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第14章 仙台方面奪還作戦編Ⅱ

第20話 度重なる結界内での激闘を終えて

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「金山中尉、最良のタイミングでの支援助かった。感謝する」

「とんでもないです。それより米原中佐、魔力消費は大丈夫ですか。中佐も相応に使われていたはずでは」

「結界を破壊するのに必要な魔力はギリギリ残してある。水帆ほどではないさ」

「結界、ですか……」

「この様子じゃ厳しいかもしれないけどな」

 孝弘の言葉に宏光は頷く。
 最精鋭揃いと呼ばれる特務小隊ですら、多数の洗脳化エンザリアによる襲撃と堕天使の男(迷宮入り確定だが恐らくは意志のあるエンザリアだろうと宏光や孝弘達は思っていた)の奇襲で戦死六、重傷三、軽傷二(内一名は気絶状態)と壊滅的な損害を受けたのだ。
 残った九人も魔力の多くを消耗しボロボロの状態。とてもではないが、当初の予定にあった戦略級魔法はおろか戦術級魔法ですら行使できるか怪しかった。
 それでも今の状態を、宏光はベストではないがベターではあると思っていた。

(もし米原中佐達四人がいなかったらどうなっていたか……。大量のエンザリアの時点で潰滅していただろうし、それを乗りきったところであの堕天使との戦いで生き残れたとは思えない。Sランク二名が戦闘不能。一名が魔力低下で継戦不可だったとしても、半分以上生きてると考えれば……。うん、そう考えた方が絶対にいい。内二人は、厳しいかもしれないけれど……。)

 彼は孝弘と水帆の背中からカラー判定が赤になっている二人の方に視線を移し、それから顔を伏せた。
 孝弘と水帆は軽傷で済んでいる大輝や知花ではなく、まず東山少尉と緒川曹長の方に寄った。魔法衛生徽章まほうえいせいきしょう持ちの鏡島曹長が二人の応急処置を懸命に行っているが、隣にいる米田中尉の表情は暗かった。

「米田中尉。二人はどうだ」

「賢者の瞳にある通りカラーはレッド。当人の魔力を用いつつ鏡島曹長の魔力も注いで緊急延命措置を取っている状態です……」

「そうか……。鏡島曹長、二人はどれくらいもつ?」

「大雑把な予測ですが、東山少尉はあと一時間半。緒川曹長は一時間と少しです。正直に申します。助けが来なければ二人は……」

 意識を失っているとはいえ東山少尉と緒川曹長には聞かせたくなかったのだろう。鏡島曹長は孝弘に耳打ちする形で伝えた。

「分かった。処置を引き続き頼むよ」

「はっ」

 次に孝弘達が向かったのは大輝と知花、慎吾のいる所だった。慎吾にはアルトとカレンが。意識を取り戻した知花はまだ気を失ったままの大輝のそばにいた。孝弘は水帆に知花の所に行ってくれと言うと、水帆は頷いて歩いていった。

「華蓮大尉。慎吾少佐の様子はどうだ」

「米原中佐……。先生のカラーはイエローで、命に別状はありません。ただ負傷がそれなりに酷いので早めの処置をしないと……。出血も無視出来ない量が出たので……」

「分かった。慎吾少佐がいくら命に関わる負傷じゃなくても心配だろう。もう戦闘も終わったし、二人とも彼の傍にいて構わない」

「ありがとうございます……」

 アルトとカレンは礼を言うと、祈るような顔つきで慎吾の方に視線を戻していた。
 最後に向かったのは大輝と知花の所だ。辛そうな表情はしているが、意識を取り戻した知花と目線が合うと、ついホッとした気持ちが出てしまうがすぐに微笑みに変えた。

「孝弘くん、心配かけちゃったね」

「そんなことないさ。二人とも致命的な怪我にならなくて本当に良かった……。あの法撃を目の当たりにしたら、さすがにな……」

「私もよ。向こうでもあれくらいのピンチは……、二回あったわね。これで三度目でも慣れないし慣れたくないわ……」

「うん、本当にね……。大輝くんの魔法障壁が無かったら、私のだけだったらとても耐えられなかったから。だからって、皆を守るために自分の魔法障壁を一枚使うなんて……。私より余計に吹き飛ばされて、気を失って……。大輝くんらしいっていうか……」

「ああ、それで。知花の見立てではコイツは大丈夫なんだよな?」

「私が落ち着いて喋っていられるのが証拠かな。目を覚ましたばかりで背中をぶつけたのもあって元気に話せないというのもあるけど……。水帆さんと孝弘くんは大丈夫?」

「私は限定解除で残余魔力が二五パーセント。脱出用になるべく魔力を温存しようとしてた孝弘もギリギリ五○パーセントよ」

「金山中尉は?」

「僕は五五パーセントです」

「そっか……。他の動ける隊員も、ううん、これは厳しいね。金山中尉、私を込みにすればいけそう?」

「少々お待ちを。…………関中佐の今の残存魔力を含めれば戦術級が二回使える計算になります。ただ、関中佐は軽傷とはいえ負傷されています。頭部と背部を強くぶつけられているのであればなおさら……。僕が多少無理をすれば問題は――」

「東山少尉と緒川曹長の容態が危険なんでしょう。傷が軽くて会話のできる私が安静にしている場合じゃない。心配してくれるのは嬉しいけど、魔力欠乏で気絶しても死にはしないから」

 知花の瞳には強い決意が篭っていた。宏光は野暮なことを聞いてしまったとすぐに謝ることにした。

「大変失礼しました」

「ううん。いいの。ありがとうね、金山中尉。孝弘くん、早速取り掛かる?」

「そうだな。どの戦術級魔法にするか決めてしまおう」

 孝弘と知花が相談をしようとした時だった。周囲の警戒をし始めた宏光が違和感に気づく。

「米原中佐。向こう。向こうです。結界密度が薄くなった気が」

「向こう?」

 宏光が指さした方角は北側。孝弘も微妙な違いに気づいた。それから数秒経たず、結界にヒビが入る。

「総員、最大限の警戒!    結界が割れる!」

 通信が遮断されたことを早々に気づいた友軍の救助部隊だと信じたいが、暴走した地龍や二つ首の龍のような巨大生命体の可能性はゼロじゃない。もう二度と不意打ちなんてゴメンだという感情もあり、全員が警戒心を強めた。
 さらに数秒後。結界の一部(直径三十数メートルほど)が破壊された。

(この結界を少しとはいえ壊せるほどの威力の攻撃。味方ならありがたいが敵だったら……。)

 孝弘の頬に汗がつたうが、その心配は杞憂だった。現れたのはフェアルを操る二十数名の人間だった。
 しかし様子が少しおかしい。助けに来た割には随分とフェアルの速度が早い気がする。
 その謎はすぐに解けた。

「今川大佐……!!    良かった、貴女でしたか!!」

「米原中佐、助けにき……、これ、は…………。――聞きたいことは山ほどありますが、動けない負傷者はこちらで運びます。動ける方はしばらくフェアルで飛んでください。急いで脱出します。外にはまだ敵が残っていますので」

「分かりました。総員脱出準備」

 『りょ、了解……!』
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