異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第14章 仙台方面奪還作戦編Ⅱ

第11話 拡大する損害に対して、日本軍が取ろうとする作戦は

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 ・・11・・
 2037年3月19日
 午後7時半前
 亘理町役場周辺
 第101魔法旅団戦闘団・前線司令部

 最前線では激戦が続くなか、孝弘は璃佳からの呼び出しを受けて亘理町にある第一〇一魔法旅団戦闘団の前線司令部に来ていた。時刻は午後七時半前。既に空の闇は深まり、北の方から砲声やミサイルが着弾した時に生ずる音。何かが爆発した音が聞こえていた。
 彼の足取りはいつもよりやや重かった。気分が重い訳では無い。ここ数日の間に蓄積した疲労がそうさせていた。強壮魔法でごまかすのも限度があったのだ。
 孝弘は旅団戦闘団本部の兵士の案内で司令部になっている建物に入ると、旅団長室になっている部屋の前に着いた。

「七条准将閣下。米原中佐をお連れ致しました」

「ご苦労。米原中佐、入ってよし」

「はっ。失礼します」

 孝弘は旅団長室に入ると、そこにいたのは彼女だけ。副官の熊川がいないことに気付く。忙しくていないだけか、それとも内々の話なのか。前者ならいいけれども。と思っていたが。

「人払い、頼んだよ」

「はっ。了解致しました」

 これは後者の可能性の方が高そうだ。と、孝弘は心中でため息をついた。
 扉が閉まると、璃佳はすぐに孝弘へ声をかけた。

「激戦続きで忙しいところ呼んじゃって悪いね。何となく察しているとは思うけれど」

「機密性の高い内々の話、あるいは作戦でしょうか。防音魔法も使われておられるようですし」

「察しが良くて助かるよ。ま、とりあえず座って。コーヒー出すよ」

「ありがとうございます」

 孝弘は璃佳から熱いコーヒーの入ったマグカップを受け取ると、二度息を吹きかけて少しだけ口にした。外はまだ寒く、熱いコーヒーはじんわりと腹に温かさを伝えていく。
 璃佳もマグカップに入ったコーヒーを口につける。あちち、と言いながら孝弘と同じように息をふーふーとかけ、もう一度少し飲んでマグカップをテーブルに置くと。

「今回貴官を呼んだ件なんだけど。話に入る前に必要だから聞くね。今日の定時戦闘詳報は目を通した?」

「はっ。はい。ここへの移動中にある程度は。思いのほか早く着いたので、まだ大雑把ですが」

「おっけ。じゃあ認識のすり合わせも兼ねて確認しとこうか」

「お願い致します」

 一時間半ほど前に士官クラスへ送られた戦闘詳報の内容を話していく。
 今日夕方までの戦況は簡潔にまとめると以下のような状態だった。

【3月19日午後戦闘詳報】
1,一九日午後現在における各戦線の前進状況は以下の通り。

2,仙台戦線西部は長町地区を奪還。また、仙台南部道路山田ICまで制圧。現在、広瀬川を挟んだラインが最前線である。

3,仙台戦線東部は陸前高砂駅の付近まで前進。荒井付近が最前線となっている。多賀城を次点目標に捉えるまで部隊は侵攻している。ただし多賀城付近に展開の敵と激しい戦闘を繰り広げており、多賀城奪還には暫くの時間を要すると考えられる。

4,仙台中心街を半包囲しつつあるが戦況は未だ不安定であり、苦竹IC付近での敵の抵抗が激しく、完全な半包囲には時間を要する。

5,石巻方面は上陸から一九日午後までに空軍・松島基地を奪還。石巻市街の大部分も奪還した。最前線は野蒜《のびる》周辺。

6,石巻戦線北部の前線は気仙沼線及び石巻線分岐点付近まで前進。ただし、度々敵部隊と接触し交戦状態となっている。


「ざっとこんなもんかな。認識にズレはない?」

「はっ。はい。ズレはありません。ただ、人的・物的共に損害は想定を越えている。でしたね」

「残念ながらね。特に戦車や機動戦闘車、装甲車の損害は酷いものだよ。エンザリア単独だけで戦車が一〇両。機動戦闘車が七両やられてる。これに他が原因の損害を加えると倍近くになるかな」

 璃佳がホログラム画面で損害報告ページを見ながら嘆息する。

「戦車が二〇両近くにキドセンが約一五両は深刻ですね……。このままだと北海道での戦闘に響きます。北海道ほど機甲戦力が重要で役に立つ戦場は国内では関東平野を除いて他にはありません」

「このままだと間違いなく響くね。九州から戦車部隊を引き抜きするって話が現実味を帯びてくるんじゃないかな。物的だけじゃない。人的損害も無視出来ないラインまで来た。特に私達魔法軍が一番酷くてね。エンザリアとの戦闘もさることながら、呼応してやってくるCTや神聖帝国軍兵士との戦闘でも損害率が一番高い。おまけに休み無しでの戦闘。一〇一や西方なんか特にね……」

「それで、今回の話に繋がるわけですか」

「ご名答。上は日に日に焦りが増してる。そもそも仙台に置かれているのが偽の司令部で、本当の司令部は別にあるって時点で厄介なのに、偽の司令部はしっかり機能をしているんだから厄介に極まりないがつくわけ。加えて貴官達が初交戦したエンザリアの散発的な出現まであっちゃ、損害は上昇しっぱなし。エンザリアとのキルレートは知ってるでしょう?」

「約一二対一ですね。大きな脅威です」

「本当に。一人倒すのに一二人の将兵の命と引き換えだなんて割に合わなさ過ぎる。そんな時に、どうやら上は敵司令部に関する位置の重要な情報を手に入れたみたいでね。んで、私のとこに上がってきたのがコレ。まだ立案ベースだけど、ほぼ確定だと思って。読んでくれる?」

「受け取ります」

 電子画面ではなく火属性魔法なら簡単に消せる紙媒体の時点で、孝弘は鬼が出るか蛇が出るかの心境で、しかし覚悟を持って資料を受け取った。
 孝弘は、ああ。やっぱりこうなるよな。と心中で独りごちる。
 資料の最初のページにはこう書かれていた。

『神聖帝国軍仙台方面司令部に対する少数精鋭での奇襲作戦』
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