてされてないんだから」

 アレゼル中将はかなり毒の含んだ言い方をする。こればかりかはどうしようもないから僕もリイナも、エイジスも止めやしなかった。

「存じて、います。わたくし達の先祖がした行いも、此度の戦いも……」

「はっ、良くそんな口が叩けるもんだね。宣戦布告して情けなくボッコボコにされて、わたしエルフからしたらいい気味だよ」

「…………お嬢様は、好んで戦場に立ってはおりませぬ」

「はぁ? じゃあなんだってこんなとこまで来てるのさ。戦争好きの魔人なのに? ウソも大概にしてもらいたいんだけど」

「アレゼル中将閣下、そこまでにしてください。お気持ちは十二分に知っています。が、抑えてください」

「…………ごめん。やっぱり、つい」

「仕方、ないです……。わたくし達は……」

「ダロノワ大佐も卑下するのはそこまでしてもらえるかな。僕が今から行うのは、尋問。ただし、僕の予測でモノを言うけれど、君達のどこかがしてる苛烈な事はしない。今から言う約束さえ守ってくれればね」

「約束、ですか」

「チェーホフ中佐も」

「自分達は虜囚の身。同意する他は、無いでしょう」

「そう。じゃあ尋問の内容について話していくよ」

 それから僕が述べたのは、以下のようなものだった。

 1、これより行う尋問に際し、アレゼル・アカツキ連名による保障で二人に一切の拷問は行わない。

 2、尋問の内容は翌日以降に本格的なものとし本日行うのは、名前・階級・出身地・身分・山脈以西に駐留する妖魔軍のなるべく詳細な情報の持ちうるもの全て。他にも数項目に及ぶ。

 3、なお回答拒否権は存在しない。また、ウソは一切つけない。エイジスによる真偽の判断が行われる。

 4、万が一虚偽を述べた場合には約束の反故とみなし拷問せずの保障を破棄。これらは捕虜とした魔人や魔物にも及ぶ。

 ようするに、今の待遇は保障するけれどウソを言ったらその限りではないよ。という半ば脅しを加えたものだね。条約が結ばれていない国の捕虜としてはまだ比較的穏当な条件だとは思う。真っ先に拷問を行って自白させる国よりは余程マシなものなはずだ。
 だからだろうか。二人は迷いもせずに了承してくれた。

「元よりわたくし達は帰れませんから……」

「むしろ捕虜から解放されて本国へ送還などされた瞬間死ぬでしょうね……」

「だと思った。君達が必死に戦ったのは味方の為という勇敢で立派な目的もあっただろうけど、もっと違う理由があるんだよね? 僕達はそれを察するに十分な情報を得ているんだ」

「ジトゥーミラの、友軍ですか……?」

「正解だよ、ダロノワ大佐。皇帝への怨嗟を最期に口にして死んだ者がいる。粛清、ともね」

 おどおどと聞く綺麗な白髪を持つ魔人、ダロノワ大佐に対して僕は首肯して単語を出した。瞬間、彼女の肩がびくっと揺れて、目が泳ぎ恐怖が滲み出る。

「…………そう、です。粛清、です。そして、魔物達、は、民族浄化、に……」

「民族浄化ですって? どういうことなの?」

 リイナはこの言葉に反応し、眉をひそめた後にダロノワ大佐に問いを投げかける。

「……なるほどね。どうやらわたし自身、貴女達の事を誤解していたみたい。粛清って単語は私も耳にしていたけれど、死ぬ前の気狂いだと思ってた。けど、並々ならない事情があるみたいだね?」

 流石にアレゼル中将もここまで深刻そうな二人の顔つきを見た時点で怒りは引いたらしく、逆に事情を聞きたそうにしていた。

「アレゼル中将閣下。私が妖魔軍の捕虜を取ったのはこの点も含めた話でもあるんです。自分達は妖魔帝国について何も知らなさすぎる。彼等については二百五十年前のものか、最新でも三ヵ月前から始まった戦争の交戦記録しかありません。とにかく情報が不足しています。ここであちらの国内事情を聞いてみませんか?」

「そう、だね。わたしもこのまま帰れなくなっちゃったし」

「リイナ、記録を取っておいて。間違いなく、アルヴィンおじさんどころかマーチス侯爵や国王陛下に通さないといけない話にもなるから」

「分かったわ。筆記具も紙も、用意してあるわよ」

「ありがとう。――それじゃあ、ダロノワ大佐にチェーホフ中佐。今から個人情報を述べた後に、君達の事情を聞かせて欲しい。勿論、ウソは無しの真実を語ってくれないかな?」

「…………分かり、ました」

 それからダロノワ大佐は、悲壮な面持ちでゆっくり、ゆっくりと話をし始めた。
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