異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第5章 新召喚武器召喚編

第12話 「鉄の暴風作戦」作戦概要会議

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・・12・・
8の月9の日
午後3時00分
王都・アルネセイラ
連合王国軍統合本部三階大会議室へ向かう廊下


 前世の日本ならそろそろお盆に入る八の月も中旬に差し掛かるけれど、この世界にはお盆というものは存在していない。平時であれば例えば将官級の軍人には三週間程度の夏期長期休暇があるんだけれど、あいにく今は戦時。ましてや約二週間後には奪還作戦も控えているのに休暇なんてものあるわけがなく、今もアルヴィンおじさんと一緒に三階の大会議室に向かっていた。
 隣を歩くアルヴィンおじさんはというと、既に二度ほどエイジスと会っているはずなのに興味が尽きないようで今も様々な質問をしていた。

「――っていうことはつまりだぞ。お前が感知したモンは全部アカツキの目線の先で確認出来るってことか? それも、数十キーラまでだぞ?」

「肯定。ワタクシが魔力波検知した当該目標は全てマスターと共有されています。魔法能力者ではなくとも微量ながら魔力は体内にありますから、それを探知する形となります」

「何度聴いても神の目に等しいなこいつは……。じゃあ、だ。エイジスが単独で上空から遠距離索敵、そこで得た敵の情報をアカツキに送るのも可能なんだよな? 時速百キーラで飛べるんだから何かあっても緊急離脱だって出来るだろ?」

「肯定しますが、適切な運用法から逸脱する為結果否定します」

「なぜだ?」

「ワタクシは所有者支援自動人形であり、自衛火力はマスターを支援する初級魔法のみです。最大攻撃可能数は百二十八であるので、余程強力な敵が出現しない限りは防衛行動ないし応戦可能ですが、必ずしも無事でいられる保証はありません。また、ワタクシの本分はあくまでもマスターの支援であり、マスターが望まない限りは大きく離れての単独行動は致しません」

「アルヴィンおじさん、エイジスは他のSSランク召喚武器に比べると攻撃火力はかなり低いです。四極将軍の方々の召喚武器の威力を思えばご理解頂けるかと」

「そりゃまあ、な」

「ですが、支援に特化しているだけあって非常に心強い存在であるのに変わりはありませんし、目に見えない敵を感知しうるのは計り知れない優位を作り出します。初級魔法とはいえ火力は十二分にありますし、僕が魔法を行使する際には消費魔力を半減させてくれますから。それにエイジス行使の魔法と僕の行使する魔法は別枠で、追尾式魔法の多重目標捕捉もします。なので、瞬間火力では他のSSランク召喚武器に決して引けを取りません」

「なーるほどな。今の話をしてて参謀本部がエイジス一つ、いや一人か。いるだけで戦争が変わるってのを改めて理解したぜ。探知一つ取っても隠密しているつもりが丸裸だなんて、敵からしたらたまったもんじゃないからな」

「そういうことです。――さて、エイジスについてまだ気になる点がありましたらこの後にしましょう。もう到着です」

「おっと。もちっと質問したい事があったから残念だが、こっちが本分だからな。気持ち切り替えていくか」

「ええ。何せこれから大会議室で行われるのは、重要な会議ですから」

 大会議室の大扉の前には警備の兵士が四人、さらには周辺をかためる為に数人の兵士の姿があった。
 兵士達の敬礼を受けて僕達も答礼をすると、部屋の中に入る。
 今からこの会議室で行われるのは、いよいよ間近に迫った『鉄の暴風作戦』の将官級会議だ。
 将官級会議という名の通り、会議には本作戦に参加する全ての准将以上の軍人で、その数は約百名に及ぶ。戦闘に参加する人員だけで十五万人の兵が動員されるんだからそれくらいにはなるわけだね。
 当然これだけの人数が揃っていれば大会議室の中はかなり賑やかしかったけれど、作戦における最高指揮官であるアルヴィンおじさんが入ってきたからか静かになり、続いて敬礼をする。

「隣にいるのは、あれがアカツキ准将と新しい召喚武器のエイジスか?」

「ああ。写真を見た時は女性かと思ったがちゃんと男性なんだな」

「男性にしては随分と背が低い気がするが……。嫁入りしたリイナ中佐の方が大きいのでは? それに自動人形を引き連れていたらまるで少女みたいではないか」

「見た目に騙されてはいけないぞ。准将の二つ名は『師団殺しの参謀』『殲滅軍師』『可憐な顔して爆殺魔』と事欠かさない。それで先月にはSSランクの召喚武器を召喚させてみせたのだ。次は『軍団殺しの人形遣い』になるに違いない」

「だろうな。誠に頼もしいことだ。これなら戦争にも勝てるだろうな。西部の石頭共はまだ若いから不安だとか言っておったが」

「若かったとしても、ルブリフを目の当たりにしてしまえば認めざるを得ないわ。実績を作ったのは確かなのだもの」

「その通り。後方で文句を言うのは容易いが、ヴァネティアの准将のように命を懸けて部下を守るなど簡単には出来まいて」

 ところがどっこい! ヒソヒソ声から聞こえてくるのは全部僕の事でした!
 ところどころの評価はともかく、なんだよ羅列された二つ名の物騒さは! しかもなんで次の二つ名まで決められてるのさ!

「おうおう、アカツキ。大人気じゃねえか」

「噂に尾ひれどころか背びれと胸びれにエラまで付けられた気分ですけどね……」

「それもう噂が泳げるんじゃねえのか? だがルブリフでやった事は全部本当だからな。評価される、注目されるってのはこういうもんだろ」

「ええ……。先月からの取材でだいぶ慣れました……」

「ってと。これじゃあ話も始まらねえしどうすっか」

「僕が声をかけましょうか?」

「おうすまねえな」

「いえ。――総員、改めて傾注を! 『鉄の暴風作戦』最高司令官アルヴィン中将閣下に、敬礼っ!」

 入室の際にもあったけれど、会議開始の合図として改めて敬礼を促す。
 アルヴィンおじさんは答礼をすると。

「二百五十年の間、ほとんど魔人が確認されていないにも関わらず魔物が蔓延っていたからと手を出せなかったかつての領地を奪還する時がやってきた。これから説明するのは、正式に決定され詳細も詰められた貴官等が身を投じる『鉄の暴風作戦』の概要だ。この一戦は魔人に対する反撃の嚆矢こうしとなる。各々、耳にこびり付いてる程聞いているだろうが、もう一度よくよく頭に入れておくようにな。では参謀長のアカツキ准将。概要の説明を頼むぜ」

「はっ。では皆さん、手元の資料をご覧になりながら聞いてください。これより『鉄の暴風作戦』の全体の流れを話していきます」

 僕の役職は参謀長であるから席を立ち、長テーブルに置いてあるグラスに入った水を一口飲んで喉と口を潤した後に口を開く。

「本作戦開始日は八の月二十六の日朝七時に国境を越境し作戦開始となります。ワルシャーまでは鉄道で、以降は徒歩及び軍馬での移動となります。当然越境は全軍で行われますが総勢十五万人に及ぶため、軍は大きく三つに分かれます。先鋒軍がA軍集団、中央が総合前線司令部たるB軍集団、後方軍がC軍集団となり、それぞれ六万、五万、四万です」

 十五個師団を一つの軍として纏めるのは難しい。よって作戦においては三個軍集団に分割して遂行される。それが役目を予め割り振られているA軍集団、B軍集団、C軍集団の計三個軍集団なんだ。

「続けて作戦の手順について説明をします。以下のような予定で行われる予定です」

『鉄の暴風作戦』は次のように行われるんだよね。資料にはこう書いてある。

 1,越境後、旧シュペティウ市方面へ進軍。この際、進路は荒れている可能性が非常に大きいのでまずは工兵隊等による進路啓開を行う。使用可能な場合であればそのまま用いるが、今後の円滑な物資輸送と兵站ラインの為に後方部隊が余裕を鑑みつつ拡幅なども行う。なおシュペティウまでは召喚士飛行隊の限界偵察距離約三百キーラ以内圏内、現国境から約百五十キーラである為精密偵察飛行が完了。現状シュペティウは放置状態である事は確認済みである。

「作戦決行後も偵察飛行は継続しますが、万が一に備えてA軍集団には工兵部隊を含めた六万としました。別の理由もありますが、本日は諸用により不在のアレゼル中将閣下直轄部隊、第六〇一連隊もA軍集団に含まれます。途中からは私も様子を伺いに来ますのでご承知を」

「おお! 六〇一が共にいてくれるのは心強いな!」

「アカツキ准将も来てくれるのか! なにぶん初めてだらけだ。助言があればなんでも言ってくれ参謀長」

「はっ。ご期待に添えられるよう努力致します。説明を再開します――」

 一つ目の段階が順調に終えられればシュペティウ到着だ。作戦は次の段階に移り、以下のように行われる。

 2,シュペティウ到着後、ここを今後の戦争の拠点として整備復興作業を開始。魔人がいた形跡は見られるものの、シュペティウは魔物が跳梁跋扈していた土地で荒れており、とても作戦に耐えられない状態だからである。これらの復興整備は途中数日は全軍で行うが、基本は工兵隊を中心とする。なお、シュペティウには魔人の侵攻があっても耐えうるようC軍集団四万を守備軍として置くものとする。

「――このように多少過剰かもしれませんがシュペティウ市は暫くの間東と南が新規国境線となるため多めにC軍集団全軍を配置にしました。防御の要です。各師団長は復興と並行してお願いすることになります」

「我々が奪還した土地を蘇らせるきっかけとなり、防人さきもりとなるのだ。攻撃ばかりが名誉ではないさ」

「背中は自分達に預けて、魔物共を蹴散らしてきてくれ」

「改めてご理解頂き感謝致します。なお、ここまでが作戦の半分になります。妖魔軍との遭遇の可能性が低いですが、我々の攻勢に反応する場合も有り得るかも知れません。防御陣地の構築などについても」

「任せたまえよアカツキ参謀長。私はルブリフで貴官の活躍を知っているから、貴官を信じていれば安心だと思っているぞ」

「ありがとうございます。では、作戦第三段階について説明をさせていただきます」

 作戦第三段階。第一段階と第二段階が整備や復興に徹するのに対して、こちらは正真正銘の攻勢、妖魔軍との衝突になる。詳細はこんな感じだ。

 3、シュペティウからA軍集団及びB軍集団は旧ジドゥーミラ市方面へ進軍。ジドゥーミラは妖魔軍の北方戦線根拠地となっている事が、限界圏内境界線ではあるものの偵察飛行隊による短時間偵察で確認されている。想定勢力数は約五万五千。北方戦線に絶え間なく援軍が送られているのはこれが原因である。本段階においてはジドゥーミラ方面を拠点とする妖魔軍魔物軍団を撃滅することにより、妖魔軍の戦線を寸断。さらに連邦軍と共同で北方戦線の敵軍を挟撃してこれを殲滅する。

「以上が総仕上げたる作戦第三段階になります。A軍集団・B軍集団の全力を持ち連邦軍と共同作戦を行うことによってこれを叩きます。作戦完了予定日は十の月末。最悪でも十一の月十日までには成功させなければなりません」

「冬がやって来るからな……」

「北部戦線近辺は十一の月中旬には初雪になる。下旬には積雪もし始めるとなれば、それまでには終えたいところだな……」

「アカツキ准将、冬季用装備はどうなっているのだ?」

「そうだ。武器類は十二の月初旬までなら火属性魔法で暖めればなんとでもなるし、厳寒期でも非効率的だが同様の手法で装備の類が動かないということは有り得ない。無論、魔法能力者の魔力を激しく消費するから取りたくない手ではあるが。でも我々はそうはいかんだろう?」

「防寒具や外套(外套)、冬季用軍靴などについては目下生産中でこちらは間に合います。ただ問題がありまして、作戦展開地域先の輸送能力に限度がある為十五万人分の冬季装備が整うのは十一の月中では難しいと思われます。十万人ならばなんとか手配出来ると兵站改革課の元部下が言っていました。十一の月初旬までには作戦を終えたいのはそういうことなのです」

 連合王国内なら全土に広がりつつある鉄道を利用した輸送で迅速に大量に運ぶことができる。だけど、侵攻先は鉄道どころか道路を作り直すか作るかしなければならないような土地だ。参謀本部内では展開地域に仮設鉄道を敷設する案も上がったけれど、いくら裕福な国と言われる連合王国でも国内建設中の分で資材も人員も手一杯だし仮設とは鉄道システムを構築しなければならないからと却下された。
 故に、国境から向こうで行われる輸送は旧来の馬車主体。鉄道に比べれば速度も一度あたりの輸送量も比較にならない程に少ない。武器弾薬の他にも、現地での調達が難しい食糧の輸送は継続して行わないとならない。そうなると防寒具の類は時期が差し迫らない限りは優先度が低いんだよね……。
 本当は自動車とかあるといいんだけどね……。一応民間用はこの夏から出るみたいだけど、軍用として耐えられる水準じゃないから外に持ち出せないんだ……。そもそもまだ大量生産可能な体制でもないしさ……。


「ぐう、鉄道の偉大さを痛感するな……」

「余裕日数を鑑みても二ヶ月半か……。これは何としても作戦を期限内に成功させねばな……」

「達成してみせるさ。我が軍には新しい戦闘教義、複合優勢火力ドクトリンもある。実現させる兵達の練度もだ。であるのならば圧倒的火力で妖魔共なぞ討ち滅ぼしてしまえばいいのだ!」

「そうだそうだ!」

「かつての我が国の領土を奪還する為に!」

「全ては連合王国の為に!」

「国王陛下の為に!」

 会議室内にいた将官達は決して簡単ではない作戦に対して強い意気込みを表明し、全体へと伝播していく。良い空気が醸成されていくのを感じながら僕は頷いて。

「皆さんの心意気は十分伝わりました。入念に準備を進め、士気を高く維持し必ず作戦を成功させましょう。アルヴィン中将閣下」

「おう。この作戦は貴官達一人一人の指揮に成功の可否が懸かっている。東部への移動も含めれば準備期間は残り僅かだが、各々の軍務に励み備えるように!」

『はっ!』

 全員が揃った敬礼を見せ、満足気に首肯するアルヴィンおじさん。
『鉄の暴風作戦』が始まる日はもうすぐそこだ。僕も自分の仕事を最大限やらないとね。この光景は改めてそう思わせてくれるものだった。
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