異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第11章 北関東・会津郡山方面奪還作戦編Ⅱ

第15話 神聖帝国の歴史、それは侵略の歴史

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 ・・15・・
「六年間続いた解放戦争の結果、帝国は国力を削がレ、北方と北東部の三国は利権を手に入れタ。彼等の友好国もそれなりに力を付けることが出来タ。ケド、かの国達は解放戦争を終えてから急速に関係性が悪化していくんだヨネ」

「詳細はご存知ですか?」

「残念ながら、書物でしか見たことが無いコトだから詳細は不明ダヨ」

「そうでしたか……」

 孝弘の問いにセルトラは肩をすくめて返す。

「ワタリビトやその子孫達は善政を敷くことがあれば、悪政を敷くこともアル。世の理はワタリビトとて同じサ。ワケはともかく、三国の関係性は悪化していった。ただ、暫くは直接ぶつかり合うことは無かった。起きたのは、代理戦争だったヨ」

「その間、帝国はただ腐るわけではなかったようですね」

「ウン。あの国は解放戦争後、急速に国内が安定化シタ。共通の敵が生まれたからかもしれないし、挙国一致して切り取られた本国領を奪還する為に纏まったのかもしれナイ。彼等は報復の時を待つために、政治が安定し、経済力と軍事力を再び付け始めたワケサ。帝国で差別主義が浸透し始めたのもこの頃だったカナ。彼等は二〇年待っタ。さて、聡明なように思える二人に問うていいかな?    この後、友好国群はどうなっタ?」

 セルトラがニコリと笑って言うと、孝弘と璃佳は頷く。二人は彼のその様や問いかけ方が、大学の教授のように見えた。

「代理戦争であれば三国は互いに友好国へ武器や資金の援助を行うでしょう。これを私は無駄な出費とは思いません。自国へ火の粉が直接降りかからないようにするには安いものでしょう。私が三国の為政者なら必要な出費と割り切りますし、場合によっては義勇軍のていで部隊を送ることも考えます。これもまた大きな出費にはならないかと。義勇軍名義で送れる部隊などたかがしれています。また、友好国軍強化の為の教導部隊のみの派遣なら尚更かと」

「しかし直接交戦する友好国群はそうはいかない。基本的に戦争は単体のみで考えれば無駄な出費でしかありません。国民を動員する為、人的資源をそれだけ無駄にするわけですし、軍需を除いた経済活動は低迷します。通貨価値の変動なども加味すれば直接戦火に塗れた国の国力がどうなるかなど、士官学校クラスでなく末端の兵士でも理解出来ます。有り体にいえば、友好国群は弱体化するでしょう。帝国は簡単に隙をつけるかと」

 孝弘、璃佳の順に答えると、セルトラは満足気に微笑んだ。結論だけじゃなく途中経過を含めて彼の期待していた答えだったようだ。

「その通リ。末端の兵士レベルまで国際情勢を簡易に分析出来ると言い切る貴官達の国の教育水準には驚かされるケド、今はその話は置いとこウ。貴官達の言うように、帝国は祖国回復運動を始めた。帝国歴二八一年。我が国の歴で一八五年の事だから、一二五年前くらいのことだネ」

 その後の帝国は容易く失地を回復。さらに北方と北東部の友好国へ次々と宣戦布告をしていった。解放戦争前の友好国群や北方・北東部三国ならば互角以上に渡り合えただろうが、国際情勢がそれを許さなかった。この頃の友好国群はかつての国力が無かったし、北方と北東部三国も互いの仲がより険悪となっており、連携など夢のまた夢の状態だった。
 こうなると大国としての力を取り戻した帝国にとって友好国群を打ち倒すのは容易いものだった。約二〇年かかったものの、帝国歴約三〇〇年の頃には帝国は友好国群の大半を手中に収めていたのである。

「今となっては結果論でしかないシ、ただの個人の妄想の域を越えないけれど、もしこの時我々大陸西方国家群が対処していればこんな事にはなっていなかっただろうネ。デモ、当時は我が国を含めて大陸東方や北方情勢にあまり興味関心が無かっタ」

「当時の貴国の状況と対外姿勢を教えて頂いても?」

「構わないヨ、七条准将。――当時の大陸西方国家群は一部地域を除いて比較的落ち着いていた頃でネ。その中でも西側に属していた祖国は『対外拡張政策』ではなく『内需拡大政策』『交易拡大政策』を基本方針としていたンダ。平和な世の中だったから、この二つの方針は上手くいっタ。経済は発展し、貿易も盛んになっタ。文化は隆盛し、凶作が起きた時を除いて国民が飢える事も随分と減っタ。だからこの当時のことは『黄金の五〇年』と後に呼ばれるようになったヨ」

 しかし、何事にも光があれば陰がある。この時のカルラネプラは米国の孤立主義ほどでは無かったものの周辺各国を除く海外情勢にあまり興味がなく、軍事力についても質こそ高めたが数を増やすことはあまりしなかった。また対外諜報も積極的に行わず、故に遠い東方に介入する気など毛頭無かった。地球換算で一七世紀程度の技術水準で遠距離通信も無かった頃である点を差し引いても、カルラネプラの対外姿勢は「遠い地の事までは知らんし直接脅威じゃ無ければ尚のこと知ったこっちゃない」だったから、まさに他人事だったのである。

「祖国がそのように考えていた時も、帝国は拡張を続けタ。帝国の歴史は侵略の歴史と言われるように、どんどんと国土を広げていったヨ。友好国群を潰したヤツらは、次に北方と北東部三国とぶつかっタ。これが、カルラネプラ歴約二一〇年から二四〇年の頃だかラ、今から約九五年前から約六〇年前のことだネ。結論から言うと、北方と北東部三国は滅んダヨ。最後まで抵抗したのは、ワタリビトの血筋を残していたセリンティアだっタヨ。そこから先は、さっき話した歴史に繋がるワケサ」

「ちょっと待ってください。話に矛盾が生じています。先程貴官は帝国が軍事拡張主義に走り始めたのは約五〇年前と言いました。ですが、今語った歴史だと、帝国はずっと軍事拡張主義を貫いています」

「ああ、すまないネ米原中佐。表現を変えようか。帝国が今の技術水準・魔法水準・魔法科学水準に繋がる異常な軍事拡張主義を始めたのが、約五〇年前からダ」

 セルトラが顔を俯かせながら言った一方で、孝弘は困惑する。点と点が繋がらないのだ。北方と北東部三国を飲み込んで大陸東方のほぼ全土を侵略した帝国は、この時点で十分異常な軍事拡張主義を取っている。一国家としては大きすぎる土地を支配しているのだ。それ以外の表現が無い。だというのに、セルトラはまだ先があるかのように――事実先があったから彼の国は滅んだのだが――言ってのけたのだ。
 ワケが分からない。それが孝弘の素直な感想だった。

 しかし、孝弘はすぐに一つの点に気づく。
 いや、まさか。でも、事実なっているのだからそうなるのか。そもそも、自分が経験した現象自体が有り得ないと思っていたことなのだ。有り得ないは有り得ないと考えるべきなのか。と。

「その様子ダト、気づいたネ?」

「米原中佐、どういうこと……?」

「…………有り得ないは有り得ない、です。七条准将閣下。恐らくですが、帝国は北方と北東部の三国を呑み込んだ際に気付いて使ったんですよ。ワタリビト憎し。ワタリビトの国を滅ぼせを国是の一つとしながらも、彼等は感情だけに国家運営を任せなかった。帝国は、ワタリビトを使った。正確には北方と北東部三国だけでなく友好国群にいたワタリビトとその血脈だけでなく、ワタリビトが残した技術や魔法体系を利用したんです」

「ああ、そういうこと……。だったら帝国は、ある意味とても賢いよ。そして、下手な絶滅主義よりタチが悪い」

「その通りダヨ。これは私の推測だけど、帝国はワタリビトとその技術を徹底的に利用しタ。そうじゃなきゃ、五〇年前以降の帝国の急速な軍事技術の発展は説明が付かなくナル。貴官達の世界を侵略している、CTについても、ネ」

「じゃあ、何故貴官の国は抵抗しなかったんですか。気付いていたなら、対処出来たはずです。どう…………いや、失礼しました。遅かったんですね」

「ああ、そうだヨ米原中佐。もう手遅れだっタ……。国の上層部がその答えに行き着いた頃には、もう帝国は手がつけられない程に、強くなったンダ……」

 セルトラは唇を噛んで悔しさを滲ませていた。彼がどうにか出来る段階では、国そのものもどうにか出来る段階を過ぎていたから。
 彼の悔しさは二人にもよく分かる。だが二人にとってはあくまで異世界のことで、他人事だ。それよりもずっとずっと気になることがあった。それを聞いたのは璃佳だった。

「帝国に関する情報提供、感謝します。ですが、我々にとって肝心の情報がありません。貴官が神聖帝国本国軍将官でない事を承知でお聞きします。何故神聖帝国は我々地球世界を侵略したのですか。そもそも、どうやってここを見つけたんですか。転移門を使ってこちらに来たという事は、偶然だったという可能性をこの際除けば意図的に選んだとしか思えません。それとも、帝国はどこでもいいから侵略しただなんて馬鹿みたいな事をしたとでも?    もし行き先が我等より軍事力に勝る世界だったら、失礼ですがあなた方は瞬殺されますよ?」

「すまないケレド、そればかりかは私も分からないネ。どうやってこの世界を見つけたのかモ、転移門についてモ、どうしてこの世界に侵略したのですかモ、貴官が聞きたい事は全て神聖帝国軍でもごくわずかしか知らない事だロウ。だから、知りたければ神聖帝国本国軍の、最低でも最上層部を捕虜にするしかなイヨ」

「…………分かりました。無礼を承知でお聞きした事に返答頂き感謝します」

「いいんだヨ。気にする事はナイ。私が貴官でも同じ事を聞いたサ。根本の原因を掴めなければ、解決の糸口を掴めないからネ」

 我々を一人残らず滅ぼすのが一番手っ取り早いケド、そんなの困難極まりないコトは貴官達も知っているだろうからネ。とセルトラは付け加え、長く話して喉が乾いたのだろうか水を一口、二口と飲んだ。

「私が話せるのはこれくらいダヨ。役に立てそうカイ?」

「ええ。十分過ぎる程に役立ちます。いえ、役立てます。帝国の真意、推測とはいえその極わずかだけでも知ることが出来ただけでも、我々にとっては貴重な情報ですから」

「なら良かっタ」

 璃佳はセルトラが捕虜であると承知の上で頭を下げた。彼の指揮する部隊や神聖帝国のCTによって戦死傷者が多数出たし彼そのものが侵略者の一人であるが、彼は日本軍にとって、世界にとって喉から手が出るほど欲しい情報を話してくれた。もちろんこの後もあらゆる情報を話して欲しいが、今日この場だけでも大収穫と言えるほどに彼は話してくれた。
 それだけではない。彼もまた神聖帝国の侵略による被害者だ。その彼がここまで捕虜尋問に応答した事を何かの拍子に知られれば、彼の部下や既知の者に危害が加えられるかもしれない。にも関わらず喋ってくれたのだから、一定の敬意は評したかった。
 捕虜尋問にしてはやや奇妙な対話は二時間半程に及んだが、セルトラは最後に、二人へとあることを伝えた。

「神聖帝国はまだ、大陸全土を統一してはいないンダ。ほぼ統一はしているんだけどネ。これは神聖帝国軍人なら少なからず知ってイルけど、貴官達は嘘の情報を聴取してしまっているかもしれないから言っておコウ。それで、このほぼ統一という部分にはちょっとした裏話があってネ。驚くべきコトに、マダ大陸北西部のある国だけが粘り強く抵抗しているンダ。国名は、ロゼルシア王国。一五年位前までは祖国より軍事力や経済力に劣り、面積も祖国の半分程度しかない国だっタ。でも、五年前の時点ではまだ国として生き残ってイタし、どうやら去年辺りの時点でも無事らしイ。それも割としっかりネ。もし今後神聖帝国本国軍上層部を捕虜に出来たら、この国の事を聞いてみても、いいかもネ」
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