異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第10章 北関東・会津郡山方面奪還作戦編I

第5話 本部付特務小隊①

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 ・・3・・
 第一〇一魔法旅団戦闘団の大隊長クラス以上による幹部連会議が終わると、それぞれが自身の部隊のミーティングに向かう。その中で孝弘は彼等と同様の行動を取っていた。
 自己紹介を兼ねたミーティングが終わったであろう小会議室は同じ建物内でフロアが違うだけだからそう遠くはなく、すぐに部屋に到着する。

 小会議室からは賑やかしい声が聞こえる。どうやら特務小隊内のコミュニケーションは出だしは上々のようだ。
 いくら編成された小隊の、自分達四人を除いた多数が第一特務からとはいえ初めて顔を合わせる人もいるから、自分がいない間どうだろうかと少しだけ気になっていた。
 扉を開ける前から聞こえてくる声音から問題なさそうだと感じた孝弘は、少しだけ微笑んで扉を開ける。

「皆お待たせ。思ったより少し早く終わったよ」

 孝弘がドアを開けた時に起きた反応は三種類。

 一つ目は水帆達三人で、いつも通りの挨拶の仕方。お疲れ様の言葉も添えられていた。

 二つ目は特務連隊から配置転換された一二人で、こちらは「お疲れ様です」と言いつつ孝弘に敬礼をした。

 最後は孝弘が書類でしか見た事のない四人だ。三人は固まって何かを話していたようだが、孝弘が来てから敬礼をする。男性二人と女性一人で、うち男性一人は孝弘より明らかに歳上といった見た目。男女二人は同じ歳だろうか。孝弘より少し若い。
 もう一人は特務連隊からの配置転換組に良い意味で――歓迎の意思がよく現れていた――可愛がられていた。背丈はそう高くない。知花とほぼ同じくらいだ。孝弘は彼を書類で予め成人男性と知っていたが、何も言われなかったら未成年と思っていただろうし、格好によっては女性と間違えたかもしれない。そんな男性だった。
 その彼も、孝弘が来ると表情を引き締めて模範的な敬礼をしていた。

「こっちも一通り自己紹介が終わって話題が区切れた所だったからちょうど良かったわ。さーて、隊長殿。まずは何からするのかしら?」

 水帆はわざとらしく砕けた口調で言うと、孝弘も映画の役者のように大仰に「そうであるなあ……」と言ってから、

「会議にのぼった作戦について話をする前に、初めて顔を見る人達の事を知りたい。四人の事は既に書類である程度を知ったけど、やっぱり直に本人の口から聞きたくてね。名前と階級に能力者ランク。後は四人とも帰還者か同行者だから、簡潔に向こうの世界でどう過ごしたかとこっちに来てからどう過ごしたかを教えて欲しいな」

 孝弘は四人に視線を向けると、彼等は首を縦に振って誰から話すか少しだけ相談する。
 最初に口を開いたのは「年長者だし自分からですね」と言った男性、異世界帰還おじさんこと鳴海慎吾だった。

「初めまして、米原中佐。私は鳴海慎吾、九十九里における戦闘で功績を認められたということで特任大尉から魔法少佐に昇格しました。能力者ランクはA+ランク。もう少しでSランクらしく、四〇過ぎのこの歳でも成長するものなのかと嬉しく思いますが、戦時であることを考えると少々複雑です。得意属性は無属性。魔力弾の扱いに長けてます」

「おぉ、無属性は珍しいね。九十九里の方からデータは貰ってるけど、素晴らしい魔力密度だと思ったよ。しかも精度も申し分無い。活躍を期待しています」

「はっ。自分はあちら側でここにいる二人の教師役みたいなものも務めておりました。彼等には帰還前からこちらの一般常識や高校卒業レベルまでの学力も身につけてもらっており、戦争が無ければ大学に通いたいと言っていたので、知識面も問題ないかと」

「なるほど。それはありがたい。引き続き二人の後見役を頼みます」

「勿論です。親代わりみたいなものでもありますから、戦争が終わっても二人が独り立ちするまでは暮らすつもりでしたので」

「その為にも早く戦争を終わらせたいね」

「全くです。軍人になった私が言うのもおかしな話ですが、戦争は向こうで散々やってきてもう十分だったので」

「少佐の気持ちはとても分かるよ。これからよろしく」

「はっ」

「次に話してくれるのはどちらかな?」

「自分からいきます」

 そういったのは双子の兄、アルトだった。
 彼は気をつけの姿勢になると日本軍式の敬礼をする。

「鳴海有都、先日特任中尉から魔法大尉となりました。能力者ランクはA+。自分もあと少しでSランクになるようで。得意属性は雷。主武装は魔法長槍ですが、杖による魔法も少々心得てます。自分は妹と一緒に先生、少佐と来た同行組になります。向こうでは小貴族の家系出身でした。先生は命の恩人であり、恩師でもあります。なので、こちらの世界に来ました。宜しくお願い致します、米原中佐」

「自己紹介ありがとう、有都大尉。近接戦が得意な者はこの世界ではそう多くなくてね。けど、この戦争では近接戦の重要度が戦前より増している。活躍を期待しているよ」

「はっ!」

「ちなみに、将官を前にしたような振る舞いをしてくれて申し訳ないけど、俺の前ではそこまで畏まらなくてもいいよ。流石に公の場ではそれくらいの形はしてもらうけど、普段はもう少し砕けても構わない」

「助かります……! 向こうで貴族でしたから所作は多少心得てますが、どうにも堅苦しいのは苦手で……。一人称、でしたっけ。俺って使わさせてもらいます」

「うんうん、それでいい。よろしく」

「はい!」

「それじゃあ次は華蓮大尉」

 孝弘は華蓮の方を向くと、彼女も兄と同じように敬礼をする。

「はっ。私も少し楽な形で話してもいいですかー?」

「もちろん」

「助かりますー。私は鳴海華蓮。階級は先日特任中尉から魔法大尉になりましたー。能力者ランクはA+で、あとちょっとでSランクらしいです。こっちの計測器は詳しく分かって便利でいいですねー。得意属性は風。主武装は化合弓、コンパウンドボウになります。実矢も使いますが基本は魔力生成矢を使用するので、魔力さえあれば困らない中距離担当になれるかと! 反面、近接戦はあんまり得意じゃないので、その時はカバーをお願いするかとー。あちらではアルトと同じ境遇ですから省略しますねー」

「化合弓使いも中々に珍しいね。しかも魔力生成矢使用かつ風属性で射程延長するから最大射程は小銃並というのも心強い。正確無比な攻撃が得意ってことだから、音を立てずに攻撃なんて芸当も出来るだろうし、頼りにしてるよ」

「はっ! お任せくださーい!」

 カレンの元気な返答に孝弘は微笑んで頷くと、最後の一人、小柄な男性の方を向く。
 先の三人は九十九里における戦闘の際の報告物もあるから書類である程度を知ることが出来たが彼は別だ。戦闘データは彼が語ったとされる異世界の経験しか無かった――無論、こちらで事前の訓練はされているからそのデータはあるが地球世界の実戦データはほぼ無い――ので、少しだけ詳しく聞くつもりだった。

「最後に金山中尉。よろしく」
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