異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第12章 福島方面奪還作戦編

第12話 白石・角田・仙台平野方面奪還作戦会議②

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・・Φ・・

 璃佳はホログラム端末の操作ボタンを押すと、友軍の動きを表す青い矢印が途中まで動いた。

「作戦自体は三つに分かれて動いてく。一つは第一戦線本隊。地上部隊は陸・海兵・魔法軍の約五四〇〇〇。航空部隊が有人機二個航空団と無人機一個航空団。白石・蔵王・大河原・柴田方面に進出」

 第一戦線本隊の動きはシンプルだった。狭い地域に密集する敵に対して平方キロメートル辺りの火力を最大限投射し、各地域を制圧するというもの。これだけみれば約五五〇〇〇弱もの兵力がいるかどうかという点があるが、第一戦線本隊が担当する地区は最終的に大まかでも四地点にも及ぶ上に、仙台平野に近づけば近づくほど敵本隊からの増援を受ける可能性が高まることから最大兵力を注ぐこととなった。仙台平野奪還に向けて主要輸送ラインになるという点もある。

「次がウチの一〇一含む丸森・角田方面進出部隊。地上部隊の数は陸・海兵・魔法合わせて四二六〇〇。陸軍は第三戦線所属だった一個師団に加えて第二戦線から増援として一個師団が、さらに第一戦線所属の一個師団が私達の所に来てくれる。海兵隊と魔法軍は元々第三戦線所属だった部隊がそのまま投入。それで合計がさっきの数ってとこ。航空部隊は百里から一個航空団が来てくれて、海軍艦載機部隊の一部もこっちを担当してくれる。回転翼機のみ郡山から福島から派遣される感じだね。航空部隊がやや少なめだけど、ウチがいるからだろうね」

 璃佳達が進出する角田・丸森方面は最終的に角田盆地全体を確保することを目標としている故に第一戦線本隊に次いで兵力を投入することとなった。敵兵力が想定より多かったのもあるが、仙台平野方面進出前に第一〇一魔法旅団戦闘団が消耗しすぎないようにという配慮もあった。ウラを返せば仙台奪還の際に第一〇一魔法旅団戦闘団がこき使われるわけだが。

 なお角田・丸森方面は盆地全体をわずかも残さず制圧するのは、広い盆地を使って兵員の一時滞留地――仙台平野戦の際には角田盆地に臨時野戦病院を置く予定もある――にするだけでなく物資弾薬集積地にする予定だからだ。

「最後に第二戦線の山元・亘理方面進出部隊。陸・海兵・魔法軍合わせて二〇九〇〇。地上部隊が他より少なめなのは進出地域のCTが他より少ないからだね。ただし地上部隊がやや少なくなる分、航空部隊のカバーは手厚くて海軍艦載機部隊の大部分があっちを担当。しかも沖合にいる海軍の支援攻撃付き。陸上部隊が少ない分を海空で補ってるってとこだね。以上が全体の動きだよ。次は私達の動きについて」

 璃佳はテーブルに置かれていた水の入ったコップを手に取ると半分ほど飲んで、話を再開した。

「丸森・角田方面への進出は三段階。一段階目は丸森方面含む角田盆地南部を私達一〇一で強襲して橋頭堡として確保。この時には第三戦線の陸軍の半数や海兵隊の半数は可変回転翼機によるヘリボーンが行われる。会津盆地でやったのをちょっと狭くした感じだね。ただこの手は二度目だから敵の反撃が予想される。だからこの時だけは百里に海軍艦載機部隊や郡山の攻撃ヘリに加えて、新潟からも航空支援が入るよ」

「一つ質問をよろしいでしょうか?」

「どうぞ米原中佐」

「丸森・角田方面に進出する我々ですが、エンザリアCTの数は判明しているだけで約一五という認識でよろしいでしょうか?   到底それだけとは思えないですし、仙台方面にしてもなのですが、強行航空偵察をしても飛行型エンザリアCTが出てこないというのはしっくり来なくて……」

「残念ながらそれ以上の情報は無いね。これは私の見立てだけど、地上型のエンザリアCTだけでも一〇〇くらいは覚悟しといた方がいいんじゃないかな。四〇〇〇〇もいて堕天使がたった十数は有り得ないし。もしかしたらそれ以上かも」

「となると、上空警戒は最大レベルになりますね……。可変回転翼機を守るのも我々の役目になりそうです」

「そうなるね。だからこの戦いにおいて最も気をつけないといけないのが作戦第一段階になる。――説明を続けるね。第二段階は橋頭堡確保後から角田盆地中部進出まで。この時には第一戦線や第二戦線の陸軍に海兵隊も到着してる頃かな。敵の抵抗が最も強いのもこの頃で、第二段階において私達は最大火力を発揮。敵を食い破る矛先の役目を果たすことになる。第一戦線本隊が担当する予定の敵部隊が流入してくる可能性もあるから十分に警戒して欲しい。そして、第三段階が盆地北部までの進出でこの頃には第一戦線本隊と大河原や柴田辺りで合流予定。ここくらいまでこれば、第二段階の頃より敵の抵抗は弱くなってるはず。ただし気をつけなければいけないのは、CTを倒しても神聖帝国軍がいることかな。郡山のように召喚術士がいれば話が変わってくるし、その召喚術士が何を出してくるかによって作戦に狂いが出るかも。ただまあ、これについては今考えてもしょうがないね。臨機応変に対応してとしか言えない」

 璃佳は肩を竦めて言うと、周りからはここ最近の戦いはいつもそんなものだから気にしないといった空気が出る。それは自分達が最精鋭だからという慢心ではなく、これまでも臨機応変に対応しきれているしこれからも同じようにこなしてみせるといった自信の現れで、だからこそ醸成されている空気でもあるのだが。分からないものを分からないうちにウダウダ考えても仕方ないともいう。

「とまあ、作戦はこんな風に三段階に分かれるわけだけど、私は正直すんなり終えるとは思ってない。明確に作戦に区切りがあるとは思えない。何せ白石・角田方面と仙台平野南端部の岩沼方面にはびっしりと敵兵力が存在してるし、ヤツらにとって仙台は郡山や福島とは比べ物にならないほどの要衝地。反撃はかつてないレベルになるだろうね。だから、これから行う前哨戦と仙台奪還作戦は連続性のあるものだと頭に叩き込んでおくこと」

 璃佳の言葉に全員が頷く。連続性のあるものなのは当然の事だ。大河原や柴田と仙台平野南端部の岩沼には遮るものがない。簡単に増援を送り込むことが出来るのだ。
 璃佳は加えてこうも言った。

「上は仙台奪還にあたって空からのプレゼントを実施予定だけど、それが決定打になるとは思えない。次段の仙台奪還作戦で大きな役割を果たすことになるだろうけど、結局最後に決めるのは地上戦だからね。それに、仙台奪還作戦は本大戦で我々が最終的勝利の足がかりを得るか、負けてジリ貧に陥り破滅への序章を歩んでしまうかの岐路になる。勝てば早々に東北の残り部分を奪還して北海道へ。負ければ……、言うまでもないよね。力を失った我々はここから先に進むことは出来ず、真綿で首を締められるようにして時間切れになり滅亡するだろう。だからこそ、心してかかるように。――さぁ、ここからは作戦の細かいとこも詰めてくよ」

『はっ!』

 璃佳のやや大袈裟な表現は決して嘘ではない。
 勝てば東北の重要拠点を取り戻すことができ、拠点となりうる地点はかなり絞られる。大崎・栗原を越えればあとは岩手県を残すのみだからだ。そうなれば秋田・青森からも攻めることが出来るだろう。三方位からの攻撃なら勝算はいくらでもある。そうして東北を取り戻せば残すは北海道だけ。国内に限っていえば最終決戦地となる。

 しかし、仙台で負ければ日本軍はその勢力を大きく減じ、北海道の奪還など夢のまた夢と化す。東北の穀倉地帯は回復出来ず、日本最大の農業地帯である北海道が奪還出来ないとなれば今年、来年はともかく再来年以降の保証はない。三年後以降など、現人口を保ったままなら飢餓まっしぐらなのだ。軍隊があった所で飢えてしまえば最早意味を成さない。あとは勢力を盛り返した神聖帝国軍とCTにじわじわとなぶられ、幾年後かの抵抗の末に日本国滅亡。そんな未来も十分に有り得るのだ。

 ただでさえ綱渡りの戦争。国内だけでなく国外も気にせねばならない、世界が巻き込まれた戦争において国内でつまづいては勝利など程遠い。

 だからこそ、彼等は固く誓う。今回も勝つ。今回こそ勝たねばならぬ。最終決戦を勝利で掴むために。
 作戦の最終確認たる細かい部分の調整は夜まで続いた。
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