207 / 250
第14章 仙台方面奪還作戦編Ⅱ
第7話 虚ろ目のエンザリアの脅威
しおりを挟む
・・7・・
CTではないエンザリアの出現に日本軍は騒然となったが、仙台空港に現れた三人とは別に、名取市街地郊外南部でさらに二人が出てきた事は戦線にさらなる衝撃を与えた。
Sランク能力者四人が袋叩きにして抑えた相手だ。エンザリアCTとは比較にならない戦闘力であるから戦線中央部の被害もCTの方とは比べ物にならないものだった。
出現直後の初撃でまず戦車二両が吹き飛び、間髪置かずに放たれた第二撃で機動戦闘車一両が大破。周辺にいた数十名の兵士が負傷する。
戦線中央部には既に仙台空港の件が共有化されていたことと、エンザリア出現に呼応してCTの攻撃が激しくなったこともあり前線指揮所は航空支援と榴弾砲による攻撃を要請。フェアル部隊と付近の砲兵部隊が即時受諾して徹底的に火力を叩き込むことにした。
特務の第二のうち一個小隊と榴弾砲三門による攻撃が届くまで、地上はよく持ちこたえた。歩兵は近くの塹壕に隠れ、戦車などは回避機動を取りつつスラローム射撃にて反撃をするも、CTの突撃に混ざって放たれるエンザリアの連続的な光線系法撃で死傷者は続出する。
それでも勇猛果敢に彼等は戦った。魔法兵科の魔法障壁が無ければ吹き飛んだ歩兵小隊があったし、他国に比して機動力に優れる戦車で無ければ直撃を食らっていた。彼等の奮戦があったから戦線は崩壊しなかった。
出現から一分足らずでまずは榴弾砲が届いたし、その三○秒後にはフェアル部隊が到着した。個体攻撃力に優れる相手には、集団による優勢火力で反撃。これでようやく、エンザリア二体を倒すことが出来た。
しかし、たった三分の間で戦車は二両被撃破、二両大破。機動戦闘車は一両が被撃破、一両が大破。陸、海兵、魔法軍の死傷者は一○○名近くと洒落にならない損害を受けたのもまた事実であった。
・・Φ・・
仙台空港の南でエンザリアと交戦しこれを撃破した孝弘は戦闘が落ち着いてから知花と共に璃佳へ戦闘の詳細報告をしにいった。知花はあの時、可能な限りデータを取っていたからである。
知花の情報は璃佳だけでなく全戦線の指揮官クラスに歓迎された。戦線中央部での戦闘ではデータ収集どころではなくまともな情報は得られなかったが、知花は戦闘中に『賢者の瞳』の戦闘補助モードに加えて情報収集モードを並列起動しており、エンザリアの戦闘中から死ぬまでの行動を録画、法撃力や機動力の計測などを行っていたからだ。
知花は璃佳に以下のような報告をした。
◾︎エンザリアの法撃力は低出力連続発射型で従来法撃を約五○パーセント上回り、高出力型に至っては従来法撃の約二○○パーセントから二五○パーセントを観測した。これは低出力型であっても一般的な能力者では魔法障壁が全損の上に死亡、さらには後方に貫通する水準にある。高出力型の場合、Aランクの魔法障壁が全損に近いダメージを受け、A+ランクでも半損以上全損未満のダメージを受ける。Sランクでようやく半損に近いダメージで済むといった水準である。
◾︎エンザリアの真の脅威は法撃射出までの秒数とリキャストタイムにある。エンザリアの法撃射出スパンは従来型を大幅に上回り、低出力型の場合僅か二秒から三秒で射出。短縮術式に至っては一秒程度である。高出力型でも約四秒から五秒で発射される。これはAからA+ランクの短縮詠唱、Sランクの準短縮詠唱と同等である。
◾︎リキャストタイムも大幅に短くなった。低出力型の場合、リキャストタイムは僅かに五秒から七秒。高出力型でも約一○秒であった。これはエンザリアCTの半分以下の間隔である。
◾︎魔法障壁密度もエンザリアCTに比べ向上している。個体差による差異を鑑みるには取得したデータが少ないためあくまで現時点における推測値であるものの、約四○パーセントから六○パーセントの向上を観測した。
◾︎反面、機動力については大幅な向上は見られなかった。地上機動での時速約一二○は十分に脅威だがこれは従来型の約八○から一○○に比べると控えめな数値であるといえる。飛行速度も飛行型エンザリアCTに遠く及ばない。ただし、空中機動戦がごく短時間であったことから本当に飛行型エンザリアCTに遠く及ばないかどうか、現時点で判断するのは危険である。
◾︎エンザリアが死亡の間際に「堕ちたワタシ達は逆らえない。同志を解放してくれ」と遺した点と、米原中佐が口の動きのみであるが「コロセ」と言っていたのを目撃した点から、CTではないエンザリアには洗脳等なんらかの手法が神聖帝国によってなされている可能性がある。天輪が黒色である事も関係しているかもしれない。
知花の報告に、璃佳は一○一ですら大きな損害が生じかねないと頭を抱えたが、反面貴重な情報に強く感謝していた。敵の情報はあるとなしでは大違いであることをこの大戦の間に何度も体感しているからである。
璃佳にもたらされた報告はすぐさま軍最上層部に出され、緊急性が高いと判断した軍は国内だけでなく国外にも包み隠さず情報共有した。
だが、数時間遅かった。世界各地、特に米国と欧州で同様の事例が発生したからである。
特に欧州戦線は酷かった。反転攻勢に出ていた北欧戦線ではエンザリアが一挙に二五人出現。一時的ではあるものの戦線が崩壊しかけ危うい状態になったのだ。
幸い北欧戦線方面は重砲火力が充実しており、Aランク以上の高位能力者も集中配備されていた部分での出来事であったから最悪の事態を脱しつつあるが、後の攻勢作戦に影響が出るのは必須であり、せっかくの反転攻勢に水を差された形になってしまっていたのである。
このように世界数カ所で姿を現したCTではない洗脳されている可能性のあるエンザリアは、大きな脅威として世界各国で認識されることになるのであった。
そのような中で仙台の戦線もまた、一度ならず二度の脅威を味わうことになる。
CTではないエンザリアの出現に日本軍は騒然となったが、仙台空港に現れた三人とは別に、名取市街地郊外南部でさらに二人が出てきた事は戦線にさらなる衝撃を与えた。
Sランク能力者四人が袋叩きにして抑えた相手だ。エンザリアCTとは比較にならない戦闘力であるから戦線中央部の被害もCTの方とは比べ物にならないものだった。
出現直後の初撃でまず戦車二両が吹き飛び、間髪置かずに放たれた第二撃で機動戦闘車一両が大破。周辺にいた数十名の兵士が負傷する。
戦線中央部には既に仙台空港の件が共有化されていたことと、エンザリア出現に呼応してCTの攻撃が激しくなったこともあり前線指揮所は航空支援と榴弾砲による攻撃を要請。フェアル部隊と付近の砲兵部隊が即時受諾して徹底的に火力を叩き込むことにした。
特務の第二のうち一個小隊と榴弾砲三門による攻撃が届くまで、地上はよく持ちこたえた。歩兵は近くの塹壕に隠れ、戦車などは回避機動を取りつつスラローム射撃にて反撃をするも、CTの突撃に混ざって放たれるエンザリアの連続的な光線系法撃で死傷者は続出する。
それでも勇猛果敢に彼等は戦った。魔法兵科の魔法障壁が無ければ吹き飛んだ歩兵小隊があったし、他国に比して機動力に優れる戦車で無ければ直撃を食らっていた。彼等の奮戦があったから戦線は崩壊しなかった。
出現から一分足らずでまずは榴弾砲が届いたし、その三○秒後にはフェアル部隊が到着した。個体攻撃力に優れる相手には、集団による優勢火力で反撃。これでようやく、エンザリア二体を倒すことが出来た。
しかし、たった三分の間で戦車は二両被撃破、二両大破。機動戦闘車は一両が被撃破、一両が大破。陸、海兵、魔法軍の死傷者は一○○名近くと洒落にならない損害を受けたのもまた事実であった。
・・Φ・・
仙台空港の南でエンザリアと交戦しこれを撃破した孝弘は戦闘が落ち着いてから知花と共に璃佳へ戦闘の詳細報告をしにいった。知花はあの時、可能な限りデータを取っていたからである。
知花の情報は璃佳だけでなく全戦線の指揮官クラスに歓迎された。戦線中央部での戦闘ではデータ収集どころではなくまともな情報は得られなかったが、知花は戦闘中に『賢者の瞳』の戦闘補助モードに加えて情報収集モードを並列起動しており、エンザリアの戦闘中から死ぬまでの行動を録画、法撃力や機動力の計測などを行っていたからだ。
知花は璃佳に以下のような報告をした。
◾︎エンザリアの法撃力は低出力連続発射型で従来法撃を約五○パーセント上回り、高出力型に至っては従来法撃の約二○○パーセントから二五○パーセントを観測した。これは低出力型であっても一般的な能力者では魔法障壁が全損の上に死亡、さらには後方に貫通する水準にある。高出力型の場合、Aランクの魔法障壁が全損に近いダメージを受け、A+ランクでも半損以上全損未満のダメージを受ける。Sランクでようやく半損に近いダメージで済むといった水準である。
◾︎エンザリアの真の脅威は法撃射出までの秒数とリキャストタイムにある。エンザリアの法撃射出スパンは従来型を大幅に上回り、低出力型の場合僅か二秒から三秒で射出。短縮術式に至っては一秒程度である。高出力型でも約四秒から五秒で発射される。これはAからA+ランクの短縮詠唱、Sランクの準短縮詠唱と同等である。
◾︎リキャストタイムも大幅に短くなった。低出力型の場合、リキャストタイムは僅かに五秒から七秒。高出力型でも約一○秒であった。これはエンザリアCTの半分以下の間隔である。
◾︎魔法障壁密度もエンザリアCTに比べ向上している。個体差による差異を鑑みるには取得したデータが少ないためあくまで現時点における推測値であるものの、約四○パーセントから六○パーセントの向上を観測した。
◾︎反面、機動力については大幅な向上は見られなかった。地上機動での時速約一二○は十分に脅威だがこれは従来型の約八○から一○○に比べると控えめな数値であるといえる。飛行速度も飛行型エンザリアCTに遠く及ばない。ただし、空中機動戦がごく短時間であったことから本当に飛行型エンザリアCTに遠く及ばないかどうか、現時点で判断するのは危険である。
◾︎エンザリアが死亡の間際に「堕ちたワタシ達は逆らえない。同志を解放してくれ」と遺した点と、米原中佐が口の動きのみであるが「コロセ」と言っていたのを目撃した点から、CTではないエンザリアには洗脳等なんらかの手法が神聖帝国によってなされている可能性がある。天輪が黒色である事も関係しているかもしれない。
知花の報告に、璃佳は一○一ですら大きな損害が生じかねないと頭を抱えたが、反面貴重な情報に強く感謝していた。敵の情報はあるとなしでは大違いであることをこの大戦の間に何度も体感しているからである。
璃佳にもたらされた報告はすぐさま軍最上層部に出され、緊急性が高いと判断した軍は国内だけでなく国外にも包み隠さず情報共有した。
だが、数時間遅かった。世界各地、特に米国と欧州で同様の事例が発生したからである。
特に欧州戦線は酷かった。反転攻勢に出ていた北欧戦線ではエンザリアが一挙に二五人出現。一時的ではあるものの戦線が崩壊しかけ危うい状態になったのだ。
幸い北欧戦線方面は重砲火力が充実しており、Aランク以上の高位能力者も集中配備されていた部分での出来事であったから最悪の事態を脱しつつあるが、後の攻勢作戦に影響が出るのは必須であり、せっかくの反転攻勢に水を差された形になってしまっていたのである。
このように世界数カ所で姿を現したCTではない洗脳されている可能性のあるエンザリアは、大きな脅威として世界各国で認識されることになるのであった。
そのような中で仙台の戦線もまた、一度ならず二度の脅威を味わうことになる。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる