異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第14章 仙台方面奪還作戦編Ⅱ

第19話 突然の乱入者

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 ・・19・・
 突如として現れた、黒く爛れた天輪を持つ男は大輝や知花達のいた急造陣地を吹き飛ばした。光線系魔法の着弾した部分は跡形も無く、爆心地のようになっている。

『SA14、15。装置消滅』

『SA10、12トリアージカラーレッド意識不明。戦闘不能』

『SA5、トリアージカラーイエロー意識不明。戦闘不能』

『SA4、トリアージカラーニアイエロー。意識レベル低下。戦闘困難』

『SA3、トリアージカラーニアイエロー。意識不明。一時戦闘不能』

 奇襲とはいえたった一撃で二名死亡。二名重傷。上野少尉や坂井曹長を守ろうとして自身の防御が薄くなったとはいえ、Sランクの知花と大輝ですら負傷という事実は隊員達を戦慄とさせる。
 だが、二人だけは違った。孝弘と水帆は既に次の行動に移ろうとしていたのだ。

「ふぅむ。アレで死なんとは。既に亡きシュレイダー閣下が警戒なさるのも道理であるな。我の出番も頷ける」

「総員突っ立ってんじゃないよ。SA6、7はSA3、4、5のカバー。SA9、11、13、16はSA10、12のカバー。早く」

『あの、僕は……』

「SA8は水帆の指示に従え」

『了解……』

『SA8、私のサポートに。孝弘ゴメン。結界を破壊する分まで魔力は残せないわ』

『構わない。やっちまえ』

「ぬぅ、我を無視とはいい度胸だ。意志を残せし堕天使の力を見るがいい」

「さっきからぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃとうるさいのよ」

「――なっ!?」

 堕天使の男の言葉に耳を傾けず命令を出していた孝弘に苛立ったのか、彼は孝弘へ光線系魔法をほぼノーモーションで放とうとする。
 しかしその法撃は阻まれた。水帆が彼以上の速度で法撃を放ったからだ。威力は大したものでは無いが、法撃中止キャンセルさせるには十分だった。その間にアルト達が大輝達の方へ、米田中尉達も倒れた仲間達の方へ向かうことが出来た。

「誰だか知らないけど、そのナリならエンザリアでしょう?    登場早々悪いけれど時間があまり無いの。殺すわね」

「ほう、大口を叩いたな。女」

「孝弘。やるわよ」

「分かった」

 孝弘は水帆が何をしようとしているか知っているからこそ、短く一言で返した。
 水帆は小さく息を吸うと、宣言するかのようにこう口にした。

「『賢者の瞳』法撃管理システム強制解除。多段法撃及び魔法陣顕現制限解除。残余魔力警告、最終限界値に設定」

『全制限システム解除。残存魔力警告、一○パーセントに設定完了』

「『限定解除』、始め」

『限定解除開始。解除可能時間、カウントスタート。あと五○○』

「十分よ」

 凶暴な笑みを堕天使に向ける水帆に対し、男は全身に悪寒が走った。倒れた奴等を消し飛ばすなぞしている場合ではないと。

「魔法陣多段展開。『炎弾フレイムバレット三百連射出トリクタアクティブインジェクション』」

 水帆の頭上に大量の魔法陣が現れるやいなや、炎弾は堕天使の男を襲う。

「ぬ、ぬおおおおおお!?!?」

 男は高速空中機動で回避するも全てを防ぎれるわけがなく、命中した炎弾は魔法障壁で受け止めてみせる。当たった直後から魔法障壁を多段展開する様はこれまで現れたどのエンザリアよりも強力であったが、急激な魔力消費とそれに伴う心身不良を防ぐ為に『賢者の瞳』がかけていた枷を外した水帆にとっては些末な事だった。

 敵が回避しようとするなら、避けられない位に多段法撃すれば良いのだから。
 敵が魔法障壁を新たに展開するのならば、それ以上の魔法障壁を破壊すれば良いのだから。

「続けて魔法陣多段展開。『風刃ウィンドナイフ二百連射出ジクタインジェクション』」

「ま、まだ放てるだとっ!?」

 堕天使の男は驚くべきことに高速空中機動と魔法障壁多段展開で水帆の多重法撃を凌ぎきってみせたが、水帆が一枚、いや二枚以上に上手だった。炎弾の発数が五○を切ったところで次の詠唱動作に入ったのである。

「俺を忘れるなよ堕天使野郎」

「ちっ、クソゥ!!」

 炎弾から風刃に切り替わる、僅かな法撃の切れ目を狙おうとした男はまたしても法撃を阻まれる。孝弘の射撃だった。彼は一発撃った後に堕天使へ高速接近。身体強化魔法によって極限まで高められた攻撃力で男に向けて回転蹴りを食らわせた。

「ぐっっ!!」

「まだ終わんねえよ」

 魔法障壁が残り二、三枚まで減らされたところで孝弘は追撃として数発の銃弾を発射。無属性のハイショットだった。
 魔法障壁の全損。そのタイミングで男に襲いかかったのが水帆の多段法撃だった。

「末恐ろしい火力だな!!   だが、この程度ではまだやられんぞ!!」

 男は魔法障壁を即時展開。あっという間に五枚まで元に戻す。

「あらそう。まだ大丈夫なのね。孝弘、ちょっと離れてくれるかしら?」

「了解」

 孝弘が男の傍から離脱した直後、水帆はフェアルを使って急加速。風刃の法撃が終わったところで、彼女は男の目の前にいた。

「なぁ!?!?」

「防げるものなら防いでみせなさいな。『豪雷球サンダーボール』、零距離法撃ゼロアタック

「ぐ、あがぁぁぁぁ!?!?」

 青白く輝く雷の球が水帆の手元に現れ、それを彼女は男へ叩きつける。
 流石にこれは防げなかった。凄まじい音と共に堕天使の男は地上へ吹き飛ばされる。
 落下予想地点には孝弘がいる。堕天使はこのままでは不味いと軌道を変えようとしながら法撃準備に移ろうとするが、三度阻まれた。宏光の法撃だった。

「完璧なタイミングだ、SA8」

 孝弘はそう言ってからマガジン内にあるありったけの弾丸を堕天使の男に叩き込んだ。全弾撃ち尽くすと、すぐにマガジン交換。男の目の前に行く頃には装填を完了していた。

「ま、まだまだぁぁ!!!!」

「うるせぇよ」

 二発、四発、八発と魔法の銃弾が男を襲う。無属性爆発系は純粋な魔力の暴力だ。魔法銃の耐久設計ギリギリまで威力を高めたそれは、いくら次々と魔法障壁を展開できる男であってもシャレになっていなかった。

「ぐ、一度離れ――」

「させるわけないじゃない。全て凍てつく、絶対零度を越える絶対零度をここに。『絶対零度改アブソリュート・ネオ』」

 水帆が発動したのは準戦術級氷属性魔法、アブソリュート・ネオ。その威力は限定解除によって通常の倍近くまで高められていた。

「まずっ、――ぐあああああああぁぁぁ!!」

「やっと、命中してくれたわね」

「早く溶かさねば、これは良くな――」

「ああ、良くないな。だからさ、氷ごと腕を砕いてやるよ」

「は、えっ」

 孝弘は魔法障壁で防げないだけの発数――また三枚展開されていたから、六発ほど撃った――を堕天使へ放つ。
 アブソリュートによって凍結した男の左腕は粉々に砕けてしまった。

「ああがああああああぁぁぁ!!」

 男の悲鳴が辺りに響く。

「そろそろ大人しくしてもらおうかしら。拘束魔法『雷縄サンダーバインド』多重展開」

「そんなものに縛られてたまるかぁぁぁ!!!!」

「耳障りだな。とっとと捕まれよ」

 男は水帆の拘束魔法から逃れようとするが、孝弘の銃撃や宏光の法撃にも襲われ全てを回避することは叶わない。
 一つ、また一つと雷の縄が男に電撃を浴びせながら縛っていく。
 十数秒を経て、いよいよ男は身動き一つも取れなくなった。

「不快な声は耳に入れたくないから、顔ごと焼くわね」

「ま、待て待て待て待て待て待て!!」

「ほら、やかましいじゃない」

 水帆が手を振り下ろすと、男の顔の真上に青白い魔法陣が浮かぶ。最も温度を上げた火属性魔法陣の色だった。そこから出る炎の色はもちろん青で。

「ンムウウウウウウウウウウ!?!?!?」

 水帆は顔ごとと言ったが明らかに火力が過剰で、頭部どころか上半身を丸ごと焼いていた。
 男の断末魔のような声は数秒こそこの場に響いたが、一○秒経つ頃には聞こえなくなり、二○秒経った頃にはピクリとも動かなくなった。

「流石に死んだわよね」

「ほぼ間違いなくな。でも念の為、形も残さないでおくぞ」

「賛成」

 孝弘は堕天使だった焼け焦げた肢体に数発銃弾を撃ち込むと、死体は元の形が分からなくなるナニかへと変わり、続けて水帆が燃やし尽くして塵すら残らなかった。

「もう大丈夫だろう」

「ええ、そうね。『限定解除終了』」

『限定解除終了。タイムリミットストップ。残存魔力二五パーセント』

「警告値まで減らなかったけど、流石に、ちょっと、しんどいわ……」

 短時間に四分の三もの魔力を使った水帆は激しい目眩に襲われ、その場に倒れかける。抱きとめたのは孝弘だった。

「ありがとう、孝弘」

「あれだけ魔力を使ったんだ。無理もないよ。早く大輝達の所へ行こう。ニアイエローとはいっても心配だ」

「ええ、そうね……」

 水帆に肩を貸した孝弘は宏光も呼び、両方から支えられた水帆は宏光にもありがとうと言うと、三人は大輝達の方へゆっくりと歩き始めたのだった。
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