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第5章 新召喚武器召喚編

第8話 視察だけと思いきや

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 ・・8・・
8の月5の日
午後1時35分
アルネセイラ郊外・陸軍訓練場付近

 八の月に入り五日が経った。ようやく取材なども落ち着いてきたこの日。連合王国ではこの月くらいにしかならない二十五度を越える汗ばむ陽気の中、僕はエイジスを伴ってリイナと一緒に王都郊外にある陸軍の訓練場に馬車で向かっていた。ただし、馬車は僕達の乗るのだけでなく、複数が前後に走っている。
 僕は車内の窓から見える新市街地の景色を眺めながら、時折こちらに気付く市民が手を振るから手を振り返しながらぽつりと呟く。

「こんなにも護衛がいるとは思えないんだけどなあ……」

「今や旦那様は四極将軍改め『五極将軍フィフスジェネラル』の一人になったのだもの。これまでに比べて護衛が格段に増えるのはしょうがないわ」

「とはいえだよ、前後に一台ずつの計二台。さらに騎兵も含めての一個小隊は大袈裟じゃないかな……。しかもこれ全員が魔法能力者の近衛師団部隊からの一部抽出でしょ?」

「それだけ旦那様は要人になったのよ。四極将軍の立ち位置は国にとって至宝だもの。アナタが人をゾロゾロ引き連れるのはあまり好きじゃないかもしれないけれど、諦めた方がいいわよ?」

「慣れるしかないかあ……」

 これから勝手に一人歩きするのも難しくなるのかなあとため息をつく。
 先週木曜日、八の月の初日に連合王国は僕がエイジスを召喚した事により四極将軍の名称を変更し、『五極将軍フィフスジェネラル』とすることを発表した。この発表に関してはSSランク召喚武器が召喚された報道の時点でこうなる事は各新聞社も織り込み済みではあったけれど、それでも滅多にない機会ではあるから大々的に新聞で報じられた。
 軍内でも当然動きがあった。僕が五極将軍の一人となった事で軍務の中で外に出ることがあれば護衛が必須で付くことになる。いくらSSランク召喚武器所有者とはいえ、不測の事態に備えるためだ。
 それが今僕達が乗る馬車の前後にいる人達。陛下の計らいもあって近衛師団から精鋭一個小隊が充てられることになった。
 有難いことではあるんだけれど、窮屈に感じてしまうのはたぶん前世の考え方のせいなんだろうなあ。と僕は苦笑いしながら思う。

「アカツキ准将閣下、間もなく陸軍王都第五練習場に到着致します」

「分かったよ。報告ありがとう」

「はっ」

 馬車の側面がノックされたので、窓を開けると騎兵が馬上からもうすぐ目的地に到着する旨を伝えてくれる。
 僕は礼を述べた後に窓を閉めると、降りる用意を始めた。

「今日はよく晴れているから視察日和になりそうね」

「ちょっと汗をかいてしまうくらいだけどね。この時期はカッターシャツの夏服にしないと暑いくらいだよ」

「私にとって夏は、旦那様の首筋に汗がつたう様が見れて素晴らしいと思っているわ」

「……どうコメントすればいいのかな?」

「恥ずかしがってくれればより高まるわね」

「絶対してやんないぞ……」

「なあんだ、残念」

 相変わらず僕といる時は嗜好を垂れ流しにするリイナ。これでも軍務中はカッコいいんだけどね……。
 僕らにとっては日常と化している会話を終えると、ちょうど馬車が止まる。
 護衛の兵士が扉を開けて敬礼を受けながら降りると、先に広がっていたのは広大な軍の練習場だ。馬車に乗っている時から聞こえていたけれど、外に出ると度々銃声が入ってくる。訓練にかなり力を入れているようだね。
 駐車した付近に半分ほど待機するように護衛の兵士達に言うと、残りの半分である十名を引き連れて僕は多くの兵士達がいる方へ向かう。
 少し歩いているうちに、たぶん大隊規模だろうか。彼等の訓練の様子を見ている女性を見つけた。おお、いたいた。
 僕は目的の人物を発見すると大きな声で。

「アレゼル中将閣下ー! お待たせ致しましたー!」

「おやおや意外と早い到着だったねアカツキくーん!」

 向こうも僕に気付いて振り返り、大きく手を振っていた。
 そう、今日の視察で会いにきたのはエルフの女性、アレゼル中将閣下なんだ。彼女は挨拶をすると、手を団扇のようにしていた。

「にしても今日は気温が高いよねー」

「気象観測予報士によると、最高気温は二十五度から二十八度だそうですよ。夏服が大活躍です」

「分かるよー。ジャケットなんて着てられないよねー。えっと、隣にいる女性ってのがもしかして?」

「お初にお目にかかります。アカツキ准将の副官で、妻のリイナ・ノースロードです」

 リイナは仕事モードに切り替えてアレゼル中将閣下に対して模範的な敬礼を行う。

「あなたがアカツキくんの奥さんなんだね。結構有名だよ。何せマーチス侯の娘だし。そして美人さん。おまけに、胸が大きい……!」

 スレンダーな体系のアレゼル中将はリイナの胸を羨ましそうにじぃっと見つめる。流石のリイナも初対面でのこの反応には戸惑っていた。

「アレゼル中将閣下?」

「ねえ、アカツキくん。奥さんの胸触ってもいいかな?」

「アレゼル中将閣下!?」

 何言ってんのこの人!? そもそも僕に聞かれても困るんだけど!?
 僕は困惑した視線をリイナに送ると、リイナは相手が同性だからだろうあっさりとした口調で。

「男性なら旦那様限定ですが、女性ならいいですよ?」

「え、ほんと!?」

「ええ。どうぞ?」

「うん、じゃあ遠慮なくー」

 僕が唖然とする光景の中、アレゼル中将はリイナの胸をそっと触り掴んだりしておおお、と声を上げて感動していた。
 なんだ、なんだこの光景……。今軍務中だよな……。周りにいる護衛の男性兵士なんて目線を逸らすか息を呑んでるよ……。うん、気持ちはめちゃくちゃ分かる……。
 暫く堪能して満足したのか、アレゼル中将閣下は凄く笑顔になって。

「ありがと! アカツキくん、凄かったよ!」

「そう、ですか……」

「夜もお楽しみになれそうだね!」

「本当に何を言っているんですか中将閣下!」

 いよいよとんでもない発言に護衛の男性兵士が吹き出す。精鋭と名高い近衛師団の兵達もこの空間には耐えられなかったようだね……。

「旦那様とは大変仲睦まじくしておりますので、喜んでもらえていると思います」

「リイナも何言ってんのさ!」

「んふふー、仲のいい夫婦を見られるのは幾つになってもいいもんだねー。さてと、雑談も程々にしておいて視察の方に移ろうかー」

 雑談どころかあなたは人の嫁のおっぱいを揉んでいたんですがそれは……。
 とは相手が相手なので言えないから、僕は声を淀ませながら了解しましたと言い、アレゼル中将が歩く先について行く。

「アレゼル中将って変わった方なのね」

「言葉に困るんだけど、すごく将官らしくないのは確かだよ……」

「そうねえ。でも気さくな方で良かったわ。それで、旦那様も揉む?」

「揉まない!!」

 あったとしてもプライベートだけだよこんな所で出来るかっての……。
 アレゼル中将どころかリイナまで悪ノリが過ぎるから、今は軍務中今は軍務中今は軍務中と僕は心の中で言い聞かせる。
 とても仕事中とは思えないやり取りが連続しているけれど、それも流石にここまで。広大な訓練場にいる兵士達の近くまでつくと、アレゼル中将は彼等に対して。

「連隊第一大隊の諸君、訓練やめー! アカツキ准将と彼の副官リイナ中佐が視察に来たよー!」

「おおっ! 了解しました! 総員、訓練やめ! 整列始め!」

 アレゼル中将の声掛けにすぐさま反応した訓練を指揮していた士官の男性は、部下達に命令をした。
 すると、素早い動きで大隊兵士たち全員が整列を始め、かなり早く隊列が整う。おー、すごいな。近衛師団にも負けない練度じゃないのこれ。

「大隊傾注! アレゼル中将閣下、アカツキ准将閣下、リイナ中佐に敬礼ッ!」

 ザッ、と揃った音と敬礼の動き。見事と言える水準のそれに僕とリイナは答礼をする。
 見渡してみると、気付いた点が一つ。ここにいる大隊の全員はエルフのみで構成されていたんだ。ああ、これが。

「非常に統制の取れた動き、これは凄いですね」

「でしょう? ここにいるのは連合王国陸軍が誇る魔法能力者精鋭部隊の一つ、エルフ族だけで構成された陸軍第六〇一特設魔法連隊の中でも最も練度の高い第一大隊なのさー!」

 第六〇一特設魔法連隊。通称・選抜エルフ連隊。
 連合王国軍どころか諸外国でも軍人ならば誰でも知っているエルフしかいない、全員が魔法能力者で最低B-ランク以上で構成されている連隊だ。その中でも第一大隊は最低でもBランク以上の魔法能力者でBやB+ランクが多く、中にはA-ランクの者もいる。
 連合王国軍でも名高い兵士達が今僕の目の前に並んでいた。

「アカツキ准将閣下、リイナ中佐。本日は御足労頂き、誠にありがとうございます。自分は第一大隊隊長のマンノール・スミスです。階級は少佐。名参謀であり新しき将軍をこの目で見られて光栄に思います。よろしくお願いします!」

 大隊長のマンノール少佐はエルフの定番とも言える美男で、見た目は二十代後半の黄緑色の髪の男性。この人も実年齢は何歳なんだろうとふと思う。

「ささっ、アカツキくんにリイナちゃん自己紹介をー」

「はい、中将閣下」

「了解しましたわ」

 アレゼル中将に促されて、僕は一歩前に立つと。

「マンノール少佐、自己紹介ありがとう。そして大隊諸君。僕の名前はアカツキ・ノースロード。隣にいるのは新しく召喚された召喚武器、自動人形のエイジス」

「エイジスです。マスターの召喚武器であり、所有者支援自動人形です。どうぞお見知り置きを」

 本当の人間のように挨拶をするエイジスに、大隊の兵達からは、おおおおっ、と歓声が上がる。初めてエイジスを見たら皆同じ反応をするのは当然だろう。

「貴官達も知っての通り、僕は五極将軍の一人になり、今月下旬に控えている『鉄の暴風作戦』において参謀長を務めることになった。今回の視察も作戦に参加する貴官達との交流及び訓練の様子を見させてもらう。貴官達には期待しているから、是非その腕を見させてほしいかな。これからよろしくね」

「続けて私が。私はリイナ・ノースロード。アカツキ准将の妻であるけれど、同時に副官でもあるわ。今後、アカツキ准将に要件ある場合は急ぎでない限りは私を通してちょうだい。今日の視察、楽しみにしているわ」

『はっ!!』

 僕とリイナの自己紹介に全員が注目し、一部尊敬の眼差しが注がれる。SSランクの所有者がどういう目で見られるかがよく分かる光景だ。これもそのうち慣れると思うけど。

「はーい! ということで今日は連合王国軍の中でも非常に有名で話題になっている二人が来てくれているから訓練をよーく励むように!」

 朗らかな声でいうアレゼル中将。言葉はそこで終わるかと思いきや、彼女はさらに続ける。

「そして発表が一つ! これからアカツキ准将とわたしが選抜したメンバーで今から模擬戦をしてもらうよー!」

「は? はいいぃぃぃぃ!?」
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