異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第14章 仙台方面奪還作戦編Ⅱ

第21話 今川の命令

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 ・・21・・
「結界の外にはエンザリアCTが少数ですが残っています。全速離脱でいきますよ!」

「了解しました、今川大佐。総員、フェアルがまだ使える者は最加速モードで飛べ!   水帆、 飛べそうか?」

「三分ならいけるわ。そこから先はよろしくね?」

「分かった。今川大佐、水帆は三分なら飛べるそうです。大輝と知花、動けない部下達をお願いします」

「了解。任せてください」

 負傷者の搬送準備作業を一分足らずで終えた今川の部下達が完了の合図を送ると、彼等はすぐに結界の外に出た。

『警告。光線系魔法。射出まで四秒』

『ここは私達で対処しますから貴方達はとにかくかっ飛ばして!』

 今川の指示通り、孝弘達特務小隊と負傷者を抱えている彼女の部下達は高速で現地点を離脱していった。

『注意。SA2、飛行姿勢が不安定』

 二分半が経った頃だろうか。孝弘の賢者の瞳が水帆の異変に対して注意を促してきた。三分は大丈夫と言っていたが先の戦闘で大きく消耗したのがいけなかったのだろう。孝弘は水帆にゆっくりと近付くと彼女を抱えた。いわゆるお姫様抱っこの形だが、この際四の五の言っている場合ではないから水帆もされるがままだった。

「ごめんね、孝弘。思ってたより魔力消費が激しかったみたい……」

「気にするな」

「うん……」

『ウェストウィザードよりSA1へ。重傷者はこのまま山形まで搬送しますが、それ以外は残存魔力も乏しいでしょうから一旦この先にある牧場に着陸とします。軽傷者は着陸後に応急処置をし、可変回転翼機を呼びますのでご安心を』

「SA1よりウェストウィザード。了解しました」

 今川が指定した牧場は宮城・山形県境の山形側にあり、孝弘達が今いるところから三分半程度で着く場所にあった。
 特務小隊の中でも重傷者達を搬送している隊員はそのまま山形へと向かっていったが、孝弘達や今川達は牧場の開けた場所に着陸し軽傷者の応急処置が始まる。
 今川はようやく落ち着いて司令部とやり取りが可能になったからとやや通信感度が悪いが現況報告――孝弘から結界内での戦闘データを送ってもらっていた――をしていた。
 孝弘は身体強化魔法の反動が出始め体の節々かは痛みを発していたが部下達へ指示を出し、それが終わるとまだ目を覚まさない大輝を心配そうに見つめていた。

(今川大佐のおかげで助かったけど、もしあのまま助けが来なかったら……。いや、よそう。いくら安全圏に来たとはいえまだ作戦は終わってない。やるべき事はあるんだから、考えるのは任務が終わってからにしないと……)

 孝弘は立つのが辛くなって横になっている水帆と隣に座ると、深くため息をついた。
 異世界で六年間も戦地に身を投じ戦友が何人も死んでいくのを目の当たりにしてきた孝弘といえども、一つの作戦で数人の部下が死ぬか復帰不可能な重傷となった上に大輝や知花が負傷。水帆も魔力不足で一時的戦闘不能の状態になったとなると、精神的にくるものがあった。
 今更後悔しても死んだ人は戻ってこないし、あの時ああしていればのたらればは無駄な思考であるとは分かっている。だからこそ今は気丈に振舞おうとしたが、それでもため息は止まらなかった。

「孝弘はよくやったわよ。連戦に次ぐ連戦で、潰滅してもおかしくない相手にも冷静に指示を出し続けて、それで半分以上は生きているんだから」

「そうだな。そう、考えるようにする。ありがとう」

「ん……」

 顔を向けて微笑む水帆に、孝弘はお礼にと彼女の頭を優しく撫でた。

「米原中佐。ようやく一息つけたところ申し訳ないけれど、こちらに来てもらえますか」

「了解しました。今川大佐」

「いってらっしゃい、孝弘」

「いってくる」

 孝弘は水帆と短いやりとりを済ませると、今川のところへ向かった。

「戦闘記録は見させて貰いましたが、後でゆっくり聞かせて貰いたい内容ばかりでした。ですが、まずは任務ご苦労様でした」

「ありがとうございます大佐。ただ、当初作戦の目標二名は死亡。直後結界内に拘束された上に度重なる戦闘で部下の半数以上が死亡または戦闘不能になったので、成功とはとても言えませんが……」

「当初目標二名は予想より大幅に戦闘能力が高く、その後にエンザリアが大量出現しただけでも困難極まりないのに、意思のあるエンザリア、でしたか。よく生き残れたと思います。並の部隊ならエンザリアの大量出現で一人残らず死んでいます。私の部隊でも、意思のあるエンザリアと相対したら無事で済むかどうか……。ちょっと見させてもらっただけでも、大変な脅威なのは伝わりましたから」

 今川の言葉が慰めだったとしても、同じ精鋭部隊の隊長のそれのおかげで気が少し楽になった。
 ただ、まだ落ち着いていられる状態ではない。孝弘には一つ気がかりなことがあった。

「今川大佐。ここに着陸して少し経ってから気づいたのですが、七条准将閣下との通信がオフラインになっています。まさか、何かあったんですか?」

「…………ええ。ありました」

「教えて頂けますよね」

「…………そんな目で見られると教えない。とは言えませんね。――現在、仙台・石巻方面はドラゴンの大群の強襲に遭い空戦中です。七条准将閣下はこれと交戦中で、作戦空域外にいる貴方の部隊とはわざとオフラインにしているでしょう」

「どうしてそれをすぐに仰ってくれないんですか……!」

「貴方がそう言うに決まってるからです。だから教えなかった」

「こうしちゃいられないすぐに行かないと!!」

 孝弘は今川に対して声を荒らげ、フェアルを起動しようとするが彼女に腕を掴まれた。彼が今川の方に振り返ると、彼女はきつく睨んでいた。

「率いている部隊は強敵との連戦で壊滅。心理的にも正常な判断が困難であると見受けられるだけでなく、身体強化魔法の多重付与で身体中がきしみ、残存魔力が半数ちょっとの貴方が役に立つとでも?」

「まだ半分あります!   身体の痛みだって鎮痛術式を使えば……!」

「許可出来ません。これは大佐としての命令です。守らない場合、貴官を命令違反としてこの場で拘束しますよ」

「そんなこと……!!」

「しますよ。本当に。命の恩人を死にに行かせたくありませんから」

「…………ですが、ですが!」

「私にあれそれと言われる義理は無いかもしれません。ですがね、私だけの命令じゃないんですよ。これ。七条准将閣下からの命令でもあるんです」

「七条准将閣下が……!?」

 孝弘は驚くほかなかった。璃佳から来るなと言われたのだから。

「准将閣下に特務小隊の状況を伝えました。小隊の壊滅に驚愕されてましたが、それだけの敵と戦って勝って、半分以上が生き残れたのは十分な戦果だと言っていました」

「………………」

「ですが、戦果はどうあれ特務小隊壊滅判定は覆りません。戦力の中核たるSランクの四人は一人が意識を失い一人は軽傷で戦闘困難。もう一人は魔力欠乏状態で戦闘不能で、貴方だってお世辞にもマトモに戦える状態じゃない。誰がどうみても、援軍には出せない部隊でしょう」

「分かり、ました……」

 孝弘は拳を強く握り、唇を噛み締めて絞り出すような声で返答をした。

「理解頂けて良かったです。軍法会議送りにはさせたくありませんでしたから」

「…………七条准将閣下は」

「連絡した時点では無事でしたよ。第三波を潰す途中で、声に覇気もありました。なぁに、あの『一人一個連隊の鏖殺姫』です。ドラゴンなんてハエのように叩き落としますよ。だから貴方も、特務小隊の皆も、まずは治療を受けてください」

「了解しました。今川、大佐」

 そう言うと孝弘は肩を落として今川のもとを去って水帆の方へ向かった。今川はただ彼をじっと見ていた。

(約束は果たしましたよ。七条准将閣下。だから閣下も、閣下達も生き残ってくださいね。そうじゃないと、私は命の恩人にぶん殴られてしまいますから。)

 今川は空を見上げる。
 昨日は天気が良かったというのに、曇天の空からはちらりちらりと雪が降り始めていた。
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