異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第7章 決戦! 首都奪還作戦編

第9話 結界魔法の中で遭遇したのは

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 ・・8・・
「魔力チャージ、ショット」

 孝弘が放った銃弾は黒い帳に当たったはずなのだが、音も立てず何も無かったかのような様子だった。

「ノーマルショットとはいえこれか……。ハイチャージに切りかえてもあまり変わらないだろうな……」

「厄介なんてもんじゃないね。茜、やっぱこれって」

「別界術式じゃろうな。今風に言うなれば結界魔法じゃったか」

「だよねえ……。米原少佐、川島少佐。ここには私達しかいないから聞くけど、結界魔法はあっちにはあった?」

「はい、ありました。仕組みが一緒までかは分かりませんが、極めて高度な魔法能力者もしくは高度な魔法能力者が集団で行使して発動。ですね。ただ、あちらでも結界魔法は高度な魔法でしたから切り札的存在です」

「孝弘の言う通りっすね。六年いましたけど、体験したのは一度だけ。しかもこんなに広くは無かったです。たぶんですが、皇居と皇居外苑以外に、皇居の北あたり。武道館のあたりもこの結界の範囲内かと」

 孝弘達は魔法が発達していたアルストルムでも結界魔法は一度しか経験が無かった。発動者はアルストルムの方の帝国の超高位能力者。個人での発動だったからか、範囲は今回ほど広くはなく術者を倒すことで解除された。どちらかというと一緒にいたバーサーカーじみた敵の方が強かったし倒すのが大変だった記憶を今も孝弘や大輝は持っていたが。

 ちなみにこの地球世界においても結界魔法は知られているものの、使用者は過去にほとんどいない。いるにはいるのだが、最も新しい記録ですら中世や近世にまで遡る。

 曰く、強力な魔法だが魔力消費が激しすぎる。

 曰く、外からの攻撃には絶対的な防御力を誇るが内からは脆い。術者が死ねば強制解除されるから。

 曰く、範囲がさほど広くない。個人だとせいぜい直径一キロ。複数人で運用してようやく三キロか四キロ。都(ここでは昔の京都を指す)を覆うには全く足りぬ。

 曰く、高位魔法能力者ですら扱いにくいシロモノで場所も選ぶ。発動時間は比較的短いものの、戦場のゴタゴタでも無い限りは魔力探知されやすい。ただし発動の瞬間まで結界魔法とは分かりづらいからその点では優れている。

 と、このように一長一短なのが結界魔法である。

「向こうの経験を話してくれてありがと。しっかし、まさか結界魔法とはね。欧州でも日本でも中近世のゴタゴタで使用者が断絶してるから記録でしか残って無い魔法を使われたのは痛いかな。結界の外については部下もいるし高崎少佐や関少佐もいて、友軍も後方にいるから心配していないけど、気をつけなきゃいけないのは私達の方かな」

「そうですね。結界魔法の使用者が単独なのか複数なのかにもよって脅威度はかわりますし、死んでないにしてもほぼ確定で手負いになっている白ローブがいます。早々に対処した方がよろしいかと」

「この中に敵が何人いるか分かんないっすから、俺も孝弘に同意です。ここに閉じ込められてからすぐ攻撃を仕掛けてこない辺り多くはいないでしょうけど、どこかで待ち構えられている可能性もあります」

「だね。茜、敵は探れそう?」

「んんむ、難しいのう。いかんせん結界魔法じゃ。相手のテリトリーにいるようなものじゃから交戦するまで下手に魔法も使えぬ。じゃが、アレの血なら辿れるかの。当然じゃが、そこそこに血を流しておる」

 茜は自身の鼻を人差し指でトントンと触って微笑む。
 璃佳はニカッと笑って、

「十分。追跡は頼んだよ。――じゃ、方針決めよっか」

 璃佳は茜に小柄の追跡を依頼してから周りを警戒しつつも手短に作戦を話していく。

 目的は二つ。
 一つ、小柄の白ローブを殺すこと。
 二つ、結界魔法使用者の排除。
 非常に簡潔な作戦だった。

「四人いるから普通なら二手に分けたい所だけど相手の戦力が不明だからそれはナシ。まとまって行動するよ」

「了解しました」

「了解っす」

「んむ」

「んじゃ、出発。茜、血はどっち?」

「あっちじゃな」

 茜が指さしたのは皇居内ではなく、江戸城本丸跡地の方であった。

「おっけ。いくら宮内庁を通じて陛下よりハコだけになった皇居はいくら壊しても構わない。国があることが重要なのだから、敵に落ちてしまった東京を解放する為なら責は一切問わぬ。とお言葉を頂いても、ねえ」

「気が引けますよね……」

「そりゃそうだよ米原少佐。私だって由緒正しき歴史ある九条術士の人間。そして、九条術士の家系は古来朝廷に仕えてきた。いくら時代が変わって仕える先が変わり、象徴となられた陛下であられても、忠誠のあり所は変わらないよ。もちろん、軍人として国を守ることが一番だし、そのつもりだけどさ」

「あちらで王家に仕える方達を見てきましたから、少しですが、分かります」

「でしょ。さ、話は終わり。周辺警戒は頼んだよ」

「はっ」

 孝弘は璃佳の内面を垣間見て少しだけ興味を持ったものの、今は敵の手中にいるようなものだ。すぐに警戒態勢に移る。

 彼等がいたのは長和殿の東。茜によると血の匂いは江戸城本丸方面にあるという。他に敵がどれほどいるか分からないからいつにも増してゆっくりとした歩調で向かっていく。
 比較的無事だった宮内庁の建物の前を通ると、富士見櫓の方へ。ここまで敵は攻撃を仕掛けてこないどころか、気配すら無かった。茜いわく血の臭いは少しずつ強くなっているらしく、璃佳はハンドサインで前衛に自身と茜、中衛に大輝、後衛に孝弘のフォーメーションを取るよう指示をしていく。孝弘は魔法拳銃のチェックをし、大輝はいつでも召喚が出来るよう召喚符の用意をしていった。

 四人は大番所まで着く。周りは石垣に囲まれ木々も多い。敵にとっては絶好の奇襲ポイントであるから警戒も高まっていく。
 璃佳は無線を三人の間という狭い範囲で使えるよう調整すると、

『来ないね。米原少佐』

「ええ、妙です」

『例えば相手がこの先にいて、君ならいつ仕掛ける?』

『ここです。本丸跡付近は広いですから。この先は上がってしまえばややとはいえ開けた場所です。何人いるかにもよりますが、ある程度まとまった数いるのなら今かと』

『だよね。川島少佐は?』

『俺が敵ならやっぱ今っすね。ただ、相手が少人数なら後でしょう。もしくは、余程腕に自信があるなら待ち構えている可能性もあります』

『なるほどね』

「のう、璃佳よ。小童の血の臭いは強くなったのじゃが、怪しい。匂いがわざとらしいほど消されておる」

『人数は分かる?』

「すまぬ、そこまでは無理じゃの。いるはずの発動者が辿れん辺り、消しているのは間違い無いのじゃが」

『了解。ま、この先がクロってとこだね。全員警戒を最大限に。結界魔法使用者であれば対象の推定はSランクで、何人いるかは不明。一撃で死ぬ可能性も視野に入れて行動するよう』

『はっ』

『了解』

「うむ」

 璃佳の言ったことは何も大袈裟ではない。
 敵戦力不明が不明な上に結界魔法を使われていて、察知されないよう魔力を消すことが出来るほどの手練だ。いくら結界魔法で魔力を消耗していたとしても人数と能力者ランクによってはこの四人でもどうなるかは分からない。
 警戒しておくに越したことはない。それは孝弘達も同じだった。
 四人はカーブしている上り坂を上がり切る前にもう一度周囲を見渡し警戒。江戸城本丸跡の南に着いたが、そこには誰もいなかった。

「見張っている相手の気配も無し。待ち構えている敵も無し。小隊程度の敵がいるパターンはこれで薄くなったけど、それはそれで嫌だね」

「少人数なら対処しやすいですが、結界魔法使用者を含めてかなりハイレベルの可能性が高いですね」

「|彼奴等(きゃつら)とて阿呆では無い。儂らを閉じ込めたのならば相応の面子を揃えておるであろう。お主とて本気でやらねば死ぬやもしれんの」

「こうやって話していても襲って来ないんだから癪だけどね。――進むよ」

 四人は本丸休憩所の左側まで進む。
 ここまで進んでも誰一人出てこない事に四人は強い違和感を抱くが、警戒は解かずむしろ強めていく。

「強力な魔力反応!!」

 本丸休憩所の前を通り過ぎようとした時、全員が強烈な魔力を感知して璃佳が防御体勢を促す。
 しかし、四人に攻撃や法撃は来なかった。代わりにあったのは大きな衝撃音と破壊音。桃華楽堂の方からだった。
 直後、孝弘達の方に何かが飛んできた。

「小柄の……?」

 彼等の目の前に転がっていたのは小柄な白ローブ。しかし腰から下が無く、あったのは上半身のみ。ローブのかなりを血で染めていて絶命していた。

 想定外が過ぎる事態が飲み込めない四人。しかし嫌な予感だけはヒシヒシと感じていた。
 孝弘は顔を上げる。そこにはヒトが二人いた。

 両方とも白ローブ。身長はどちらも一六〇センチ程度か。体格が分かりにくい服装だから性別を見分けづらいが二人とも長い髪がチラついているからおそらく女性。左にいる白ローブは長杖を持ち、右にいる白ローブは槍を持っていた。

「白ローブが二人、か。最悪のパターンだね……」

 璃佳は舌打ちをする。
 白ローブということはすなわちSランク相当の敵と見て間違いない。同じ白ローブのはずである小柄が死体として転がってきたことから、なぜ同士討ちを……?    と疑問には思うものの、それすら今だけはどうでも良かった。
 纏う魔力から理解せざるを得ない。あの二人は強い。四人ともそう思った。

「あれあれあれ、お姉様。どうやらあちらから来てくれたみたいよ」

「ええ、ええ。あちらから来て下さるなんて、手間が省けて助かるわね」

 わざとらしく演技じみたように、しかし透き通った声で言う白ローブ達。ゆっくり歩きながら、二人はローブのフードをおろす。
 そこに現れた顔は、瓜二つだった。
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