異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第12章 福島方面奪還作戦編

第6話 二度目の尋問で得られたのは②

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・・Φ・・

 部屋にいたセルトラは以前より健康状態は良くなっていた。将官級捕虜としてそれなりの待遇で扱われていたからだろう。貴重な情報源だからというのもあるだろうが。

「おや、随分とピリピリした様子だけどまさか私が話した兵力より多かっタ、なんてことはないヨネ。君達が来るんだかラ」

「ええ。その逆です。CTは約一〇〇〇〇弱。本国軍に至っては一兵たりともいませんでしたよ」

「……待ちたまエ、七条准将。少なかった、だって?   それも本国軍がいない?   一人もだっテ?」

 どうやらセルトラにとっても想定外の返答だったらしい。信じられないといった様子で目を見開いていた。

「まさか、ヤツはそこまで臆病者だっタ……?   いいや、まさか……。そんなことをしたラ――」

「最悪極刑になる。ですね」

「アア……。米原中佐、キミの言う通りだヨ。神聖帝国軍が敵前逃亡なんて、指揮官の末路は臆病者の彼なら知らないはずが無イ。指揮官どころか末端の兵士でも分かるはずサ」

「なら、貴官に三つ問います。いいですね?   ウソをつけば、貴官の立場は厳しくなります。今回の件も正直グレーなところがあるので、その点は念を押しておきますよ」

「もちろんだヨ、七条准将。部下の扱いまで厳しくなっては、私が降伏した意味が無くなるからネ……」

「では、一点目から。福島の指揮官は本当に無能で臆病者ですか?    部下からも軽蔑されている程ではないのですか?」

「私が伝えた情報は間違っていないヨ。もしヤツが実は有能だなんていうのなら、彼はとんでもない策士サ」

「でしょうね。では、二つ目です。仙台にいる神聖帝国軍指揮官について些細なことでもいいですから話してください。情報を秘匿した場合、我々も穏やかではいられません」

「申し訳ないけど、私に詳しい事は教えられていないヨ。貴官らと話をしてから今日に至るまで、尋問官とやらにかなり話したはずだけドネ」

「仙台の指揮官は神聖帝国軍本国軍大将で、こちらの役職に例えるなら方面軍指揮官に相当する。でしたね。無能ではないのは確かと。また、貴官に面識が無いのも帝国皇帝の遠戚にあたるからとも。これも我々の世界での表現ですが、いわゆる公爵クラスでしたか」

「方面軍を任されている指揮官だからネ。センダイは、ええと確か」

「地方中枢都市。貴官の祖国でいえば重要都市の一つみたいなものです」

「ウン、その重要都市を担当する指揮官ダ。普通の軍人じゃダメだからネ。将来を見越したら、なおさらサ」

「軍政を、ですね。その仙台方面の指揮官、名をフィンセンフルト・ドゥシェ・ルータイル・シュレイダーでしたね。彼の人となりは本当に情報はあれだけなんですね?」

「繰り返して言うガ、本当に話した以上は知らないヨ。帝国皇帝家系の遠戚だから、属国からしたら雲の上のようなモノだヨ。皇帝家系が雲の上だからネ」

 こればかりはセルトラの言うことに一理がある。絶対的な身分制度がある神聖帝国では本国と属国で隔絶した扱いの差がある。いかにセルトラが将官クラスとはいえ属国だ。

「分かりました。では、三つ目です。聞く範囲を広げますね。我が国に展開している神聖帝国軍の中で要注意人物はいますか?    東北方面だけではありません。北海道方面も含めてです」

「要注意人物とは、どこまでの範囲だイ?」

「郡山や福島の地方単位。各方面指揮官幕僚クラスです」

「フム……。トウホクはともかくホッカイドウは初めて聞かれたネ」

「やはりそこまで聴取は進んでませんか。直近の東北方面が重要ですから、そうだろうとは思ってました。尋問の日が浅いので当然ではありますけど」

「少々待ってくれるカイ?    この辺だけじゃないとなると、思い出したいノデネ」

「構いませんよ。あんまり長くは待ちたくないですが」

 璃佳はやや刺々しい口調でセルトラに言う。彼から聞いた福島の状態と実際の状態に大きな食い違いが起きているのだ。誰でもこうなるものである。
 セルトラは少しの間黙り込んだかと思いきや、何やらポソポソとあれでもないこれでもないと呟いたりもする。それからまた黙って思案した様子に戻る。ただ、思い出そうとしているのは確かなようだった。
 彼が再び口を開いたのは三分ほど経ってからだった。

「噂程度でもいいカイ?   心当たりが無いわけでもナイ」

「些細なことでも構いませんので、お話ください」

「分かったヨ。このニホンという国に侵攻した神聖帝国軍の中で、トウホク方面に要注意人物と言えるほどの者はいないハズ。でも、ホッカイドウ方面なら噂程度は聞いたことがあるカナ」

「北海道からですか?    青森は未だ我が国が勢力圏を保っていますが……。いや、もしかして……」

「ウン。転移門が動いていた頃ならホッカイドウからチョウシ、だったカナ?   移動は可能だヨ。ただ、侵攻当初はホッカイドウにいたから今こちらにいるかどうかまでは分からないネ……」

「侵攻初期に北海道にいた者はどういった人物ですか?   役職は?」

「ホッカイドウ方面軍の参謀部だったハズダヨ。若くして参謀部に所属している神聖帝国貴族だったカナ。フクシマの指揮官が、まだ若いのにズケズケとモノを言うから気に食わないと言ってたネ。タダ、センダイにいる司令官も認めるほどの実力者らしいヨ。だからフクシマのヤツは余計にその人物が気に食わないらしいネ」

「神聖帝国軍北海道方面侵攻軍の参謀部ですね。分かりました」

「予め言っておくケド、今回の件と参謀部のソノ人物が絡んでいるかどうかは全くの不明だヨ。汚い手口も普通に使うトカ、よくもまあ姑息な手口を使うトカ、どこからそんな発想が出てくるのかトカ、色々とフクシマのが言っていたネ」

「参考にします」

 無能と称される福島の指揮官がそこまで言うのであれば、確かに要注意人物と言えるだろう。これは報告に上げなければいけないと璃佳は判断した。

「質問はこれだけでいいカイ?」

「ええ」

「あぁ、そうダ。伝え忘れるところだっタ」

「まだ何かありましたか?   出来れば先程話して欲しかったのですが」

「フクシマより北の話じゃないヨ、七条准将。フクシマの話サ。詳しいことは分からないケレド、もし私が本国軍を一人も残さず退却さセルなら、何もしないわけがナイ。そうだネ……。水道、水について気をつけた方が良いと思うヨ」

「…………上に報告しておきます」

「ウン。そうして欲しいネ」

 セルトラに二度目の尋問をした孝弘と璃佳。新たな情報は得られたものの、その多くは事態が発生した今すぐに役立つものでは無さそうだった。しかし、彼が語った事は後々日本軍にとって役立ちそうな予感がしたのは確かではあった。
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