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第10章 北関東・会津郡山方面奪還作戦編I
第16話 ダブルヘッドドラゴンの後始末と戦闘によって生じた問題
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DHDの奇襲という不測の事態は、空の猛者と魔法の猛者によって大惨事を未然に防ぐ形で終えることが出来た。もし防ぐ戦力がなければ地上軍は光線系魔法や火属性魔法で蹂躙されていただろう。それは神聖帝国軍が望んだ形になることでもあったが、そうはならなかった。
DHDと呼応して突撃を仕掛けてきたCTも、そもそも肝心のDHDが白河北部区域から外れた場所へ誘引されたから期待された効果を得られず、むしろ無駄に数を失う結果となった。
これだけを記せば日本軍の完勝のように思えるが、決して犠牲が無かった訳では無い。
日本軍にとって、今回の件で四つの問題が生じていた。
一つ目はDHDの後始末だ。
戦局の大勢に強く影響を与える訳では無いが、あの巨大な骸は放置するには大きすぎた。今はまだ厳冬期で腐敗の進行度は鈍いものの、春が近づけば腐乱臭が辺りを漂うことになる。もしこれが森林地帯で最悪放置して問題無いならそのままにする選択肢もあったが、そうは出来ない事情があった。
というのも、落下地点は石川町から北北西の玉川村付近の平野部で丁度道路もある地点。近くには福島空港があり仙台奪還後に仙台空港を本格運用するのに比べれば福島空港の重要度は低いのだが、二五〇〇メートルの滑走路を持つ空港を空輸に運用しない手はなく、物資運搬に使うには丁度いい空港であった。その途上にDHDの巨体が置いたままでは輸送面だけでなく他の面でも邪魔すぎる。何より臭いがバカにならない負の側面を産みかねない。
となるとDHDは焼いて処理することが決まるのわけだが、いかんせんあの大きさである。地龍並に処理が面倒なのは違いなく、第一戦線の一部の部隊はこの処理に悩まされることになったのである。
二つ目はDHDとの戦闘による損耗である。こちらは一つ目の問題より重たかった。戦闘機部隊のミサイルでは歯が立たないという、怪獣モドキどころかまさに怪獣クラスのDHDは戦闘機部隊と魔法の翼を持つ精鋭達によって打ち倒すことが出来たが、その精鋭達とて無傷では無かった。
まず戦闘機が一機被撃墜。二機がDHDの法撃を寸前で避けたことにより重整備行きとなってしまった。加えて空戦に参加したほぼ全ての戦闘機部隊は誘導兵器類をかなり消費しており、ごく一時的だが攻撃能力が低下した。
フェアル部隊も一連の空戦で西特大の四名と一〇一の三名も戦線離脱を余儀なくされた。無事だった者も魔力消費が激しかった。参戦した四〇名のうち、今川大佐と蓼科大佐を含めた二三名が魔力回復の為に丸二日の休息を要する事となった。
つまり日本軍は戦力的な意味で一体のデカブツによって三機と七名を失い――後に軽傷だった五名は戦線復帰したが、これには数週間の時間が必要になった――、二日間は十数機と二三名を戦力外に強いられたのである。戦闘機は精密機器であるから整備も必要になるし消費した分の兵器補充を要すことになるし、二三名に至っては最精鋭の魔法能力者。役割はいくらでもある彼等が二日間使えなくなるということは、当然作戦にも影響が生じることとなる。
三つ目の問題は二つ目の問題と関連していた。空戦だけでなく地上軍にも損耗が生じていたからだ。DHDの出現直後、呼応してCTが突撃した件である。
先に述べた通りDHDが白河北部空域で猛威を振るうことが無かったから惨事は避けられたが、さりとて被害が無かった訳では無い。何せ突撃してきたCTの数は二個師団相当だ。重砲類が全力で叩きにかかったのは当然のことで、前面に展開していた戦車部隊や機動戦闘車の装甲戦力はフル稼働する羽目になる。
それだけでは無い。戦闘機部隊をDHDに振り向けざるを得なくなった結果攻撃ヘリやフェアル部隊の負担は増大し、少数ながらエンザリアCTが出現したことで被撃墜も生じていた。
これら重火力戦力の猛攻から逃れたCTに対しては陸軍・海兵隊・魔法軍の歩兵部隊が応戦したのだが、瞬間的に多くの敵が襲来したことでいつもより近接戦に発展する事が多かった。そのため、少ないながらも死傷者が出たのである。
幸いだったのは損耗が襲来した敵の数に比して少なかった点である。これはDHDとの交戦時間が短く早めにケリがついたおかげであった。
とはいえ、想定外の損害に変わりはなく、作戦の一部に変更が必要となったのは事実であった。
四点目の問題が一点目から三点目の問題によって生じた作戦の一部変更である。
数は多くはないものの部隊の転換。弾薬消費によって必要になった補給。郡山のケリをつけてからとはいえ、DHD落下地点制圧後に実施する焼却部隊の手配。そして、西特大や一〇一など魔法軍精鋭部隊や戦闘機部隊の戦力投入タイミングの変更と調整。
これらを加味した結果、郡山方面進軍は二日半遅延することとなったのだった。
DHDの奇襲という不測の事態は、空の猛者と魔法の猛者によって大惨事を未然に防ぐ形で終えることが出来た。もし防ぐ戦力がなければ地上軍は光線系魔法や火属性魔法で蹂躙されていただろう。それは神聖帝国軍が望んだ形になることでもあったが、そうはならなかった。
DHDと呼応して突撃を仕掛けてきたCTも、そもそも肝心のDHDが白河北部区域から外れた場所へ誘引されたから期待された効果を得られず、むしろ無駄に数を失う結果となった。
これだけを記せば日本軍の完勝のように思えるが、決して犠牲が無かった訳では無い。
日本軍にとって、今回の件で四つの問題が生じていた。
一つ目はDHDの後始末だ。
戦局の大勢に強く影響を与える訳では無いが、あの巨大な骸は放置するには大きすぎた。今はまだ厳冬期で腐敗の進行度は鈍いものの、春が近づけば腐乱臭が辺りを漂うことになる。もしこれが森林地帯で最悪放置して問題無いならそのままにする選択肢もあったが、そうは出来ない事情があった。
というのも、落下地点は石川町から北北西の玉川村付近の平野部で丁度道路もある地点。近くには福島空港があり仙台奪還後に仙台空港を本格運用するのに比べれば福島空港の重要度は低いのだが、二五〇〇メートルの滑走路を持つ空港を空輸に運用しない手はなく、物資運搬に使うには丁度いい空港であった。その途上にDHDの巨体が置いたままでは輸送面だけでなく他の面でも邪魔すぎる。何より臭いがバカにならない負の側面を産みかねない。
となるとDHDは焼いて処理することが決まるのわけだが、いかんせんあの大きさである。地龍並に処理が面倒なのは違いなく、第一戦線の一部の部隊はこの処理に悩まされることになったのである。
二つ目はDHDとの戦闘による損耗である。こちらは一つ目の問題より重たかった。戦闘機部隊のミサイルでは歯が立たないという、怪獣モドキどころかまさに怪獣クラスのDHDは戦闘機部隊と魔法の翼を持つ精鋭達によって打ち倒すことが出来たが、その精鋭達とて無傷では無かった。
まず戦闘機が一機被撃墜。二機がDHDの法撃を寸前で避けたことにより重整備行きとなってしまった。加えて空戦に参加したほぼ全ての戦闘機部隊は誘導兵器類をかなり消費しており、ごく一時的だが攻撃能力が低下した。
フェアル部隊も一連の空戦で西特大の四名と一〇一の三名も戦線離脱を余儀なくされた。無事だった者も魔力消費が激しかった。参戦した四〇名のうち、今川大佐と蓼科大佐を含めた二三名が魔力回復の為に丸二日の休息を要する事となった。
つまり日本軍は戦力的な意味で一体のデカブツによって三機と七名を失い――後に軽傷だった五名は戦線復帰したが、これには数週間の時間が必要になった――、二日間は十数機と二三名を戦力外に強いられたのである。戦闘機は精密機器であるから整備も必要になるし消費した分の兵器補充を要すことになるし、二三名に至っては最精鋭の魔法能力者。役割はいくらでもある彼等が二日間使えなくなるということは、当然作戦にも影響が生じることとなる。
三つ目の問題は二つ目の問題と関連していた。空戦だけでなく地上軍にも損耗が生じていたからだ。DHDの出現直後、呼応してCTが突撃した件である。
先に述べた通りDHDが白河北部空域で猛威を振るうことが無かったから惨事は避けられたが、さりとて被害が無かった訳では無い。何せ突撃してきたCTの数は二個師団相当だ。重砲類が全力で叩きにかかったのは当然のことで、前面に展開していた戦車部隊や機動戦闘車の装甲戦力はフル稼働する羽目になる。
それだけでは無い。戦闘機部隊をDHDに振り向けざるを得なくなった結果攻撃ヘリやフェアル部隊の負担は増大し、少数ながらエンザリアCTが出現したことで被撃墜も生じていた。
これら重火力戦力の猛攻から逃れたCTに対しては陸軍・海兵隊・魔法軍の歩兵部隊が応戦したのだが、瞬間的に多くの敵が襲来したことでいつもより近接戦に発展する事が多かった。そのため、少ないながらも死傷者が出たのである。
幸いだったのは損耗が襲来した敵の数に比して少なかった点である。これはDHDとの交戦時間が短く早めにケリがついたおかげであった。
とはいえ、想定外の損害に変わりはなく、作戦の一部に変更が必要となったのは事実であった。
四点目の問題が一点目から三点目の問題によって生じた作戦の一部変更である。
数は多くはないものの部隊の転換。弾薬消費によって必要になった補給。郡山のケリをつけてからとはいえ、DHD落下地点制圧後に実施する焼却部隊の手配。そして、西特大や一〇一など魔法軍精鋭部隊や戦闘機部隊の戦力投入タイミングの変更と調整。
これらを加味した結果、郡山方面進軍は二日半遅延することとなったのだった。
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