異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第10章 北関東・会津郡山方面奪還作戦編I

第6話 本部付特務小隊 ②

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「はっ。僕は金山宏光かなやまひろみ。この度、魔法軍からの推薦を受けて第一〇一魔法旅団戦闘団本部付特務小隊に着任しました。階級は中尉です。得意属性は火と闇の二属性。光属性は苦手ですが、火を除く基本五属性はそれなりに使えます。流石に高崎中佐のように上級以上を使いこなすなんて芸当は出来ませんが。主武装は魔法長杖なので、近接戦はあまり得意ではありません。万が一に備えてダガーは持ってます」

 金山宏光。二三歳。彼の特徴はその外見といえるだろう。本人曰く、異世界では女装して潜入任務をこなす事が二度ほどあった。というくらいに容姿が整っており、化粧を施して服装も変えれば確かに女性に見えてもおかしくない。可愛い子好きがいたら間違いなく標的にされるだろう。なお、当時の潜入任務について本人は渋々だったらしい。趣味嗜好的な意味で元から女性的な服装をすることが無かったのだから当然ではある。

 宏光は孝弘と同じ帰還者であるが、彼の場合は地球への帰還が一一月下旬と孝弘達に比べて二ヶ月ほど遅かった。政府帰還組保護チームが彼の存在を察知したのは比較的早く、一二月初頭には登録と保護を実施。その後、宏光と魔法軍は面会を実施し、今後について考える時間が少し与えられていた。

 一二月上旬、宏光は魔法軍に入ることを決意する。理由は二つあった。一つは、元々魔法能力者だったから能力者としての責務は知っていた点。最も大きい理由は唯一の肉親たる祖父がこの戦争の少し前に病気で亡くなっており、その祖父と自身が愛していた故郷たる北海道旭川が戦禍にみまわれ、今も神聖帝国の占領下にあるからだった。旭川を奪還した際には自宅に行きたい。それが彼の戦う理由だった。

 一二月下旬。璃佳は彼と面会。魔法軍本部の推薦する能力者だったから大して心配していなかったが、実際に話してみて人物的にもあまり問題は無いと判断。復讐による感情への悪影響は自分や孝弘達でカバーすれば良いと思い、第一〇一魔法旅団戦闘団への編入が決まったのである。

 このように彼自身が軍に入ったのが比較的最近だったこともあり、孝弘達が彼のことを知ったのは特務小隊が編成された時で前情報は当然少なかった。孝弘が会議後にこの場を設けたのも、知らないことが多い彼を自分の目で判断する為といった理由もあったのだ。

「二属性が得意なら十分すぎるくらいだ。複合魔法も使えるとの事だし、書類に目を通してみたら、向こうでは時代水準の割には個人行動より集団で戦うことの方が多かったらしいな。特務小隊は場合によって個人で戦う事もありうるけれど、基本は班単位から小隊単位で戦うことが多い。集団行動に重きを置いていたというのなら、軍人として重宝される存在だから助かるよ」

「いくらあちらの世界で個人能力主義があっても、いざ戦争になれば個人だけではどうにもならない事もありましたので。その、一つよろしいでしょうか?」

「どうぞ。何かな」

「これは正直な感想なのですが、失礼を承知で言うとここにいる帰還者と同行者の方々含め皆さんがとてもマトモで安心しました。米原中佐などの四人と、鳴海少佐方三人がです。米原中佐の場合は今判断しましたけど」

「へえ。その理由は?」

 事前に資料で知っている上で実際に先程まで話をしていた水帆達三人と慎吾達三人の表情をちらりと確認してから、孝弘はあえて質問をした。六人の顔つきが、彼の事情を知った上で彼を悪く思っていなさそうで、どちらかというと同情の念が垣間見えたからでもあったが。

「僕がいた異世界には僕以外に転移者がいたのですが、ソイツは勇者と呼ばれてました。事実、僕に比べてバカみたいに強くて、存在がチートかよ。と思ったくらいです。ただ……」

 ここまで言うと宏光は当時を思い出したのか盛大なため息をつく。孝弘は大体どんな話になるか察したがこう言った。

「人格面に問題があったと?」

「超がつくほど問題アリでした。典型的なクソ野郎ですね。ヤツがやらかしたことの後処理と調整がどれだけ大変だったか……。自分で言うのも変ですけど、今みたいに性格が捻くれたのもソイツのせいです。転移者とその周辺で持ち上げる大馬鹿者達を人と思わないくらいには曲がりました」

「心中察するよ。ちなみに、その勇者は?」

「ゲームとかで例えるなら、終盤で死にやがりました。僕達の忠告を無視するわ、逆ギレして僕達の事を勇者の名において叛逆者とするとか言い出して敵をけしかけさせるわ、挙句の果てに勇者パーティーは一人残らず死にやがるし……」

「でも、君は帰還した。それは、勝った。という事だよな?」

「ええ。僕は元々あちらじゃサポーターで、あちこちと利害調整はしてましたし、それがきっかけで各国とのコネクションは持っていました。それをフル活用して、勇者の所業の後始末をしたって感じです」

「具体的には?」

「勇者が死んだのを利用しました。魔王軍の卑劣な行いによって勇者達は死んでしまった。我々はここで屈してはならない。力ある者達よ、真の勇者達よ立ち上がれ! と各国を煽り、実力者達を編成して特殊部隊を編成。その上で各国軍を一時的に大量動員して力技で潰しました。…………もうあんな経験はしたくないですね」

 死んだ魚のように光を失った瞳で語る宏光だったが、彼が成し遂げた事を一度聞いているはずの特務小隊の面々ですら今の話を改めて聞いて尊敬の眼差しを送っていた。もちろん、水帆達や慎吾達もである。
 孝弘も彼等と似たような表情になっていたし、その大変さを知っているだけあって歳だとか関係なく宏光を尊敬に値する人物だと感じていた。

「金山中尉、君はとてつもなくすごいな……。それを成し遂げられる者は早々いないよ。俺達も似たようなことはしたけれど四人で分担したし、実際に動いたのは所属していた国で俺達は呼びかけただけだ。ところが君はそれを自分が主軸になって動いた。金山中尉、君は勇者という単語が嫌いかもしれないけど、俺達の中では君こそが勇者だと思うぞ」

「…………そういうとこですよ」

「えっ?」

「そういうところが、ここにいる皆が凄くマトモに思った理由です。むしろ、すげえいい人じゃんって思って、評価して貰えたのが嬉しくて。帰還したら地球は戦争してるし、故郷は訳の分からない異世界連中に占領されてるしでロクでもないと思ってましたけど、少なくとも日本軍は最低でもマシな人で、大抵はめっちゃ良い人で。あっちの世界はロクでも無い連中ばかりに苦労させられたので、ホント、今は言い組織に入れたんだなって。まだ戦う前ですけど。あ、やば。思い出したらうるっときた……」

 人並み外れて数多くの苦難を経験してきた宏光はにへら、と笑いつつも目頭を抑えていた。

(ああー……、この姿は母性の強い女性の庇護欲が掻き立てられそうだな……。ていうか、一人そんな感じの人いるし……)

「ねえ、孝弘」

 孝弘のすぐ側に寄り、小声で耳打ちしたのは水帆だった。

「ん? なんだ?」

「彼、女性だけじゃなくて特定の嗜好の男性からでもドストレートだから上官としてもアレコレの配慮と周りへの注意をしといた方がいいわよ」

「真顔でなんて事を言うんだよ……」

「だって、ねえ……」

「いや、分かるけどさあ……」

 自己紹介があらぬ方向へ話が曲がった気がしないでもないが、これから共に戦う者達の人となりを知る良い機会になったのではないかと、とりあえず孝弘は結論付けることにした。
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