異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第10章 北関東・会津郡山方面奪還作戦編I

第9話 喜多方・会津坂下の戦い①

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 ・・6・・
『こちらノースマジシャン!    喜多方市街西部郊外への道を作ったぞ!』

『セブンスよりノースマジシャンへ。集中法撃ご苦労!   特務、全隊突っ込め!   西から一気に穴を開けるよ!』

『了解!』

 流石と言うべきか、北の猛者達はあっという間に敵戦線に対して大きな傷口を作り、そこへ特務連隊の各隊が空中からの法撃をしつつ突撃をしていく。

「特務小隊、各個法撃開始。金山中尉は着陸後、法撃を。一発デカいのを任せたよ」

『了解っ!!』

『了解です』

 本部中隊より先行して進む孝弘達特務小隊は、高度を下げつつ着陸予定地点周辺に蔓延るCTへそれぞれ一撃を放つ。
 水帆と知花は上級魔法に近い威力の中級魔法を、慎吾は無属性魔法弾を数十発生させると、地上に降り注がせた。アルトは雷属性魔法を放ち、カレンは魔法で作り出した矢を一度に三本射って大型CTをこの世から亡きモノにした。
 三人一班スリーマンセルを作った一二人も協調法撃で小隊単位のCTを吹き飛ばすか薙ぎ払っていく。

「超大型CTか。おはよう、そしてさようならだ」

 孝弘は着陸姿勢を取る直前に視認した超大型CTに向けて二発銃弾を放つ。
 七条家の研究所より渡された新式魔法銃弾の効果は絶大だった。爆発系魔法を込めた銃弾は超大型CTにヒットすると爆発を引き起こしバケモノは木っ端微塵になる。

「……想定以上だなこれ。大型CT以下には魔力調節しておこう」

 孝弘は新式銃弾の威力に少し目を見開くと、ぽそりと呟きながら着陸する。

「金山中尉、今だ」

『了解!    暗き炎の塊は燃やし滅する。『闇炎弾乱舞カースファイア・ダンス』』

 宏光は着陸した直後、足下のバランスを取ってから三〇〇メートル先にいる小隊規模のCTに向けて法撃を発射する。彼が発動した魔法は火属性と闇属性の複合型中級魔法だった。黒い炎弾はCTの集団に着弾すると、跡形もなく燃やし尽くしていった。

(威力は申し分無いけど、素晴らしいのは魔力効率だな。彼の魔力はA+の中では多くない方だけどなるほど、この効率性なら並のA+より戦える訳か。)

 孝弘は宏光が撃った法撃で彼の特性の一つに改めて気付かされる。訓練では分からなかった点だ。宏光の法撃は短縮詠唱にも関わらず通常詠唱並の威力を叩き出している。それは少ない魔力で敵を多く倒せるということであり、魔力を節約出来るのだから生存性も高まる。戦闘系能力者として理想の姿の一つだった。

 才能面についてはあのクソ勇者に比べれば大したことない。なんてとんでもない。やはり君だって超優秀だぞ。
 孝弘はそう思いながらも、自身の役目に素早く戻る。

『SA1よりセブンスへ。SA担当の拠点確保しました』

『セブンスよりSA1。了解。手早くて助かる。SAはそのまま南進。海兵隊と陸軍の橋頭堡へ速やかに合流するよう。担当部隊は特務第一と北特団第二。貴官は以上の二個大隊と行動を共にしろ。私達は臨時前線司令部の機能を構築するから、戦闘は任せたよ。茜はまだ出さないけど、厳しそうになったら言って。向かわせる』

「了解しました。厳しい戦いにならないよう願ってますが、極力こちらで解決させます」

『よろしく』

 孝弘は璃佳への報告を手短に済ませると、すぐに自身の部隊へ無線を切り替える。

『SA1よりSA各員。我々特務小隊は第一特務第一大隊及び北特団第二大隊と合流して南進する。目標地点は海兵隊及び陸軍が着陸した地点。すぐに向かうよ』

『了解!』

 孝弘達の特務小隊は喜多方市街の制圧を他部隊に任せ、南進を始める。

『BCTCRより各部隊へ通達。喜多方市域のマジックジャミング装置、破壊を確認。喜多方市域の各種レーダー回復。最新データをマップにマークします』

「やった!   これで戦いやすくなるね」

「だな、知花。破壊したのは北特団の第一だってよ。流石冬季戦の鬼だな」

「レーダーも回復したし知花、いつも通り情報系は頼んだ」

「了解したよ、孝弘くん」

 孝弘達は少し笑みを浮かべると、身体強化魔法を付与して駆けていく。ただし、いつもの速度の半分程度だ。積雪で足許がいつもより不安定だからである。
 孝弘達が阿賀川から北二キロ地点の辺りまでに来た頃、慎吾は孝弘に話しかけてきた。

「米原中佐、ちょっといいかな」

「どうした、慎吾少佐」

「北特団の第二が使っている魔力で組成したスキー板、アレの再訓練を会津盆地を押さえてから願い出てもらっても宜しいでしょうか?」

「構わないけれど、理由は?」

「お恥ずかしい話ですが、自分を含めて三人は冬季戦を向こうでもあまり経験が無くてですね……。米原中佐は向こうで多少の経験があり、金山中尉もそれなりにあるとか。特務からの方々は何度か演習で経験済みなのでそこそこ使えると言ってましたが、自分達はそうはいかず……」

「分かった。確かに今後アレを使う機会は多いし、今年は例年より雪が多いらしいから今使っている身体強化魔法だとバランスが不安定になる時もあるからな。松阪中佐にかけ合ってみるよ」

「助かります。おや、その北特団第二が前方にいますね。特務の第一も」

「ホントだ。なら、ちょっと二人のところにいってくる。水帆、特務第一の隊列前方に合流しておいてもらっていいかな?」

「分かったわ。いってらっしゃい」

「ああ、いってきます」

 孝弘は特務第一の川崎と北特団第二の松坂の方に向かう。どうやら阿賀川を渡る前に何やら確認をしているらしい。

「川崎中佐、松坂中佐。特務小隊の米原、到着したよ」

「おう、来たか」

「あら、米原中佐。思ったよりお早い到着で」

「七条准将閣下から今の兵力で喜多方は押さえられるから、南進するよう言われて」

「なるほどな。まー、この寒さでCTのヤツらもちょっとは動きが鈍ってるからな」

「流石にアラスカやシベリアほど鈍くはならないみたいですけどね。報告より連中、動けるみたいなんですよ」

「良くない話だなあ。ところで、どうしてここで一旦停止を?」

「アレだアレ。川を渡った先にいるデカブツのゴーレムが一五体。とっとと会津市街に退いた神聖帝国軍召喚士の置き土産だな。それの奥にはCTもわらわらいやがる。しかもわざとらしく、海兵隊や陸軍が降りた会津坂下の方には見向きもせずにこっちに向かってきてやがるときた」

「空軍とフェアル部隊の支援は……、ああ、会津美里と湯川から向かってくるヤツらに手一杯みたいだな。当初より雪が強くなってきたのが裏目に出たかぁ……」

 本来ならば後続部隊が渡りやすくする為に魔法で臨時の橋を作りたかったのだが、敵が向かってきているとなると話は別になる。悠長に魔法組成臨時架橋など出来るわけが無い。

 加えて航空部隊やフェアル部隊の手を借りたいところだが、想定より会津坂下に向かう敵の数が多いようで、支援は期待出来ないらしい。特務の第二は喜多方区域の制圧に忙しく、北特団第一はあちこちから支援要請を飛ばされている。

 こうなると、孝弘達に対しての地上支援は後回しにされがちである。単独突破せざるを得ないというわけだ。

「てわけで、川島中佐の力を借りたいんだがいいか?」

「川島中佐のゴーレムを突破口にしつつ、私達も面制圧で支援します。あとはバケモノをぶち抜いてぶっ潰して、そうすればあとは陸と海兵のいる会津坂下へ合流出来るかと」

「俺達の後ろは北特団第三が迫ってくるCTを潰してくれてるし、それでいこう。川島中佐を呼び出します」

「頼んだ」

「お願いします」

 孝弘は二人の依頼に首を縦に振ると無線を繋げた。

「悪い、SA3大輝。こっちに来てくれ。召喚士の出番だ」

『おうよ。レーダーで確認したから事情は分かったぜ。三〇秒待ってくれ。特務も皆連れてこればいいか?』

「ああ。大輝のゴーレムを戦闘に突っ込むからな」

『おっけ。待ってな』

 無線を終えると、大輝達は時間通り三〇秒でやってきた。

「孝弘、ゴーレムの召喚は五体でいいか?   フルで出すのはさすがにな」

「ああ、それでいい。どっちみちこの後暫くはゴーレムに活躍してもらうことになるし、余裕分は欲しい」

「了解。じゃ、場所を開けてもらうか。すまねー!!    ゴーレム出すからスペースを開けてくれー!!」

 拡声魔法で周りに呼びかけると、あちこちから了解の声が上がり、ゴーレム五体分の場所が空けられる。
 大輝はそれを確認すると、召喚符を取り出した。

「うし、やるか!    ――主たる我が命ずる。我を守らんが為、友を守らんが為、国を守らんが為。巨躯は敵に拳を下ろし、その体躯で盾とならん。その力を存分に振るえ。今ここに、顕現するは土人形。『武士もののふの土人形』召喚」

 大輝が召喚を終えると、顕現したのは甲冑を身にまとったゴーレムが五体。ただしその全長は以前召喚した時よりやや大きく、四メートルを越えていた。大輝曰く、貰った召喚符の質が良く同じ魔力でより強いゴーレムを召喚出来たからとか。同魔力で前より強いなら、それを出すに越したことはないとの判断からだった。

「オレがゴーレムを突っ込ませたら、全員でゴーだったよな?    なら、ついでに土属性で仮の足場作っておくぜ」

「助かるよ、大輝」

「工兵部隊は喜多方の橋頭堡構築にかかりきりだし、この手の役目は土属性能力者の本分の一つだからな。任せとけ」

「任せた」

 大輝は首肯すると、土属性魔法の詠唱を始める。すると、それなりに幅のある川にあっという間に足場が作られていった。短縮詠唱だから戦車が渡れる程の強度は無いが、今の面々ならこれでも十分過ぎるほどの、中級魔法による構築だった。

「やっぱ川島中佐がいると渡河も楽チンだな。何度楽させてもらったか」

「土属性のしかも召喚士でSランクは希少な存在ですからね。恩恵に預からさせてもらいましょう」

 川崎と松坂は関心した様子で大輝の魔法を見てから言うと、視線を神聖帝国軍召喚士が顕現させたゴーレムとCTの一群の方に向ける。数は一個連隊程度。雪が降っているからかやや遅めの歩調で迫ってきており、彼我の距離は一キロを切っていた。
 突撃の合図は川崎が担当となった。
 既にここにいる全員が用意を出来ていたから、数秒の間を置いて号令は発せられた。

「総員、吶喊!!    バケモノ共をぶっ潰せ!!」

『応ッッ!!』
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