異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第9章 つかの間の休息編

第4話 勲章と昇格

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 ・・4・・
「貴官等を呼んだのは労う為だけではない。これまでの功績を称え、褒賞を与えることについて話すためじゃ。中央高地方面、東京西部、東京中部、東京都心奪還。あらゆる方面において、貴官等はよう働いてくれた。これに対して褒賞も勲章も何も無しなどありえない。よって、第一特務連隊には全隊員に勲章を授与する。また、各個人の功績に準じて勲章を授与するものとする」

「ありがとうございます、香川上級大将閣下。部下達も喜ぶことでしょう」

「リストについては追って七条大佐、貴官にデータを渡す。届き次第確認したまえ。ちなみにじゃが、ここにいる六人については今の内に発表しておこう。各位、起立」

『はっ!』

 話題が勲章や褒賞などの話になり、リストとは別に孝弘達や璃佳達に個別に勲章の話が香川上級大将から伝えられる。

「七条璃佳大佐」

「はっ!」

「貴官は東京都心奪還作戦までの間、並外れた能力者としての力を発揮し、連隊指揮においても類稀な才覚を発揮。部隊壊滅の危険が何度も有り得た激戦にも関わらず損耗率を極力低く抑えてみせた。その功績を称え戦闘功労賞第一級、能力者戦闘功労賞第一級、佐官指揮戦闘功労賞第一級等計六つの勲章を授与とする。今名前を出さなかった勲章についてはリストを確認するよう」

 各勲章の内容は割愛するが、等級数について補足説明をしよう。

 日本軍において等級数が存在する勲章は幾つも存在するが、その等数は下限が第六級で上限は大特級の七等級となっている。その中でも璃佳が授与するもののうち明言されたのが第一級。三番目の等級だ。大特級は救国の英雄が戦勝後に得るようなものであるから、明治から今に至るまで授与された者は極わずかである。特級も似たようなものであるから、第一級は現状考えられる勲章としてはかなりの上位といえるだろう。CT大群との決戦における璃佳の活躍も込みであれば妥当ともいえる。

「ありがとうございます、香川上級大将閣下!」

「それだけではない。開戦以来、貴官の戦績には目を見張るものがある。我が軍は貴官のこれまでの功績を認め、階級を一つ昇進。魔法軍准将へと任ずるものとする。喜びたまえ、貴官も儂ら将官勢の仲間入りじゃ」

「感謝の極みにございます。これまで以上の働きをお見せ致しましょう!」

「んむ。期待しておるぞ」

 璃佳は返答する際に表情一つ変えず振る舞ってみせたが、内心では「准将になれたらいいね」くらいの冗談で言っていた以前の話を思い出し、冗談が本当になるとはねえ。と驚いていた。

 准将は将官勢の中では最下級とはいえ将官だ。機密事項に対するアクセス権限をより多く得られるようになるし、そもそも軍務全般の権限が大幅に増える。裏を返せば責任はかなり重くなるのだが、それを引き換えにしてもお釣りが来るくらい前線で戦う時の融通は効きやすくなるのだ。璃佳の第一特務連隊は魔法軍本部直轄指揮であるから尚更である。
 香川上級大将に続いて発言したのは中澤大将だった。

「本来准将への昇格は指揮幕僚課程を修了し統合幕僚本部高級幹部課程の修了が必要であるが、七条准将は既に指揮幕僚課程は修了している。また、高級幹部課程短期育成プログラムは事前に修了済みであり数多くの実戦を経験していることから、幹部高級課程は免除。戦時故に特認として准将昇進を認めることとした。ただし第一特務連隊は次の作戦投入が短く見積もっても一ヶ月から一ヶ月半後であることから、将官として最低限の研修を行う必要はあるものとし、二週間程度実施とする。その間のみ、貴官を統合司令本部魔法軍総長付とする。休暇の半分近くが削れるが悪く思わないでくれ。さすがに何も無しとはいかないものでな」

「承知致しました。ご指導ご鞭撻の程、何卒よろしくお願いいたします」

「うむ。よろしく頼むぞ」

 中澤大将と璃佳との会話が終わると、香川上級大将が話を再開した。

「熊川彰少佐」

「はっ!」

「貴官は東京都心奪還作戦までに並外れた能力者としての力を発揮し、七条准将の副官として非常に大きく貢献を果たした。七条准将が連隊指揮を執れない間も副官としてその責務を全うし、よく働いてくれた。その功績を称え、戦闘功労賞第二級、能力者戦闘功労賞第二級、佐官指揮戦闘功労賞第一級等計五つの勲章を授与とする。今名前を出さなかった勲章についてはリストを確認するよう」

「はっ!   誠にありがとう存じます!」

「なお、貴官も昇進だ。七条准将が将官となり職務が増大する。その補佐が可能なのは貴官しかおらぬだろう。よって魔法中佐に任ずる。引き続き七条准将を支えてくれたまえ」

「はっ!   はい!   これまで以上に七条准将閣下をお支え致します!」

 熊川も璃佳と同じく昇格となり、中佐に任じられた。冷静沈着かつ表情を大きく変えることはあまりない彼も、中佐の昇格は嬉しく思っていたようで、メガネの奥の目つきが少し細くなり、口角をやや上げていた。

「続けて、米原少佐達四人についてもここで伝えよう。四人一度ですまぬが、なにぶん貴官等はまっさらな経歴から膨大な戦績があるからの。かなり省略するが容赦せい」

『はっ!』

「貴官等は異世界からの帰還から今日に至るまで類稀れな能力を発揮し、大量のCTを討伐。数多くの部隊を救ってみせた。米原少佐は高度な法撃及び超高精度の魔法銃攻撃で。高崎少佐は非常に高度な法撃で。川島少佐は高度な法撃と非常に高度な召喚術で。関少佐は高度な法撃と緻密かつ正確な魔法を用いた指揮管制でそれぞれ大部隊に勝るとも劣らない活躍をやってのけた。よってその功績を称え、貴官等が野戦承認されていた勲章類は全て正式なものとし、同時に貴官等四人には戦闘功労賞第一級、能力者戦闘功労賞第一級を授与する。第二種軍服の略綬が一挙に数列増えることとなるが、それが貴官等の活躍の証であり、我が軍を窮地から救ってくれた勲章の数々じゃ。誇ってよいぞ」

『ありがとうございます、香川上級大将閣下!』

「当然じゃが、貴官等も昇進。魔法中佐に任ずる。少佐のままにしておくにはあまりに惜しい上に、貴官等が昇進せなんだら何が昇進ラインになるか分からんくなるからの」

 四人は魔法中佐に昇進と聞いて、戦った甲斐があり報われた気持ちにもなった。璃佳ほどの感慨や熊川ほどの喜びは無かったが、階級が上がれば軍内において様々な面が有利になることをアルストルムでよく知っている。どちらかというと、そちらの方でメリットが得られることの方が嬉しかった。
 続けて言ったのは中澤大将だ。

「俺からも伝達事項がある。貴官等は魔法中佐となることでこれまでと比べ作戦において指揮をする機会も増え、責任も増す。本来であれば中佐となれば七条准将や熊川少佐が既に修了させた佐官級として必要な課程を受ける必要があるのだが、いかんせん戦時だ。悠長に数ヶ月の課程を踏むわけにはいかん。よって、二週間程度の短期育成プログラムではあるが幹部高級課程に近い課程を修めてもらう。四人とも既にあちらで佐官級及び将官級の育成課程は受けているようだが、時代水準も違えば思想も違う。佐官級としての考えが歪なままにしておくわけにもいかないからな。最低限だが、我々に合ったものを学んでもらうとする。ちなみにだが、帰郷には影響のないようにするし休暇が無くなる訳では無い。こちらの準備もあるし、帰郷に関して七条家と既にスケジュールについて話がついているから、また伊丹に帰ってきてから開始とするから安心するように」

 四人は中澤大将の言った内容を聞いて胸を撫で下ろした。休暇が一ヶ月程度かもしかしたらそれ以上とは聞いていたが、二週間程度の短期育成プログラムについては初耳だったからだ。

 ただし、短期育成プログラムそのものについては四人ともあって然るべきだと感じていた。中澤大将の言う通り自分達が受けていた教育はアルストルム世界において最適化されたものであり、地球世界のそれとは違う。こちらに適した教育は受けた方がいいに決まっているし、中佐となればいずれかのタイミングで自分達が連隊内で部隊を率いる可能性もあるからだ。作戦次第では連隊から外れる可能性も決してゼロではない。そう思えば、反対する理由など皆無だった。

 中澤大将が四人への話を終えると、香川上級大将が少し間を置いてからこう言った。

「米原中佐等四人については、帰郷もあるし七条准将より後ほど今後の予定も話されるじゃろう。じゃが、休暇があるのに変わりはない。六年半振りの後方で身体を心を癒しなさい。そして、また力を貸してくれ。儂ら日本軍の目標は全土の奪還じゃ。その為には、貴官等の力が必要じゃからの」

「はっ!    はい、故郷を救うため、この力を存分にふるってまいります」

 四人を代表して孝弘が言うと香川上級大将は柔らかい笑みで頷き、頼んだぞ、とも言った。

「六人への勲章と昇進についての話は以上じゃ。まだこれ以外にも話すことはあるのじゃが、正式に話がまとまっておらん。七条准将、貴官の第一特務連隊に関していくつか伝える事項がある。欠員が出ておるからそれの補充でもあるし、連隊そのものの話でもある。本件は纏まり次第伝えるゆえ、その際にはまたここに来るよう」

「はっ!   承知致しました」

「話は以上じゃ。皆、よう戦ってくれた。課程修得者以外は休暇をよくよく楽しんでくれたまえ」

 こうして香川上級大将に中澤大将との初対面は終わった。
 孝弘達にとっては勲章の授与、中佐への昇格、短期育成プログラムの実施など沢山の伝達事項が伝えられたが、ようやく心と身体を落ち着かせる事の出来る日々が訪れたことは、退室後に自然と零れた笑みに現れていたのだった。
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