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第4章法国遠征編
第17話 療養の為の帰還命令
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・・17・・
「ル、ルークス少将閣下にマルコ少将閣下!?」
よもや上位階級者の二人が訪れてくると思わなかった僕は、慌てて無傷の右腕で敬礼をする。
「楽にしてくれていいよアカツキくん。君が目を覚ましてくれて良かったよ。幕僚全員が心配していたんだ」
「おおお、アカツキ准将意識が戻って本当に安心しました! 貴方が負傷されたと耳にした時はどれだけ肝が冷えたか……」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。魔法軍医や医療関係者こお陰でこの通り、快復に向かっておりますので」
「なかなか意識が戻られないので不安でしたが、治療の甲斐があり何よりです」
「貴方は僕が気を失う前に応急処置をしてくれた少佐だよね? 本当にありがとう。名前は?」
「サムソン・パーキンスです。今は准将閣下の専属医官になっておりますので、なんなりとお申し付けください」
「専属医官。ということは余裕が出てきたってことか……。そうだ! ルークス少将閣下、マルコ少将閣下。戦況はどうなりましたか?」
「戦況かい? 君は患者なんだから無理しなくていいんだぞ?」
「あの双子の魔人に黒釘を打たれたと聞きました。いくら快復に向かってるとはいえ今は体を大事にしてください。戦況は後でお話しますよ?」
「ありがとうございますルークス少将閣下、マルコ少将閣下。ですが、傷の方はあまり痛まなくなってきましたし会話も問題ありませんよ」
さっきリイナのお願いを聞いて目も覚めたからね!
「うーん、アカツキくんがそこまで言うなら」
「真面目な方なんですね。だからこそご自身の命を懸けて兵士達を守ったのでしょうけれども」
「兄様だって想定していたからこれを私に手渡したんでしょう?」
「そうではあるけどもね……。彼がそう言っているんだからまあいいか。リイナ、アカツキくんに文書を渡してあげなさい」
「分かったわ。はい、旦那様。これが今日早朝までの戦況報告書よ」
「ありがとうリイナ」
「機密事項は無いと思いますが、アカツキ准将閣下について他の医官等と話をしていきますので自分は先に失礼致しますね」
「悪いね、サムソン魔法軍医少佐」
「いえ、准将閣下。それではまた後ほど」
「うん」
サムソン少佐に礼を言った後、僕はリイナから戦況報告書を受け取ると早速目を通していく。
そこには以下のように書かれていた。
『ヴァネティア平野の戦い後期戦況報告書』
発:連合王国軍イリス法国遠征師団師団長
行:連合王国軍統合本部
1、ヴァネティア平野の戦い後期戦況を以下に記す。
2、6の月24の日正午過ぎ。双子の魔人出現。アカツキ准将及びリイナ中佐が双子の魔人(以下ラケル、レーラとす)と直接戦闘に突入す。本戦闘においてアカツキ准将はラケルによる魔法「座標固着」にて拘束。一時拷問に等しい行為を受け左腕負傷。さらにアカツキ准将召喚武器「ヴァルキュリユル」は完全破壊され消失。
3、アカツキ准将危機に瀕し、彼直轄第一〇三大隊救援到着。さらに法国軍Sランク召喚武器所有者サージ中佐も援軍として到着。戦況は好転し、アカツキ准将救助に成功。
4、しかれども新たなる乱入者、魔人・ブライフマンの出現により包囲したラケル・レーラ両名の討伐に失敗。推定転移関係の魔法もしくは道具類により三名の反応は消失。
5、ラケル・レーラ出現による混乱はあったものの脅威対象の撤退により乱れた指揮及び士気は回復。6の月25の日にはトラビーザ郊外から妖魔軍は撤退。追撃戦により残存推定二万五千まで減少。
6、6の月26の日にはさらに前進。再度追撃戦を仕掛ける。妖魔軍は総崩れとなり、残存推定一万三千でウィディーネまで撤退す。
7、6の月27の日午前七時最新状況。現在法国軍単独三万五千はウィディーネ市の包囲へ向かっている。奪還軍指揮官はアラード少将。恐らく数日のうちに奪還が実現。連合王国軍はトラビーザ市にて警備行動へ移行。またヴァネティア市復旧補助へも。また、近日協商連合軍が到着するため、連合王国軍と入れ替わる協議を近く行う予定。
8、ただし午前七時現在でもアカツキ准将の意識は回復しておらず、師団全体が憂慮している。師団長としては意識回復後、療養を目的とした早期帰国を進言す。
以上。
どうやら僕がベッドの上にいる間に戦況はかなり進んでいた上に好転していたらしい。
最脅威とされていた双子の魔人がいなくなり、魔物軍団の数は半数以下に激減。首狩り戦術と魔神出現によって折れかけていた指揮も領土奪還に燃える法国軍は簡単にはへこたれなかったようで、あの二人がいなくなった途端に進軍速度を上げたようだった。
連合王国軍はヴァネティア周辺に残って復旧作業を手伝っているようだけど、それも協商連合の援軍が到着次第向こうが受け継ぐようで早い話が思ったより早く決着がつきそうだから本国に戻るという話だった。兵士達に正式発表されたらさぞかし喜ぶだろうと思う。
無論、戦死者が出ている以上は全員がというわけにはいかないけれど。
ただ、七項目までは僕も普通に読んでいたけれど最後の項目を読むと僕はルークス少将へと目線を向けた。
「あの、ルークス少将閣下。八項目についてなのですが、これは……。早期帰国というのはどういうことでしょうか……?」
「そのままの意味だよアカツキくん。君は予想より傷の治りが早いとはいえ負傷した上に召喚武器をも失っている。さらに目の前であのような恐怖を味わっているんだ。法国の戦線は既に決着がついたも同然で、協商連合も遅くはなったが援軍にかけつける。今後の警備任務にも当たってくれるそうだから我々の仕事はほとんど無い訳だ。だから君のすべき仕事も誰かで代替可能なんだ」
「この書類を見る限りでは近日中にでも我が軍は故郷に帰るわけですよね。ならば自分も一緒でいいのでは?」
「いいかい、アカツキくん。これは師団長としてでもあり義兄としてでもあるが言おう。休みなさい。君は十二分に任を果たした。自らの命を賭して戦った。拷問にすらも屈しなかった。だから君には軍務から解放されて、体と心を癒してほしいんだよ」
「法国軍を代表して私からも。此度の戦いにおけるアカツキ准将の活躍と献身は感謝してもしきれません。既に法皇陛下にお伝えしておりますが、隣国の若き参謀長が先頭に立ち勇敢に戦った事を大変評価されておりました。後日勲章も授与したいとの事でしたが現場にいる私からすると後でもいいと思うのですよ。それよりも今は、名誉の負傷をされた英雄には祖国で療養する方が先決です。きっと、ご両親も心配なさっているでしょうから」
僕の言葉に対してルークス少将とマルコ少将は諭すように言う。
確かにラケルから拷問と呼んで差し支えない行為を受けた時は恐怖を感じなかったと言えば嘘になる。痛かったし、怖かったさ。
けれど、前世で散々死地を味わってきている記憶を持ち合わせていると変な割り切りがあった。救援のお陰で今回は生き残れた。次がある、今日があるんだからいいじゃないかと。むしろ、自分の無力さや弱さに悔しさと怒りを感じているくらいだった。
もっと、力があればって。
しかし、ルークス少将やマルコ少将はそう捉えていないだろう。二度目とはいえ相手は強力な魔人のラケルとレーラ。おまけに精神的トラウマを抱えかねない行為を受けた。となれば、もしここで僕の心が折れたら軍人として見れば国にとって大いなる損失で、ルークス少将にとって僕は身内だから心の底から心配しているのだろう。
だから本国に戻って、心が砕けないようゆっくりしてほしいと言っているんだろう。
きっと僕と二人、特にルークス少将との間には大きな齟齬があると思う。
とはいえ、平気といえばそれはそれでどうしてと疑われかねないから僕はこう言うしかなかった。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、一足先に帰還させて頂こうと思います」
「是非そうしてくれ。君が先んじてアルネシアに帰った所で文句を言う奴なんていないからさ」
「もし法国軍で批判する不逞の輩がいるのならば、私が直々に叱りますよ。なのでどうかご心配なく。そしてヴァネティアの戦いにおける活躍、改めて感謝を。アカツキ・ノースロード准将」
「はい、マルコ・グイッジ少将閣下。またお会いするのを楽しみにしておきますね」
「ええ私も」
僕とマルコ少将は固く握手を交わす。この戦いにおいて的確な命令を出し続けた彼ならば、しばらくの間法国は安泰だと思う。
「さあ、俺は本国へ眠り姫が起きたと送らないといけないからね。失礼するよ」
「ね、眠り姫って……」
「妹を酷く心配させたんだ。それくらいのジョークは許しておくれよ。それに君の外見ならば眠り姫でも通じる」
「同意するわ兄様。旦那様はとっても可愛いですもの」
「仲睦まじい、微笑ましい光景ですね。大切な人との時間を邪魔をしては悪いですし、私はここで退散しますか」
「そうだな。せっかくの夫婦水入らずだ人払いもしておこう。アカツキくん、まずはここで、そして暫くの間はアルネシアで養生してくれよ。俺もすぐに帰る」
「お気遣い感謝します」
ルークス少将は後ろ姿で手を振って、マルコ少将は笑顔で敬礼して個室から出ていく。
再び二人きりになると、リイナ、待ってましたと言わんばかりに僕を抱きしめる。今度は姿勢を変えて、後ろからの形で。
「……これくらいはいいでしょう?」
「うん」
「もちろん忘れていないけれど、どんな服を着させてあげようか楽しみにしているわ」
「…………はい」
うん、やっぱり女装の件はもう諦めよう。
アルネシアに帰ったらどんな格好をさせられるんだろうなあ……。
・・Φ・・
アカツキの怪我が一応の回復をしたのはそれから五日後の事だった。
アカツキと副官であるリイナ、護衛として彼の直轄部隊であるアレン達一〇三大隊はルークス達連合王国軍遠征軍より先立ってイリス法国を後にする。
ルブリフ丘陵に引き続き、法国でも勝利を飾る人類諸国。
しかし、戦争は未だ始まったばかりなのである。
「ル、ルークス少将閣下にマルコ少将閣下!?」
よもや上位階級者の二人が訪れてくると思わなかった僕は、慌てて無傷の右腕で敬礼をする。
「楽にしてくれていいよアカツキくん。君が目を覚ましてくれて良かったよ。幕僚全員が心配していたんだ」
「おおお、アカツキ准将意識が戻って本当に安心しました! 貴方が負傷されたと耳にした時はどれだけ肝が冷えたか……」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。魔法軍医や医療関係者こお陰でこの通り、快復に向かっておりますので」
「なかなか意識が戻られないので不安でしたが、治療の甲斐があり何よりです」
「貴方は僕が気を失う前に応急処置をしてくれた少佐だよね? 本当にありがとう。名前は?」
「サムソン・パーキンスです。今は准将閣下の専属医官になっておりますので、なんなりとお申し付けください」
「専属医官。ということは余裕が出てきたってことか……。そうだ! ルークス少将閣下、マルコ少将閣下。戦況はどうなりましたか?」
「戦況かい? 君は患者なんだから無理しなくていいんだぞ?」
「あの双子の魔人に黒釘を打たれたと聞きました。いくら快復に向かってるとはいえ今は体を大事にしてください。戦況は後でお話しますよ?」
「ありがとうございますルークス少将閣下、マルコ少将閣下。ですが、傷の方はあまり痛まなくなってきましたし会話も問題ありませんよ」
さっきリイナのお願いを聞いて目も覚めたからね!
「うーん、アカツキくんがそこまで言うなら」
「真面目な方なんですね。だからこそご自身の命を懸けて兵士達を守ったのでしょうけれども」
「兄様だって想定していたからこれを私に手渡したんでしょう?」
「そうではあるけどもね……。彼がそう言っているんだからまあいいか。リイナ、アカツキくんに文書を渡してあげなさい」
「分かったわ。はい、旦那様。これが今日早朝までの戦況報告書よ」
「ありがとうリイナ」
「機密事項は無いと思いますが、アカツキ准将閣下について他の医官等と話をしていきますので自分は先に失礼致しますね」
「悪いね、サムソン魔法軍医少佐」
「いえ、准将閣下。それではまた後ほど」
「うん」
サムソン少佐に礼を言った後、僕はリイナから戦況報告書を受け取ると早速目を通していく。
そこには以下のように書かれていた。
『ヴァネティア平野の戦い後期戦況報告書』
発:連合王国軍イリス法国遠征師団師団長
行:連合王国軍統合本部
1、ヴァネティア平野の戦い後期戦況を以下に記す。
2、6の月24の日正午過ぎ。双子の魔人出現。アカツキ准将及びリイナ中佐が双子の魔人(以下ラケル、レーラとす)と直接戦闘に突入す。本戦闘においてアカツキ准将はラケルによる魔法「座標固着」にて拘束。一時拷問に等しい行為を受け左腕負傷。さらにアカツキ准将召喚武器「ヴァルキュリユル」は完全破壊され消失。
3、アカツキ准将危機に瀕し、彼直轄第一〇三大隊救援到着。さらに法国軍Sランク召喚武器所有者サージ中佐も援軍として到着。戦況は好転し、アカツキ准将救助に成功。
4、しかれども新たなる乱入者、魔人・ブライフマンの出現により包囲したラケル・レーラ両名の討伐に失敗。推定転移関係の魔法もしくは道具類により三名の反応は消失。
5、ラケル・レーラ出現による混乱はあったものの脅威対象の撤退により乱れた指揮及び士気は回復。6の月25の日にはトラビーザ郊外から妖魔軍は撤退。追撃戦により残存推定二万五千まで減少。
6、6の月26の日にはさらに前進。再度追撃戦を仕掛ける。妖魔軍は総崩れとなり、残存推定一万三千でウィディーネまで撤退す。
7、6の月27の日午前七時最新状況。現在法国軍単独三万五千はウィディーネ市の包囲へ向かっている。奪還軍指揮官はアラード少将。恐らく数日のうちに奪還が実現。連合王国軍はトラビーザ市にて警備行動へ移行。またヴァネティア市復旧補助へも。また、近日協商連合軍が到着するため、連合王国軍と入れ替わる協議を近く行う予定。
8、ただし午前七時現在でもアカツキ准将の意識は回復しておらず、師団全体が憂慮している。師団長としては意識回復後、療養を目的とした早期帰国を進言す。
以上。
どうやら僕がベッドの上にいる間に戦況はかなり進んでいた上に好転していたらしい。
最脅威とされていた双子の魔人がいなくなり、魔物軍団の数は半数以下に激減。首狩り戦術と魔神出現によって折れかけていた指揮も領土奪還に燃える法国軍は簡単にはへこたれなかったようで、あの二人がいなくなった途端に進軍速度を上げたようだった。
連合王国軍はヴァネティア周辺に残って復旧作業を手伝っているようだけど、それも協商連合の援軍が到着次第向こうが受け継ぐようで早い話が思ったより早く決着がつきそうだから本国に戻るという話だった。兵士達に正式発表されたらさぞかし喜ぶだろうと思う。
無論、戦死者が出ている以上は全員がというわけにはいかないけれど。
ただ、七項目までは僕も普通に読んでいたけれど最後の項目を読むと僕はルークス少将へと目線を向けた。
「あの、ルークス少将閣下。八項目についてなのですが、これは……。早期帰国というのはどういうことでしょうか……?」
「そのままの意味だよアカツキくん。君は予想より傷の治りが早いとはいえ負傷した上に召喚武器をも失っている。さらに目の前であのような恐怖を味わっているんだ。法国の戦線は既に決着がついたも同然で、協商連合も遅くはなったが援軍にかけつける。今後の警備任務にも当たってくれるそうだから我々の仕事はほとんど無い訳だ。だから君のすべき仕事も誰かで代替可能なんだ」
「この書類を見る限りでは近日中にでも我が軍は故郷に帰るわけですよね。ならば自分も一緒でいいのでは?」
「いいかい、アカツキくん。これは師団長としてでもあり義兄としてでもあるが言おう。休みなさい。君は十二分に任を果たした。自らの命を賭して戦った。拷問にすらも屈しなかった。だから君には軍務から解放されて、体と心を癒してほしいんだよ」
「法国軍を代表して私からも。此度の戦いにおけるアカツキ准将の活躍と献身は感謝してもしきれません。既に法皇陛下にお伝えしておりますが、隣国の若き参謀長が先頭に立ち勇敢に戦った事を大変評価されておりました。後日勲章も授与したいとの事でしたが現場にいる私からすると後でもいいと思うのですよ。それよりも今は、名誉の負傷をされた英雄には祖国で療養する方が先決です。きっと、ご両親も心配なさっているでしょうから」
僕の言葉に対してルークス少将とマルコ少将は諭すように言う。
確かにラケルから拷問と呼んで差し支えない行為を受けた時は恐怖を感じなかったと言えば嘘になる。痛かったし、怖かったさ。
けれど、前世で散々死地を味わってきている記憶を持ち合わせていると変な割り切りがあった。救援のお陰で今回は生き残れた。次がある、今日があるんだからいいじゃないかと。むしろ、自分の無力さや弱さに悔しさと怒りを感じているくらいだった。
もっと、力があればって。
しかし、ルークス少将やマルコ少将はそう捉えていないだろう。二度目とはいえ相手は強力な魔人のラケルとレーラ。おまけに精神的トラウマを抱えかねない行為を受けた。となれば、もしここで僕の心が折れたら軍人として見れば国にとって大いなる損失で、ルークス少将にとって僕は身内だから心の底から心配しているのだろう。
だから本国に戻って、心が砕けないようゆっくりしてほしいと言っているんだろう。
きっと僕と二人、特にルークス少将との間には大きな齟齬があると思う。
とはいえ、平気といえばそれはそれでどうしてと疑われかねないから僕はこう言うしかなかった。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、一足先に帰還させて頂こうと思います」
「是非そうしてくれ。君が先んじてアルネシアに帰った所で文句を言う奴なんていないからさ」
「もし法国軍で批判する不逞の輩がいるのならば、私が直々に叱りますよ。なのでどうかご心配なく。そしてヴァネティアの戦いにおける活躍、改めて感謝を。アカツキ・ノースロード准将」
「はい、マルコ・グイッジ少将閣下。またお会いするのを楽しみにしておきますね」
「ええ私も」
僕とマルコ少将は固く握手を交わす。この戦いにおいて的確な命令を出し続けた彼ならば、しばらくの間法国は安泰だと思う。
「さあ、俺は本国へ眠り姫が起きたと送らないといけないからね。失礼するよ」
「ね、眠り姫って……」
「妹を酷く心配させたんだ。それくらいのジョークは許しておくれよ。それに君の外見ならば眠り姫でも通じる」
「同意するわ兄様。旦那様はとっても可愛いですもの」
「仲睦まじい、微笑ましい光景ですね。大切な人との時間を邪魔をしては悪いですし、私はここで退散しますか」
「そうだな。せっかくの夫婦水入らずだ人払いもしておこう。アカツキくん、まずはここで、そして暫くの間はアルネシアで養生してくれよ。俺もすぐに帰る」
「お気遣い感謝します」
ルークス少将は後ろ姿で手を振って、マルコ少将は笑顔で敬礼して個室から出ていく。
再び二人きりになると、リイナ、待ってましたと言わんばかりに僕を抱きしめる。今度は姿勢を変えて、後ろからの形で。
「……これくらいはいいでしょう?」
「うん」
「もちろん忘れていないけれど、どんな服を着させてあげようか楽しみにしているわ」
「…………はい」
うん、やっぱり女装の件はもう諦めよう。
アルネシアに帰ったらどんな格好をさせられるんだろうなあ……。
・・Φ・・
アカツキの怪我が一応の回復をしたのはそれから五日後の事だった。
アカツキと副官であるリイナ、護衛として彼の直轄部隊であるアレン達一〇三大隊はルークス達連合王国軍遠征軍より先立ってイリス法国を後にする。
ルブリフ丘陵に引き続き、法国でも勝利を飾る人類諸国。
しかし、戦争は未だ始まったばかりなのである。
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