異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

文字の大きさ
上 下
240 / 250
最終章 『 オペレーション・ブレイクドア』

第5話 道央アースドラゴンバトル(2)

しおりを挟む
 ・・5・・
 地龍三体が再出現。

 この通信を耳にした者達は大きな衝撃を受け、司令部要員達は頭を抱えた。
 西特大の討伐部隊が数名戦死傷し、今川自身も魔力を半分も消耗してようやく二体を討伐したのだ。その上で三体もの地龍を対処するのは、いかに西特大といえども午前中から連戦していたから荷が重かった。

(まだ戦える者だけ残して、入れ替わりで来てもらう部隊を支援要請。これなら、なんとか……。)

 今川の判断は常識的なものだった。だから司令部も、何もなければイエスと言うつもりだったし速やかに交替の部隊を手配するのだが、得てして悪い事態は重なるものである。
 今川が部下達と一時的に着陸して支援要請を司令部に出していた時だった。

『――は、なんて!?   嘘だろ!?』

「苫小牧FHQ、何があったんですか」

『失礼しました、ウェストウィザード。白老町方面にエンザリアCT一五〇とゴブリンやオークなどの召喚生命体約五〇〇〇が出現しまして……。召喚士達による伏兵です』

「間の悪い……。そうなると地龍は……」

『魔法軍からは厳しいとのこと……。空軍もドラゴンの撃ち漏らしを潰しに向かっており無人機一個小隊と有人戦闘機一個小隊ならなんとか。海軍艦載機部隊にかけあってみますが補給途上の部隊が多く、上がっている部隊が丁度今少なくて……。今、連絡が来ました。海軍からは一個飛行小隊なら出せると』

「海軍さんも午前中から出ずっぱりですからね。一個飛行小隊だけでもありがたいです」

『手が空いたフェアル部隊は必ず向かわせます』

「頼みましたよ。それまでは我々で食い止めますから」

『はっ!』

(とは言ったものの、疲弊した部隊でどこまでやれるか……。マト弾は在庫切れ。戦闘機部隊やフェアル部隊もあっちこっちに出ていたところへ白老町方面の伏兵で残った予備が向かうことになった。地龍三体の現在位置から前線までの距離は約四〇キロだからざっと四五分で到達ですか。…………仕方ない。隊員達には無茶をしてもらいましょう。)

「ウェストウィザードより各員へ。大休憩はお預けで、貴官等にはもう少々無茶をしてもらいます。文句は地を這うオオトカゲにぶつけましょう」

『了解。恨みをぶつけまくります』

『迷惑な外からのお客さんにはくたばって貰わないとな』

『三体で来て気が大きくなってるんでしょう。ぶっ飛ばしてやりますよ』

 今川のジョークに隊員達は冗談で返していたが、内心では死を覚悟している者が多くいた。
 地龍が一体ならともかく三体。エンザリアCTが放つ光線系魔法の威力を大きく上回るにも関わらず、それを極短時間詠唱で発動するのだ。いかに西特大の精鋭達とはいえ、消耗した今の状態では苦しい戦闘になるのは間違いなかった。

「その心意気や良し。…………今回の戦闘、撤退は認められません。もしもの時は私も一緒です。いいですね」

『はっ!!』

 万が一にも備えた決意を表す今川。
 部下達も共に進むと心を決めた。
 ただ、そのような悲壮な決断を許さない人がいた。

『貴官等の様な最精鋭をむざむざ死なせるわけがないだろう。こちらMG1。雷雲がそちらへ向かう』

「え、え、ええMG1?!?!   どうしてこちらに?!?!」

 あと二分もしないうちに目標地点に到着する頃に、予期していない相手からの通信があり今川は驚愕する。

『最終決戦でSランクの軍人能力者が前に出んなど戦力の出し惜しみだ。危急の時なら、なおさらな』

「では、既に離陸を……?」

『ああ。俺直轄の部下達と共にな。五分だ。それまでに地べたを這いずり回るクソトカゲの魔法障壁を出来るだけ剥がしておけ』

「了解っ!   支援、感謝申し上げます」

『これは世界の命運を握る戦。当然のことをしたまでだ。気にするな。通信終わり』

「…………。聞きましたね、皆さん。やりますよ」

『サー、イエッサー!!』

 今川は通信でやり取りした相手がこちらにやって来ると分かり勝利を確信した。満を持しての登場といっても差し支えない。今最も欲しい援軍だった。
 最強の上官が来てくれるとなれば、力は滾り漲る。自分達がするのは地龍の魔法障壁を破壊するだけ。それだけなら残存魔力でも十分に果たせるだろう。

「総員、徹底的に地龍へ法撃をぶつけなさい。後先は考えなくてもよろしい。ケリは閣下がつけてくださるでしょうから」

『了解!!』

 一分半後。今川達は地龍三体と接敵する。
 開幕早々に地龍は特大の光線系魔法を発射。首を振り回すかのようにして光線を放った為に射線はめちゃくちゃで、回避出来ず蒸発した隊員が六名いたがそれでも彼等は怯まなかった。

『小隊統制法撃。風属性貫通術式用意!   撃てェ!』

『各個法撃用意。炎属性爆発系!  撃て!』

「風の刃は身を包む盾さえ壊す。『風刃ウィンド・ソード四十重発射テトラコンタ・インジェクション』」

 今川が、隊員達が地龍三体の魔法障壁を削っていく。

『地龍01、障壁破壊率四三パーセント』

『地龍02、障壁破壊率四七パーセント』

『地龍03、障壁破壊率五一パーセント』

「まだまだ!!   もっと、もっと削りなさい!!」

『サー!!』

 魔法障壁を徐々に削られる地龍達も当然ながら抵抗する。敵召喚者達の能力が優れているからか、先の二体の地龍より全体的に動きに無駄がなかった。
 法撃にもそれが現れており、三体は絶妙な連携をはかる。

『光線系魔法で三名ロスト!』

「怯むな!!    あと一分半!!   攻撃の手を緩めないで!!」

『警告。極短時間詠唱発動確認。即時発射』

『今川大佐っっ!!』

「分かってますっっ!!」

 滝山の声に返答しつつ今川はギリギリのところで光線系魔法を避けてみせる。にも関わらず魔法障壁は半分が破壊されていた。

「掠った程度でこれとは本当におっかないですね。ですが、当たらなければいいだけっ!」

 今川達はひたすらに法撃を放ち続ける。その成果は着実に出ていた。

『地龍01、障壁破壊率八一パーセント』

『地龍02、障壁破壊率八〇パーセント』

『地龍03、障壁破壊率八八パーセント』

『西特大の諸君等、よくやってくれた。指定空域から退避せよ。天高あまたかくより雷を落とす』

 無線から男の低い声が聞こえた。今川はすぐさま部下達へ指示を出す。

「了解しました!   総員退避!」

『警告。指定空域から退避してください。法撃発動まで、あと一八秒』

 今川達は半径数百メートルの範囲に広がる赤透明の指定範囲からすぐに離脱。全員が範囲外に出た。

ことなる世界より現れし、哀れな地龍に告ぐ。貴様等は此処ここに存在してはならぬ者達。我らが世界、我らが国に刃を向けたこと。この地を踏みにじったこと、の代償を知れ。天より神が下す裁きを今ここに。極刑の雷はその身を焼き尽くす。落ちよ、『天雷』』

 男が詠唱を紡ぎ終え、右腕を振り下ろした瞬間。辺り一面を白い光が支配した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

処理中です...