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第14章 仙台方面奪還作戦編Ⅱ
第4話 第3段作戦直後から気づく一つの違和感と仮説
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・・4・・
午前六時に実行された仙台・名取方面奪還作戦第一段作戦『小型マト弾投下作戦』は作戦単位のみで見れば確かに成功した。推定値ではあるものの小型マト弾四発により死亡したCTは約三〇〇〇〇。戦闘能力を喪失したモノがその三分の一。負傷したが動けるモノが約五〇〇〇から約八〇〇〇。神聖帝国軍将兵が死亡したと思われるのが約四〇〇〇から五〇〇〇。負傷した将兵が約六〇〇〇から七〇〇〇。
これにより仙台方面に展開していた神聖帝国軍本国軍は一個師団が指揮能力を喪失し、一時戦闘能力を喪失。数時間後に復旧するも後々までこの傷が戦闘に悪影響を及ぼすこととなる。
名取方面に展開していた神聖帝国軍本国軍はさらに悲惨であった。名取方面で起爆した小マト弾は彼等にとって運の悪いことに部隊の集まっている地点で爆発した。その結果一個師団のうち半数が死傷し、この方面においては神聖帝国軍本国軍は戦力の三分の二が戦闘能力喪失状態となったのである。
日本軍の攻撃はこれだけでは終わらなかった。第一段作戦終了後、間髪入れず第二段作戦『侵攻準備空爆・艦載砲攻撃・砲撃作戦』が実行されたからである。
作戦時間は約三時間と侵攻準備砲爆撃としてはやや短いものの投入された砲弾薬の量は旧首都東京奪還作戦に迫るほどで、徹底的にCTや神聖帝国軍本国軍を攻撃した。
ただ、この作戦は立案当初から想定されていたように十分な効力を発揮しなかった。これまでとは違い、名取・仙台間にはいくつもの野戦陣地が構築されており、身を隠す塹壕線が多数作られていたからである。
それでも名取より南、岩沼方面はこれらほどに充実した野戦築城がなされていなかったから、該当地域にいたCTは畑を耕すが如くの砲弾と爆弾とミサイルに吹き飛ばされることになる。
このように第一段作戦と第二段作戦は予想していた戦果と比して多少の違いはあったものの、戦果としては十分に認められるものであった。
だが、午後になると日本軍の誤算が顕在化し始める。それは交戦地帯にいた孝弘達も実感し始めていた。
・・Φ・・
3月15日
午後3時半前
宮城県岩沼市街郊外東部・交戦地帯
第三段作戦が開始されて数時間後の昼過ぎ。孝弘達は前衛部隊として行動を開始し、岩沼市の南部までは第二段作戦の成果もあって快速で進むことが出来たが、岩沼市街周辺に至った途端に敵の反撃が激しくなった。
彼等がいるのは岩沼市街東部郊外。飛び交うのは砲撃と銃撃と法撃。空からはフェアル部隊の法撃に銃撃や支援要請を受けて飛んでくる友軍のミサイル。そして、それに負けず劣らずの火力を保つ神聖帝国本国軍の法撃や銃撃と、CTの攻勢。そこは文字通り激戦地帯となっていた。
『三〇二大隊第二中隊より付近のSAへ! すまない、支援法撃を頼む! 一向に敵が減らん!!』
「SA1より三〇二大隊第二中隊へ。支援法撃了解。こちらから距離約一〇五〇地点に大型CTを視認。これの撃滅で良いか」
『第二よりSA1。そうです!』
「了解。魔法対物ライフルで射撃する。発射まで五秒」
「風属性貫通型。チャージ。ショット」
孝弘は風属性貫通術式を付与すると、早々に目標に照準を合わせ魔法対物ライフル弾を大型CTに向けて放つ。
撃たれた弾は正確に大型CTへ向かい、バケモノの胸部を穿ってみせた。周りの銃撃音と砲声がうるさくて聞こえないが、ドシンと倒れた音が近くなら聞こえるであろう勢いで大型CTは倒れ伏した。
『支援感謝します!』
「無事で何より。敵の勢いが不思議な位に止まらない。気をつけて」
『はっ!』
『こちら第三三戦車中隊! 大型CTの群れと後方に神聖帝国軍の小隊規模を確認! あいつら器用なことに魔法障壁を大型CTに展開しているから砲弾が届きにくくて敵わん! 魔法軍部隊の支援を求む!』
『SA4より第三三戦車中隊へ。支援を受け取りました。フェアル部隊はさらに後方の部隊とここより東方面にかかりきりで厳しいので私達でなんとかします。SA3へ。ゴーレムを一体向かわせられるかな?』
『SA3より4へ。わりぃ、こっちも手一杯だ!』
『こちらSA2。今さっき支援法撃が終わったからそっちに向けられるわ。私に任せて』
『ありがとねSA2。SA4より第三三戦車中隊へ。SA2が支援法撃を行います』
『第三三戦車中隊よりSA4了解です! SA2、助かります!』
『これくらい気にしないで。法撃まで一五秒。それまで自慢の装甲で耐え切って!』
『もちろん! 戦車の装甲は伊達じゃありませんので!』
先程までの支援法撃で孝弘がいる場所から十数メートル離れた地点にいた水帆は、そこでは友軍が斜線上になってしまうからと少しだけ左へ移動すると、詠唱を開始。大型CTではなく、そのやや後ろに控えている神聖帝国軍本国軍の小隊へ照準を合わせる。
『風の刃に炎纏わせ、貫け燃やせよ魔法の炎の刃! 『炎刃落下』!』
水帆が詠唱を終えると、高等テクニックのひとつであるやや離れた場所への魔法陣展開を彼女は易々とやってみせ、赤と緑が混ざった魔法陣からは大量の炎刃が神聖帝国軍の小隊へと降り注ぐ。
直上からの法撃を防ぐ手だてが無かった神聖帝国軍の小隊は炎の刃に刻まれ燃やされ、炭と化す。直後、大型CTの一群を守っていた魔法障壁は消失した。
『第三三戦車中隊、魔法障壁の消失確認! これで心置き無く撃てます! 戦車中隊マルヒト、マルフタ、マルサン、マルヨン撃てぇぇ!!』
四両の戦車から撃ち出された砲弾は大型CTを吹き飛ばし、加えて周辺にいた随伴歩兵部隊のうち、対戦車ロケット弾数発がCTに飛んでいき、それらも見事に命中した。
『SA2、支援ありがとうございました。戦車中隊、全車前進再開! 敵部隊をぶっ飛ばすぞ!』
大型CTという邪魔者がいなくなった戦車中隊はエンジン音を響かせながら、随伴歩兵部隊と共に前へと進んでいく。それに合わせて周りにいた海兵隊や魔法軍部隊も進んでいった。
『セブンスからSA1。SA小隊は昼からずっと撃ちっぱなしの戦いっぱなしの上に多数の支援要請を受けてこなしてるでしょ。そろそろ補給がてら小休憩しなさい。代わりに控えさせていた第三大隊第二中隊を出す』
『SA1よりセブンス。了解しました。思ったより弾薬消費量が激しく補給したかったですし、近接部隊員の体力消費が心配でしたからありがたいです』
『まだまだ始まったばかりなのにSAを必要以上に消耗させたくないからさ。ああでも悪いけど休憩は三〇分。一〇一はどこからも引っ張りだこでね。中休憩はまだ先だよ』
『存じてます。我々は便利屋ですから』
『まあね。この後も頼んだよ、SA1』
『はっ。了解しました。――SA1よりSA総員へ。これより三〇分休憩。五〇〇メートル後方のコンビニ跡地へ集合』
孝弘が特務小隊に小休憩を告げると、ほっとした声音で了解と返答が届いた。
孝弘を含む特務小隊の面々はコンビニ跡地に集まると、ようやく一息つけたという様子で――大輝は前線にゴーレムを三体貸し出しているが、二体はこちらに同行させていた――その場に座ったり魔力回復薬を飲んだりと各々の行動をしていた。
孝弘は補給部隊から消費した対物ライフル弾や試製三六式の弾を受け取ると、自分も魔力回復薬を飲んで大きく息をついた。
そうしていると、補給部隊の方からやってきたのは水帆だった。手には水筒が二つ。自分のと孝弘の分を持っていた。
「お疲れ様、孝弘。これ予備の水よ。だいぶ飲んじゃったでしょう?」
「助かるよ水帆」
孝弘は水帆から水筒を受け取ると、中に入った水を勢いよく飲む。まだ三月初めで寒さが厳しいとはいえ、これだけ動けば身体も火照るというもの。喉に流し込んだ水は冷たく心地よかった。
「午前中から動きっぱなしで、昼からはこれだろう? 流石に腹が減ったな……」
「そんな事だろうと思った。ほら、カロリーバーよ。さっき貰ってきた」
「まだ手持ちがあるのにか?」
「この後も出ずっぱりだろうからって渡してくれたのよ。あの補給部隊、東京の時に同じDBにいて何度か助けてもらったからって恩返しなんですって」
「ああ、あの時のか」
孝弘が補給部隊の方に視線を移すと、彼の視線に気付いたのか補給部隊の兵士達が敬礼していた。確かに見覚えがある。新小岩にいた部隊だ。孝弘は答礼すると、目線を水帆の方へ戻した。
二人はカロリーバーの一つを出すと、孝弘は半分ほどを。水帆は三分の一ほどを食べる。
「美味いなこれ。フルーツケーキっぽいな」
「今回から支給されてる新作だそうよ。ほら、味がプレーンとチョコレート風味の二つだけじゃ飽きられるだろうからって」
「いいね。こういう時に新作の味が食べられるのはちょっと嬉しいよ」
「ね。食はどこでも大事だもの」
二人は微笑みながら新作のカロリーバーを食べ切ると、隊長と副隊長らしく話題は今の戦況へと移す。それは戦歴の長い孝弘と水帆だから早い段階で気づいたものだった。
「なあ水帆」
「言いたいことは分かるわ。敵のことよね?」
「ああ。午前中からの戦いっぱなしと相次ぐ支援要請で気づいたんだけど、CTはともかく神聖帝国軍の連中は小マト弾の攻撃を食らってその後散々に砲撃や爆撃を食らった割には指揮能力が落ちてなくないか? 奴等、連携能力が思ったより残っていると感じる場面がいくつもあった」
「確かに。神聖帝国軍の数は少ないけど、部隊間の指揮は取れてたし、後退する部隊も手際が良かったわ」
「前線だけでもこれだろ? でもな、どうも最前線よりやや後ろも怪しいんだ。戦闘中だったからあまり目を向けられなかったけど、戦域全体、といっても前線になってる岩沼辺りと後方の名取だけにはなるけど、小マト弾で潰されたと思われる部隊以外は潰走したような動きがあんまり見られない。例えばこれだ。司令部が潰れたはずの割には、なぜだか意図を持っての後退にみえる」
孝弘が水帆に見せたのは岩沼北部にいた神聖帝国軍の部隊だ。運がいいことに小マト弾の惨禍を逃れ、準備爆撃・砲撃もやり過ごしていた大隊以上連隊未満の部隊は無闇にこちらに来ようとはせず、しばらくその場にいたかと思うと名取方面に向かっている。しかもその場所は小マト弾の直撃を受けた場所ではなく、その外縁部の南東側。小マト弾の攻撃によって戦線の穴になっている部分の一つだった。
「な?」
「本当ね……。他にも名取のマト弾起爆地点にいて戦力喪失したっぽい部隊の穴埋めをしてるように見える部隊がいくつもあるわ。前線部隊の間で協調したとも思えるけれど、手際がいいわね。事前に取り決めをしたとか……?」
「そこまでは俺にも分からない。通信手段が俺達より乏しい神聖帝国軍が名取の前線司令部と仙台の方面司令部を潰されてもこんなに統率力の取れた動きをするのは、なんか引っかかるんだよな……。普通、どっちの司令部もやられたら散り散りになって敗走するだろ?」
「うーん……。あ、こう考えるのはどうかしら。神聖帝国軍といえども魔法科学による通信手段はある。それがメインラインが切られてもサブラインが生き残っていてこんな動きをしている。とかじゃない? あっちでも大戦の後半ではやれるようになったでしよ。アレよアレ」
「その線はアリだな。でも、そうすると今度は『どこ』が命令を送るってならないか? さっきも言ったが名取と仙台の敵司令部は死んだはずだ。仙台の司令部に至っちゃ第二段作戦で地中貫通爆弾も使ったから地下に司令部を置いていたとしても無事じゃ済まないはず。もし今の動きが事前に取り決められててもこの先が決まってないなら今後の敵の動きは行き当たりばったりになるだろうけど、今後もこんな動きをされたら、一つの仮説が生まれてしまう」
「…………まさか、敵の方面司令部は仙台のあの場所に無いってこと?」
「あくまで仮説だ。けど、ありえないって一概に否定出来ない状況なのは間違いない」
「でも、そうなると作戦の根底が覆るわよ……? 小マト弾で敵司令部を潰し作戦の頭脳を奪い、準備爆撃と砲撃で力を削ぎ、それから機動戦で敵を包囲殲滅。非魔法・魔法両面の複合優勢火力で仙台と石巻を奪還なんて、出来なくなる。だって孝弘の話が本当だとすると、敵の頭脳が生きてるんだもの。前提条件が変わっちゃうわ」
「ああ。出来れば俺の予想は外れて欲しい。欲しいんだけど……」
孝弘は北の方に視線を向ける。そこは激戦地で、さらに先には名取が、仙台がある。
孝弘だけでなく、恐らくは何人かが気付き始めた今の戦況に対する違和感。その答えは十数日もかからず、すぐに出ることになるのだった。
午前六時に実行された仙台・名取方面奪還作戦第一段作戦『小型マト弾投下作戦』は作戦単位のみで見れば確かに成功した。推定値ではあるものの小型マト弾四発により死亡したCTは約三〇〇〇〇。戦闘能力を喪失したモノがその三分の一。負傷したが動けるモノが約五〇〇〇から約八〇〇〇。神聖帝国軍将兵が死亡したと思われるのが約四〇〇〇から五〇〇〇。負傷した将兵が約六〇〇〇から七〇〇〇。
これにより仙台方面に展開していた神聖帝国軍本国軍は一個師団が指揮能力を喪失し、一時戦闘能力を喪失。数時間後に復旧するも後々までこの傷が戦闘に悪影響を及ぼすこととなる。
名取方面に展開していた神聖帝国軍本国軍はさらに悲惨であった。名取方面で起爆した小マト弾は彼等にとって運の悪いことに部隊の集まっている地点で爆発した。その結果一個師団のうち半数が死傷し、この方面においては神聖帝国軍本国軍は戦力の三分の二が戦闘能力喪失状態となったのである。
日本軍の攻撃はこれだけでは終わらなかった。第一段作戦終了後、間髪入れず第二段作戦『侵攻準備空爆・艦載砲攻撃・砲撃作戦』が実行されたからである。
作戦時間は約三時間と侵攻準備砲爆撃としてはやや短いものの投入された砲弾薬の量は旧首都東京奪還作戦に迫るほどで、徹底的にCTや神聖帝国軍本国軍を攻撃した。
ただ、この作戦は立案当初から想定されていたように十分な効力を発揮しなかった。これまでとは違い、名取・仙台間にはいくつもの野戦陣地が構築されており、身を隠す塹壕線が多数作られていたからである。
それでも名取より南、岩沼方面はこれらほどに充実した野戦築城がなされていなかったから、該当地域にいたCTは畑を耕すが如くの砲弾と爆弾とミサイルに吹き飛ばされることになる。
このように第一段作戦と第二段作戦は予想していた戦果と比して多少の違いはあったものの、戦果としては十分に認められるものであった。
だが、午後になると日本軍の誤算が顕在化し始める。それは交戦地帯にいた孝弘達も実感し始めていた。
・・Φ・・
3月15日
午後3時半前
宮城県岩沼市街郊外東部・交戦地帯
第三段作戦が開始されて数時間後の昼過ぎ。孝弘達は前衛部隊として行動を開始し、岩沼市の南部までは第二段作戦の成果もあって快速で進むことが出来たが、岩沼市街周辺に至った途端に敵の反撃が激しくなった。
彼等がいるのは岩沼市街東部郊外。飛び交うのは砲撃と銃撃と法撃。空からはフェアル部隊の法撃に銃撃や支援要請を受けて飛んでくる友軍のミサイル。そして、それに負けず劣らずの火力を保つ神聖帝国本国軍の法撃や銃撃と、CTの攻勢。そこは文字通り激戦地帯となっていた。
『三〇二大隊第二中隊より付近のSAへ! すまない、支援法撃を頼む! 一向に敵が減らん!!』
「SA1より三〇二大隊第二中隊へ。支援法撃了解。こちらから距離約一〇五〇地点に大型CTを視認。これの撃滅で良いか」
『第二よりSA1。そうです!』
「了解。魔法対物ライフルで射撃する。発射まで五秒」
「風属性貫通型。チャージ。ショット」
孝弘は風属性貫通術式を付与すると、早々に目標に照準を合わせ魔法対物ライフル弾を大型CTに向けて放つ。
撃たれた弾は正確に大型CTへ向かい、バケモノの胸部を穿ってみせた。周りの銃撃音と砲声がうるさくて聞こえないが、ドシンと倒れた音が近くなら聞こえるであろう勢いで大型CTは倒れ伏した。
『支援感謝します!』
「無事で何より。敵の勢いが不思議な位に止まらない。気をつけて」
『はっ!』
『こちら第三三戦車中隊! 大型CTの群れと後方に神聖帝国軍の小隊規模を確認! あいつら器用なことに魔法障壁を大型CTに展開しているから砲弾が届きにくくて敵わん! 魔法軍部隊の支援を求む!』
『SA4より第三三戦車中隊へ。支援を受け取りました。フェアル部隊はさらに後方の部隊とここより東方面にかかりきりで厳しいので私達でなんとかします。SA3へ。ゴーレムを一体向かわせられるかな?』
『SA3より4へ。わりぃ、こっちも手一杯だ!』
『こちらSA2。今さっき支援法撃が終わったからそっちに向けられるわ。私に任せて』
『ありがとねSA2。SA4より第三三戦車中隊へ。SA2が支援法撃を行います』
『第三三戦車中隊よりSA4了解です! SA2、助かります!』
『これくらい気にしないで。法撃まで一五秒。それまで自慢の装甲で耐え切って!』
『もちろん! 戦車の装甲は伊達じゃありませんので!』
先程までの支援法撃で孝弘がいる場所から十数メートル離れた地点にいた水帆は、そこでは友軍が斜線上になってしまうからと少しだけ左へ移動すると、詠唱を開始。大型CTではなく、そのやや後ろに控えている神聖帝国軍本国軍の小隊へ照準を合わせる。
『風の刃に炎纏わせ、貫け燃やせよ魔法の炎の刃! 『炎刃落下』!』
水帆が詠唱を終えると、高等テクニックのひとつであるやや離れた場所への魔法陣展開を彼女は易々とやってみせ、赤と緑が混ざった魔法陣からは大量の炎刃が神聖帝国軍の小隊へと降り注ぐ。
直上からの法撃を防ぐ手だてが無かった神聖帝国軍の小隊は炎の刃に刻まれ燃やされ、炭と化す。直後、大型CTの一群を守っていた魔法障壁は消失した。
『第三三戦車中隊、魔法障壁の消失確認! これで心置き無く撃てます! 戦車中隊マルヒト、マルフタ、マルサン、マルヨン撃てぇぇ!!』
四両の戦車から撃ち出された砲弾は大型CTを吹き飛ばし、加えて周辺にいた随伴歩兵部隊のうち、対戦車ロケット弾数発がCTに飛んでいき、それらも見事に命中した。
『SA2、支援ありがとうございました。戦車中隊、全車前進再開! 敵部隊をぶっ飛ばすぞ!』
大型CTという邪魔者がいなくなった戦車中隊はエンジン音を響かせながら、随伴歩兵部隊と共に前へと進んでいく。それに合わせて周りにいた海兵隊や魔法軍部隊も進んでいった。
『セブンスからSA1。SA小隊は昼からずっと撃ちっぱなしの戦いっぱなしの上に多数の支援要請を受けてこなしてるでしょ。そろそろ補給がてら小休憩しなさい。代わりに控えさせていた第三大隊第二中隊を出す』
『SA1よりセブンス。了解しました。思ったより弾薬消費量が激しく補給したかったですし、近接部隊員の体力消費が心配でしたからありがたいです』
『まだまだ始まったばかりなのにSAを必要以上に消耗させたくないからさ。ああでも悪いけど休憩は三〇分。一〇一はどこからも引っ張りだこでね。中休憩はまだ先だよ』
『存じてます。我々は便利屋ですから』
『まあね。この後も頼んだよ、SA1』
『はっ。了解しました。――SA1よりSA総員へ。これより三〇分休憩。五〇〇メートル後方のコンビニ跡地へ集合』
孝弘が特務小隊に小休憩を告げると、ほっとした声音で了解と返答が届いた。
孝弘を含む特務小隊の面々はコンビニ跡地に集まると、ようやく一息つけたという様子で――大輝は前線にゴーレムを三体貸し出しているが、二体はこちらに同行させていた――その場に座ったり魔力回復薬を飲んだりと各々の行動をしていた。
孝弘は補給部隊から消費した対物ライフル弾や試製三六式の弾を受け取ると、自分も魔力回復薬を飲んで大きく息をついた。
そうしていると、補給部隊の方からやってきたのは水帆だった。手には水筒が二つ。自分のと孝弘の分を持っていた。
「お疲れ様、孝弘。これ予備の水よ。だいぶ飲んじゃったでしょう?」
「助かるよ水帆」
孝弘は水帆から水筒を受け取ると、中に入った水を勢いよく飲む。まだ三月初めで寒さが厳しいとはいえ、これだけ動けば身体も火照るというもの。喉に流し込んだ水は冷たく心地よかった。
「午前中から動きっぱなしで、昼からはこれだろう? 流石に腹が減ったな……」
「そんな事だろうと思った。ほら、カロリーバーよ。さっき貰ってきた」
「まだ手持ちがあるのにか?」
「この後も出ずっぱりだろうからって渡してくれたのよ。あの補給部隊、東京の時に同じDBにいて何度か助けてもらったからって恩返しなんですって」
「ああ、あの時のか」
孝弘が補給部隊の方に視線を移すと、彼の視線に気付いたのか補給部隊の兵士達が敬礼していた。確かに見覚えがある。新小岩にいた部隊だ。孝弘は答礼すると、目線を水帆の方へ戻した。
二人はカロリーバーの一つを出すと、孝弘は半分ほどを。水帆は三分の一ほどを食べる。
「美味いなこれ。フルーツケーキっぽいな」
「今回から支給されてる新作だそうよ。ほら、味がプレーンとチョコレート風味の二つだけじゃ飽きられるだろうからって」
「いいね。こういう時に新作の味が食べられるのはちょっと嬉しいよ」
「ね。食はどこでも大事だもの」
二人は微笑みながら新作のカロリーバーを食べ切ると、隊長と副隊長らしく話題は今の戦況へと移す。それは戦歴の長い孝弘と水帆だから早い段階で気づいたものだった。
「なあ水帆」
「言いたいことは分かるわ。敵のことよね?」
「ああ。午前中からの戦いっぱなしと相次ぐ支援要請で気づいたんだけど、CTはともかく神聖帝国軍の連中は小マト弾の攻撃を食らってその後散々に砲撃や爆撃を食らった割には指揮能力が落ちてなくないか? 奴等、連携能力が思ったより残っていると感じる場面がいくつもあった」
「確かに。神聖帝国軍の数は少ないけど、部隊間の指揮は取れてたし、後退する部隊も手際が良かったわ」
「前線だけでもこれだろ? でもな、どうも最前線よりやや後ろも怪しいんだ。戦闘中だったからあまり目を向けられなかったけど、戦域全体、といっても前線になってる岩沼辺りと後方の名取だけにはなるけど、小マト弾で潰されたと思われる部隊以外は潰走したような動きがあんまり見られない。例えばこれだ。司令部が潰れたはずの割には、なぜだか意図を持っての後退にみえる」
孝弘が水帆に見せたのは岩沼北部にいた神聖帝国軍の部隊だ。運がいいことに小マト弾の惨禍を逃れ、準備爆撃・砲撃もやり過ごしていた大隊以上連隊未満の部隊は無闇にこちらに来ようとはせず、しばらくその場にいたかと思うと名取方面に向かっている。しかもその場所は小マト弾の直撃を受けた場所ではなく、その外縁部の南東側。小マト弾の攻撃によって戦線の穴になっている部分の一つだった。
「な?」
「本当ね……。他にも名取のマト弾起爆地点にいて戦力喪失したっぽい部隊の穴埋めをしてるように見える部隊がいくつもあるわ。前線部隊の間で協調したとも思えるけれど、手際がいいわね。事前に取り決めをしたとか……?」
「そこまでは俺にも分からない。通信手段が俺達より乏しい神聖帝国軍が名取の前線司令部と仙台の方面司令部を潰されてもこんなに統率力の取れた動きをするのは、なんか引っかかるんだよな……。普通、どっちの司令部もやられたら散り散りになって敗走するだろ?」
「うーん……。あ、こう考えるのはどうかしら。神聖帝国軍といえども魔法科学による通信手段はある。それがメインラインが切られてもサブラインが生き残っていてこんな動きをしている。とかじゃない? あっちでも大戦の後半ではやれるようになったでしよ。アレよアレ」
「その線はアリだな。でも、そうすると今度は『どこ』が命令を送るってならないか? さっきも言ったが名取と仙台の敵司令部は死んだはずだ。仙台の司令部に至っちゃ第二段作戦で地中貫通爆弾も使ったから地下に司令部を置いていたとしても無事じゃ済まないはず。もし今の動きが事前に取り決められててもこの先が決まってないなら今後の敵の動きは行き当たりばったりになるだろうけど、今後もこんな動きをされたら、一つの仮説が生まれてしまう」
「…………まさか、敵の方面司令部は仙台のあの場所に無いってこと?」
「あくまで仮説だ。けど、ありえないって一概に否定出来ない状況なのは間違いない」
「でも、そうなると作戦の根底が覆るわよ……? 小マト弾で敵司令部を潰し作戦の頭脳を奪い、準備爆撃と砲撃で力を削ぎ、それから機動戦で敵を包囲殲滅。非魔法・魔法両面の複合優勢火力で仙台と石巻を奪還なんて、出来なくなる。だって孝弘の話が本当だとすると、敵の頭脳が生きてるんだもの。前提条件が変わっちゃうわ」
「ああ。出来れば俺の予想は外れて欲しい。欲しいんだけど……」
孝弘は北の方に視線を向ける。そこは激戦地で、さらに先には名取が、仙台がある。
孝弘だけでなく、恐らくは何人かが気付き始めた今の戦況に対する違和感。その答えは十数日もかからず、すぐに出ることになるのだった。
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兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
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