異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

文字の大きさ
上 下
233 / 250
第15章 滅亡を防ぐために

第7話 AR式模擬戦 孝弘VS璃佳(前)

しおりを挟む
 ・・7・・
「閣下と私とで、訓練試合ですか?」

「そそ。AR訓練機能を使って本気でやるよ」

「明後日には出港ですが……」

「大丈夫だって。ARなら怪我の心配はほぼ無いでしょう?」

「確かにそうではありますが……」

 孝弘は歯切れの悪い返答をする。明後日には出港して戦地へ向かうのにSランク同士の実戦形式訓練なんてやって不測の事態ケガでもしたらどうするという理由もあったが、それ以外にもワケはあった。
 孝弘の内心はともかく、彼が訓練に渋り気味なのは璃佳にも易々と伝わった。

「なになに、乗り気じゃないの?   デカめの魔法以外は近距離特化の私と近中距離メインのキミとでは相性が悪いからとか?」

「いえ。距離を詰められば私の不利ですが、裏を返せば詰められる頻度さえ減らせば勝機はありますし、近接格闘戦に心得がないわけではありません」

「……ごめんごめん。意地悪な聞き方したね。キミが気にしてるコトには気付いてるって言えば分かるかな?」

「…………!」

 璃佳の心中を見透かしたような言いぶりに孝弘はドキリとさせられる。二人の周りには遠巻きながらなんだろうと数人が集まり始めていたが、璃佳は声のトーンを落として会話を続けた。

「あの日以降、色んなことが目まぐるしく動いて話す機会をほとんど設けられなかったし、それにかまけてキミと話す時間が取れなかったことを、申し訳なくは思ってる。でも。いや、だからこそかな。今から私のワガママにちょっと付き合ってもらえると嬉しい。たぶん、米原中佐の悩みを解決できると思うから。それに」

「それに?」

「クヨクヨしてる時は、身体を動かすと少しはマシになるからかな」

 舌をちろりと出しておどけてみせる璃佳に、孝弘は彼女をじっと見つめると。

「……分かりました。Sランク同士の実戦訓練なんて滅多にありません。私も決戦前にいい経験になりますし、彼等にとっても楽しめるでしょう」

「ふふ、分かってんじゃん。――おーい!   今から私と米原中佐でAR式実戦訓練やるよ!」

 璃佳が個人訓練などをしていた隊員達に声をかけると、すぐにゾロゾロ集まり始めていた。少し遠くで訓練に励んでいた者達もなんだなんだ寄ってきていた。その数、六五名。

「七条閣下と米原中佐が!?」

「SランクとSランクの実戦訓練とかやべえな!」

「なあなあ、どっちが勝つと思う?」

「やっぱ我らが七条閣下だろ!   米原中佐は近距離戦をあんましてないだろ?   閣下に分があると思うけどなあ」

「いーや米原中佐ね。数は多くないけど作戦中に銃撃+近接格闘の組み合わせで戦ってるから、全くの不利ってことはないわ」

「だったら皆で予想しようぜ!」

「いいなそれ!」

「いいんですか、アレ。賭けになってないだけまだいいですけど……」

 孝弘のいうように賭けまではいかないが、勝者予想をし始める隊員達に彼はややジト目をして璃佳へ視線を送る。対して璃佳はニコニコしていた。

「いいんじゃない?   どうせ数日後には生きるか死ぬかなんだし、今を楽しむのは重要だと思うよ。――私と米原中佐、どっちに何人いるー?」

「七条閣下が三四人、米原中佐が三一人です!   閣下の方がやや多めですが、ここまでの僅差は初ですよ!」

「おー、そいつは面白くて楽しい予想になったね!」

「僅差?   初?」

「川島中佐の時にも似たようなことがあってね。その時は今よりもうちょっと差があったかな。確か五六対四五。五六が私ね」

「アイツ、いつの間にそんなことを……。閣下の方が票数が多くなるのは妥当だと思いますよ。どちらかというと、彼は後衛タイプですから」

「まあね。私と同じ召喚士で近接武器タイプだけど、自身と召喚体の戦う比率でいったら私の方が自分で戦う率が高いし。……さて。親友の事をさておいてさ、戦い方的には私の方が有利にも関わらず、私より米原中佐を選んだ人がほぼ半数いる事実が分かったわけだけど?」

 璃佳は孝弘へ、キミの悩みと現実の結果に大きな差があるんじゃない?    キミの憂いは杞憂では?
 と暗に示していた。随分と遠回しな言い方ではあるが。
 孝弘もそれに気づかないほど抜けていない。ならば、やることは一つ。

「私に期待してくれた人達のためにも、全力でお相手致しましょう」

「そうこなくっちゃ♪」

 AR方式訓練のルールはすぐに決められた。

◾︎制限時間は三分。
◾︎魔法障壁展開数は同時に一○枚まで。累計三○枚まで展開可能。
◾︎米原中佐の魔法拳銃のマガジン数は一丁につき三つまで。計六つ。七条准将は魔法拳銃の装備無し。
◾︎即死もしくは致命的ダメージが入った時点で訓練終了。
◾︎三分間で決着がつかなかった場合、割られた魔法障壁数が少ない方が勝ちとする。
◾︎フィールド全体が効果範囲になりうる上級魔法以上の魔法使用は不可。
◾︎フェアルの使用は不可。

「って感じでどう?」

「了解しました。問題ありません」

「よーし。なら、位置につこっか」

『両者位置につきましたか!』

 開始の合図を引き受けた士官が孝弘と璃佳に問いかける。

「大丈夫だ」

「オッケー!」

『ならば、両者AR訓練モードを起動し武装の準備と魔法障壁の準備を!』

 孝弘と璃佳はAR訓練モードを起動し武装を出し、魔法障壁を展開する。

『両者の準備完了を確認。カウント開始します!   五、四、三、二、一』

 始め!!
 の合図から間髪入れずに急接近をしてきたのは璃佳だった。

「悪いけど最初っからフルスロットルでいくよ!!」

「…………!!」

(速いッッ!!    おまけに最小限の動きで乱数機動を取ってやがる!   的も小さければ動きも早いとか銃で戦う俺にしたら悪夢だな!)

 身体強化魔法で最大まで加速した彼女は孝弘が牽制も兼ねて放った一発を軽くジャンプして避けると、そのついでに木を蹴ってさらに加速。三五メートルあった二人の間は一気に数メートルまで縮まった。
 璃佳はデスサイズをまるで重さを感じさせないような様子で横薙ぎに振るい孝弘がこれを難なく避けると、彼女はあろうことか持ち手を変えて逆薙ぎに移る。
 あわや魔法障壁を数枚破られかねない展開だが、孝弘は踵の先に顕現させた青白い何かで弾いてみせた。

「両踵の先に風属性の刃っ!!    面白い!!」

「そうじゃないと、七条閣下相手に俺は即死なんで!」

「うそつけ!!」

「嘘じゃないですよ!   そうそうこれやんないんですから!」

「ふうん!    じゃあこれはどうかな!」

 璃佳が放ったのは下からの斬撃。孝弘は鼻先を掠めるかどうかの寸前で回避をする。璃佳は隙も無く今度は上から振り下ろしにかかった。孝弘はこれを避けきれないと判断し、回転蹴りを入れることで風属性の刃とデスサイズの刃をぶつけさせることで攻撃をなんとか受け流した。

「いいねいいねえ面白い!   そうこないと!   だったら、ギアをあげるぞっ!」

 璃佳がデスサイズを振るう速度を上げ、鋒が迫る方向も不規則という予測難易度が極めて高い攻撃を続ける。孝弘はこれを回避はするものの、四枚の魔法障壁が破られた。
 対する孝弘もやられっぱなしではない。彼が放つ銃撃は銃弾の発数が限られていることもあり全てをハイチャージショットにしている。加えて無駄撃ちを避けるために確実に当たる時にのみ撃っていた。その回数は十数秒で僅かに二回だが、いずれも命中させていた。

 開始から三○秒で、孝弘の魔法障壁被破壊数は四。璃佳の魔法障壁被破壊数は五。僅かながら孝弘が有利だった。

 開始から一分までは互いに致命的になるような距離まで詰められず、さりとて牽制のために間を開けるようなこともせず、銃撃と剣戟を繰り返すヒリついた展開が続いた。

「銃とリーチの長いデスサイズじゃキミの方が不利になるのに、なかなかやるじゃんか!」

「これでもずっとギリギリの展開ですよ!   閣下は絶対敵に回したくありません!」

「そっくりそのまま言葉を返すよ!   ハイチャージ食らったらあっちゅう間に魔法障壁持ってかれるような相手とか悪い夢みさせられてるようなもんだっての!」

「水帆みたいな魔法力もなければ大輝みたいな召喚適正もなく、知花みたいに情報処理能力に優れた上に光属性適正も無かった俺の答えはこれです!   指揮能力を培い、戦う時は二丁拳銃トゥーハンドと風属性のダガーで可能な限り隙を無くす。決定力には欠けますがね!」

「どこが決定力を欠いてんだか!   普通の連中なら何人も死んでんぞ!」

「閣下相手じゃなかなか通用しないですが、やるからには負けられませんので!   俺の行動は俺だけのものじゃない。きか――」

「皆まで言わなくても分かる理由を持って必死に戦う姿は上官としても嬉しいよ!   ずっとこのまま戦ってたい!」

 璃佳はあえて孝弘の帰還組という言葉を遮った。ここにいる者達は孝弘が帰還組であることを知っている。だが、璃佳にとって孝弘が帰還組だろうがなんだろうがどうでもいいのだ。
 大切な人を守るために、この大戦に身を投じて命を懸けているのに、そんな野暮な属性なんえ関係ないと。

「ただね、そろそろ決定打を与えたいんだよねぇ」

(閣下の湿り気を帯びたニタァとした笑いは大抵ロクでもない!   何が来る!?)

 孝弘の視線に何か失礼なものを感じた璃佳だったが、だからこそ期待に応えようと悪役にしか見えないような悪辣な笑みを彼女は浮かべてみせた。

「複合魔法展開。『重力喪失ゼロ・グラビティ大気消失ロスト・エア』。狙いはもちろん、米原中佐だ限定行使先座標入力完了。さぁ、避けてみなぁ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

処理中です...