異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第12章 福島方面奪還作戦編

第16話 角田盆地の戦い④

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 ・・13・・
「茜、私が詠唱終えるまで時間稼ぎ」

「んむ。ま、幾分かは叩き落とさせて貰うぞ」

「任せた。米原中佐、二マガジン分ありったけぶち込め。茜と共に時間を稼いで」

「了解しました」

「それと特務は攻撃を二つに分けて。一つは地上のCT。こっちに大部分。もひとつは君と同じ役目。高崎中佐と関中佐をあてる。最終迎撃には鳴海の三人も。川島中佐は前者の方に。彼には」

「CTの針路妨害ですね」

「さっすが。よろしく」

「はっ」

 璃佳が手短に指示を出すと茜や孝弘は早速動き出す。孝弘はマガジンを入れ替えながら璃佳の命令をそのまま特務小隊の面々に伝えた。
 特務小隊の動きもまた早かった。小隊の大部分を地上CTへの対処にあてさせ、対空迎撃に優れる水帆と知花が。距離約一〇〇〇を切っても敵が残っていれば慎吾にカレンとアルトも加える形にした。
 孝弘が弾薬の装填を終えて賢者の瞳の射撃管制を再リンクさせた頃にはちょうど茜が詠唱を終えたところだった。

「ゆけい、狐火よ。たらふく食うが良い。『狐火大食祭きつねびたいしょくさい』」

 上級火属性魔法相当の『狐火大食祭』が発動されると上空に数十の狐火が現れ、時速一〇〇に迫る勢いでキラービーへ接近していく。
 キラービーは狐火を回避しようとドローンのような機動を取るが甘かった。

「その程度で躱せると思うたか」

 狐火はミサイルのような追尾性を持っていた。キラービーは次々と撃ち落とされ、燃えていく。しかしキラービーはやはり賢かった。自らの命を犠牲にして自爆し、いくつかの狐火が巻き込まれてしまった。

「ちぃ、そう来たか」

 茜はキラービーの思わぬ行動に舌打ちする。

「撃墜しようとしていたのは任せて」

「すまぬ孝弘」

 孝弘は狐火が狙おうとしていたキラービー数体をロックし発射した。対物ライフルの弾丸は狙い通りキラービーの一体に接触すると爆発し、周辺の数体を巻き込んだ。

「ようやった!」

「これくらいじゃ終わらないぞ」

 キラービーの一群との距離は約三〇〇〇。
 孝弘は続けて二発の弾丸を上空へと放つ。周りのキラービーに比べてやや上の位置を取り急降下攻撃を試みようとしていた蜂達へ射られた弾丸はそれらの企みを消し去った。数体が残ったが心配は無用だった。孝弘の攻撃の直後、知花の光属性光線系魔法が命中したのだ。孝弘がチラリと知花の方をみると、知花は孝弘の方を見て微笑みながら親指を立てていた。

「私も負けてないわよ」

 水帆は一番接近していた小さい一群に狙いを定めると火属性爆発系槍型の術式を構築して空へと放つ。火の槍はキラービー数体を貫通して燃やしていった。
 孝弘が、茜が、水帆が、知花が次々とキラービーを迎撃していき、攻撃ヘリも搭載武装が無くなるまで攻撃を続け時には戦闘機も支援をしてくれるが、元々一六〇〇もの蜂が出現したのだ。ようやくキラービーの数を五〇〇にまで減らした時には約一五〇〇まで近付かれていた。キラービークイーン四体は未だ健在だった。

「SA1よりSA5、6、7へ。まだキラービーが残ってる。そろそろ迎撃担当に移ってくれ」

『SA5了解。6、7と共に迎撃へ移ります』

 キラービーの速度は国道を走る車並だから五〇〇メートルなどあっという間である。孝弘はもう一つのマガジンに交換しながら慎吾に命令を伝えた。
 キラービーとの距離は約一一〇〇。虫嫌いなら卒倒しそうな光景が肉眼でもはっきりと見えるようになる。針で貫かれれば人間などひとたまりもなく、自爆でもされようものなら数人が爆死する羽目になるキラービーがこれほどまでに接近していたが、誰も恐れはしなかった。
 璃佳の詠唱がもうすぐ終わろうとしていたからだ。

『BCTCRより前線各員へ。セブンスの詠唱がまもなく完了。指定空域から至急待避を』

 佐渡の声が前線将兵達の耳に届いた直後、青い円形が地図上に表示される。残ったキラービー三七〇とキラービークイーン四をすっぽりと覆う広さの円だった。
 連絡を受けたフェアル部隊は青い円の周辺から急速離脱していく。発動までの秒数がカウントダウンされていく。
 そうして迎えたのは、璃佳が闇属性能力者最高峰と呼ばれる所以の景色だった。

「――奈落の底より響くは、皇帝による号令。大帝の臣下達は嬉々として手を伸ばす。誰も逃さぬと。誰も生きて返さぬと。畜生共は深淵しんえんの底へと誘われてゆく。さぁ、災いは始まらん。ここが奴等の死地となりて。『深淵大帝アビスエンペラー大災害カタストロフ』」

 璃佳が長い詠唱を終えると、上空に顕現するは無数の黒い黒い魔法陣。そこより現れ伸びるは禍々しき漆黒の呪腕《じゅわん》。おぞましい声が周りを支配し、凄まじい速度でキラービーへと迫っていく。
 たかが召喚生命体がどうにか出来るレベルを越えていた。無数の腕はキラービーを掴んでは魔法陣へと引き込み、飲み込んでいく。
 まさに大災害カタストロフ。恐ろしい黒腕こくわんはキラービーなど取るに足らぬ存在で、遂にクイーンにも迫った。
 キラービークイーンは抵抗するも無駄な所業だった。呪腕が一つ、また一つとクイーンを掴み、三つで足らぬなら四つ、五つと増えていく。
 そうして最後に、キラービークイーンは四体全てが呪腕によって引きちぎられたのだった。

 戦術級闇属性広域範囲魔法『深淵大帝の大災害』は、全てのキラービーとキラービークイーンを飲み込み、千切り、殲滅していった。
 空にはあれほど蜂達がいたというのに、魔法陣が消えた後には何も残らなかった。

「とんでもないな……、七条准将閣下は……」

「そうじゃろう、孝弘よ。空狐の位を持つ儂が親しみながらも従うのはの、ああいうところじゃ。召喚されたからしとごうとるわけではないのじゃよ」

「なるほど、ね。ああいう人を、傑物と言うんだろう」

「然り。じゃが、儂から見てもお主と戦友達は璃佳と同格と思うがのう」

「うん。まあ、向こうで言われ慣れてはいるよ」

「かかっ!   普通はアレと比較されれば首を横に振るんじゃが、やはりお主も大概じゃのう!    故に面白き人間であり、儂も認めとるんじゃがな。さ、あれをやると璃佳も暫くは戦いたがらぬ。勿論、呪いではなく急激な魔力消費じゃぞ?   残量魔力はあるんじゃが、一度に消費しすぎる反動がの」

いかに超高位能力者とはいえ、戦術級魔法を行使すると急激な魔力消費によって短時間ではあるが術式発動が出来なくなり、魔法酔い――二日酔いのような頭痛と倦怠感、吐き気をもよおす症状のこと。当然だが、二日酔いよりもずっときつい状態になる――の症状が出てしまう。璃佳も勿論例外ではなく、大鎌を杖としてやや辛そうにしていた。

「だろうな。戦術級をぶっぱなして反動の無い能力者なんていないからな。それでも魔力残量が五〇パーセントを切っていないんだから、恐ろしい魔力量だよ。さ、ここは俺達に任せて主を頼むよ」

「うむ。儂は璃佳と共に司令部へと下がるとしよう」

「よろしく」

 璃佳の参戦によって形成は逆転した。橋頭堡の壊滅も有り得た戦況を見事にひっくり返し、角田盆地に集う将兵達はよくもやってくれたなと反転攻勢に出て奪還領域を広げていく。
 しかし、仙台奪還戦までを含めるのならば戦いはまだ始まったばかりだった。
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