異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第3章第二次妖魔大戦開戦編

第10話 ルブリフ丘陵の戦い1〜犠牲なき国防術〜

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・・10・・
6の月3の日
午前7時14分
ルブリフ市東部ルブリフ丘陵地帯・連合王国東部統合軍前線司令本部

 連合王国東部国境の中でも比較的大規模な都市であるルブリフ市。その東には市の名前を冠した丘陵であるルブリフ丘陵が広がっている。ここの東端には連合王国陸軍五個師団が妖魔軍を待ち構える為に展開していた。
 現状人類諸国で最も先進的な軍隊は丘を下りた先、東部国境線を睨み魔物の大軍がいつ現れてもいいように入念に兵器類をチェックしている。二百五十年振りの戦争だけに兵の士気が心配されたが、重火器類や手渡された歩兵銃に至るまで最新式であったからか、この戦争が郷土を守る戦争だからか想定より士気は旺盛で統率が取れていた。
 さて、連合王国陸軍五個師団五万人であるが集結に選んだ場所はルブリフ丘陵に先の大戦の際に築かれたルブリフ砦である。ここは丘の上でありその端にあたるために防衛施設を置くには最適な位置にある。大戦中は妖魔軍を迎え撃つ防衛拠点として、大戦が終わってからは国境から十五キーラまでは民間人立入禁止区域に指定されており、妖魔帝国に対する示威行動も兼ねた演習上にもなっているので演習拠点や監視施設として機能していた。
 このルブリフ砦であるが、砦というにも大規模で最早城と言っても差し支えがない。故に幅の広い城壁には最新式野砲のMC1835が等間隔で並べられ威容を誇っており、砦前面にもMC1835やガトリング砲が置かれていた。師団歩兵達や魔法兵科兵がいるのもここである。
 そして、アカツキ達はルブリフ砦の見晴らしがいい最上階にいた。前線司令本部がこの最上階に置かれている。彼等がここにいるのは味方だけでなく妖魔軍全体を見渡せる点と、アカツキ秘策の兵器の効力を確かめるためである。
 彼はルブリフ丘陵の先にある平原をじっと見つめる。
 連合王国軍五万と妖魔軍九万二千。大軍同士の戦端が間もなく開かれようとしていた。


・・Φ・・
召喚士偵察飛行隊サモナーフライヤーズ、第三飛行隊から報告。妖魔軍の進行速度は推定時速五キーラに上昇。既に国境を侵犯。策定した第一ラインまであと四キーラです」

「第二飛行隊から報告。妖魔軍は中央に四万、左右に二万六千で展開。散兵線術ではなく密集隊形で前進中」

「第一飛行隊から報告。現状であれば第一ラインに埋設した帯状部分を殆どの敵軍が通過する模様」

「報告ご苦労だったな。下がってよし」

『はっ!』

 戦況報告をする司令要員達はアルヴィンおじさんに対して威勢の良い返答をすると、自分達の仕事に戻る。
 視線を外に移すと、遠くにはおぞましい魔物の大軍勢が刻一刻と接近してくる様がよく見渡せた。これまでの魔物と違い、統率の取れた一つの軍隊として機能しているのがよく分かる。だけど、そんな事は僕等にとって大した問題では無かった。

「ということらしいぜ、アカツキ。連中、まんまと引っかかってくれそうだ」

「サモナーフライヤーズは凄いね。今までとは比較にならないくらい情報が集まっているよ。けど、展開したのはたったの三個飛行隊で良かったのかい?」

「戦域が確定した以上、過剰な偵察は必要ありません。三個飛行隊もあれば十分な偵察網が作れます。それに彼等には別の仕事がありますから」

「別の仕事か。新しい戦術尽くしだからしかと見届けさせてもらうよ。命令系統は俺とアルヴィン中将閣下に任せて、アカツキくんは存分に力を奮ってくれ。」

「はっ。お任せ下さい。妖魔軍はここで殲滅するつもりですから」

「頼もしい一言だね。見た目は男にして可憐ながら敏腕。リイナはいい人の先に嫁いだね」

「だって私が認めた旦那様よ? お兄様なら私が求めていた人をよくご存知でしょう?」

「父上がよく悩んでいたからね……。好みの男性を射止めてくれて俺も心底安心しているよ」

 間もなく戦闘が始まるにも関わらず、一時的に和やかな会話が繰り広げられる。過度に緊張するよりはよっぽどいいけどね。
 僕はその会話には混じらず、アルヴィンおじさんから軍用双眼鏡を受け取って妖魔軍の侵攻の様子を見ていた。

「あと三キーラという所ですね。そろそろ発動準備に取り掛かりましょうか」

「おっ、いよいよだな」

 僕は双眼鏡から目を外し、室内にいた兵達に台座に設置された大きめな魔石を持ってくるように命令する。その中には一人だけ軍服に白衣を身に纏う女性士官がいた。

「あ、あの。アカツキ大佐」

「どうしたんだい、ルナ中尉」

 僕がルナ中尉と呼んだ彼女は、魔法科学研究所の研究員だ。今回の秘策にあたり、研究所から派遣された人物なんだよね。
 その彼女は少し憂いのある表情をしていた。

「本当に、成功するでしょうか。あ、いえアカツキ大佐を信用していない訳じゃなくて、わたしが考案した術式が上手く発動するかどうか不安で落ち着かなくて」

「心配しなくても大丈夫だよ、ルナ中尉。君が構築してくれた術式はシンプルだから起動しないなんて事は無い。試験でも成功してたしね」

「ええ……。ですが、大規模での投入はこれが初ですから職業柄どうしても不安で……」

「旦那様が認めたあなただもの。第一、不発はないんでしょう?」

「は、はい。確実に起動するようにしてありますから……」

「なら大丈夫よ。自身を信じなさい」

「ありがとうございます……」

 あそこの研究員は変わり者が多い中で、控えめな性格をしている彼女はリイナに励まされたとはいえやはり自信なさげだった。既存技術の改良とはいえ、自分が発明した魔法が初戦の趨勢を揺るがすのだから仕方ないけどね。

「アルヴィン中将閣下、僕も目視しましたけれど、広範囲魔法障壁は発動済みですか?」

「アカツキの言うように多重展開の三枚掛けさせてあるぜ。規制区域だからどうせ誰もいねえが万が一に備えて味方がいない部分、ここから十五キーラにある村に被害が及ばないようにもしてあるぞ」

「なら問題ありません。計算通りの威力なら十五キーラ先まで心配するのはかなり過剰ですけど、念のためです」

「つくづく思うが、こんなの敵から食らいたくねえなあ。末恐ろしいぜ」

 アルヴィンおじさんは、だけれども発言の割にはおどけたように言う。

「サモナーフライヤーズ、全員が安全圏内に退避しました。魔法障壁圏外に味方は確認されず」

「妖魔軍最前列、第一ラインまで一キーラ。さらに進行速度上昇。到達まで推定五分」

「全軍に再度通達。特に魔法障壁担当の魔法兵は細心の注意を払え」

「了解しました」

「もうすぐですね……。お願い、上手く起動して……」

 間もなく第一ラインに妖魔軍が到達する中で、ルナ中尉は両手を握って祈る。
 彼女のためにも、軍のためにも必ず成功させないとね。僕はそう思いながら、最上階のベランダ部分に置かれた台座の前に立つ。

「リイナ、並列処理の補助をよろしくね」

「任せなさい、旦那様」

「アルヴィン中将閣下、ルークス少将閣下。魔石爆裂術式、起動準備に移ります。許可を」

「許可するぜ。やっちまいな」

「同じく許可するよ。発動のタイミングはアカツキくんに一任する」

「了解。魔石爆裂術式第一段階、起動」

 僕は魔石に両手をあてて、魔力を込め始める。
 まず第一段階の術式を起動させると、目の前にある魔石は輝きだした。

「セントラル、起動を確認。続けて、遠隔起動術式も作動を確認したわ。第一ライン埋設の01まるひとから10ひとまるまで接続。さらに、 11ひとひとから20ふたまるまで接続」

「そのまま接続を継続」

 魔石は輝きを増し、眩いばかりになってゆく。同時に浮かび上がるのはこの魔石であるセントラルと埋没された魔石が線で繋がるさま。視覚化された接続の様子は順調に進んでいることを表していた。

「了解したわ。21ふたひとから30さんまる、接続。31さんひとから40よんまるも接続。セントラルと全ての接続、完了よ」

「ありがとう。第二段階へ移行するよ」

「オッケー、旦那様」

 視覚化された接続の様子は、全ての埋設された魔石と繋がった事で魔法陣を作り上げていた。でも、これで終わりじゃない。

「セントラルより01から40までの起動を開始」

「起動確認。問題ないわ」

「よし。最終段階に移行するよ」

 僕はリイナの言葉に頷くと、最終段階に必要な呪文の詠唱を開始する。

「悠久の時を越えて再現するは神々の憤怒。我が国土を荒さんとする者共に天罰を与えん。我は祖国の防人さきもりにして侵犯する者を誅伐する神々の代行者なり。今ここに、その力を現さん」

 リイナとの一年の訓練を経てあれからさらに魔力は増えたものの、リイナの補助と魔力譲渡があってもなお半分近くごっそりと魔力を持っていかれるのを体で実感しながら、詠うように言の葉で呪文を紡いでいく。
 詠唱をしていくと、僕の視線の先に出現したのは直径百メーラの大魔法陣。
 現れたそれは神々しく白く輝き、まるで芸術作品のように美しかった。

「綺麗……」

「こいつはすげえな……」

「思わずうっとりしてしまうくらいだ……」

 目の前に現れた魔法陣にルナ中尉、アルヴィンおじさん、ルークス少将の順に言葉を漏らす。目撃した司令要員達も言葉を失うほどにこの魔法陣は綺麗だった。

「旦那様、敵到達まであと一分よ」

「了解。後は発動させるだけだよ」

 僕はいよいよ迫らんとしている妖魔軍を睨む。

「人はいつかは必ず死ぬ。寿命の長いエルフだって死ぬ。死は誰だって訪れる者だ。それでも僕達は、決してお前達に殺されやしない。必ず生き残る。でも――」

 異形の者共に向けて、聞こえはしないだろうけど僕は言う。
 そして最後に、こう付け加えて言い放ってやった。

「今日がお前達の命日だ」

「第一ライン到達よ旦那様!」

「魔石爆裂術式起動! これがアルネシア式国防術だッッ!」

 第一ラインを踏み込んだ魔物の大軍。
 僕が最後の術式を詠唱すると、戦場には凄まじい大爆発ととてつもない轟音が鳴り響いた。
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