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第9章 つかの間の休息編
第7話 七条真之との会談①
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・・7・・
井口市文教区東部
九条術士・七条家本邸
七条家の本邸は外見が和風寄りではあるが内部は和洋折衷ともいえる作りになっていた。これから孝弘達が向かう応接室は洋室とのことなので、内装等は一部洋風も取り入れているのだろう。こういう形式を何て言うんだっけか。と、孝弘は学生時代の記憶を掘り起こそうとしていたが、思い出せなかった。
応接室に向かう途中、家屋にしては長い廊下を進むと見えたのが庭園である。アルストルム世界でも貴族なら個人の邸宅に大きな庭園があったが、あちらは西洋に近い文化だったから和風の邸宅は見たことが無かったし、和風に近い国はあったものの中華風とミックスしたような雰囲気で純和風といった感じでは無かった。
だからこの光景を見た時に孝弘が真っ先に思い浮かんだのは京都の寺社にある庭園だった。
そういえば京都は通り過ぎただけだったな。などと庭園の景色を眺めながら歩いていくと、応接室に着いた。大きなテーブルがあり、見た目だけでも座り心地がいいと判断できるソファがあるなど、部屋の様式は洋風だった。
大きなテーブルには湯気がふんわりと立ち上っている温かい紅茶と、クッキーなどの茶菓子が置いてあった。
全員がソファに座る――孝弘達四人の向かい側に真之と璃佳が座っていた――と、最初に話をしたのは真之だった。
「今日は急な予定変更にも関わらず快く受けてくれて感謝する。いくら七条といえど戦時だからかつて程のもてなしは出来ないが、今日はゆるりとしていってくれ」
「とんでもない。こちらこそ、七条本家に訪れる機会を得たことを名誉に思います。四人を代表して、私からもお礼を」
孝弘が礼を言うと、真之は微笑んで、気にしないでくれ。堅苦しくせず、もう少し肩の力を抜いてもらっていい。と返した。
孝弘達はその言葉を聞いて少し楽にした。次に口を開いたのは水帆だった。
「私からも感謝のお言葉を。七条家の宝物庫より頂きました魔法長杖には何度も助けられました。特に東京都心におけるCT大群決戦では、魔法長杖の効果が無ければ、魔力切れを起こしておりました。本当にありがとうございます」
水帆の礼には感謝の念が強くこもっていた。同じく魔法長杖を譲渡された知花と、活躍の機会が多かった召喚符を供給し続けられていた大輝も頭を下げる。
「我が家の蔵にあった魔法具達が役立って何よりだ。猛者達に使ってもらえたのなら、彼等も本望だろう」
少しの間こういった話や雑談が続いたが、真之は本題を切り出してきた。
「今日君達を我が家に招いたのは礼を述べる為だけではない。幾つか君達から話を聞きたくてね。昼食は別として歓迎の会は夕方からで、午後はくつろいでもらえればいいから、その前に色々と、な」
「承知致しました」
「うむ。ありがとう。では早速。――君達のことは璃佳からどんな人物かある程度耳にしているが、詳細までは知らなくてね。単刀直入に言おう。帰還者として、異世界で何を経験し、何を目にしてきたか。話せる範囲でいい。聞かせてくれないか?」
四人は顔を見合わせると、少し間を置いて孝弘が代表して話すことにした。
「私達が異世界にいたのは六年間ですから細部までとなると果てしない時間になってしまいます。大まかでも宜しければ、お話出来ますが」
「それでも構わない」
「わかりました。それでは、お話致しましょう」
それから孝弘は異世界アルストルムで起きたことを語り始めた。
異世界に転移した直後から、向こうの戦争でどんな事があったか。激しい戦いと、出会いと別れ。時には残酷な決断をせねばならなかったこと。親交の深かった者の死。戦争で得たものと、喪ったもの。
しかし、決して悲観に暮れることばかりでなく、学んだことも多く、また喜びもあったこと。
孝弘からだけでなく、水帆の視点から、大輝の語りから、知花の知見からと四人の角度で補足を交えながら語られていった。
孝弘達が異世界アルストルムの話をした時間は三〇分から四〇分程度だろうか。ことを掻い摘んで言っていったとはいえ六年分ともなればこれくらいの時間はかかる。いや、むしろコンパクトに収まっているといえる。
真之は四人の話を終始集中して聞いていた。時に質問をし、応答を受けると頷いたり色々な反応をした。
璃佳も初めて聞く話があったのか、ティーカップに口をつけながら耳を傾けていた。
「なるほど。君達も他の帰還者達と同じく、壮絶な運命を経ていたのだな。よく生きて帰ってきてくれた。帰還したら故郷がコレだから、九条術士の一角として不甲斐ない思いだが」
「帰還した先が前線に近い富士山麓で助かったのは事実ではありますが、日本軍が精強だったお陰です。私たちはすぐに合流することができ、今こうしていられます。もし帰還先が北海道の、それも道央や道東だったなら私達とて無事で済まなかったかもしれません」
「ぞっとする話だな。――君達にもう一つ聞きたい。君達はなぜ戦う? なぜ再び戦争に身を投じた? いくらかの帰還者が前線に向かうのを拒否したように、君達にも権利はあったはずだ。異世界でそれだけの経験をしてもなお、なぜ戦い続けることを選んだんだ?」
井口市文教区東部
九条術士・七条家本邸
七条家の本邸は外見が和風寄りではあるが内部は和洋折衷ともいえる作りになっていた。これから孝弘達が向かう応接室は洋室とのことなので、内装等は一部洋風も取り入れているのだろう。こういう形式を何て言うんだっけか。と、孝弘は学生時代の記憶を掘り起こそうとしていたが、思い出せなかった。
応接室に向かう途中、家屋にしては長い廊下を進むと見えたのが庭園である。アルストルム世界でも貴族なら個人の邸宅に大きな庭園があったが、あちらは西洋に近い文化だったから和風の邸宅は見たことが無かったし、和風に近い国はあったものの中華風とミックスしたような雰囲気で純和風といった感じでは無かった。
だからこの光景を見た時に孝弘が真っ先に思い浮かんだのは京都の寺社にある庭園だった。
そういえば京都は通り過ぎただけだったな。などと庭園の景色を眺めながら歩いていくと、応接室に着いた。大きなテーブルがあり、見た目だけでも座り心地がいいと判断できるソファがあるなど、部屋の様式は洋風だった。
大きなテーブルには湯気がふんわりと立ち上っている温かい紅茶と、クッキーなどの茶菓子が置いてあった。
全員がソファに座る――孝弘達四人の向かい側に真之と璃佳が座っていた――と、最初に話をしたのは真之だった。
「今日は急な予定変更にも関わらず快く受けてくれて感謝する。いくら七条といえど戦時だからかつて程のもてなしは出来ないが、今日はゆるりとしていってくれ」
「とんでもない。こちらこそ、七条本家に訪れる機会を得たことを名誉に思います。四人を代表して、私からもお礼を」
孝弘が礼を言うと、真之は微笑んで、気にしないでくれ。堅苦しくせず、もう少し肩の力を抜いてもらっていい。と返した。
孝弘達はその言葉を聞いて少し楽にした。次に口を開いたのは水帆だった。
「私からも感謝のお言葉を。七条家の宝物庫より頂きました魔法長杖には何度も助けられました。特に東京都心におけるCT大群決戦では、魔法長杖の効果が無ければ、魔力切れを起こしておりました。本当にありがとうございます」
水帆の礼には感謝の念が強くこもっていた。同じく魔法長杖を譲渡された知花と、活躍の機会が多かった召喚符を供給し続けられていた大輝も頭を下げる。
「我が家の蔵にあった魔法具達が役立って何よりだ。猛者達に使ってもらえたのなら、彼等も本望だろう」
少しの間こういった話や雑談が続いたが、真之は本題を切り出してきた。
「今日君達を我が家に招いたのは礼を述べる為だけではない。幾つか君達から話を聞きたくてね。昼食は別として歓迎の会は夕方からで、午後はくつろいでもらえればいいから、その前に色々と、な」
「承知致しました」
「うむ。ありがとう。では早速。――君達のことは璃佳からどんな人物かある程度耳にしているが、詳細までは知らなくてね。単刀直入に言おう。帰還者として、異世界で何を経験し、何を目にしてきたか。話せる範囲でいい。聞かせてくれないか?」
四人は顔を見合わせると、少し間を置いて孝弘が代表して話すことにした。
「私達が異世界にいたのは六年間ですから細部までとなると果てしない時間になってしまいます。大まかでも宜しければ、お話出来ますが」
「それでも構わない」
「わかりました。それでは、お話致しましょう」
それから孝弘は異世界アルストルムで起きたことを語り始めた。
異世界に転移した直後から、向こうの戦争でどんな事があったか。激しい戦いと、出会いと別れ。時には残酷な決断をせねばならなかったこと。親交の深かった者の死。戦争で得たものと、喪ったもの。
しかし、決して悲観に暮れることばかりでなく、学んだことも多く、また喜びもあったこと。
孝弘からだけでなく、水帆の視点から、大輝の語りから、知花の知見からと四人の角度で補足を交えながら語られていった。
孝弘達が異世界アルストルムの話をした時間は三〇分から四〇分程度だろうか。ことを掻い摘んで言っていったとはいえ六年分ともなればこれくらいの時間はかかる。いや、むしろコンパクトに収まっているといえる。
真之は四人の話を終始集中して聞いていた。時に質問をし、応答を受けると頷いたり色々な反応をした。
璃佳も初めて聞く話があったのか、ティーカップに口をつけながら耳を傾けていた。
「なるほど。君達も他の帰還者達と同じく、壮絶な運命を経ていたのだな。よく生きて帰ってきてくれた。帰還したら故郷がコレだから、九条術士の一角として不甲斐ない思いだが」
「帰還した先が前線に近い富士山麓で助かったのは事実ではありますが、日本軍が精強だったお陰です。私たちはすぐに合流することができ、今こうしていられます。もし帰還先が北海道の、それも道央や道東だったなら私達とて無事で済まなかったかもしれません」
「ぞっとする話だな。――君達にもう一つ聞きたい。君達はなぜ戦う? なぜ再び戦争に身を投じた? いくらかの帰還者が前線に向かうのを拒否したように、君達にも権利はあったはずだ。異世界でそれだけの経験をしてもなお、なぜ戦い続けることを選んだんだ?」
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