異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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最終章 『 オペレーション・ブレイクドア』

第4話 道央アースドラゴンバトル(1)

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 ・・4・・
 地龍。吉祥寺で孝弘達が交戦した、体長約四〇メートルの巨体を持つ超大型魔法召喚生命体だ。脅威度はA+。並の能力者では蹂躙される化け物が二体も現れたのである。

 それだけではなかった。

ICHQ統合司令本部より苫小牧・千歳方面各部隊へ緊急通報。日本海側複数のレーダー網が極東ロシア及び中国東北部方面より北海道・東北方面へ向かうドラゴンを探知。数は約二五〇。高度三〇〇〇、速度八〇〇で接近中』

 統合司令本部からの通報に苫小牧FHQの要員達はざわめいた。地龍を二体も相手しなければならないのに、ドラゴンまでやってくるというのだ。龍づくしも大概にしてくれという悲鳴に近い罵声が出るのもやむを得なかった。

 ところがドラゴンの方は意外な形で解決しそうな様子だった。緊急通報から二分後のことである。

『ICHQより苫小牧・千歳方面各部隊へ。日本海側より来たるドラゴン群は中国空軍・ロシア航空宇宙軍が共同でこれを迎撃すると連絡あり。両国空軍の討ち漏らしは三沢の予備部隊及び小松の飛行隊にて対処する。苫小牧・千歳方面各部隊は当地の敵対処に集中されたし。健闘を祈る』

 自分の国で発生した化物は自分達の国で対処する。ということなのだろう。中国空軍とロシア航空宇宙軍の連絡は非常に速やかに日本軍へもたらされた。
 その際に、中国空軍とロシア航空宇宙軍からは『貴国は貴国の任を果たされたし。我らは我らの任を果たす。ご武運を』と通信が送られてきたが、これが苫小牧・千歳方面の部隊を勇気づけた。それは今川達の西特大も例外ではなかった。

「後顧に憂いは無し!   総員、地龍を討伐しますよ!」

『了解!!』

 苫小牧FHQから地龍討伐の任務を受領した西特大は航空支援でどうしても外せない二個中隊を除く全ての隊員で地龍がいる方へ向かった。

 道央周辺のマジックジャミング装置はここまでの戦闘でほぼ破壊していたから地龍の動きはレーダーで追跡出来ていた。

『苫小牧FHQよりウェストウィザードへ。地龍は現在夕張川を渡河し時速約五〇キロ前後で南幌町を南下。前線までの距離は三五キロ。到達まで四〇分。地龍は通常兵器の攻撃があまり効きません。貴女達が頼りです。よろしくお願いします』

「ウェストウィザードより苫小牧FHQへ。了解。目標まであと三分半で到達します。周辺の敵部隊は既に把握していますが、突発的に現れる可能性は大いにあります。探知、頼みましたよ」

『苫小牧FHQよりウェストウィザード。了解しました』

 今川達は途中で数体のエンザリアCTの迎撃を受けつつもこれを速やかに排除して地龍のいる南幌町と長沼町の境界線付近へ到着した。

『あれが、地龍……』

『なんてデカさだ……』

『まるで小山が二つ動いてるみてえだな……』

(映像記録や資料で見たことはありましたが、実物は数値以上の大きさを感じますね。非常に強力な魔法攻撃と、魔法障壁に類似した膜に覆われていることによって強固な防御力を持つ、まさに怪獣。ここに川島中佐がいないのが悔やまれますが、無いものねだりしても仕方ありませんね。)

「総員散開の後、小隊統制法撃。それからは極短時間詠唱法撃に警戒しつつ各員の自由法撃を認めます。ただし魔法銃撃は全て遅延術式を。防御膜を破る必要があります。法撃は貫通術式を付与すること。いいですね」

『サー、イエッサー!!』

「では、散開!!」

 本部中隊と二個中隊の計三個中隊の精鋭は、小隊ごとに分かれ分散していく。いくらかの小隊は周辺にいる地上部隊への対処が中心で、残りが地龍との戦闘といった形だ。

『小隊統制法撃、火属性遅延爆発術式。目標地龍01。放てぇ!!』

『小隊統制法撃よぅい!   風属性貫通術式!  目標地龍02。照準よぉし!  はぁなてぇ!』

 二つの統制法撃が交戦開始の合図となった。
 それぞれの法撃が地龍へ命中すると、彼等は痛いじゃないかと言わんばかりに咆哮を上げる。

『警告、極短時間詠唱ニアノンチャントタイム発動確認。即時射出』

 地龍が口を開けてすぐに光線が放たれる。数人の隊員に光線が掠り、内二名はフェアルに異常をきたし飛行に支障が出てしまう。

『くそっ!   極短時間詠唱でこの威力かよ!   離脱します……!』

『姿勢制御系統に異常あり。申し訳ありません、空域から離脱します』

(さっそく二名の戦線離脱。法撃力が想定より高い気がしますね……)

『解析完了。地龍01、02の法撃力は従来データより二割程度威力が上がっていると推定。要警戒』

「やはりですか。総員、魔法障壁は絶やさないように!」

 極短時間詠唱法撃ですら魔法障壁の全貫通やフェアルへの悪影響を気にしながら戦いつつも、彼等は少しずつ地龍へダメージを蓄積させていく。鱗を薄い膜も各箇所でかなり削ることができていた。

『苫小牧FHQより西特各隊。地龍01、02共に移動速度低下。前線との距離、約二四キロ』

「ウェストウィザードよりFHQ了解。これ以上は接近させられたくないですね」

『はい……。あの光線威力ですと、約一八キロまで近づかれると危険です』

「分かりました。その距離になる前に終わらせます」

『苫小牧FHQよりウェストウィザード、了解!』

「各員、胴体中央にダメージを蓄積させてください。二体同時に私が仕留めます」

 ここで今川は作戦を、じわじわと敵の生命力を削りどこかで致命傷を与えるのではなく致命的な一撃を与えるものに変えた。地龍の移動速度だとあと六キロはすぐ着く距離であり、悠長なことをしてはいられなかった。

『了解!』

『周りの有象無象に堕天使共は我々がなんとかします!   大佐、頼みました!』

「任せなさい。――本部中隊一個小隊は私をカバー。戦術級を行使します。滝山少佐、詠唱の間は貴方に任せます」

『了解しました……!』

 今川は一個小隊と共に地龍からやや距離を取り高度も上げる。戦術級魔法を発動するとなればどうしても隙が生まれる。単独発動可能な今川なら尚更無防備になる。移動と高度上昇はリスクをなるべく減らすためだった。

『ウェストウィザード、戦術級魔法詠唱開始。発動まで約六〇』

 今川が詠唱を始めると、彼女の身体の周りは淡い緑色に光り輝く。魔力が高純度に練り上げられている証だった。
 彼女が言霊を紡ぐ間も、大隊の猛者達は役目を果たしていく。

『背中にぶち込んでぶち込みまくれ!!』

『ありったけの貫通術式だ!!  耐えてみろ!!』

 今川の指定通り背中へ法撃を集中させ。

『さっきからちょこちょこと出現しやがって!   なぁにが堕天使だ!   ゴキブリでもこんなポンポン出てこねえよ!』

 今川達の攻撃を妨害しようとするエンザリアCTに対して、悪態をつきつつも攻撃を未然に防ぎ。

『警告。エンザリアCT、光線術式を大量射出』

『させるかよぉ!!』

『ああくそ、回避が間に合わな――』

 法撃を防いでみせたものの一部の討ち漏らしから攻撃を受けて蒸発、すなわち戦死する者もいた。
 それでも、誰も手を緩めない。

『発動まであと二五』

『まだ02の防御膜が残ってんぞ!!』

『01の防御膜は八割破壊!   あと二割もできるだけ破っちまえ!』

『くそっ!!   菱川と椎名が直撃を食らった!!』

『攻撃を止めるな!!』

『……っ!   了解!』

 二体の地龍は勘が鋭いのか何かあることを察知して法撃を激しくさせる。
 僅か一分の間に二体の地龍が放った極短時間詠唱の光線は三三発。二秒に一回は射出されている計算だ。ここにエンザリアCTの法撃まで加わるのだから、その密度は恐るべき水準である。

 だが彼等は攻撃の手を緩めることは無かった。

『ウェストウィザード、法撃行使まで一〇。ウェスタン2(滝山)よりデータ送信。指定範囲からの待避を推奨』

 滝山から法撃範囲が送られると、付近にいた隊員達は光線を回避しながら地龍から遠ざかっていく。
 そうして六〇秒を迎えた。

『――風の神が下すは怪獣への裁き。これより先は一歩も進ませぬと神器で現す。神器とはすなわち、風神の天槍てんそうなり。――『風神槍ふうじんそう八百万やおよろず』』

 今川が唱えきると、空には数多の緑白色の魔法陣が現れた。

「さぁ、貫け。現世うつしよに在らざる異形であれども、天槍に貫けぬモノは無し」

 彼女が腕を天から振り下ろすと、魔法陣から膨大な数の槍が降り注ぎその全てが地龍の背に刺さっていく。
 いくら堅固な鱗を持つ龍といえども、ここまでの攻撃に耐えられるわけがなかった。
 断末魔を放つ間も槍は刺さり刺さり刺さり続けら巨体は地に伏し動かなくなった。

『苫小牧FHQより西特大各位へ!   地龍01、02共に沈黙!   生命反応無し!』

『よぉぉおし!!』

『地龍撃破だァァ!!』

 西特大の面々から歓声が上がり、今川も口角を少しだけ上げて笑みをこぼす。

「はぁ……、はぁ……。魔力を半分ほど使ったかいは、ありましたね」

 急激な魔力減少で多少の息切れをしていたものの、戦術級魔法の単独行使をしてもなお今川はフェアルでの飛行を続けていた。これが彼女の凄さであった。

「皆さんよくやってくれました。あとは周辺の敵を掃討して、苫小牧に一旦戻りま――」

『……き、緊急通報!!』

 苫小牧FHQの通信要員が途端に切迫した声を出した。
 午前中から連戦状態で補給以外ではマトモな休息が取れていないこともあるからと今川は帰投を指示しようとした時であった。
 全員にアラートの音が鳴り響く。彼女たちにとって、それはまるで悪魔の声のように聞こえた。

『そんな……、ウソ……。岩見沢方面より、新たに超大型の敵を探知。魔力波長特定。地龍、再出現です……。数は、三……』
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