異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第7章 決戦! 首都奪還作戦編

第8話 小柄の白ローブとの再戦

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 ・・7・・
 孝弘が展開していた魔法障壁が次々と破壊されていく音が戦場に響く。一瞬にして数枚が割れ、その音は留まることを知らない。
 だが小柄の白ローブに手応えは無かった。孝弘が展開していた魔法障壁の数より割れた数が多いのだ。
 空中からの魔法攻撃ともなればひび割れたアスファルトやその下にある砂が舞うから視界は一時遮られる。

 砂塵が晴れた時、そこにいたのは孝弘だけでは無かった。

「ようチビ助。俺の親友に何か用か?」

「フゥん。ボクの攻撃を防ぐナンて面白いネ」

「伊達に鍛えちゃいねえからな。まあ、おもろいモン見てけよ。『防を攻へ』」

「……ッ!!」

 大輝が展開していた魔法障壁は十三枚。七枚が破られたが六枚が残っている。彼が孝弘と共に少し下がると同時に、そのうちの三枚が自ら分解すると爆ぜたのだ。
 小柄の白ローブは察しが良くそれが攻勢防壁に性質が転じたのを察知。とんとん、ととんとバックステップで回避する。

「反転防壁なンて興味深いモノをツカうんだねえ」

「まあな。ところで、余裕ぶっこいてる暇はあるのか?」

「だヨネえ!!」

 白ローブが下がった直後に飛んできたのは知花の連続法撃型光属性魔法。その光弾が機関銃が如く発射されていく。

「ワッ、と、え、チョ、ット、これはエゲツないなあ!!」

 そうは言うものの白ローブは難なく回避行動を、後ろへ、左へ、また後ろへと皇居外苑に向けて取っていく。その間に孝弘は射撃を、水帆も連続性のある法撃をし、大輝が土属性で壁を作りさらに後ろに下がらないよう進路を奪う。
 小柄は皇居外苑の坂下門警備派出所の南辺りまで到達すると、孝弘は追撃の判断を下した。

「大輝、俺と共に前へ。水帆と知花はカバー。ヤツは近中距離戦に長けている。近付くと危ない」

「おう」

『了解したわ』

『了解』

 孝弘と大輝は魔法障壁を再構築しながら前進し、水帆と知花は二人の進路と被らないよう射線を定める。

「大輝」

「なんだ」

「さっきは本当に助かった」

「礼はいらねえよ、戦友」

「ああ!」

 孝弘と大輝は加速をし、白ローブとの距離を詰めていく。

「再戦といこうか」

「かかってこいよチビ助」

「アハハ、面白ォい!!」

 二人はあっという間に接近。孝弘はフェアルを飛翔ではなくジャンプに応用し高く飛び、白ローブの法撃を回避しつつ真上から魔法銃弾を連続発射する。

「上ばっか見てると怪我すっぞ!    『石礫弾ペブルバレット速射ラピッドショット』!!」

「おっと、オットト、ッヒョォ、やっぱリ手練の戦闘はヒリヒリするねェ!!」

「よく喋るチビ助だな」

「ああ、全く」

「だって楽シイんだモン!!」

 喋りながらも大輝の薙刀による斬撃を受け流し、孝弘の銃撃を回避。直後に白ローブは大輝に魔法剣で攻撃を加えつつ、空いた片手で孝弘に向けて法撃を行う。
 一寸たりとも息がつけない程の激しい戦闘。孝弘と大輝は一切傷を受けていないが、それは白ローブも同じだった。

 小柄の白ローブの恐ろしい点は孝弘や大輝の攻撃をものともしないだけでなく、水帆や知花の支援法撃をも避けるか魔法障壁で受け流しながら戦っているところにある。

 これが推定Sランクの敵。目の前で戦っている孝弘と大輝や、絶妙な具合で射線に入れさせない事で十全な支援が出来なくなっている水帆と知花は敵の実力を強く実感していた。
 この戦闘が始まってから神聖帝国旅団が接近し遂に射程距離に捉えて交戦を始めた友軍も、敵部隊に集中しながら皇居外苑で繰り広げられている戦闘を気にかけていた。

「こいつぁキリがねえな」

「ボクもそう思うヨ。斬らせてクレナイし!」

「ったりめえだろ」

「じゃあ、これはドウカナ!」

「チッ」

 白ローブはギアを上げるが如く剣戟の速度を上げていく。踊るが如く舞い、蜂のように刺突。並大抵の能力者ならば既に魔法障壁は破壊され、身体が傷だらけになり命果てていただろう。だが大輝はそれらを全て受け流し、持ちこたえる。

 しかし、今のところは対処出来ているが、彼の本職は召喚士であって近接戦闘ではない。近接戦闘訓練では璃佳と互角近くにはやり合えるが、やはり本職には劣る。

 そう長い間持ちはしないだろうな。こんなんなら、向こうで戦っているゴーレムを一体こっちに持ってこれば良かった。と大輝は痺れ始めた手を少し気にしながら戦っていた。
 孝弘の射撃で負担は相当減っているし、着実に白ローブの魔法障壁は減っている。一人だったらヤバかったと大輝は冷や汗を流し、孝弘は大輝の近接戦闘の妨げにならないよう針に糸を通すような射撃を続けた。
 この辺りになると戦いの場所は皇居外苑のやや南、祝田町交番近くになっていた。

(そろそろか)

(そろそろだな)

 孝弘と大輝はアイコンタクトを送る。
 そう、この戦闘は元々近接二人に支援法撃二人で進ませるつもりは無かったのだ。
 孝弘がさらに一枚、小柄白ローブの魔法障壁を破壊した瞬間だった。

「『狐火よ、行けぃ』」

「ットォ?!?!」

 南の方角から多数の狐火が飛来し、小柄な白ローブの魔法障壁を破壊していく。残った魔法障壁は一枚。
 流石に不味いと危機感を抱いたか法撃の手を少しだけ緩め魔法障壁の再構築に魔力を割こうとする。
 が、それを許すはずもなかった。

「まあ、あれで死ぬとは思ってなかったよ。だから、今死ね」

 白ローブの目の前に現れたのは自分と同じくらい小柄な軍服の女性だった。手に持つは漆黒の大鎌。死へ誘い、魂を狩るに相応しい形容の禍々しい武器。
 小柄な白ローブの前に現れたのは璃佳だった。
 彼女は渾身の力を込め闇属性魔法を刃に纏わせると、横凪ぎに振った。

「シまッ――」

 いかに推定Sランクの小柄な白ローブとはいえ、同格のSランクたる璃佳の一撃を魔法障壁一枚と緊急で構築した二枚の計三枚で防げるわけが無い。
 魔法障壁が三枚全て割れると白ローブは皇居内の方へと吹き飛ばされていった。

「…………」

 璃佳は白ローブへ確実にダメージを与えたはずなのにも関わらず、小さく首を傾げた。そうして呟いた。

「ちっ。実感が薄い」

「じゃのぉ。死んでおらんじゃろて」

「米原少佐、川島少佐。ついてこい。始まったあっちの戦闘にアレは邪魔極まりない。四人で確実に殺す」

「了解」

「了解です」

 すぐそこで見ていた孝弘と大輝も、実のところ白ローブがあれで死んだと思っていなかった。ギリギリで構築した二枚の魔法障壁を急場しのぎのクッションにしたんだろうと推測したからだ。
 とはいえノーダメージな訳が無いだろう。璃佳の命令を受けて同行しようとし、水帆と知花に連絡を送ろうとした時であった。

「……!!   不味いぞ璃佳よ!!」

「間に合わない……!!」

 いち早く異変を察知したのは茜だった。しかし、気付くのには少し遅かった。いや、気付いた所で誰も間に合わなかっただろうし、むしろ気付けた茜は非常に優秀だった。
 五人の頭上に広がるは黒いとばり。それは瞬時に広がると、皇居と皇居外苑を覆い尽くす。
 この時範囲内にいたのは、孝弘達五人と先程吹き飛ばされた小柄の白ローブだけ。友軍は戦闘に巻き込まれないよう距離を取っていたし、水帆と知花はギリギリ外れる距離にいたからすぐに広がった帳の中には入れず間に合わなかった。

 孝弘達五人は突如出現した謎の黒い帳に閉じ込めら孤立したのである。
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